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ポールラッシュ杯:八木 康太(立命館大学LB#99) コイントスでシーガルズが後半行使を選択し、立命館大学リターンで試合が始まった。QB#18高田率いるショットガンオフェンス最初のシリーズは自陣24ヤードから。しかしRB#32野本中央突破、WR#11木下クイックショート、そして第3Dハンドオフランプレーも合計ノーゲインに終わる。学生相手なら第1シリーズから得点できるのだが、さすが社会人相手ではFD更新なしのパントとなってしまったのも当然のことか。 続く第4Dは当然のことながらパントになるのだが、第1Qから#14鏑木のパントを見るのは久しぶりで新鮮だった。実際はそんな悠長なことを言っている場面でもないのだが、パントキックは実戦から遠ざかっていたのを感じさせない見事なコントロール、そしてカバーチームもシーガルズリターンを10ヤード未満に止める鋭いカバーリングを披露、スピードのミスマッチの心配は不要(?)という立ち上がりだった。 続くシーガルズオフェンスは自陣35ヤードから。QB#18高橋率いるオフェンス第1プレーは左へ開いたRB#20古谷への横パス。しかし立命館大学ディフェンスの上がりが早く大きなゲインは出来ない。さらに中央突破ランを2階もFD更新できずに第4Dを迎える。そしてパント、のはずが、センタースナップが乱れて後逸してしまい、立命館大学に敵陣24ヤードからの攻撃権を献上してしまった。 4年前は立命館大学最初の自陣のパントを後逸してシーガルズ(当時リクルート)にチャンスを献上してしまったのだが、今回はその逆の形になって立命館大学が先制のチャンスを掴む。 ここで立命館大学オフェンスはQB#18高田−(左横パス)−WR#11木下−(右横パス)−QB#18高田と左右に大きく振りまわすスペシャルプレーからのQBラン。しかしディフェンスの集まるスピードが速く、FD更新がやっとの12ヤードゲイン止まり。ここからの中央ランプレーは、シーガルズディフェンスに尽く遮られてしまい、K#22岸野によるFG3点を先制するに留まった。 そしてシーガルズ2回目以降のオフェンスシリーズは、短いランパスで左右前後に大きく振り回すプレーを試みるようになってきた。立命館大学ディフェンスの一つの課題はリアクションが大きくて最初の動きに釣られてしまうことで、まさにそこを突いたオフェンスの組立になった。 自陣20ヤードからの第2シリーズは、WR#87脇田への横パスからのラン、CBをつり上げてフリーになったRB#29米田へのショートパスでFD更新を繰り返した。しかし、次の中央突破ランでファンブルロストしてしまう。 さらに自陣1ヤードからの第3シリーズも、ショートパスやらDBブリッツ裏へのパスなどでフィールド中央までドライブするが、QB#18高橋負傷によりシリーズ中断と、この2シリーズは無得点に終わってしまった。 しかし、QB#16岩本に交替して第1Q最後から始まったシリーズがパントに終わろうとしていたときに、立命館大学パーソナルファウルの反則(=パントスナップした選手へスナップ後1秒以内の接触)(=パントスナップ直後は無防備な姿勢になって危険なために接触を禁止)によるFD更新すると、そこから一気にシーガルズの流れに傾いた。ショートパスと小刻みなランプレーを繋いで2回のFD更新、最後はWR#11堀江へのショートパスでシーガルズが逆転に成功した。 立命館大学オフェンスは、シーガルズディフェンスにショットガンからのRB#32野本、#39礒谷のランが全く通用しない。さらにQB#18高田のパスも乱れていた。DL#52庄子、LB#39遠藤などの厳しいプレッシャーを受けながらターゲットを探すという苦しい状況が続き、パスターゲットとのタイミングが合わずにパス機会を逸してしまうシーンが続出する。 それでもサックを受けて攻撃が終わるというシーンがなかった。それは、QB高田がいよいよ追い詰められたとなったら、サイドライン外へパスを投げ捨てることでサックロスを防ぐというギリギリだが巧妙な判断で逃げていたことによる。 なお、QBがサックされそうなのを避けるために故意にボールを投げ捨てた場合に「インテンショナルグランディング」という反則になる場合がある。