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年間最優秀選手ミルズ杯:RB#1 藤森 裕人(関西大学3年) 甲子園ボウル最優秀選手:QB#14 原口 大知(関西大学4年) 甲子園ボウル敢闘選手 :RB#29 原 卓門(法政大学4年) NFL特別賞 :LB#33 大舘賢二郎(関西大学4年) ******** 第64回甲子園ボウルは、両チーム得点合計88点という大激闘が繰り広げられ、第4Q終盤まで混沌とした試合展開となったが、最終的には関西大学の62シーズンぶり2回目の優勝となった。 両チーム計11TD4FGという攻撃は、両オフェンスともに得意とするプレーで得点を重ねていくのに対してディフェンスがなかなか対応できないという得点の入り方、失点の積み重ね方だった。 しかし、ディフェンスが対応できないのも止むを得ないほどに、両チームのランオフェンスの完成度が高く、特にブロッキングの正確さとそのブロッカーを使って走るボールキャリアの判断力が、すばらしい。さらに個人のスピード高さ&パワーで凌駕するビッグプレーが随所に織り込まれた。 一方でディフェンスチームも最後まで足が止まることなく、RBWRキャリアに対して渾身のタックル・パスカットを試みる。1Q15分という長丁場にもかかわらず、両チームともに最後まで集中力・スピード諸々のスタミナが切れることなく、スタートメンバーが試合終了時までフィールド内でプレーしていた。 この試合は、どれだけ得点が入るか、ではなく、守備側がどこまで失点を抑えることができるか、という視点で見たときに、両チームディフェンス各人の動き方や相手攻撃への対応方法、フィールドポジション(キックカバー)の影響や、オフェンス各人のファインプレー、そしていくつかの「たられば」が見えてくる。 なお、公式のスタッツ数値と私のメモから数値を拾ってみた。合計を眺めすぎると、個々の出来事に対する検討が疎かになってしまうので取扱注意が必要だが、両チームの猛攻ぶりを示しておく。 関西大学 ・総得点 50点=6TD+3FG+1P+1FG失敗(攻撃11回) ・攻撃獲得距離 361Y(公式スタッツより) ・攻撃開始地点 平均敵陣45Y(RTD除50Y)・最遠自陣30Y・最近敵陣2Y 法政大学 ・総得点 38点=5TD+1FG+1P+3攻撃権喪失+1G失敗(攻撃11回) ・攻撃獲得距離 382Y(公式スタッツより) ・攻撃開始地点 平均自陣39Y・最遠自陣23Y・最近敵陣49Y ****【攻撃 ブロッカーの活躍】**** 上記のように、RBWRQBのミドルゲインが生まれた背景として、キャリア個人の力によるところもなくはないのだが、特にこお試合に関しては走路コースを作り出したリードブロッカーの活躍を挙げておかなければならない。 関西大学における左右OT付近のプレーでは、RB#42菊池、#99楠田が、キャリアRB#22松森、#1藤森、QB#14原口の前で相手ディフェンスの動きを遮ってランコースを確保している。中央ラン突破ではOLとFB位置に入ったRB#99楠田によるブロックが走路を作る。 そして反対に、ショットガンセットやシングルバック体型におけるラインブロック+キャリアだけの中央ランプレーには、法政大学DL#44徳田、LB#54佐藤、#57鵜沼、#8村瀬に対応されるシーンが多くなった。 法政大学の攻撃シーンでも同様にWR#7宮本、RB#99楠原、OLによるブロックがRB#29原、#99楠原のビッグゲインを生み出て、得点が積み重なっていくというこの試合のストーリーを作り上げた。 一般的にオフェンスチームは、プレー開始前に打ち合わせを行っている。「誰がどのタイミングで相手ディフェンスのLB●●とDB◎◎をこのようにこの方向にブロックするので、ボールキャリアがその空間をすり抜けていく予定」 OTからオープンへ展開するときは、RB(FB)以外にWRもブロック役に加わる。そしてスクリメージラインを超えたダウンフィールドでのLBDBに対するブロックが正確に決まると、その背後に控えるディフェンス選手は多くて1名なのでビッグゲインが生まれる。 中央インサイドのランプレーではOLのブロックでラン走路が確保されるが、その背後にはLBDBが控える。これをブロックするのが今回の場合はRB(FB)#99楠田(関大)とRB(FB)#99楠原(法政)だった。 ラインのブロックとキャリアという構成ではディフェンスに対応されるが、ラインとバックスがブロックすることでキャリアが生き残る確率が格段に上がることになる。 ディフェンス側から見るとボールキャリアを止めようとする動きを遮るブロッカーの存在が文字通り邪魔なのだが、オフェンス側でプレー開始前の事前打ち合わせ通りに確実に人数的優位な状況が作り出されてしまうと、今回のようにオフェンス優勢な状況は、ほとんどの場合で、覆らない。 ランナーのコメントに「ブロックが良かったので、開いたところを走っただけです」というのがあるように、ビッグゲインとなった理由としてリードブロッカーの功績抜きには語れない。 