■□他は謳う、王は謳う。 <<noveltop
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それは氷の焔。
煉獄の炎に焼かれ、尚も冷徹に見下ろす死神。
戦の美しさは、屍によって彩られ
鮮血が、彼の道を鮮やかに飾る。
裏切りの、騎士。

彼を謳う言の葉。

絶対的な呪縛による、従属化の為の謁見。
集められた貴族の者たちが、口々に王の騎士を謳う。
今、腕の中にいるアーサーを向かえに行った帰り
偶々、出くわしてしまった。
武道を習っただけあり、気配や足音を消すのは容易かった。
(どうしようか……)
まだ悪逆行為を、表だって行っていない最中
呪いの言の葉は、もっぱら、裏切りの騎士の話ばかりだ。
慣れるというのもオカシイが、元より自身を卑下する言葉を
聞くばかりだった中で、今更、傷つく事はない。
今、此処で彼が悩んでいるのは、通り抜けるか否かだった。
(窓の外から壁を伝って言ったら、ジェレミア卿に怒られるし
かと言って引き返すと、アーサーの食事が遅れてしまうし……)
カジカジと指を噛んでいるアーサーの背を撫でて、
此処は、ジェレミア卿のお小言を耐えようとした時だ。

「体を使って、騎士にして貰ったのよ。きっと」
「イレブンですものね」

言葉が耳に入ってくる。
悪口や悪態は慣れてはいるが、その言葉に、眩暈を覚えた。
(俺が、ルルーシュと肉体関係が? 冗談じゃないっっ!!!)
イレブンであるし、軍所属であった自身。
自己満足の自己犠牲の中で、駆け抜けてきた過去。
特派に入る以前。
何度か、そういう類の『指導』という『暴力』はあったが
一応は後ろの貞操は守りきっている。
それは、きっと超えるべきではない所であり、
自分はイレブンである。
イレブンの、しかも男に入れるくらい困っているワケではないという
プライドが、そうさせていたのだろうとスザクは思っていた。
実際は、全く抵抗を見せずに、甘んじている様が面白くなかったという事と、
幾分かの監視があった事、そしてその場の衛生面だ。
何かの病気に感染してもおかしくないほど、
泥水を舐め啜り続けるような場所だった。
自身の真の過去は置いておこう。
スザクのスピード出世は、確かに何かを使ったとしか見えないだろう。
貴族は、そういう戯れを行う事もあると
ラウンズの頃の同僚が言っていた。
(だから、大丈夫だって、彼は言っていたな……)
ぼんやりと、反芻しつつも、その裏の真意に気づかないまま
現状の言葉に、頭が痛くなった。
C.C.とルルーシュなら、そう見られてもおかしくはない。
実際、愛人的な立ち位置として見られている――ルルーシュが妃として迎えていないからだ。
その愛人の、日本的に言うならば児小姓の位置に、自分も立たされている。
(冗談じゃない!!!!)
罪を互いに赦す事で、同じ道を歩み始めた。
自分は剣。
阻む者を殺して行くモノだ。
隙を見て殺してやろうという憎しみはない。
されど情など、温かいものは、此処にはない。
憎しみが消えている訳ではないのだ。
それは、ルルーシュも同じ筈だ。
(そう思うよね? アーサー)
問いかけるように、アーサーを見つめると、ニャーと鳴いて
カプリと噛まれる。
「っ、っ…」
上げそうになる声を耐えて、その場を離れる。
そもそも、何故、そう見られているのか。
傍から見ても解るくらいの、現皇帝の騎士への配慮は
寵愛とも取れるというのをスザクは知らない。