QB高田の場合もサックを避けるために故意に投げ捨てているのだが、ボールが直接サイドラインを割った場合はこの反則にはならない。フィールド内にボールが着地した時に、ボールを投げた方向のレシーバの有無によって反則になったりするが、今回の場合はこれには該当しないことでロスを避けたという、QBの頭脳的なプレーである。 立命館大学は攻守とも手詰まり感が漂う状態だったが、ここでオフェンスに起死回生の一発(その1)が飛び出た。立命館大学自陣35ヤード付近での第3D、右WR#11木下へのスクリーンパスが決まる。ここから持ち前のスピードを一気に加速してディフェンスの隙間を縫い、さらに、ナイスブロックもあって独走の65ヤードラン、取られたら取り返すで再逆転のTDとなって均衡状態を維持する。 しかし、シーガルズオフェンスは手強かった。QB#16岩本による自陣22ヤードからのシリーズで再び#11堀江へのショートパスやRB#20古谷のドロープレーなどで、小刻みだが着実にゲインを積み重ねていった。そして最後はQB#16岩本のロールからのスクランブル11ヤードランによって再逆転のTDを得る。 シーガルズオフェンスは、ショートゲインならば積み重ねてドライブ出来るのに対して、立命館大学は一発でしかゲインできない状況で、シーガルズ13−10立命館大学で前半が終了した。 ******** 立命館大学オフェンスは、前半最後にノーハドルを試みるも効果なく、オフェンス全体としてはやはり学生相手のようには自由に前進できない。RB#32野本、#39礒谷のランプレーを完封され、さらにケガから復帰したQBの感覚も完全には戻っていないかのようで、オフェンスは手詰まり状態だった。 一方のディフェンスは、第1Q後半あたりからDL3人にして後方重視の布陣を敷いてきた。エンドゾーンを背負ったりランプレー予想の時はDL4人にしているが後方重視で一発ロングゲインを防ぐディフェンスである。これによってWRDB競争でロングパスを完璧に防ぐことが出来た。 WR#84前川にDB#21今井、WR#11堀江にDB#13小路、#34長田とWRDBの駆け引きは面白かったが、1対1の状況でシーガルズにロングパスは通らなかったことで、立命館大学第3列のスピードを再認識した。 一方でシーガルズ第1Q後半からの4シリーズでショートレンジのランパスがある程度ゲインできたのも、DL3人という布陣によるところが大きい。 ただ一つ、シーガルズオフェンスで奇妙に思ったのが第2Qシーガルズ最後の2シリーズである。最終2個前のシリーズはショットガンから2連続ロングパス失敗に終わる。WR#11堀江への縦ロングパスにDB#34長田がマークを外さなかった。そして最後のシリーズも長いパスを投じるとDB#43太田に狙ったようなパスインターセプトされてしまった。どちらのシリーズもロングパスを仕掛けて来たのが奇妙に映った。 ******** そして後半開始。 自陣21ヤードから始まったシーガルズオフェンスは、WR#87脇田へのショートパス、#20古谷のランで効率よく前身してフィールド中央まで来る。しかし、ロングパスを試みるとDB#34長田のカットなどで攻撃が続かなくなる。さらに次のシーガルズ第2シリーズもWR#11堀江への横パスからのランプレーに、立命館大学DB#21今井がボールを狙ったタックルを決めてフィールド中央付近でのファンブルを誘発した。つまり、シーガルズオフェンスと立命館大学ディフェンスの攻防は、前半と変わりなく推移していくことになる。 立命館大学オフェンスは、相手ファンブルで得た50ヤードからの攻撃権にタイムアウトを使ってプレーを練る。そして決定したプレーは、ショットガンから左3レシーバーと右HB#39礒谷へのパスオプションだった。#18高田は左からクロスで入ってきた#19冷水をパスターゲットに選んでショートパス、そこから33ヤードゲインして#22岸野のFGによる同点に結びつけた。 その後は、立命館大学ディフェンスの活躍が目立ってくる。シーガルズ第1Dプレーにリバースフェイクのフリーフリッカー?を試みるべく#83清水へのバックパスをしたところへ、DL#90飾磨が突っ込んでロスタックル、さらに次のシリーズ第1DもQBドロップバックにLB#5西がロスタックルを見舞って2回の攻撃チャンスをFD更新無しのパントに追いやった。 