月を手に入れた幸せな男の話



月の光に白く浮かび上がる裸身に、ふと月の満ち欠けを思った。

太陽と地球と月。
地球は太陽の周りを回る衛星で、月は地球の周りを回る衛星。
刻一刻と変わる三者の位置関係により、地球が月が満ちたり欠けたりしているように見える。


「……将臣殿?」


視線を感じたのか、単を羽織った恋人が首を傾げてこちらを見遣る。
太陽の光を受けて輝く月のように、月の光を受けて生まれる顔に掛かる影が、何度も触れた身体の線が作りだす影が、動いて景色を変える。


「……月みたいだ」

「……?」


実際の所はどうなのかわからない。
神や妖が存在するこの世界の構造が俺達の世界と同じだとは限らず、またこの世界の構造を確かめる術も俺にはない。
そして、文化的にも天文学の発展的にも、俺が考えていた事は彼女には理解し難い事だろうと思う。

ただ、ふと目を、心を奪われる事はどちらでも変わらない。


「ずっと朔を見ていたくなるって事だよ」


そう言って笑むと、怪訝な顔が恥じらいを湛えて色付いた。
情事の際の艶めかしい表情も良いが、こんな少女のような恥じらいもまた、男を擽られる。


「……もう帰んの?」

「……明日は早いのでしょう?」


明日の朝から数日、平泉を離れる事になっている。
それもあって、繕い物を持って来てくれた朔を寝床に引き込んだ。
俺達の朝が早いという事は、食事の支度をする朔の朝は更に早い。
それを気遣う気持ちはあるが、離れ難い気持ちの方が強い。
世情もあってか、無事に帰っては来れないかもしれないという気持ちがあるからなのだろう。


「……でも、まだ帰したくない」

「あっ……」


言って伸ばした手は、簡単に朔を捕まえる。
どんなに手を伸ばしても届かない天空に輝く月よりも、腕に収まる新月と同じ名を持つ美人の方が俺には遙かに価値がある。


「な、いいだろ?朔が足りないと頑張れないぜ、俺」


僅かに困ったように朔の眉根が寄る。
しかし、朔は小さく頷いた。


「頑張って……無事に帰って来てね」

「勿論」


言って顔を埋めた朔の胸で、 香りをいっぱいに吸い込んだ。


煉さん、お誕生日おめでとうございます!
素敵な一年になります事をお祈りしております。

大分遅れてしまいましたが、お祝いの気持ちだけは詰め込みました。
少しでも楽しんでいただければ幸いです。

2015/06/21
遠戸



おほほほほ
ありがとうございます〜
うほほほほ
欲望を呟いてみるものですね!
ニヤケが止まらないよ?
やはり将朔は良い!!