国で言えば、第二位の権力となるだろうスザクに
城の夜間警護は任されない。
だが、任されていないだけと考え、スザクは毎晩、就寝する前は
城を巡廻していた。
暗殺を目論む者は残念ながら存在しており、
傀儡となっている兵士だけでは心許ない。
巡廻を終えて、自室として割り当てられた場所へと戻ると
廊下にぼんやりと人影が見えた。
反射的に気配を消し、足音を消そうとしたが
その人影が誰であるのか認識をすると消そうとしたものをそのままに
歩みを進める。
自室付近で、正確には隣室の扉前で立ち尽くしている男。
「どうか、なさいましたか? 陛下」
現皇帝、ルルーシュだ。
彼は即座に顔を向けるが、すぐに逸らし顎に手を添える。
「……」
隣室は、皇帝の部屋。
つまりルルーシュの部屋だ。
その部屋の扉の前で、入りもせずに立ち尽くしているのは
おかしい。
瞬時に思い当たる事を浮かべて、それは言葉となった。
「C.C.に何かしてしまったのかい?」
「するわけがないだろ!!!!」
閉め出されたのかと思ったのだ。
即座に返された言葉に、君ができるワケがないよな。と言いそうに
なったが思いとどまった。
「じゃあ、どうして此処に?」
放っておいても問題はないだろう。
命令されているワケでもない。
だが、少しの好奇心とでも言おうか、それが触発されて
スザクは問いかけていた。
「俺のベッドを、C.C.と貴様の猫に、勝手に占領をされただけだ!」
(つまり、閉め出されたって事か)
眉間に皺を寄せて、機嫌の悪いルルーシュを横目に
思った事は口にしなかった。
スザクでも、一応は空気を読める。
女性と褥を共にするのは、幾らかの問題はあるかもしれないが
ルルーシュである。
彼の地位もあるけれど、彼の性格を考えれば、全く問題ないだろう。
C.C.も気にしているように思えない。
(アーサー! 俺の所に来てくれれば良かったのに!!)
ルルーシュの部屋の扉を見つめて、息をつく。
「ベッド広いだろ。問題ないじゃないか」
「……お前は、アイツらの寝相の悪さを知らないからな」
痛いが、アーサーなら――と思いながら、スザクはルルーシュを見て
そして、自室の方へと歩む。
「なら、俺の所で、寝るか? ベッド、無駄に広いし」
パネルに手を翳すと、指紋照合と虹彩照合が開始され
閉じられていた扉が開いた。
「……え、」
表情なくスザクが顔を向けると、驚愕と戸惑いを含んだような動揺が見える。
それに、淡褐色の瞳を細めた。
「寝首を取ろうなんて、卑怯な事はしない」
彼の動揺は、計画完了までに命を奪われるという心配かと思われた。
あからさまな皮肉の混じった言葉に、ルルーシュは視線を逸らすだけだ。
「いや、その心配はしていないが……」
言い淀んでいるのが解る。
口が達者で、脳が働く彼には珍しい。
それが、とても困っている子供のように見え
「入りなよ。皇帝が寝不足で、しかも風邪引いたなんて
笑い話にもならないよ」
軽い口調で、彼を促した。





