■□鳥の腸は剣。 <<noveltop
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それは絶対的な『主』を望む、鳥。
その、焔の翼は、白に染められ、黒に塗らされ
本来の色を失った。
留まる宿り木は朽ちて、留まる事はない。
次、飛び立ち、舞い降りる処は

一体、誰の瞳に宿る?






整列をしていた傀儡となった兵が、謁見の間を列を成しながら
去っていく。
特注のコンタクトを制御できぬ、ギアスの瞳に戻し
軽く息をつく現ブリタニア皇帝を、皇妃として一応は見られている
C.C.は瞳を細めた。
消えぬ余裕と、覇者と見せる態度と、王としてとの圧力。
静かな、炎を宿したような雰囲気で座している彼は、
世に『恐れ』がないように映る。
自信に満ち溢れる、その王の隣り、
冷徹なる空気に塗り固められたように、同じく静かに控えている騎士。
「……『謁見』は以上だったか? スザク」
「僕が、記憶している限りは、以上です。皇帝陛下」
その淡褐色の瞳が、昔は煌き柔らかい雰囲気を出していたというのが
嘘だと思えるほどの、冷たさだ。
頭を垂れ、服従しているような様に、一種の違和を感じるのは
C.C.だけではなく、皇帝であるルルーシュもだろう。
忠義の強さを考えるならば、ジェレミアや咲世子が一番だろう。
利害が一致し、お互いをお互いを『許す』事で成り立っている。
他者から見えれば、それだけの関係だ。
「ランスロット・アルビオンのシミュレーションがあるので
失礼します」
「ああ、本番で出撃できない、などと愚かな事は起こすなよ」
「イエス・ユア・マジェスティ」
あの重苦しいマントを軽やかに翻して、騎士のスザクは退いた。
ナイトオブゼロ――実際はナイトオブワンと同等の意の位置にいる
彼ではあるが、四六時中、王の傍にいるワケではない。
今までの事を考えれば、傍にいる時間は断然に多いのだが。
心惜しさもなく、淡々と去る、その背をルルーシュは飽きもせずに
見えなくなるまで送る。
遠い記憶では、ルルーシュの父であるシャルル皇帝の傍らに在った
ナイトオブワンの方が、皇帝と共に在った時間は長く感じられる。
表向きは主従であれど、実際の関係を考えれば、
その傍に有る時間は妥当なのかもしれないが。
あと、一つは、彼の乗るナイトメアフレーム。
驚異的な戦闘能力を持ちながらも繊細。
調整は毎度行われる必要があるらしい。
苛烈化していく戦闘を考えれば、念密な調整で、最大限の能力を
発揮できる状態にしておくのは、必要事項である。
『騎士』としての実力を全世界に提示しなければならない時以外、
極力、出撃させていない皇帝の真意は
きっとあの騎士は気づいてはいないだろう。
彼は剣。
魅せる煌きとしなやかさ、されど触れるならば血が溢れる
仮初の鞘は、簡単に擦り抜ける。
「お前は、王だ」
突然のC.C.の言葉に、ルルーシュは瞳を顰めて顔を向ける。
「命令すれば、いいだけの話だと思うが?」
「何の話だ」
「まるで捨てられた子犬のような瞳で、騎士を見送る王なんて
笑い話にもならん」
表情が、変わる。
彼の分厚い仮面は、こうも『友』だった者の話となると簡単に壊れる。
その様を見るのは、C.C.は嫌いではなかった。
「いつ、何処で、そんな瞳をしていた? 目が腐っているんじゃないか?」
「お前の脳が腐っているんじゃないか?
たった今の出来事が記憶できていないとは、可哀想に」
互いに悪態をつき、掴みかかりそうになるが
不機嫌にルルーシュが顔を逸らした事で途切れる。
「まぁ、どうでもいいが……今晩の事を考えればな……」
「何だ、」
C.C.は髪を払い、足を組みなおして、その白い指先を唇に当てた。
瞳を流して、クツリと笑う。
「事細やかに説明が欲しいと、坊やが言うなら
しても構わないが?」
「だから、何だ」
音を出さずに、C.C.は唇だけ動かし、言葉の意を伝える。
「っ、っ……は、はしたない!!」
「低俗な質問をしたのは、お前、だ」
頬を少しばかり紅くしているルルーシュから瞳を逸らし、
広い謁見の間を見た。
「慰める頻度が、多くなればな…」
「誰も頼んではいないッ」
「では、必要ないか?」
ルルーシュは睨みつけるだけ、脳内では様々な言葉や心情が
駆け巡っているだろう。
「ああ、安心しろ。私が、自ら選んだ結果だ。
それよりも、優しい私で良かったと感謝しろ」
それは、とても悔しそうな顔。
彼は愚かな方向で頭が良く働く。
結果が容易に想像できる先に、『愚かな発言』はできず
押し黙っている。
表情は、癇癪を起こす一歩手前に見えた。
「………感謝は、している」
小さく呟かれた。
それに、クツクツとC.C.は笑う。
「ほう。素直じゃないか。
私は多くは望まない。
感謝の印は、ピザ――」
「却下、だ」
即答されて、C.C.はムッとした顔を向けた。
「此処までチーズ臭を染み付けられたら堪ったものではない!!」
「染み付くほど、食べさせてくれないお前に
言われる道理などない!」
言い合いは、何とも、幼い、モノだった。








