|
|
第58回ライスボウルは26−7で松下電工が勝利となった。得点26点の内訳は2TD4FG(1TDは第4Q終盤立命館大学オンサイドキック失敗からの得点)であり、さらに得点には現れない3回のFG失敗がある。 つまりFG機会が7回あったということであり、このうち例えば3回がTDにつながっていれば、さらに20点近く差が広がっていたと考えると、FGトライに終わらせた立命館大学ディフェンスの踏ん張りが際立つ。試合時間60分の2/3にあたる42分間の守備時間は、通常リーグ戦1試合48分を全て守備に費やしたに等しい。 しかし立命館大学の攻撃が敵陣へ入ったのは試合最後に一度あるだけで、松下電工DL陣のプレッシャーを真正面に受けてしまったショットガンオフェンスは、パスは投げ急がされて徐々にコントロールを乱していき、ランプレーでもRB#23古川、#22佃の中央オープンともノーゲインに終わり、プレーが成立しない。成す術がなくお手上げ状態だった。 様々なトリックプレーも試みたが距離的にもほとんど機能せず、さらにいくつかのポジションで大きなミスが多発する。ミスの数で言えば今シーズンの試合の中でも多いほうになってしまった。 それでも2TD差までならば「きっかけ」で逆転できるかもしれない。第4Q突入時点では、私はまだ立命館大学逆転の芽を考えていた。 ******** この試合の戦前予想は、松下電工オフェンスがどちらかと言えばドライブして得点を積み重ねるのではなく、巡ってきたチャンスを得点に結びつけるタイプであり、ロースコアの試合展開が予想された。 したがって、戦前に私が考えていた立命館大学側から見た勝利のためのストーリーは、たとえショットガンオフェンスが松下電工に対して機能しなくとも試合運びとか試合展開の妙によってできるだけ小さい得点差で第4Qに持ち込んで、最後は「きっかけ・勢い」で逆転するという方法がもっとも可能性が高いだろうと考えていた。 そのためには甲子園ボウル勝利の原動力となったディフェンスが再び奮起することが必須、そしてフィールドポジションでイーブンしておけば松下電工攻撃に少々のドライブを許しても、なんとかロースコアで試合終盤まで持ち込めるのではいか。 第4Q突入時点で立命館大学が2TD差リードを許す状況、この時点で両チームとも互角の戦力状態だったならば、何かのきっかけで立命館大学が1TDを取り、その勢いでさらに1TDを追加して同点、そのあとは両チーム成り行きというのが私が戦前に考えていた立命館大学側から見た試合構想だった。 「何かのきっかけで1TD」とか「その勢いでさらに1TD」などで具体的な攻撃手段はないのだが、「何かのきっかけ」は、パントリターンTDとかディフェンスの得点とか。そして「その勢いで」は、文字どおり立命館大学の勢いと松下電工の焦りによる。 一昨年のライスボウルでは第3Q中盤までシーガルズと互角の展開で、立命館大学が主導権を握ったのが第3Q終盤から第4Qの時間帯だった。今回はそれよりも厳しいかもしれないが、2TD差までならばギリギリだが不可能ではない。 アメリカンフットボールは勢いモメンタムが試合の流れを大きく左右する。特に立命館大学にはスピードを有する選手が豊富なので、きっかけがあれば、松下電工ディフェンスの足が止まれば、考え込むことがあれば、その瞬間に一気に抜けるかもしれない、その時まで辛抱強く待って、その一瞬に賭けたいという試合だった。 ******** 試合前半の松下電工得点シーンだが、最初のTDは立命館大学パント時のスナップミスでボールを後逸し、エンドゾーン内から蹴り出したことがきっかけになっている。これでエンドゾーン前27ヤードからのオフェンススタートとなった松下電工がその最初のプレーでRB#20石野が右OTを抜けてTD7点を獲得する。さらに、立命館大学自陣での第3DクイックパントをDLがチップして再び敵陣スタート、そしてFG3点を追加した。 ただ、立命館大学ディフェンスは、この松下電工攻撃機会をFGに留めたのを含め、前半だけでも自陣に5回も侵攻されながら失点を10点で終わらせるという大健闘だった。 一方でランパスを封じ込まれた立命館大学オフェンスは第3Dのクイックパントでフィールドポジションの改善を試みた。1回目はDLにチップされて最悪の結果になってしまったが、2回目は松下電工攻撃開始地点を自陣7ヤードに追い込んだ。 クイックパントはFD更新までに長い距離を残している場合や、オフェンス側が手詰まりのときにフィールドポジションを挽回する手段として時々使われる。 通常のパントは第4Dに行われるのだが、パントリターナーが準備しているのでリターンされてしまう。それに対して第3Dではディフェンス側は普通の守備隊形なのでリターンされにくく、つまり、松下電工の攻撃開始ポジションを自陣深いところに追い詰められる可能性がある。 2回目のクイックパントによって目論見どおりに松下電工を自陣深いところに追い詰めることができた。ここで立命館大学ディフェンスが踏ん張ってフィールドポジションを逆転できていれば面白かったのだが、松下電工はTE#2霊山、WR#22下川へのミドルパスをつないでフィールドポジションを戻した。 ******** 立命館大学オフェンスは全く進んでいなかったのだが、前半を終わって10点差は関西学生プレーオフとほぼ同じであり、その後もディフェンスの頑張りによって第3Q終盤まででわずかに13点2TD差以内と私の考えていたギリギリの展開だった。 第2Qのクイックパントではフィールドポジションを逆転できなかったが、第3Q終盤から第4Qにかけて再び立命館大学松下電工の戦意戦力がイーブンになりそうな時間帯が訪れる。 立命館大学攻撃が自陣からQB#12池野スクランブルとWR#26和田へのクイックパス、そしてデイフェンス側反則によってFD更新2回、これでフィールド中央までポジションを挽回した。ここで一気に敵陣へ入ろうとしたプレーがQB#12池野→RB#22佃→QB#12池野→WR#11木下のフリーフリッカーだった。しかし右コーナーへのパスはWR#11木下を完璧にマークしていた松下電工DB#16野村にインターセプトされて1回目のチャンスが潰えてしまった。 だが、先の立命館大学2回のFD更新とミドルパスインターセプトによってフィールドポジションが逆転しかかっていた。松下電工攻撃開始地点は自陣29ヤード付近、さらにDL#56岡本のQBサックなどによってこの試合始めて自陣でパントを蹴ることになる。このリターンで立命館大学がフィールドポジションを得ていれば、試合の流れが変わる可能性が燻りはじめた。 立命館大学リターナーは#23古川。ボールをキャッチしたのが自陣30ヤード付近だった。その時点で松下電工カバーチームは1人を除いてリターナーに届いていなかった。ここから20ヤードほどリターンして敵陣に入っていれば少しは状況が変わったかもしれない。 しかし、松下電工#19島田のタックルが立命館大学のリターンを僅か数ヤードに止めた。 立命館大学がここでフィールドポジションを挽回出来なかったこと、そして、そのオフェンスシリーズでFD更新できなかった(DL#43脇坂の急襲によるインテンショナルグランディングロス10数ヤード)こと、そして続く松下電工攻撃が4分30秒近い時間消費ドライブの末にFG3点を加えて19点差としたことで、立命館大学はさらに追い詰められていく。 この直後に#11木下による98ヤードキックオフリターンによって得点差を2TD以内に縮めたが、残り時間6分51秒ではオンサイドキックに挑戦しなけらばならない。自チームサイドライン方向へのオンサイドキックは上に軽く蹴り上げたのだが、立命館大学が集まったポイントと落下地点が僅かにずれてしまった。このボールを松下電工がキャッチして試合の行方が決した。 ******** 立命館大学が試合の流れを引き戻すチャンスはあった。第2Qのクイックパントでフィールドポジションを挽回した時と、第3Qフィールド中央からWR#11木下へのロングパスと、第4Qパントリターンの3回。もちろん個々のプレー中の一つのタックルブロックまで候補に挙げればもっと増えることだろう。 しかし、いずれのチャンスの芽も松下電工が早い段階で摘み取ってしまっており、試合の流れが立命館大学側に傾くことなく松下電工ゲームプラン通りの完勝に終わった。 ******** 今シーズンの立命館大学は日本選手権2連覇達成の立役者となったスーパーオフェンスとスーパーディフェンスがごっそりと抜けてしまい、攻守とも戦力戦術両面で再構築が必要だった。連覇最初の年は、戦術部分が成熟していなかったが戦力的には基礎があったことを考えると、今シーズンのスタート時点での前年との不連続量はとてつもなく膨大だったに違いない。一方で世間からは関西3連覇なるかという目に晒されていた。 この厳しい状況下にありながら実際にライスボウル出場にまで辿り着いたのだから、過去2年と比較すると選手スタッフがとてつもない体力精神力を費やしたことは想像に難くない。さらに、プレーオフと甲子園ボウルがパワーを分散浪費させてしまっている。おそらく年間のパワーの消費量と追加生産およびその配分方法において未知の領域に達していたのではないだろうか。 今シーズンの立命館大学ベストの試合として私は10月末日の関西学院大学戦を挙げる。オフェンスは多彩なパスがヒットしてプレー幅が広がり、ディフェンスは特にLBの動きが目に付いた。今シーズン再建したポジションはOL・QB・DL・LB・DBと多岐にわたったが、その全てのポジション選手がベストパフォーマンスを繰り広げた試合だった。 1年間の最大目標の試合に最大パワーを発揮できたのだが、しかしその後のプレーオフと甲子園ボウル、ライスボウルでは特に攻撃面において10月末日の域に達していない部分があったことは否定できない。だが、最初から予定されていた目標終了後にもう一度ピークを作る必要に迫られた特異なシーズンだったことが災いしているように思う。 仮定の話をしても仕方がないが、もしも、10月に立命館大学が勝利していれば、甲子園ボウル・ライスボウルとももう少し違った展開になっていたかもしれない。複雑なコンディショニングが要求されたシーズンであり、それに応えられたところと応えられていないところのバラツキがあったことがその後の特に攻撃面での不完全燃焼に現れているように感じる。経験をしたことでまた一つ財産が増えたということで、2005年シーズン、のショットガンオフェンスを楽しみに待っています。 (了) |