室内は、薄暗い。
アンティークの家具が数点置かれているが、ほぼスザクは使用していない。
マントを脱ぎ、椅子に放り投げた。
「何をしている! 皺になるだろ」
「形状記憶なんとか、だっただろ」
「そういう問題ではない。態々、ハンガーを渡した意味を考えろ」
言葉を返すなり、相手は顔を顰めたまま、放り投げたマントを取り
裾を払い出だした。
周りを見渡し、ハンガーを見つけると綺麗に整えながら
マントを掛ける。
主婦か、いや、小姑か。
手際の良い彼に、幼い頃の彼が重なった。
苛立つ事もあるが、嫌いではない。
パイロットスーツを兼ねている常時服の襟に手をやり、
言いかける言葉を飲んだ。
ルルーシュの姿は、白いシャツに白のズボン。通常の皇帝正装とは違い
装飾なくシンプルであるが布地は最高級絹素材だ。
数度見た程度だが、彼の寝間着だ。
入浴など済ませているという事である。
スザクも入浴は終えているので、後は寝巻に着替えるだけだ。
襟のファスナーを下ろし、胸のボタンを取ろうとした時
「な、何を、している!」
怒鳴られた。
「は? 何って、寝るから着替えるだけだけど」
「……ああ、そうだったな」
小首を傾げるが、相手は顔を顰めて、そして背を向けた。
「???」
自身が女性であれば、彼の行動は理解できるが。
スザクは男である。
だが、どう聞けばいいのか解らず
聞くまででもない事であったので、そのままスザクは
服を脱ぎだした。
目前にデザインに協力した相手がいるから、はっきりと言えないが
この服は大変着脱が面倒である。
体にフィットしているのは、KMFを操作するのに空気抵抗が少なく
Gの影響がなく適してはいるが脱ぎにくい。
ナイトオブセブンの時のパイロットスーツの方が
断然に脱ぎやすかった。
一概に装飾の差であろうが。
やっと脱ぎ終えて、軽く畳んで――先程のルルーシュの行動を考えて――
クローゼットから寝間着を取り、袖に腕を通す。
寝間着に要した時間はナイトオブゼロ服の十分の一以下の時間で
着替え終える事に思う所はあったが。
敢えて考えずに、息をついた。
「ルルーシュ、」
着替え終えた事を告げるように、名を呼ぶと
ゆっくりと此方へ顔を向けられた。
「……っ……お前、それ、」
ルルーシュに映ったのは、白い小袖を着たスザクだった。
「寝巻だけど」
帯を緩く締めて、言うと呆然としているルルーシュの視線と合う。
「前はTシャツと短パンだったんだけど、今はこれが一番
脱ぎやすいし」
常時服が着にくい、Tシャツなどのアンダーウェアは着ての着用は不可。
裸でいるという環境ではなかったスザクが到達したのは
幼少の頃、慣れ親しんだ寝巻だった。
食い入るように見ているルルーシュに、何とはなしに落ち着かない。
「あの、何か問題でも」
「いや、似合っている。お前には、やはり――」
日本の、服が。
自然にスザクは笑みが零れた。
「ありがとう」
礼の言葉は、とても温かい声色になった。
それに内心、スザクは驚くけれど撤回はしなかった。
和やかな雰囲気になる手前、
「お前、また服を――しっかりと畳め!!!」
ルルーシュの言葉に、スザクた溜息をついた。
服は、やはりルルーシュが畳んで
その時、手が少し震えているように見えたが
スザクは差ほど気にせず
ベッドへと腰を下ろした。
掛け布団を捲り、奥へと移動すると振り返る。
「……此方側がいいのか?」
首を左右に振られたが、顰めた表情はそのままだ。
ゆっくりとルルーシュはベッドに腰を下ろし
体を横たえる。
特に問題はないようなので、スザクは深くは追求せずに
体を横たえながら布団を掛けた。
ふわりと柔らかい布団に包まれて、息をつく。
ルルーシュは即座に背中を向けるのを横目に、
「おやすみ、ルルーシュ」
「ああ」
淡々と言葉は交わされ、室内は静かになった。
瞳を閉じようとすると、ふわりと匂いが鼻腔を擽る。
清楚で甘やかな香。
香水ではない、その香は、ルルーシュの匂いだ。
背中を向けている相手に瞳を向けて、天蓋へと仰ぐ。
(ルルーシュと、寝ているのか……)
過去を思えば、不思議な状況だ。
背中を向けているルルーシュから、されど殺気などという類の気配は
感じられない。何かの緊張のようなモノは感じられるが。
殺されるかもしれないという、その考えさえないのか
それともそれでも構わないという事か
以上に、少なからずの計画遂行に背く事はないという『信頼』を感じられた。
瞳をゆっくりと閉じる。

――体を使って、騎士にして貰ったのよ。きっと

(!?!)
言葉が浮かんで、思わず声を上げそうになった。
珍しく、鼓動が速まりそうになるが
平静を取り戻すように息を吐いた。
(馬鹿か、俺は……)
ルルーシュだ。
男だ。
そういう趣味はない。
されど、意識すれば、他人の気配は強くなる。
何か落ち着かない感覚をまた覚えて、ぎゅっと強く瞳を閉じた。
しかし、ふんわりとした温もりは
簡単に眠りへと誘った。