眠りは、深いようで浅い。
物音で、瞳を覚ますのは神経を鋭角にさせてしまっていた所為か。
パイロットスーツと兼用の騎士服を脱ぎ、
寝間着として着用している小袖の前を閉め、気配を窺う。
だが、感じられた気配に、杞憂だとわかり、息をついた。
自室に宛がわれたのは、現皇帝の隣りの部屋。
十二分に広い室内の、壁にある扉は、王の寝室に繋がっている。
セキュリティは万全であるが、絶対ではない。
ギアスで支配を広めつつも、影を抹消できる訳ではない。
現に、暗殺者が舞い降りるのは珍しい事ではなかった。
イレブンと蔑まれていたスザクが、ナイトオブセブンとなった以降、
己が身にも暗殺を目論まれていたくらいだ。
「………」
気配は、安心して良いもの。
だが、洗練された者の場合、自在に消せるモノでもあり、操れる。
スザクは、息を吐き、己の気配を消す。
足音を立てず、夜闇の室内を歩み、王の寝室へ繋がる扉へ行く。
そっと、扉を開けて、一条の穏やかな光がスザクの室内に伸びた。
瞳に映した、それに、本当に『杞憂』だったと明確になった。
月明かりと、蝋燭の柔らかい灯火。
天蓋の大きなベッドの布は下りている。
影が、揺れている。
その輪郭は、美しくも、艶やかに、淫らに。
扉を、閉める。
「今日も……か、」
呟いた、自身の言葉に、スザクは拳を握り締めた。
それは、軽蔑の意ではない。
抑圧された環境で、本能は強く精神を蝕む。
人間と欲は切り離せはしない。
あの、『彼』が、と思う部分はあるが
それよりも、心だったモノが揺れている理由が解らず
スザクは苛立った。
それだけ、だった。







まだ、理性は少しある。
激しく、ぶつけられる、感情の渦は、優しさと気遣いがあり
C.C.としては微笑ましく思えた。
同時に、憐れとも思える。
ココロを捨て置いた、自分でさえ。
王としての、仮面の下は、いまだ、幼い子供。
その、仮面は重いだろう。
それでも、絶対的な意志を保ち、自信に溢れているのは
先程、扉を開けた『彼』がいるからだろう。
「――」
彼の情は愚かなほど、底なしだ。
C.C.自身にさえ向けられ、それは、唯一として在る。
人間では、ない。自分は。
だからこそ、明確な感情を音にはしない。
きっと、今のように、本能をぶつけられたら、あの紅い髪の少女は
喜び、奥底にある本心をカタチにして音にするだろう。
少女のように、思うココロは、ない。
だが、優越感に笑みが零れ
体は、悦びに震えている。

