日本選手権 ライスボウル



ライスボウル 



1月3日(木) 東京DM 14:00
TEAM 1Q2Q3Q4Q合計
関西学院大学0273030
アサヒ飲料6701427
(現地観戦)
 
関西学院大学
アサヒ飲料
1Q
FL
1Q TD
TD 2Q
RFL
TD
TD
FL
TD
TD
END 2Q
3Q
FG
3Q
4Q
FL
TD
TD
END 4Q
(作者Aのメモより)


 第55回ライスボウルは、2年ぶり5回目出場の関西学院大学と2年連続2回目のアサヒ飲料の対戦となった。

 関西学院大学がコイントスで選択権を得て前半レシーブを選択し、自陣23ヤード付近からの第1シリーズとなった。QB#16尾崎の左へ大きくロールしてのラン1ヤード、WR#86東畠へのクイックパスはDB#21湊に叩かれて失敗、さらにドロップバックではディフェンスに追われて失敗となったが、いろいろなプレーを試みているという感じだった。

 続くアサヒ飲料オフェンスは敵陣に少し入った44ヤード付近から始まり、RB#27中村の3回連続中央突破合計10ヤードでFD更新となった。ただ、実際には関西学院大学LB#5平郡、LB#90石田、DB#9矢野によるポイントを外さない的確なタックルがショートゲインに抑え込んだという表現が正しい。

 両チームともさらに1回ずつのパント蹴りあい、予想以上に均衡状態を維持した序盤戦だった。

 しかし、自陣から始まった関西学院大学第3シリーズ、左WR#27松山へのクイックパス13ヤードでFD更新した後の第2D、RB#33杉原による右オープンランだったがボールをファンブル、自陣35ヤード付近でターンオーバーされて攻撃権をあっさりと渡してしまった。

 チャンスをもらったアサヒ飲料は、RB#27中村とRB#44中島の中央突破計3回12ヤードでFD更新、RBにボールを集めてエンドゾーンを目指した。ここまでRB#27中村のランをショートゲインに留めていた関西学院大学ディフェンスだったが、次の1回だけは止められなかった。左OG付近のパワープレーで約20ヤードを走りきってアサヒ飲料が6点を先制した。(PATでボールをホールドできず失敗)

 関西学院大学にとって最悪の失点シーンだった。学生側のミスをきっかけにして点差が広がるというライスボウル恒例のパターンに今年の関西学院大学も陥ってしまうのか・・・・。かろうじてRB中村を止めているとは言え、スタミナの問題ではやはり社会人が、とか、QB尾崎のパスがいい調子でヒットしそうな感触はあっても、やはり・・・と、悪い方へと考えは転がり落ちていってしまう第1Q終盤だった。


 先制された後の関西学院大学オフェンスは、RB#2三井とのオプションQBキープ8ヤードを絡めてFD更新、さらにQB#10山田のワンポイント起用などでアサヒ飲料を撹乱して敵陣に侵入した。しかし、ここからが続かない。第4Dを迎える。
 残した距離は2ヤード、敵陣30ヤードというポジション、さらに、直前のシリーズで先制されているので、ギャンブルかFG3点か、それともあっさりとパントを蹴るか、選択に悩む状況ではあった。タイムアウトを使っていい状況だったが、関西学院大学はこんなところで「1回」を使わない。時計が第1Q終了を告げるのを待つ。
 サイドチェンジの間に練られた第2Q最初のプレーはフェイクランだった。パントフォーメーションからスナップを受けたP#89榊原。躊躇することのない気持ちの入った中央突破は、起き上がったアサヒ飲料DLもなぎ倒して3ヤードをゲイン、ドライブをつなげた。

 アサヒ飲料はタイムアウトを要求して立て直しを計ったが、効かない。QB#16尾崎からWR#89榊原へのクイックパス,#86東畠へのミドルパスの2プレーでエンド前5ヤードに到達、最後はRB#33杉原がファンブルロスト帳消しの中央突破同点TDランを決め、さらに、K#11井田が逆転PATをド真中に蹴りこんだ。