何か体にぶつかった。
即座に温もりと振動が伝わる。
浮上する意識は、すぐに堕ちそうになったが
(そうだ、俺だけじゃない)
共に寝ている人物を思い出した。
ぶつかったというのは、その相手にぶつかったという事だ。
寝相が悪さから避難してきた相手を考えれば
今し方の自身の行動は酷いだろう。
瞳を開けると、背中が見える。
(良かった、殴ったワケじゃないみたいだ)
息をつくと、ビクッと背中が震えた。
沈みそうになる意識を留めて、その背中を見る。
近い。
寄り添っている状態であるのを、スザクは気づいた。
離れようと、脚を少し動かすと、ルルーシュが少し蹲る。
一瞬、蹴ってしまったのかと思ったが違うようだ。
「……っ……っ…」
口に手でも当てて、息を殺しているようだが
呼気が荒くなっているのは解る。
気づかない内に蹴ってしまったのだろうか。
「ルルーシュ?」
「っ!?!」
体をビクつかれる。
その様子は普通ではない。
何処か具合でも悪いのかと、スザクは起き上がり、布団を捲った。
「馬鹿! 何でもないっ、」
「何でもないって、お腹でも痛いのか?」
蹲って、動けずにいるルルーシュを見下ろす。
口に手を当てて、片方の手で腹部を押さえているように見えたからだ。
ルルーシュも起き上がり、背中を向け、立ち上がろうとしている。
只ならぬ様に、思わず手を伸ばすが、ルルーシュはその手を払った。
だが、その際、布団の柔らかさに足を取られる。
「危ないっ!!」
「っ!?」
ベッドから落ちそうになるルルーシュを自身の脇に放り投げるように引き寄せた。
呻く声は、些か乱暴にしたからだろう。
謝ろうと視線を向けると、呆然としているルルーシュの表情が映る。
相変わらず、突発的な事には弱いようだ。
苦笑をして視線を落すと、それに気づく。
「違う!! これは、これはだな……そうではなく、
いや、そのっ、」
下肢のズボンが天張っていた。
一瞬、そんな所に銃でも隠し持っていたのかと思ったのだが
真っ赤になって混乱している相手を見れば
何なのか容易に理解できる。
「あ、ごめん」
「何故謝る! いや、そうではなく……っっっ、」
そういう夢でも見てしまったのだろうか。
変にプライドのある彼の事だ。
あまり深く言うと、癇癪を起こしそうだ。
トイレでも行く事を進めようとしたが、俯いて震えている様子を見ると
酷に思える。
そっと近づくと、相手は震えるが立ち上がる様子がない。
まさか、と思ったが。
手を伸ばし、ルルーシュの腰に当てる。
「スザク!?」
素っ頓狂な声を聞きながら、やはりと内心で思った。
ルルーシュは腰を抜かしている。
「大丈夫かい?」
問うと睨まれたが、すぐに俯かれた。
「……その、えと…生理的な物だから気にする事はないよ」
スザクとしては、最大限考えてのフォローだった。
だが、睨まれ、視線を逸らされる。
息をつき、どうしようかと考えた。
このままにしても、時期に収まるものだ。
だが、このまま放置というのも苦しいのは同じ男として解る。
「……」
少し身を縮めている様は、普段の彼とは違い弱々しく見えた。
「……大丈夫、俺に任せて」
何故、様々な選択肢があっただろうに
これを選んだのか。
スザクはよく理解しないまま、手を伸ばす。
「スザク……馬鹿、何をっ、っ!?!」
服の上から触れると熱く、弾力のある固さ。
「こういうのは、慣れているから、」
「っ、」
ビクリと震えが伝わり、ルルーシュを見れば苦渋に顔が
歪められていた。
他人に、触れられるのは初めてであろう。
スザクの手は残念ながら、少女の手とは程遠いモノだ。
柔らかいワケでも、小さいワケでもなく
カサついてはいないが、KMF乗り特有の肉刺がある。
想像に補うにも、少し無理があり抵抗もあるハズだ。
ルルーシュの表情の歪んだ理由を、別の意でスザクは取りながら
脚の合間に体を入れ、目の前で正座をする。
「ごめん、ちょっと出すよ」
「っ!?」
「薄暗くて、よく見えないから安心して」
夜目は、とても効く方であるが、ルルーシュが息を呑んだ事に
安堵を促そうとして言った。
ズボンを下ろすと、細い腰と、下着が映る。
(黒いビキニ……)
一瞬、引きそうになる思考を留める。
下着に何を履こうと個人の自由だ。
過去、上官に夜呼び出されて、部屋に閉じ込められた挙句
目の前で脱ぎ出し、赤いビキニを曝しながら『掘れ』と命令された
苦々しい記憶が甦る。
その時は、指と玩具を入れてやるだけで、満足された。
(赤じゃない、赤じゃない、赤じゃない)