素直では、ないな

言葉を、発したのは、いつのC.C.だろうか。
「――……、」
王は囁く、自身の本当の名前。
「相変わらず……発音が、ダメ…すぎる、」
零れる息を抑えて、言った。
音にはしないが、真の『名』を呼ぶ事は許そう。
唇を、寄せた。








ふらりと、スザクは廊下に出た。
格子の窓からは、月明かり。
警備の兵を見て、そして歩んだ。
(夜風にも、当たろうか……)
見た、その光景に、性欲が溢れたワケではない。
解らない苛立ちに、頭が熱くなっただけだ。
青年としての性欲は、あるにはある。
だが、長年の軍人としての生活が、元から真面目な部分もあり
コントロールが容易で淡白にさせた。
切り替えが早いのだ。
だからこそ、その、制御できない、理解できないモノは
スザクの精神を揺さぶる。
角を曲がり、数人の兵士たちが歩んでくる。
一人の兵士を肩を組んでの歩みに、スザクは駆け寄った。
「何か、あったのか?」
「いえ、ナイト・オブ・ゼロ様。
この者は、体調が優れないだけです」
敬礼をし、答える男を見上げて、肩を組んで運ばれている男を見た。
確かに、外傷はなかった。
「そうか、」
医務室へと運ぶのだろう。
スザクが道を開けるように身を避けた時だ。

「っ、」

倒される事はなかったが、体格の差で
多少の衝撃がスザクの顔を顰めさせた。
運ばれていた男が、此方へ倒れ込んできたのだ。
驚きながらも、支えて、その男を見ようとした。
「っ!?!」
次には、息が止まる。
正確には、息を奪われた。
かぶりつく、貪りつくとも言おうか。
唇を奪われたのだ。
次いで、荒い息と共に、酒気を感じる。
ギアスによって、完璧な奴隷となっているが、本能までは抑制しきれてはいない。
不敬罪であろうが、彼らが服従しているのは『皇帝』である。
「……、スザク様……」
唇を離され、手を這わせて、囁く言葉に震えた。
首筋に、かさ付いた唇が這い、吸い付かれる。
珍しい事ではない。
か弱い女性に浴びせようとするよりかは、マシだ。
男の、二の腕を撫で、
「………ああ、解った」
下肢に足を絡めて、そして。








「今日は、これで、終わりだ」
するりと身を離した、C.C.に、ルルーシュの瞳は揺らいだ。
紅い鳥の浮かぶ瞳は、言葉よりも強く訴えている。
「……なんだ? まだ欲しいのか?」
彼は頭がよく働くが、C.C.はルルーシュの扱いを
共犯者ゆえに熟知している。
このような言い方をすれば、肯定を言えない『捻くれ者』であると。
「………いや、」
横に畳んであったタオルで、ルルーシュは穢れを拭き始める。
浴室に直行するのだから、必要はないとC.C.は思うのだが好きにさせていた。
「………」
何か、言いたいのだろう、相手。
何が言いたいのかは、解っている。
付き合っても構わない、むしろ、体は、欲しているのかもしれない。
だが、連日に、激しさに、眠りを欲してもいた。
そして、思うに。
「自覚していないだけだ、麻痺しているとでも言おうか」
優しく撫でるように拭いていた、ルルーシュが顔を上げて首を傾げる。
「刀は、抱きしめる事はできない。
だが、柄を握り、使うコトはできるだろう?」
ふっと、C.C.は笑った。
もはや、それは自嘲に近いものがあったかもしれない。
「C.C.」
呼ぶ名は、真の『名』ではない。
その瞳を、見つめれば、溢れる何かがあった。
「ふふ、礼はピザで良いぞ」
「……却下、だ」
即答するルルーシュに、C.C.は笑い、その美しき肢体を隠しもせずに
身を寄せてきた。
降り注いだのは、優しいキスだった。









廊下を歩む。
冷徹な表情はなく、ただただ、不機嫌さを現す色だけ。
珍しい事ではない。
兵の精神状態を良好にさせるのならば、上司の位置にある
自身は、接してやるのも務めだ。
当たる、熱。
吐かれる、息。
貪ろうとする、唇。

気づいた時には、鳩尾に拳を当てていた。

――医務室へ、
――ナイト・オブ・ゼロ様……
――今のは、不敬罪には値しない。それよりも、医務室へ連れて行け
――イエス・マイ・ロード

気絶する男を他の兵士に渡し、
その場を去った。
半ば、逃げるように、去る自身に、苛立ちが募る。
かさついた唇の感触が、久しぶりのキスだっただけに、如実に残った。

――キスは、好きな者とする…モノだろう?

