ぬくもり




平泉の冬は早い。
木枯らしが楓の葉を散らす高舘の庭先には、想い詰めたような顔で佇む朔の姿がある。
想っているのは、己達を裏切った兄の事か、消えてしまった想い人――黒龍の事か。
元々華奢な身体は一層頼りなく、儚く見える。

それに静かに、そして密かに近付く姿がある。


「さ〜くっ!!」


朔は覚えのある声に振り返ろうとするが、途中で抱きすくめられて、それは叶わない。
力強い腕の中から首だけ巡らせて見上げると、やはり思った通りの顔がある。


「将臣殿っ!!」


上げた声には多分に羞恥と非難が混じっている。
慌てて身を離そうと朔は腕に力を込めるが、次に耳元に聞こえた声は先程呼ばわった明るいものではなく、その静かさに思わず動きを止める。


「……こういう時は、一人でいるとどんどん駄目になるぞ」

「将臣殿……?」


見詰める瞳は、とても優しい色をしていた。
思い遣りや気遣い、何よりも温かい想いが満ちている。


「……秋ってさ、紅葉は綺麗だけど、葉っぱが散るのとか見てるとちょっと物悲しくなるからな……寂しい時はもっと寂しくなる。ほっとくと、身体も心も凍えそうになる」


その通りだと朔は思う。
どんどん心が沈んで、更に秋風が身体の熱も奪って、冷たく凍えて行く。
まるで、涙の海に溺れてしまったかのように、悲しみと寂しさで身動きが取れなくなっていく。


「……だから、一人禁止。な?」


俺が傍に居るから、という恋よりもずっと穏やかで深い想いが紡ぐ言葉は優しく、温かい。
身体だけでなく、喪失感の吹き抜ける心の虚までが温かなもので埋められていくような気がする。

将臣は朔に想いを寄せている。
黒龍の事もあり、朔はそれを受け入れられずにいるが、こうして朔の黒龍への想いごと包み込んでくれる。
そんな将臣に、朔も惹かれつつある。

冷え切った身体に熱を分かち与える人に、朔は小さく頷く。


「でも……それはわかったけれど、この格好は……」


二人きりなら良いという訳でもないのだが、こんな庭先ではいつ誰に見咎められるとも知れない。
将臣達の世界は大分解放的だというから気にならないのかもしれないが、少なくとも朔には堪え難い羞恥である。
面に朱が上っている。


「だって寒いだろ?こうしてると二人とも暖かいし、朔とくっついてられるし、一石二鳥!!」

「もう……!!」


茶化し、ますます抱きしめてくる将臣に、朔は頬を膨らませた。
しかし、何処かで離れ難いと、このままずっと抱きしめていて欲しいと思っている己に朔は気付いている。

将臣もそれに気付いているのだろう。朔を離そうという気配はない。


「……もう少しだけ、ね」

「ああ、もう少しだけ」


将臣の我侭を許すという形でしか甘えられない朔を受け止めて、将臣は笑む。
決して離れるまいと心に誓いながら。


煉さん、お誕生日おめでとうございます。
この一年が煉さんにとって良い一年でありますように!


『聖亭』遠戸さまより頂きました〜。
うまうまと誕プレを頂くワシv
しかも将朔。うまうまデス。