脱がせてしまえば、下着は下着。
ぐっとモノを出すと、そそり立つモノがスザクの瞳に映った。
(お……大きい、)
思わず、ルルーシュの顔とモノを見比べた。
仮性包茎であるのは、失礼かもしれないが『らしい』。
顔と同じ、性器も綺麗に見え、嫌な匂いもしない。
だが、大きいのだ。スザクのモノより一回り――実際は二周りかもしれないが――
大きい事に少なからずの衝撃を受けた。
東洋人と西洋人は違うもの、と昔の同僚の猥談を思い出し
それを内心で言い聞かせながら
両手でモノを包み込んだ。
「うっ、」
「あ、ごめん、痛かった?」
顰めた眼差しが向けられ、逃げ出す様子はない。
否、逃げ出すにも、腰が抜けていて立てないのだけれど。
身を屈めて、そっと一舐めして、口に含んだ。
「ほあ!?! お前っ、何故、何でっっ、」
「……っ……ルルーシュ、だから」
皇帝陛下、であるから。
至極解りやすい理由があるのに、言葉は自然に名を並べた。
口から出したモノをもう一度、口に含む。
(全部、口の中に入らない……)
竿の部分に舌を当てて、ゆっくりと顔を上下に動かし
入りきらない部分を手で唾液を塗りこめた。
「はぁっ、っ、っ…く、うっ、」
吐息が聞こえて、髪を弱く掴まれる。
それは、頭を撫でられているような錯覚を覚えて
スザクを何とはなしに意気込ませた。
髪を強く掴まれ、無理矢理、咽喉奥まで突き入れられる事はなく
生臭くもない所為か、嫌な感じはしない。
上目で見れば、瞳を滲ませて、吐息を零す様が映り
口腔のモノが先程より大きくなって、相手が感じている事を
如実に伝えていた。
もっと、感じさせてやりたいと思わせる。
吸い、上下に動かすのを少し速めた。
過去、早く終えたい一心で、懸命に口奉仕をした経験が
無駄ではなかったように思える。
「っ……う…っ…もうっ、」
限界を声と、モノが伝えてきた。
スザクは瞳を細めて、軽く歯で刺激して、先端を吸い上げ
出す事を促した。
「くっ、うぁ!!!」
切羽詰った音を聞き、次に口腔と咽喉奥に熱い液体を叩きつけられる。
「ん…っ…」
ずるりとモノを口から出して、唇を手で押さえた。
口腔にあるのは、紛れもなく精液だ。
吐き出そうと一瞬は思ったが、スザクはゆっくりと燕下しだす。
粘り気があり、飲み込み難いが、生臭くなく不快感はなく
(美味しい……)
自分の味覚がオカシクなったと思う程に。
「…はぁ……はぁ、馬鹿か! 飲んだのか! 吐き出せ!!」
ルルーシュの反応は当然のものかもしれない。
「けほ……えっ…もう、飲んじゃったから、無理だよ。
心配しないで。これも、慣れているし」
無理矢理、飲み込まされた事もある。
何より、ルルーシュの精液に不快感はなかった。
だが、口奉仕されるのが初めてであろう相手が男なのは
さすがに彼のプライドに触発したのだろう。
玩具のようなもので、されたと思えばいいと言おうとした。
スザクの両肩は、強く掴まれた。
虚を付かれたとでも言おうか。
全体重を掛けられ、此方へと倒れ込んでくる。
回避は無理な事ではなかった。
だが、相手が全体重を掛けた事による行為が、相手の身を咄嗟に案じて
受身を取った。
スザクの視界は反転し、天蓋が映り、背中の衝撃は布団により和らぐ。
両肩は強く掴まれたまま、見開いた瞳には、苦虫を噛み潰したように歪む顔と
切実に訴える瞳と合う。
次には、ガッと歯に何かがぶつかった。
唇に感触。
柔らかいそれは、唇だ。
ぶつかったのは、歯。
ルルーシュが唇を押し当てたからだ。
触れた唇は、すぐに離れて、薄暗い室内でも強く煌く瞳がスザクを捕らえる。
「……慣れて、いるんだろ」
低い声色は冷たい。
袂を掴まれ、引き裂かんばかりに両へと開かれた。
着脱しやすい小袖の寝巻は、防御が低い。
言葉の意を得る前に、咽喉を噛み付かれた。
肉食動物に、生きたまま食べられている。
そんな気を起こさせる。
震え上がる身を、舌が這い、擬古地ない動きで手が体を撫でた。
「ルルーシュ、落ち着け! 俺は、男だっ」
仮面を外し、互いに汚い部分をぶつけあった、あの時から
スザクは『僕』ではなく『俺』と本性をぶつける。
「知っている!!」
それは、ルルーシュも同じ。
「ならっ、」
「……違う……違う!! 違う、俺はっ!!!」
叫ぶ声は、偽りのない彼だ。
違うと叫ぶのなら、何だと言うのか。
「ルルーシュ、っ、ひゃ、あっ、」
上がった声に、口元を押さえて、蹴りあげようとした脚はシーツに波を作る。
混乱する思考を引き戻すように、帯が絡む腰を掴まれ、そして