記憶の片隅に、こびり付いた残像。
ゴシゴシと唇を必死に拭っていた己に、スザクは奥歯を噛み締める。
解らない。
解らない。
解らない事は、考えては、いけない。
押し込め、眠るのが万全の策だ。
自室の扉を開けて、中へ入ろうとした。
此処で、立ち止まってしまった自分に後悔する。
部屋に滑り込むように入れば良かったのだ。

「……スザク?」

隣りの部屋から、ルルーシュが出てきた。
今、一番、出会いたくない相手だった。
舌打しそうになるが、抑えて、敬礼をしようとした。
だが、周りは、ルルーシュと自身だけだ。
敬礼をせずに、近寄る相手に瞳を向ける。
「そんな格好で、何をしている」
小袖一枚に、素足。
スザクとしては動きやすい格好であるが、質問は妥当である。
「夜風に当たりに行っただけだ」
「そうか、」
会話は終わる。
何をしていたのか、とスザクも『友』としてならば聞く所かもしれない。
だが、聞くような『友』という関係ではなくなっているし
見た目で如実にわかる。
絹のシャツと黒いズボンと軽装で、服装に乱れはないが
仄かに纏われている艶は消せない。
さしずめ、フェロモンと言うべきか。
事後から、さほど時間が経っていないという事がよく解る。
少しの余所余所しさは、彼の生真面目で潔癖な部分がさせているのだろう。
空気が読めないといわれているスザクであるが
その気づいた事を掘り下げるほど、ではない。
話がないのなら、部屋へと戻る。
視線を逸らした。
空気が震えたのを気づき、何事かと思うよりも先に
「お前、何をしていたっ……」
押し殺すような、唸る声。
瞳を向ければ、怒りに満ちた瞳だ。
「何って、」
「それは、なんだ!!」
指差される。首筋。
すぐ様、思い当たり、手で覆うが、既に遅い。
溜息をスザクは、吐き、隠そうとした手を下ろした。
「君には、関係ないだろう? 俺が、何していようと」
解らぬ苛立ちも相俟って、自然に厭味が言外に含まれる。
もっとも、スザクが知っている知らないだろうルルーシュは
気づいてもいないだろうが。
「関係なくはないっ!!」
「ないだろ!!」
怒鳴っていた。
ルルーシュもだが、スザクも沸点は低い。
特に、ルルーシュ相手には。
「計画に支障をきたしているワケじゃない!
俺が、夜、何をしていようが、君に迷惑をかけているワケでもない!!」
怒鳴りつけて、部屋へ入ろうとするスザクの腕をルルーシュが掴んだ。
「俺は、」
ルルーシュの顔を見ず、スザクは瞳を冷たく細める。


「命令ですか? 皇帝陛下」



掴む手が震えた。
逸らしていた瞳を向ければ、其処には、
久しぶりに見る。
『ルルーシュ』の表情だった。
泣き出しそうな、切実に訴えているような、悲しげな表情。
それこそ、酷い事を言ったと罪悪を揺らすほどの。
それに驚くスザクに、表情は、徐々に忌々しく憎悪に染まるモノへと変化した。
「セックスをしていた。兵士が慰めろと命令をしたから。
そう言えば、満足かい?」
掴む腕を払った。
その表情を、見ているのが、苦しくなる。
唇を噛み締め、部屋の中へと入ろうとした。
「待て、」
低い声は、彼の怒りの声。
何に怒りを感じているのだろうか。
穢れを嫌う、それか。
(C.C.としている、クセに!!)
理不尽なモノを感じて、何かに、自身はショックを受けている。
制止の声に止まらず、背を向けた。
手が、スザクの腕を掴もうとする。
それを容易に避けたが、勢いがあった所為だろう。
ヨロめく体を視界の片隅に。