関西大学ではRB#42菊池、#99楠田、WR#12森田などWR陣とOL陣。法政大学ではRB#99楠原、WR、OL#77上原、#62山本など。 ここ数年、ショットガンフォーメーションからのパスを中心にした空中戦に、ショベルやスクリーンパスを加えてフィールドを左右前後に広く使うオフェンススタイルが主流を占めていた。このスタイルでは、レシーバーに人数を多く割り当てるようになり、RBは1名のみというのが基本になる。 しかし今年の甲子園ボウルでは、リードブロック役となるRBWRを配置して、走路を確保するためのダウンフィールドブロックでランプレーがゲインすることの繰り返し、と近年にはない新鮮なオフェンススタイルが繰り広げられた。(過去にさかのぼれば、このスタイルが主流で、ショットガンセットが新鮮だったときもある・・) 試合翌日。QBWRRBとRETの活躍が紙面を大きく飾っていた。確かにスピード・ダイナミックなラン・足腰の強さ・背の高さなど、法政大学・関西大学ともに活躍したボールキャリアは存在する。 だが今回の甲子園ボウルにおいては、まず最初にリードブロッカーの活躍を挙げておきたい。これだけで甲子園ボウル観戦記の50%が終了したと言っても過言ではない。 ****【関大守備 RB#29原とQB#4山口】**** 関西大学ディフェンスフォーメーションは4−2−5を基本スタイルに第3Dロングシチュエーションでは3−3−5、さらにノーマルな4−3−4も登場して法政大学オフェンスに対応した。 DLでは#90重近、#95水村、#98石田、#91杉原と交代出場なったDL#44田村、#68清家など。LBでは#33大舘と#2豊田、#11玉岡。DBは#30小原、#5中村、#9砂川、#8飾磨、#13林による。 そしてこの試合の大きな注目ポイントは、関西大学ディフェンスが法政大学RB#29原をどのようして止めようとしたか。だが、4−2−5のLB2人が徹底的に法政大学RB#29原をマークしていたようだ。 LB2名をRB#29原の左右の動き対応に割り当てた結果のマイナス面なのだろう、対応できなかった(対応するのを諦めた??)プレーがあって、それがQBのキープランだったのではないだろうか。 法政大学QB#4山口によるキーププレーが何回か大きくゲインしているが、あまりスピードのあるランプレーではないものの、ディフェンス選手がタックルするまでに時間がかかってしまい、結果として5〜10ヤードのゲインを奪われている。QBのスクランブルに脅威が少なかったと判断したことによる思い切ったディフェンス対応方法だった。 RB#29原に対して関西大学LB#2豊田とLB#33大舘が徹底マークしていたシーンとしては、例えば試合開始直後のLB#33大舘によるマイナスゲインがある。 さらに象徴的なシーンは、第2Q開始早々でのQB#4山口とRB#29原によるトリッキーなプレーに対するLB#2豊田のロスゲインタックルだろう。 これはショットガンセットかしたQB#4山口が左へパスするフェイク動作の裏側で右側オープンへ抜けようとするRB#29原にボールを渡そうとしていた。本来なら、左サイドへのパスにディフェンスがつられてしまって、右側はフリー状態でTDプレーになる。 ところが実際は、ボールの受け渡しが終了した時点でLB#2豊田がRB#29原にタックルしている。ボールの存在よりもQBの動きよりも、まず先にRB#29原を徹底マークしていただろうことを示すシーンだった。 ただしRB#29原のランプレーに対して関西大学ディフェンスがショートゲインに止めていた、とは書けない。タックルを受けても前に倒れて1ヤードでも稼ごうとする姿勢と、その身長故に、最低でも確実に5ヤードは進んでいる。 さらに、タックルをかわすテクニックとボディバランスが際立つ。その後、自身のカウンターステップやFB#99楠原によるブロック加わっていくことでLBの動きを封じられてしまい、インサイドのラン突破でもミドルゲインを重ねていくことになる。 そして第3QのスローバックパスはLBの守備範囲を超えたものでDB#8飾磨による懸命のカバーも弾き飛ばされて一発TDプレーにするなど、スケールの大きいRBだった。 なお法政大学のランプレーでは、セットバックIフォーメーションでのUB#99楠原クイックダイブも時々ミドルゲインになっていた。ショットガンセットからフォーメーション変更したIフォーメーションのランプレーは、LB2人では止められない。 さらにショットガンセットでも、RB#29原と同じプレースタイルのRBがもう一人存在していて、例えば、WR位置からモーションで入ってこられたら、そして両名が左右反対方向に散られたら、今回のように1プレー10ヤードで止まっていただろうか。 ****【法政守備 QB#14原口対応とRB#22松森、#1藤森対策】**** 関西大学RB#22、#1のOTオープンプレーは、リードブロッカーが存在しない単純にスピードで捲り上げようとするプレーについては、法政大学DBLBのコンテインが早く、ほぼ完全に止まっていた。 