「嘘…嘘だろ…っ、やめ……っ、ぐ、あああああああああああああああ!!!!!」

嬌声ではない。
スザクの声帯を潰さんばかりに、悲鳴が、むしろ断末魔に近い声が上がった。
悲鳴が足りないと、音が出そうになる口をスザクは次には噛み締めていた。
「ふー、ふー…っ…ぐっ…」
手負いの獣の息のように、それでも、痛みを外へ出さぬように制御し抑え込み出す。
身に染みている軍人気質故だ。
次には状況を把握しようと、視線は下肢へと
状況を対処しようと、片手がルルーシュへと向かう。
内部には、まだ、先端部分しか入れられてはいなかった。
経験がない、ましてや慣らしておらず、相手のモノは大きい。
痛覚は意識を朦朧とさせながらも、落とさせはしない。
伸ばした手は、ルルーシュの手に掴まれる。
「違う、」
掴もうとする要因を、彼は否定する。
最高位の権力を有する彼ならば、明確にさせる要因を発せる筈だ。
ただの、性欲処理だと。
言葉にすれば、いい。
だが、言葉にする事ができないのだ。
ルルーシュには、出来ないのだ。
それはルルーシュの強さであり、弱さでもあり
スザクには、存在を掴めないモノ。
「これ以上……入って、くるなっ、」
搾り出すように、唸るように、スザクは言った。

憎しみか、
殺意か、

傷の舐めあうには、二人の傷は深すぎる。
あたたかく、優しい『モノ』は全て、過去に置いてきた。
ルルーシュが奪い、スザクは裏切り、そして二人が壊してきた。
此処には、何も、ない。

「俺には、スザクしか……残っていない、」

それは、決して明確と言える答えではない。
だが、ルルーシュには、スザクには、鮮明な答。
黒く、黒く、塗り潰される。
そのような感覚を味わい、されど、自分は白い色ではないのを
知っていた。