バタンッ

「っ、」
何故だろうか。
もはや、条件反射か。
ルルーシュを庇うようにして、床に倒れた。
受身は取れたものの、二人分の体重が、かかり、痛みが体に響く。
少し顔を顰め、意識をルルーシュへと向ければ
相手は起き上がり馬乗り状態で見下ろしてきた。
その瞳は、憎悪に揺らぎ、
「許さない!!!」
「だから、お前には」
「関係なくはない!! お前は、俺の、」
袂を掴まれ、視界に彼の顔が満面に映った。
感情の、ままだろう。
ガツンッと歯がぶつかった。
「んぐっ!?!」
齧り付くように唇を塞がれた。
口腔に乱暴に入ってきた舌を噛もうと思った。
覆い被さってくる体を蹴り上げ、捻じ伏せようと思った。

「……んっ……ぅ……」

拳を握り締めて、その頬を殴ろうと思った。
柔らかい唇は、熱く、舌は乱暴に入ってきたのにも関わらず
優しく絡んでくる。
キスは、ルルーシュとの、キスは初めてではない。
一年以上も前に、した、同じ感触であるというのに
動きに、儀心地の無さが軽減されていた。
該当する理由に、何かが煮え滾る。
唇が、ゆっくりと離れて、スザクは瞳を逸らした。
瞼を閉じて、煮え滾った感情を押さえ込んだ。
「……何故、抵抗をしない?」
瞳を向けた、見下ろす、瞳は揺れている。
求めている言葉は、スザクには理解できない。
「陛下の、命令であるなら……そうだろう?
僕は『皇帝』の『物』だ」
そう、ぶつけられたモノを、スザクは受け取った。
他に、ない。
他に、何があるのか、スザクには解らないのだ。
「………」
揺れていた瞳の色が、スゥっと暗くなる。
冷たい色は、人をモノとしてしか見ていない『皇帝』のもの。
スザクも、感情を消した。
皇帝は、ゆるりと離れ、起き上がろうとするスザクの頭髪を掴む。
睨みつけるよりも先に、彼は、押し付けた。
「慰めろ」
一言、そう云って、了承の意も聞かぬまま
モノを口に突き入れられた。
「ぐっ、ううっ、むっ、」
吐き出したい。
見上げる、その、人の表情は絶対零度。
震えた。
心臓あたりが、痛くなった。
挑むように睨み付けて、拳を握り締めて、そのモノに舌を絡める。
自ら言ったのだ。
命令ならば、従うのが『騎士』であると。
「……っ……はしたない、騎士だな、貴様は」
罵り、向けるのは息を上げながらも軽蔑している眼差し。
徐々に大きくなる、モノは口に入りきらなくなる。
口腔に広がる、自身の唾液ではない、液体の味。

命令だ。これは。

舌を絡めて、口を前後に動かす。
じゅる、じゅぽっ、と淫靡な音がする。
「全部、だ」
押さえつけるような声は、あの仮面の男と同じ。
頭髪を掴まれ、無理に咽喉奥まで突き入れられた。
「ぐんぅ…ぇお…」
生理的に、嘔吐感を味あわせる。
嫌悪、憎悪、憤怒よりも、内部の感情が冷えていく。
映る、その、皇帝に。
何かを、そう、何かを。
「う、おぇ……っ、げほっ、ごほっ、」
何度か、咽喉奥まで、入れて、頭髪を掴んで引き離す。
咽て、少し疲弊しているスザクは、床に倒された。
薄暗い室内で、そのまま、四つん這いにされ、小袖を捲り上げられる。
臀部が外気に晒された。
「っ、」
体を捻り、蹴り上げれば、回避できる。
(これは、命令だ)
視線を、後ろに向けた。
膝立ちになった、彼の下肢には、スザクの唾液で濡れたモノ。
体が震えだす。
(……あんな、の、入るだろうか……)
入るだろう。
だが、激痛を、体が覚えている。
逃げ出す事は、容易だ。
スザクは、唇を噛み締め、瞳を閉じた。