 関西学院大学キックオフ。アサヒ飲料リターン。

 ここで関西学院大学#4野田がリターナーに手をかけてボールが転がった。そのボールを#34田中がカバーして、再び関西学院大学が敵陣30ヤードで攻撃権を得る。ここから2プレー、右TE#89榊原への縦パス20ヤードとQBカウンター10ヤードであっさりと加点すると同時に、どちらに試合の主導権があるのかを明確にした。

 勢いに乗った関西学院大学は、次のオフェンスシリーズでQB#16尾崎とQB#17河野を交互に起用したノーハドルオフェンスでアサヒ飲料ディフェンスを本格的に揺さぶった。
 オプションオープンランやWR#86東畠へのリバースランで左右へ大きく振り回す。最後はQB尾崎自らが右ロールから左オープンへのスクランブル、ナイスブロックもあって40ヤードを走りぬけて3個目のTDをゲットした。

 さらに、アサヒ飲料ファンブルロストで得た敵陣27ヤードからの4回目のTDドライブでも面白いプレーを披露した。右WR#89榊原への横パスからRB#2三井へのピッチで右ライン際を大きくゲインして一気にエンドゾーンまで残り9ヤードに到達した。  さらに中央突破とQBカウンターで残り1ヤード、第3Dの左OT突破はノーゲインだったが、第4Dでタイミングをはずした中央突破で27点目をゲットした。

 怒涛&速攻の4連続TDシリーズは、第2Q最初のP榊原によるフェイクランでアサヒ飲料に少しの?が生まれたことから始まった。クイックパスで揺さぶって2TD、ノーハドルとランで振りまわして2TDにアサヒ飲料ディフェンスは為す術もなく、ただただ、関西学院大学の得点が積み重なって行くのを眺めているだけだった。


 第2Q終盤、2分を残して関西学院大学がパントになれば、アサヒ飲料オフェンスも簡単にパントに追い込まれ、第2Qもようやく落ちつくかと思われた。
 しかし、パント時に関西学院大学側に反則「不正な参加」による15ヤード罰退が命じられ(「不正な参加」がどのような反則なのか不明)、アサヒ飲料は残り1分3秒敵陣38ヤードで再び攻撃権を得る。ここから、この日唯一のアサヒ飲料らしいオフェンスシリーズを展開した。
 中央突破フェイクの左横#27中村へのサイドスクリーンからの18ヤードゲインは、さすがにスピードにのるとタックルポイントを外すのがうまい。そして、右WR#7梅田へクイックパスもジャストヒットしてTDまで残り1ヤード。最後は中央突破フェイクの右WR#85玉井へのパスがフリーで決まって7点を返した。

********

 前半を終わって27−13だが、リードしていたのは関西学院大学だった。ロースコア差で前半を乗り切れば関西学院大学にも可能性が残るかも、というのが戦前の大半の見方だったに違いない。誰がこの展開を予想できただろうか。

 関西学院大学は、攻守とも今シーズントップレベルの内容だった。ディフェンス面ではLB#5平郡、#44星田、#90石田、#9矢野がミスなくキャリアRB#27中村に絡み続けることが出来たのが大きい。アサヒ飲料前半のTD2個とも#27中村のミドルゲインが関係しているだけに、シャットアウトしたこと、あるいは、シャットアウトされている雰囲気になるショートゲインに留めたことが、試合展開の基盤を築き上げた。
 攻撃面ではロングパスを早い段階で諦めてクイックリリースに徹したことと、ファンブルロスを嫌ってオプションキープに徹しながらもQB山田・尾崎・河野によるノーハドルでディフェンスにプレッシャーを与えることができた「準備」の勝利である。

 さらにキックカバーのスペシャルチームの仕事も完璧だった。#43高倉、#34田中がリターナーに執拗にタックルしてアサヒ飲料に自陣でのオフェンススタートを強いた。RB中村のミドルラン1回では追い詰められないという余裕が生まれる。均衡した第1Q、リードを広げた第2Qとも地に足の着いたディフェンスが 出来たのはフィールドポジションの効果でもある。