「俺も、ルルーシュしか……」

掴まれた手を握り返した。
全てを暴いて
残っていたのは、滑稽な事に
憎悪をぶつけた互いだけ。

血色に染まった手が、掴んでいたのは、相手だった。






「……っ……はは、ははは…」
滑稽すぎて、笑いが零れた。
大きく笑いそうになるが、下肢の痛みにより小さくかみ殺す。
嘲笑であるが、何処か穏やかなものだった。
眉を顰めるルルーシュを見て、スザクは口を開く。
「噂が、本当になってしまうな」
「噂?」
「……体を、使って出世したって……」
握り返している手に少し力を入れた。
先端部分しか入れられてはいないが、自身は女性ではない。
入れられた時点で、大差はない。
スザクは腹を括る。
「続けたいなら、もう止めないよ……でも、これは、した事がないから
ゆっくりしてくれると、助かるけど」
初心者であろうルルーシュには無理かもしれないが、一応、希望を述べる。
「は? 慣れているのでは、なかったのか!!」
返ってきたのは、素っ頓狂な声。
「ほぇ? 手とか口で、処理するのは慣れているけど」
瞬き、考えが至ったのか
「そうか……」
一言、そう呟かれる。
傍から見て解るほど、ルルーシュの機嫌は浮上し、嬉しそうなのが伝わった。
何とはなしに、その意を聞かない方が良いように思えて
敢えて深く追求はしなかった。
「続ける、ぞ」
言葉に頷く。
もう逃げはしない。
ゆっくりと手を離して、ルルーシュの手はスザクの腰を掴む。
息を深く吸って、吐き、なるべくスザクは力を抜くように心がけた。
「…あ……そう言えば腰は、大丈夫かい?」
「っ……大丈夫だ」
睨まれた。
触れてほしくないようだ。
上を仰いで、もう一度、息を吸って、吐いた。
「ぐっ…ぎ…ぃ……」
耐えられるが、痛いのに変わりはない。
訓練での賜物と言うべきか、致命的に近い痛みは口からは如実に示す事はない。
肉を掻き分けるというより、抉られるような感覚を覚えた
「……っ…全部…入った?」
「っ…まだ、だ……」
綺麗に腹筋の浮かぶ下腹部を撫で、ゆっくりと入れていた動きを
最後は強く一気に押し入ってきた。
声にならぬ悲鳴が、咽喉を変に鳴らす。
奥手に見えて、ふと見せる大胆さは、ルルーシュが男であると強く感じさせた。
「はぁ…ぁ…キツイ……」
「……君の、大きいから」
スザクの言葉に、普通だろうと言いそうな相手に
普通ではないと返す。
大きいと言われて悪い気はしないだろう。
真意は、何て事はない、スザク自身の沽券に関わる事からだが。
敢えて云う必要はない。
息を上げて、ルルーシュが上着の前ボタンを開く。
そのまま、覆い被さって、スザクの腕を背中に回すように促してきた。
柄ではないように思えたが、何かに掴まっていられるのは助かる。
促されるまま、背に腕を回した。
近い。
鼓動が、重なり、境界がなくなりそうだ。
「……ん…ぁ…動く、から」
「わかった……ゆっくり、だよ」
ゆっくりと、ルルーシュが動き出す。
スムーズではない動きに、体は痛みに痙攣している。
だが、耐えられそうだ。
「ひっ…うぅ…ん、んんぅ、」
そっと唇が触れられた。
キスをされているのは、何だかおかしな心境だ。
スザクは角度を少し変えて、ルルーシュとの唇付けを深いものにさせる。
すれば薄く開いた唇の合間から、おずおずとルルーシュの舌が口腔に侵入してきた。
「んっ、ン…んぅ、んっ、」
「ん、ん……っ…」
舌を絡めてやると、了解を得たとばかりに、絡み返してきた。
普段見せるストイックさとは違い、荒々しく口腔を暴れ出す。
貪られていると、スザクに強く認識させた。
混ざる唾液を飲み込んで、舌を吸うと、ルルーシュの頬が益々と染まり
感じているのが解る。
痛みに震えている体を、ルルーシュの手が抱きしめながら撫でて
モノを扱くように掴まれた。
萎えていた筈のそれは、ゆるりと頭を上げている。
「ん、ぅ、…ぁ…馬鹿、そんなに締め付けるなっ…ぁ!!」
「かはっ…そんな、知らなっ……」
脈動が聞こえる。途端に、奥に熱い飛沫を叩き付けられて
ルルーシュに反射的にしがみつく。
「……ぁ?」
一瞬、何をされたのか解らなかった。
それほど突然だったからだ。
内部の熱い、液体の。
遅れて、スザクはルルーシュがイってしまった事を把握した。
呆然としているのはお互い。
だが、しがみついている事で見えないが、落ち込みだしているのは解った。
フォローしようかと思ったが、逆に凹ませそうな気が
空気の読めないスザクでも容易に予想できる。
「……ルルーシュので、お腹いっぱいに、なりそうだ……」
肩口に頬を寄せて、スザクは代わりに感想を述べた。
感想を述べただけなのだが、ルルーシュの心の琴線に触れたらしい。
天然が為しえる技と言うべきか、ルルーシュ限定効果とも言うべきか。
「ぇ、え? あ、大きく…なっ……う、うああ!!」
固さを取り戻して、止まった動きをルルーシュが再開する。
「はぁ、あっ、あ、ンあっ、あ!!」
動きに添うように、声が上がる。
その声色に、スザクは口を紡ごうとするが、激しくなっていく挿入に
押さえられなくなった。
「ひっ、うぅ、あっ、や…いやだ、いや、いやだ、いやだ、やっ、やああ!!」
痛みはあるのだが、吐き出された精液が潤滑をよくして
先端がスザクの知らぬ前立腺を刺激して、直接的な快楽を揺るがしている。
狂ったように体が痙攣し、健康な黄色人種の肌は、桃色に染まった。
「そこはっ、やめっ、やめろっ……んんぅ!、あ!やめてっ…んあっ、や…」
スザクの本来の気質と、強すぎる刺激に幼いものが混ざり出す。
それはルルーシュにとって、可愛らしく映り
庇護欲をそそりながら、嗜虐心を煽った。
「此処が、キモチイイんじゃないか?」
上から目線で言われ、むかっ腹が立つ。
スザクはルルーシュと同じくらいに気は短い方なのだ。
「っ、うるさいっ! 下手くそっっ!」
此処で、早漏や童貞など言わない所に無意識の気遣いが働いていた。
だが、下手と言われて腹が立たないという訳ではない。
「そんな下手な輩に、感じているのは、スザクだろ!」
「あっ、あ!! あ、んぅ、あっ……感じてなんか…っっ、ぐ、ぁ
ルルーシュ、ぅ、あ…激しいすぎっ……」
ふるふると左右に首を振るスザクを抱きかかえた。
ふら付きながらも、ルルーシュは尻をつき、
「うああ!! 深い、っ…うぅ、ううっ、ルルーシュ、ルルーシュ、」
自分の体重で深く内部を抉られる。
所謂、対面座位だ。
腰を尚も突き刺すように動かされ、視界が白くパチパチそ火花が散り出す。
「ひっ、う、うあっ、やぁ、ルルーシュ!! ルルーシュ!!!」
解らないまま、スザクは叫んだ。
抱きしめられ、一瞬だけ思考が真っ白になり、次に飛び散ったのは
スザクの精液だ。
「うっ、スザクっ、んんっ…く!!」
体に力が入らず、後ろへ倒れ込みながら、奥の奥へ熱い液体が
また叩き付けられているのを味わう。
ルルーシュが覆い被さるように、倒れ込んだ。
「ぁ……」
尚も溶けて、混ざりそうな錯覚を覚える。
「はぁ…ぁ…ぁ…あ…んぅ、」
息と、甘やかな喘ぎがスザクの聴覚を刺激した。
体は休息を必要としているようで、だが、本能は熱を追う。
「ルルーシュ……」
呼びかけると眼差しが合い、そのまま唇が合わせられた。
啄ばんで、薄く唇を開いて、その熱い舌を招く。
まだ、足りない。
そうだ、互いに、互いが。