抵抗を見せない、スザクに、視界は真っ赤に染まった。
それは、ルルーシュにとって、ギアスを使った視界に見える。
衝撃だった。
痛みだった。
怒りだった。
命令ならば、何でも従う様に、否定された。

今更、だ。

そう、冷静に判断する自身も、血の色に染まる。
こんなにも、こんなにも。
感情は沸点を越えて、冷静な判断を行動に移せないでいた。
スザクを四つん這いにさせ、突き入れようとする。
尻を鷲掴み、腰を掴んで、此方へと引き寄せる。
「……っ」
息を飲む音、それを冷たく見下ろした。
震えていた。
硬く閉じられた瞳から、零れているのは涙だ。
視線を下ろして、下肢を見れば
スザクの性器は萎えており、晒されている肌は、綺麗だった。
状況を、脳が整理しだす。
血の気が引いた。







衝撃が来ない。
瞳を、ゆっくりと開けて、後ろを振り仰いだ。
「……皇帝陛下……?」
いたのは、顔面を薄暗い室内でも解るほどに蒼白させた
ルルーシュだった。
「……ルルーシュ?」
ビクリと肩を震わせて、何かを言おうとした唇は
本人の手で消える。
体を起こし、その人を見た。
彼は、皇帝だ。
目の前にいるのは、一体誰だろう。
そう思えてくるほどに、儚く見えた。
何かを、ルルーシュは言おうとしている。
だが、その言葉が解らないのだろう。
スザクは、込み上げる感情が解らない。
どうすればいいのか解らなかった。
「ルルーシュ、」
だから、名を呼んだ。
彼が、捨てなかった名前を。
苦しそうな表情をされ、次には抱きつかれる。
強く、強く、抱きしめられ、手が動いた。

「ルルーシュ」

もう一度、名を呼んで、瞳を閉じた。
冷え込んだ、内部は、簡単に暖かくなる。
背中を優しく撫でられ、ゆっくりと体が離された。
其処にいたのは、スザクが知るルルーシュだ。
「悪趣味な冗談が、過ぎたな」
彼の性格上、謝罪は中々述べられない。
一言、言えばいいものを、言えないのだ。
自嘲気な笑みを浮かべるルルーシュを、スザクは溜息をついて見る。
(土下座はできるのに)
簡単に土下座をした、あの時を思えば
溜息も零れる。
此処は、『騎士』として接すれば、終わる状況だ。
「君が悪趣味なのは、知っているから、
気にすることはないよ」
「……それは、フォローをしているつもりか?」
「どうだろう?」
不機嫌そうな顔に、笑みが零れた。
視線を下ろせば、まだ元気なモノがある。
スザクの視線に気づいたのだろう。
そそくさと、仕舞おうとするルルーシュの手を掴んだ。
「…スザク、」
「命令すれば、いいだろ? 君は皇帝だ」
問いかけは、普段の騎士の声色ではなかった。
だから、だろう。
忌々しく顔を顰めながらも、左右にルルーシュは首を振る。
「スザクに……命令はしない」
切なげな眼差しに、言葉にしない、感情がある。
それは、もう、遠い過去に、置いてきたものだ。
スザクは、その意を問わなかった。
下肢を見る。
抑え込められそうだが、やはり吐き出さないと無理なように思える。
ならば、彼は、ルルーシュはどうするだろうか。
過ぎる、少女の影に、苦しくなった。
その現状に、苛立った。
強く、ルルーシュの手首を強く握った。

「枢木スザクには……頼まないのか?」

瞬く瞳を見つめた。
ゆっくりと、見下すような色になる。
「一番、了承しないだろう奴にか?」
「どうかな? ちゃんと、言ってくれれば、OKかもしれないよ」
「話をちゃんと聞ける奴ではないぞ」
「相手によると思うけど」
手が、頬に当てられる。
震えていた。
そっと、唇が触れる。
「触れさせろ」
強きな声で、けれど瞳は揺れていた。
それこそ、不安気に。
「触るだけで、いいのかい?」
挑発するように、口端を上げて言った。
負けん気が強いのは、スザクもルルーシュもだ。
「上等、」
鼻で笑い、ルルーシュは挑発し返す。
明白な言葉は、いらなかった。