 関西学院大学側にミスらしいミスは無かったが、重箱のスミをつつくならば、第2Q最後に2分を残してアサヒ飲料に攻撃権を渡すことになった第3Dドロー中央突破を試みたことだろう。このシリーズではFD更新がなくとも2分を使ったので良しとも言えるが、試合の流れをキープしたまま前半を終わるためにはFD更新できるプレーが必要だった。その後、アサヒ飲料も一度はパントになったので「重箱のスミ」ではある。

 アサヒ飲料については今シーズンの試合をほとんど観ていないのでなんとも言えないのだが、ディフェンス面では前評判ほどにはLB#9河口、#31山田が目立たなかったし、パスディフェンスも甘かった。攻撃側もパス失敗が続いては、ランキャリアが決まっているランプレーだけでは苦しくもなるだろうという印象だった。

********

 14点差で迎える後半、アサヒ飲料側は、出来るだけ早い時間帯に得点するということが必須だった。対する関西学院大学は攻守ともに時計を止めずに時間を消費しつつ、先に追加点を挙げてリードを広げるという展開を望んでいただろう。唯一ケアしなければならなかったのは「関西学院大学のミスでアサヒ飲料が先に得点する」という展開だった。

********

 そして後半、両チームともパントの蹴りあいで時間が経過したが、これは関西学院大学が理想としていた展開であり、試合の主導権は関西学院大学が握ったままだった。

 アサヒ飲料RB#27中村の中央ランに対して関西学院大学LB#90石田、DB#9矢野がタックルを決めれば、関西学院大学RB#2三井、#30岡村の中央突破にアサヒ飲料LB#31山田がタックルを決めて、両チーム2回ずつパントの蹴り合いで10分が経過した。

 フィールド中央でのアサヒ飲料後半3回目のパントシチュエーション。スナップを受けたP#8田中が、決め打ちのギャンブルパスを投げる。これにLB#44星田がしっかりと反応してインターセプトした。
 このインターセプトは、フィールドポジション的には大きなメリットデメリットはない。アサヒ飲料側から見ればパントを50ヤード付近までリターンされたと考えればいいことである。ただ、徐々に攻め手段がなくなって追い詰められた感が高まっていたアサヒ飲料のスペシャルプレーまでも「読まれた/読んだ」という心理的な面で関西学院大学に大きく流れが傾いた瞬間である。

 ターンオーバー直後、関西学院大学RB#2三井が彼特有の中央突破で40ヤードゲイン、最後はK#11井田がFGを決めた。第3Q、関西学院大学が先に得点を挙げて30−13とした。


 一方のアサヒ飲料が待ち望んでいた得点は第4Q中盤になってからだった。第4Q残り11分37秒からの57ヤードドライブでようやく3個目のTDを得る。オフェンスはパス失敗かRB#27中村のランという極端な組み合わせだったが、3回あった第4D1ヤードギャンブルを#27中村の中央突破で成功させた執念のドライブだった。しかし、これに5分を費やすことになる。さらに1TD以上が必要なアサヒ飲料に残された時間はわずか6分32秒だった。

 このTDを関西学院大学側からみると、うまく時間を使わせたという意味の方が大きかった。一発ロングゲインを許さずに3回も第4Dまで追い詰めた関西学院大学ディフェンスが仕事をしたという表現の方が試合経過上は正しいだろう。

 アサヒ飲料キックオフは、オンサイドキックという選択もあったが、ノーマルに蹴り込んで攻撃権が巡ってくるのを待った。それに対して関西学院大学はナイスブロックによるQBキープでFD更新し、ディレイオブゲームで時間を消費してアサヒ飲料に攻撃権を渡した時点で残り時間2分2秒、4ヤード地点だった。

