「もっとよく考えなさい。」「真剣に考えていない。」「もう少しいい案があるはず だ。」「もう一度考えて来い。」というのは、先生、先輩、上司によくいわれる言葉で すね。乾いた雑巾を絞る状態のときもありますが、ほとんどの場合、考え方が足らない のではないでしょうか。考えれば考えるほどいいものが出来上がるのが普通です。 もっとも、優先順位の低い枝葉末節に入り込んでは、時間の無駄です。さらに、ただ 考えろというだけなのも同様です。考え方にも方法はあるのだが、それは別の機会にし ます。 ところで、組織をつくって維持していく場合も同じである。考えて実行、その結果を 検討するために考える、というサイクルを繰り返す毎にいいものが出来上がる。そのた めには、このループを回転させる担当者は、数年間以上同じであることが望ましい。な ぜなら、担当者が変わる毎に、微妙に方向がずれてくる。引き継ぎでも微妙なずれが発 生し、さらには自己主張も入ってくる。こうなると、同じ土壌での繰り返しではなくな り、効率が悪い。 この点で、学生主導型のチームは、繰り返しが有効に機能しにくい。専属コーチ等、 チームに数年間タッチできる人がいて始めて、その人の意図する反復によって、組織の 更新がなされる。つまり、チームがしっかりしているか否かは、この繰り返しが計画的 有機的に行われているかどうかにかかわってくる。 さて、ある意味で不幸にして学生主導型のチームの場合、専任スタッフのいるチーム に勝利することは、今後ますます困難になってくると予想される。だが、学生の場合、 チームスタッフは固定でも選手構成が毎年替る。これが大きな特徴で、たまに、組織更 新がうまく機能しない年が存在する。したがって、決して諦める必要はない。 それでは、チームスタッフの整った巨象相手に、弱小チームはどうするか。そのため には練習しかないのだが、ただ「練習しよう。」では、今までと何の変わりもない。さ らに、自チーム内でスクリメージを組んで1000回のぶつかり稽古をしても、巨象に は通用しない。自信がついたと感じても、実戦の最初の衝突が1000回の実績を見事 に吹き飛ばしてしまうだろう。そして、「やっぱり強かった。」で、敗戦を迎える。 相手が強いのは判っている。ディフェンスラインの2人が全日本級でとても相手にな らない、という情報を得た。これをどのように料理するか。とりあえず、基本フォーメ ーションはしっかりと覚えなければならない。この段階では、自チームのディフェンス ライン相手の練習で充分だ。ここで、ポジション毎に、基本的かつ教科書的な動きをマ スターする。 Iフォーメーションからの左OTパワースイープでは、右OG、OTは、Cのスナッ プと同時に左後方へ。QBはTBに素早くピッチ。右OGOTは左DTDGLBを捕り に行く。TBはライン戦の状況を見ながら空いた空間に素早く飛び込む。これが各ポジ ションの基本的な動作であろうか。この動きが身につくまで、基本練習が必要である。 だが、この段階を卒業すれば、これ以上自チーム相手に練習しても上達しない。以後は 各々のポジションで「自分がすべき事は何か」を考えるイメージトレーニングになる。 この練習は、授業中、仕事中、電車の中、風呂トイレと、場所を選ばない。 右OGOTの基本動作は、スナップと同時に左へ回り込んでDTLBを捕るのだが、 格上が相手となると、なかなか思うようにはいかない。そこで、OGOTに降りかかる 基本にない突発的状況を考える。 ・相手DGDTのスピードが速く、立ち上がると同時に捕まってしまう。 ・LBのブリッツが速く、左に回り込む前に捕えられる。 ・OGがQBと衝突してボールがこぼれている。 ・運よく左へ回り込めたが、味方の左OGOTは相手に捕えられていて邪魔。 ・RBが足を滑らせて走る勢いがなくなっている。 ・左OGOTはDTLBを見事に捕えてしまい、自分の仕事がなくなった。 それぞれの状況で、それぞれのポジションは、どのように動くのが最良かを考える。 基本プレーの各場面を、ビデオテープのスロー再生のように想像する。コマ送りで、C のスナップから一つ一つ段階的に動かす。そして、基本フォーメーションにない先に挙 げた状況に陥ったときを想像する。ここで、どのように動くかを頭の中でいろいろイメ ージする。相手がこう来た。だから、自分はこうしよう。こうして、全ての状況に結論 を出して、再び頭の中で再現する。本当にこれで良いか。 例で挙げた、右OGOTが下がると同時に、右DTLBに簡単に捕まってしまう場合 OGOT自体のスピードなど基礎体力向上の他に、 ・OGOTが右半身に体重をかけてセット。 ・OGOTが、気持ちだけ左を向いてセット。 ・OTに自由な動きをさせるために、OGは右DTDGの両方を捕ることに専念して、 左DTDGブロックを放棄。 ・Cと右TEが右DGDTを捕る。 ・UBが左DGDTを捕り、オープンカバー放棄。 右OGOTが、立ち上がりに捕られることについてだけで、他のポジションに新たな 役割が増える。基本的な左OTパワースイープでは重要な役割のないポジションでも、 この瞬間に役割が増える。基本練習だけ行っていては、実戦での、臨機応変な対応は不 可能である。ただ、本来はない動きを他のポジションに要求するので、体力精神力的に 負担をかけているのは事実だ。だが、助け合いの精神がないと、強力な相手に立ち向か えないのも確かである。 単純な左パワースイープが、このループを繰り返すだけで、少なくとも10倍のプレ ー数に広がる。この作業をそれぞれのポジションの人が頭の中で行う。自分に与えられ た役割は何か、状況が変わった時に何をすべきかを考える。こうすれば、何も考えずに 自チーム内でスクリメージを組むよりも、効果は大きい。各個人の空き時間が利用でき また、ポジション毎にベストの選択をする。全体練習ではプレーの基本を身につけるだ けだから時間は少なくてよい。これが、科学的なイメージトレーニングである。科学的 とは効率的という意味でもある。 もっとも、個人がイメージした予定しない状況や相手の動きに対処する方法の半分は スピードアップと筋力強化となる。さらに、全てのプレーに対してイメージし、それの 解答を考える思案の中で試行錯誤を繰り返す。これらは、すべて個人の努力にかかわっ てくることである。 結局、そこまでしてでも勝ちたいか、そこまで好きかということに帰着する。 |
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