「んっ、ぁ……ううっ、」
もがくように動く足が、シーツに皺をつくる。
大きく開かされた脚の間、秀麗な美貌を持つ彼が
欲の証を咥え込んだ。
「っ、や……ぐっ、うう…そんな、こと……しなくて、いいっ」
筋を辿り、先端をちゅっと座れる。
吐き出す一歩手前で、ルルーシュの唇が離れた。
「……るるー、しゅ…んぐっ、」
体を摺り寄せて、覆い被さるルルーシュの指が口腔に入れられた。
ぐるりと、口腔を旋回して指はスザクの口から出る。
唾液で濡れた指を、ルルーシュは舐めて、下肢へと伸びた。
「ふぇ? ぁ…ぎ、ぐっ!?」
止まりそうな息を、慌てて吐きルルーシュをスザクは見上げる。
すれば、細められた眼差しは艶やかでありながら、優しく
片方の手で頬を宥めるように撫でられた。
「ぅ?」
「狭い……痛いか?」
「…ううん、苦しいだけ……だよ」
内部に指の感触を感じた。
「……っ、」
顰めた顔に、ルルーシュがふと、嬉しそうに笑んだ。
降り注ぐキスの雨をスザクは浴びながら
少なからず、苛立ちと衝撃を感じた。
ルルーシュとは、一度だけ、した事がある。
あの時の彼は、遠いながらも記憶に刻まれている。
余裕なく、混乱状態で、半ば暴走していたあのルルーシュが
自分を宥めて導こうとしているのだ。
突発的なモノに弱い彼だ。
つまり、慣れれば、思考は上手に働くという話。
(ルルーシュのクセにっっ)
眠る、強きな感情が吹き荒れる。
「はは……操立て、してくれていたのか?」
「…そんな、事、な……っ…ん、はぁあ、」
内部を探られ、乳首をこねくり回される。
体が熱く痺れる感覚をスザクは感じつつ、ルルーシュを見た。
「確かに、セブン『様』だったからな……お前は」
すりすりと、その体温の低い手がスザクの尻を撫でて
唯一、繋がれる場所に熱いモノを宛がわれる。
「っ、」
「こっちは……久しぶりか?」
「どうかな……淫乱なイレブンだから、ね」
睨みつけると、その紅いギアスの宿る瞳が映る。
コンタクトを外したのだろうか。
細い指先が、太股を撫で、スザクの体を折るような体勢にさせた。
「……ぅあ…」
「なぁ、スザク。
よく見えるだろう? …っ……よく、見ていろ。
お前が――」
ずっ、ずずっと音がした。
そして、突き刺すという表現が正しいだろう。
ルルーシュのモノが、スザクの中に。
「ぃ、ぐ、ぎ、あああああああああ!!
がはっ、っ……はぁ、ううっ、あ、」
痛い。
痛い。
苦痛の中に、その熱い切先が内部の感じる場所を抉り
強制的に快楽を浴びせる。
「ひっ、ぐ、うあ、あ、っ、」
「はぁ、はぁ……ぁ…あ、んぅ、見え、るか? スザク、」
「うう、ぃ…ぃ、あ、う…見える……俺の、中に、
……ルルーシュ、が、」
じゅくじゅくと音をたて、挿入される様が月明かりによく見えた。
信じられなかった。
また、もう一度、こうやって。
だが、それを、真実だと見せ付けるように現実と熱が
スザクを犯す。
「ぃ、あ、あっ、っ……あ、なんか、駄目だ…っ、出る…ぅ…
出る……るる、しゅ…っ…」
「ん……はぁ、ぁ…馬鹿、待て……っ」
強く、早く、上からたたきつけられる。
痛くてキモチイイ。
全身に電撃が走り、脳の神経を切られるような感覚。
即座に、堕ちる。
「っ、う、あああああああああっ!?!!!」
悲鳴に近かった。
スザクは体を折り曲げられている所為で、自身の吐精した
液体がかかる。
「うぅ、…っ…」
じゅぽんっ。
勢いよく、内部から、モノが出され
混ぜるかのように、ルルーシュがスザクへと吐精した。
「…ぁ………」
呆然とし、心許なくなる。
白濁の液に汚れ、淫猥な匂いが立ち込める。
「……っ…これくらい、で…俺は……満足、しない」
息を整えながら、ルルーシュを睨む。
「………中に……」
「……出して、欲しいのか?」
威圧的に言いながらも、ルルーシュの顔は真っ赤だった。
それに嬉しくなり、太股を自身で掴み、広げる。
「騎士を満足、させるのも……王の、役目だ」
「……そうだな、裏切られたら困る」
孔を指で広げられる。
内部まで見られる事に、スザクの頬は染まり、体は小刻みに震えた。
あの、憎しみを覚えた、あのギアスの瞳でさえ
温かく優しく見える。
「ルルーシュ……」
「スザク、」
名を呼ぶ。
他に、感情を現すモノがあるだろう。
けれど、名だけで、十分だった。