 関西学院大学ディフェンスは、一発TDを奪われなければ良しの体形で、アサヒ飲料のショートパスドライブを許し、時間消費と引き換えに1TDを献上した。

 このアサヒ飲料連続パスヒットだが、関西学院大学ディフェンスの守り方が通常とは少し違うことによる。ディフェンスの考えは、10ヤード程度のパスは通してもいいが、ロングパスは困るということで、ショートパスキャッチ後のレシーバーへ確実にタックルで出来るように、普通より後方にセットしていた。テレビの映像ではフィールド全体をカバーしていないので判らないが、東京DMで観戦していれば関西学院大学DBのセット位置が見えたであろう。
 アサヒ飲料は、約10ヤードのパス4本でフィールド中央に到達した時点で残り時間1分12秒、ここからWR#3桃澤へのクイックパスがディフェンスの隙間を縫って一気にエンドゾーンを目指したが、エンド前10ヤードでDB#22河合がタックルして追加の攻撃を要求した意味は大きい。

 アサヒ飲料はショートゲインしかできなかったことで7点と引き換えに1分25秒を消費した。得点差は3点。オンサイドキックが決まっていれば、逆転TD目指すべく、たった30秒足らずで50ヤードのドライブが必要になっていた。ここでアサヒ飲料がRB#27中村の中央突破に望みをかけたか、パスを頼ったか、タイムアウト残り1回をいつ使うかは、実際にこの状況になってみないと判らない。そして、関西学院大学ディフェンスはどのようなフォーメーションを採用していただろうか。


 残り時間0分37秒。アサヒ飲料オンサイドキックに関西学院大学#47坂本がボールを確保し、ライスボウル初制覇を決めた。

********

 まさに、関西学院大学全体で試合に臨んだ2001年度最上級の試合展開だった。コイントスで選択権を得た時点からゲームセットまですべて関西学院大学らしいプレーの連続だった。この試合をアサヒ飲料側から振りかえってみると、アサヒ飲料が試合をコントロールしたのは第2Q終了間際の数分だけである。

 第3Q関西学院大学のミスでアサヒ飲料が先に得点すれば流れが大きく変わるのだが、とか、第4Q最後のオンサイドキックをアサヒ飲料に確保すれば、タイムアウトの残っていない関西学院大学ディフェンスは少しは慌てるのだろうかなど、違う展開を見てみてみたかったと思うのは贅沢な要求だし、関係者に対して失礼なこととは判っているのだが、一観戦者の思いということで。

 この試合結果をアサヒ飲料の準備不足がもたらしたとする声が多い。今シーズンのアサヒ飲料の試合をほとんど観戦していないのでなんとも言えないが、簡単なパスミスが連続したりファンブルロストなど、序盤に気が入っていなかったことで流れが傾いたのは確かだろう。
 しかし、その逆風を引き戻す手段がなかったことも大きい。RB#27中村の中央突破以外にゲインするプレーは何だったのだろうか。第2Q最後のシリーズは、他のシリーズと違って、サイドスクリーンやTDを奪ったパスなどいろいろなプレーがあったが、全般に工夫がなく攻撃手段が単調だったのは否めない。極論すればメインキャリアの中央突破が止まれば終わりという試合だった。

 2001年の関西学院大学は「ライスボウル制覇」を目標に掲げた。リーグ戦序盤はらしくない試合が続いたが最終的には目標を遂げている。大きな目標を達成した後なので2002年の目標設定が難しいのだが、どんなチームとなって姿を現すのか楽しみである。
 来年の社会人代表は今年以上に「勝ち」を目標にしてくるのは間違いない。来年の1月3日ライスボウルは、どのチームがいかなる試合を繰り広げるのだろうか。

********

 ライスボウルから1ヶ月が経過した。しかし、いまだに正月の東京DMから抜けきれていない。現在もNHK放送の録画ビデオを何回も見返してしまっている。2001年のテレビ放送のあった試合は録画テープを繰り返して見入るような試合が少なく、10月の宝が池であった試合ぐらいなのだが、このテープはデッキのセットミスで音声が途切れ途切れになてしまっている。そんなこともあって、テレビ放送された試合の中ではこのライスボウルが今シーズンのベストゲームになっている。
 さらに、リーグ戦中ならば次々と試合があるので観戦記展望ともそれなりに「UP期限」があるのだが、次の試合がなかった今回は、ずるずると遅れていってしまった。もう少し2001年に浸りつつ、それでも、徐々にフェードアウトしていかなければならない頃である。関西では2002年のための高校新人戦が始まっている。



(了)