さらにQB#14原口の中央ラン突破も試合前半は止まっていた。試合前半の関西大学オフェンスシリーズ5回の中で最後の1回を除くと完全にドライブできたのは最初の1回のみ。その後はFD更新もままならない状態が続いた。 なぜ試合後半になってQB#14原口のランがゲインしていたのか、正直なところ現地甲子園で観戦していたときには判らなかったのだが、映像を見ていると、プレー判断のタイミングが前半と後半で異なる?? 試合前半のQBドローは文字通りパスフェイクからの中央ラン突破を試みたどちらかというと遅いプレーになる。後半、特に、QBランがゲインし始めた頃は、QBドローではなく、FBのクイックダイブに等しい。 OLブロックとQB自身の重量が法政大学ディフェンスのタックルを外し、足腰の強さで引きずり振り解いて3TD奪取含む数値を残した。 ****【フィールドポジション・キッキングチーム】**** キックのリターン距離についてだが、その前に、両チームの攻撃開始地点を比較してみると、関西大学が平均値でフィールド中央付近、法政大学は平均で自陣40付近になる。さらに関西大学のリターンTDとゴール前2ヤードまでリターンした2回を除けば、攻撃開始地点に大きな差はない。 リターン距離数値では、リターンTD約2回の関西大学側に大きな数値が残っているだろうが、攻撃開始地点を見る限りでは、法政大学と関西大学に大きな差はない。 例えば、関西大学は、試合後半に2回オンサイドキックらしきものを試みている。いずれも、直接サイドラインを切っていて、法政大学にフィールド中央での攻撃機会を与えている。 したがって、キックカバー2回+1回(松森1回+藤森2回)で具体的に何が起きたかだが、を分析してどのように解消するか、であって、リターン距離の数値を見ているだけだは原因は掴めない。 そして、おそらくはキックカバーの問題なのだろうが、甲子園では横方向からしか見ていないので正直なところは何故3回のビッグリターンが生まれたのか、その他のリターン機会と何が異なっていたのか、よく判らないところです。 ただ、上記の関西大学オンサイドキックらしき2回のフリーキックと、その前にはカバーチーム第1列の選手に当たるショートキックがある。いずれも「リターナー#29原によって大きくリターンされることを嫌ったフリーキック??」なのだろうかと考えていた。 なお、関西大学のフリーキックシーンで、キッカー含めた全員でキックする「ふり」をするフェイク動作があった。法政大学側観客席からブーイングらしき声が上がっていたのだが、このワンフェイク動作は法政大学が今年の関東リーグ戦で何度も試みていたもので、それを関西大学側が真似をしたことに対する「声」だったと思う。 十分にスカウティングしていたことを表すひとつのエピソードとして紹介しておきます。 ****【関西大学】**** 関西大学ディフェンスは、現有のベストを実戦でも発揮できた、まさに今期ベストの試合。タックルミスも少なくディフェンス全体でも連携されていた。 オフェンスは、正直なところ、まだ、攻撃手段系で手を隠したままのある意味では余力を残したところがあるかもしれない。つまり、QBキープである程度ゲインが見込めた試合後半、QBキープが止まるようになったときのための種まき練習は行っていたが、そこまで出す機会がなかった、ということだと思う。 具体的には、様々なパスパターン、パスターゲットを使いこなさずにタイムアップを迎えている。レシーバーで言うならば、TE#89青木、WR#7池井に2回程度のパスキャッチがあるが、WR#16岡には1回投げて1回成功まで。WR#12森田、#17高原などにとのパス連携を用いることなくタイムアップとなってしまっている。 おそらくライスボウルではパス攻撃がメインになるだろうので、見せずに終わることが出来たことは関西大学にとってはラッキーだったかもしれない。 ****【法政大学】**** 法政大学オフェンスは、最終的にはバックスにおいて怪我人多発による選手層の薄さが試合を左右したとも考えられそうだ。ただし実際には選手層が薄いのではなく、おそらく潜在能力はある選手は大勢いるものの生かしきれていない??のかもしれない。 例えば今年の関西大学オフェンスだったり数年前の関西学院大学や立命館大学にもあてはまるのだが、リーグ戦各試合に参加してファインプレーをしたWRRB名前を挙げていくと、このHPのフォーマットで3行〜4行ほど使用してしまう世代がある。 1試合で1プレーしかできないので必殺必中で集中力も高まって・・・という相乗効果から結果的に選手層が厚くなって行った。 近年は少数のスーパープレーヤーだけでリーグ戦含めた1シーズンを乗り切ることは難しい。上級生だけでシーズンに臨むのではなく、チーム全体で全学年でシーズンを乗り切る工夫が必要だろう、と、ここ数年思っていたのだが、なぜかコメントを残せないままだったので、ここに埋め込んでおく。 2009年では関西学生同志社大学オフェンスは、そういう意味でもバックスが充実していた。 (以下、まだまだ続く?) |