名ある貴族との引見という名の、絶対服従の洗脳を終えた
皇帝が大きな王座に背を預けた。
「今日は、はかどっているな」
隣りの装飾のない小さい椅子――高価であるのは変わり無いが、
に座っているC.C.の言葉に頬杖をついて、瞳を向ける。
「『善良』な『皇帝様』だからな」
ふっと軽く鼻で笑い、傍らの騎士を見た。
「………」
相変わらずの、冷酷な炎を宿した瞳。
だが、その厳粛で清楚な騎士の雰囲気が違う。
疲弊しているような、気だるそうな、美しい絶世の美貌を持っている
ワケではないのに。
肉体のリアルさの、性的なもの。
「そろそろ、シミュレーションの時間ではなかったか?」
「……ああ、」
C.C.の言葉に頷き、その重苦しいマントを翻し、
この場を去ろうとする。
だが、今日は、やはり動きがゆっくりとしている。
「待て」
皇帝の声が響いた。
「今から、謁見がある。
予定より人数が多い。念の為だ、此処に控えていろ」
「………」
その白い手は、簡単に、騎士の手を掴んだ。

「イエス・ユア・マジェスティ」

了承の返答は、形式的なモノだ。
無の表情の中で、その声は少し柔らかだった。
そっと掴んだ手を皇帝は離すと、騎士は一歩下がり佇む。
「私の前では、くだらない道化だが」
小声で呟くと、その紫の瞳が向けられた。
「何の話だ」
皇帝から騎士へと瞳を流す。
合う瞳の揺らぎに、やはりな、と確信した。
「特大ピザだ、ルルーシュ」
「却――」
ガッ
音がした。
王座が蹴られた音だ。
蹴った本人は何事もなかったような、冷たい表情でルルーシュを見る。
「ピザくらいだったら、安いんじゃないかな?」
それは、物凄い圧力であろう。
ルルーシュが、血の気が引いているのは、見なくとも解る。
クスクスとC.C.は笑った。


簡単、だっただろう?




鳥は、降り立った時点で『主』としたのだ。
命令を待っている。




その羽ばたき去るまで、『王』は試されるのだ。
本来の色を戻す『力』があるのか、と。









(終)
+++++++++++
ルルさん、C.C.との関係を
バレてないと思っております。
スザクは女性とは、いたしておりましたが
同性とはルルさん以外、最後までしていません。
その理由を本人解っていないので、余計に苛立っていた
ナイトオブゼロ様です。
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微修正して(もしかしたらC.C.とのエロシーンもう少し追加)
本に記載予定です。
当初はコメントにて、ルルさんが童貞なのは可哀想だと頂きまして
(すぶたは生殖器同士の交配で、筆下ろしと考えておりますので
スザクと関係あっても、ルルさんは童貞と捉えております)
救済企画?で、だったらC.C.様ですね!
いつもよりズルい男にしてやろうじゃないか!というノリで
書いたのですが、以外に好評で吃驚です。
いつもより攻め度が高いからか。格好よくさせているか(そのつもり)。
スザクがヤンツンデレ気味だからか。
普通だったら、修羅場ですが、C.C.とスザクなら上手にやっていけそうだな。なんて。