第3Qは立命館大学ディフェンスの堅守とシーガルズオフェンスパス頼みの攻防によってが試合の流れをイーブンに引き戻されていこうとしている時間だった。 しかし、第3Q最後にシーガルズオフェンスがショートパスとランプレーを中心に組み立てる形に戻すと、立命館大学ディフェンスがパワーとスピードが分断されて後退していく。 シーガルズ自陣32ヤード、両TEから#98へのショートパス、RB#5進藤中央突破ドロー10ヤードと、RB#36白木の右オープンパワースイープでエンドゾーン前28ヤード。立命館大学はここからDL4人に戻して、クイックパスとランプレーをDL#58藤本、LB#5西のパワーと反応でかろうじてシャットアウト、第4Dにまで追い詰めることができた。しかし、十分にFGレンジにあった。 シーガルズは、試合の主導権を奪うべく第4Q開始と同時に3点のリードを奪う飛距離35ヤードFGにトライ。しかし、キックは失敗。試合は13−13の同点のまま第4Qの攻防を迎えることになった。 その後、シーガルズのパントリターンが久しぶりにナイスゲインとなって敵陣34ヤードからの攻撃開始となるが、ここも再びディフェンスが健闘して#11堀江、#20古谷のランパスを完封してFD更新を許さなかった。シーガルズはFGではなくパントを蹴ることになった。 立命館大学ディフェンスが自陣に追い詰められたこの2回の攻防を全てシャットアウトしたことが、この試合の行方を決定づけるポイントの一つになる。 立命館大学オフェンス自陣17ヤード。第1プレー。左WR#19冷水のミドルパスが通り追いかけるLBを振りきって第4Qに立命館大学がリードを奪った。 続くシーガルズオフェンスシリーズ、QB#16岩本から右WR#11堀江へのパスは弾道が少し低く、コース中間にいたLB#99八木がドンピシャのパスインターセプトするとそのままエンドゾーンに駆け込んで追加点を挙げた。第4Q残り時間11分46秒、立命館大学がこの試合始めて1TDではひっくり返らない14点リードとなる。 しかし、残り11分で僅かに2TD差追い上げシーンは、社会人ならばアメリカンフットボールの醍醐味を堪能させるお膳立てが整った状態、恰好の見せ場であった。ところがシーガルズオフェンスは、単調なロングパス頼みの拙攻シリーズの連続に終わってしまった。 残り5分少々、自陣20ヤードでロングパスターゲットを探して射いる間にQBサックファンブルロスト、さらにその後も、DB#21今井と#13小路によるロングパスインターセプトが続いた。 一方の立命館大学オフェンスはQB#16椙田が登場し、時間消費をかねたランドライブを行った。このオフェンスシリーズの中で圧巻だったのは、敵陣20ヤードから始まったドライブである。ランでゲインを重ねて敵陣11ヤード、第3DでFD更新まで残り1ヤードのシチュエーション。 立命館大学オフェンスはラインもバックスも集めてランによる中央突破のフォーメーション。そしてQB#16椙田によるRBへのハンドオフフェイクでシーガルズディフェンスを惑わせた。そして、まったくのフリーでエンドゾーンに入っている右TE#96加藤へTDパスが届く。 ロングパスが乱発される雑なオフェンスが展開されていた時間帯にあって、立命館大学の緻密さが相対的に際だったシリーズだった。 ******** ******** ところで今期の立命館大学が第1シリーズからパントを蹴ったのは1試合だけだった。というより1試合を通しても、ほとんどのオフェンスシリーズを得点に結びつけて終わらせているために、パントを蹴るシーンは珍しい。甲子園ボウルのうように試合終盤にメンバーが交替した後のシリーズで何回かあったが、関西学院大学戦でさえもノーパントで試合が終わってしまっている。西宮最終戦で結局パンターとして登場する機会がなかった(キックオフでは何回かあり)#14鏑木がベンチ裏でネット相手に一人寂しく練習していた姿が印象的だった。 しかしこの試合でP#14鏑木は、#11堀江のリターンされないように巧妙にサイドラインを割るキックとか、タッチバック寸前1ヤード地点に蹴り込むなど冴えたパントキックを何回も披露している。またパントカバーチームもシーガルズのビッグリターンをほとんど許さなかった。#10松室、#26三宅などカバー専任メンバーがここぞと目立って、#83、#11にビッグリターンを許したのは2回だけというカバーチームの鋭い突っ込みとリターンコースを消すカバーがきれいに決まっていた。 ******** ターンオーバー8回だが、すべてがシーガルズの単独ミスによるのではない。立命館大学DB#34長田がパスコースを読んだ第2Qおよび第3Qのインターセプトや、第3Q同点FGのきっかけになったDB#21今井の堀江から奪ったファンブルなどは、試合の流れを変えるポイントの一つとなった。 さらに、シーガルズ超高速レシーバーWR#83清水、#11堀江をフリーにすることなく、ほぼ完璧なパスカバーを敷いていてシーガルズオフェンスの攻撃手段の一つを摘み取った。立命館大学DBの読みとスピードの賜物である。 しかし、第4Q最後の3回分は、インターセプトされやすいところへ何回も投げ込んでいるシーガルズオフェンスの「ミス」というよりも「策なし」の結果である。同じような距離タイミングで同じパスが何回も飛んでくれば、どんなDBでも慣れてくるし、DLもサックのタイミングが合ってくるのは当然だろう。 ******** 観戦記として何を書こうかとはいつも考えていることなのだが、たとえ私個人の思いであっても公開する以上は書いて良いことと悪いことがある。観戦記(2/3)で止めておこうかとも思ったりしたのだが、やはり、完結させることに決めた。あれから2週間近く経過しているので、冷静に受止めてくれることを願って。(書き手は、冷静ではない・・・) ******** シーガルズのこのような試合を以前にも観戦したことがある。それは1995年の松下電工との東京スーパーだった。これまでに唯一土曜日開催の東京スーパーだったので上京観戦したのだが、この試合も途中からオフェンスがなにも出来ないままファンブルロストとパスインターセプトを繰り返して、戦意喪失モードに陥って20−54というスコアで終わっている。その当時とメンバーもスタッフも違うので、今回の試合と並べるのは正しくはないかもしれない。 ******** 第4Q、立命館大学に2TD差を奪われたのが残り11分46秒。直後のシーガルズオフェンスはショートのランパスを絡めて自陣からドライブし、第4Dギャンブルプレーもフェイクプレーで立命館大学ディフェンスを惑わすなど健闘はしたのだが、エンドゾーンには届かなかった。LB#99八木にパスインターセプトされた分も含め、ここまでの攻防は、まま、あってもいいと思う。 しかし残り5分24秒から始まったオフェンスシリーズからの攻撃手段は、3シリーズともロングパスしか思いつかなかったようだ。 シーガルズオフェンスはこれまで第2Qなどでドライブできたシリーズでどんなプレーがゲインできたのか分析できていなかったのだろうか。もしかしたら、ここまでWR#11堀江や#83清水への単純なロングパスが1回も成功していないことも判っていなかったのかもしれない。第2Qの1度だけWR#11堀江とTEを同じポイントに走りこませて成功したミドルパスがあるが、ここでのロングパスにはまったくの工夫も感じられなかった。 残り時間が5分もあったら、まず最初の3分でランパスによる刻んだドライブで1TDを返して立命館大学に精神的プレッシャーをかける、ディフェンスが踏ん張って立命館大学オフェンスを1分で仕留めれば、まだ1分残る。1TD差に相手ディフェンスはロングパスを警戒せざるを得ず、その結果、ランもパスもゲインし放題でTD・・同点あるいは2ポイントPATで逆転サヨナラ・・・・というストーリーを描けなかったのだろうか。 残り時間5分で2TD差を逆転しておけば、さすが社会人をアピールできたし、それよりも正月の午後にテレビでアメリカンフットボールを始めて見る人に手に汗握る熱戦を披露することができていた。アメリカンフットボールの普及という点でも唯一テレビ生中継してもらえる試合で絶好のお膳立てなった試合展開にもかかわらず、社会人チャンピオン自らがその機会を放り出してしまったことになる。 しかし、まさか、ライスボウルで残り5分から社会人側の打ち上げ花火が見られるとは思ってもいなかった。1996年秋パーフェクトTVに加入するきっかけの一つが、関東Xリーグのある試合だった。アンテナとチューナーを揃えて楽しみにしていたのだが、第1Qから打ち上げ花火の連続で第2Q途中で見るのをやめてしまったことがある。その時代と変わっていない。Xリーグの一部分だけ時計が逆回転しているようだ。(了) ******** |