翌日、スザクの肉体に多大な負荷があったが
寝込む程ではなかった。
驚異的な回復能力と、自身の頑丈さに有り難さを痛感する。
「大丈夫か?」
そう言いながら、ルルーシュがスザクのナイトオブゼロ服の腰帯を止めた。
睡眠は2時間ほどしかしていないが、問題はない。
ルルーシュは既に、皇帝の正装となっている。
「君こそ、大丈夫かい?」
「ああ、」
頷く彼だが、少し腰が痛そうだ。
後で湿布でも貰ってこようかと、考えていると、ルルーシュはスザクの寝巻を
綺麗に畳んでいた。
そのまま、洗濯用の籠へと入れる。
「これは、水で濯いでおいたから」
「うん、」
ルルーシュが世話好きなのは知っていて、今日のように
着替えを手伝ってもらったり、体を綺麗にしてもらうのは
初めてではない。
過去数回ほど、具合の悪い時にしてもらった事があるからだ。
今日は少し落ち着かず、頬が熱い理由を、スザクはよく解らなかった。
マントを羽織り、ルルーシュの後を続くように部屋外へ出ようとした。
すると、何かが飛び込んでくる。
「うわっ、アーサー!?!! 」
驚き半分、嬉しさ半分。
アーサーは、すっぽりとフードの中に入り、スザクに顔を近づける。
ピクンとヒゲを動かし、項あたりを噛まれた。
「ぐぅ、う!」
噛まれる事は随時であるが、首筋を噛まれる事は初めてである。
痛みは即座になくなり、見れば首根を掴まれたアーサーが
掴んだ本人であるルルーシュと見合っていた。
「前々から思っていたが、いい度胸しているな…お前」
ルルーシュの言葉はスザクではなく、アーサーに向けられている。
にゃんと華麗に、アーサーはルルーシュの手から逃れ、
廊下を走り去っていった。
「あ! アーサー!!!」
追いかけようとするが、その手を掴まれた。
「あまり構うと嫌われるぞ、猫は」
睨みつけるよりも先に、ごもっともな事を言われる。
涼しげな眼差しで見られ、掴んでいた手が、先程噛まれた首筋を撫でた。
「ルルーシュ?」
「王の騎士に相応しい、体質なのかもしれないな」
ルルーシュの言っている真意はよくスザクには解らなかった。
裏切りの騎士と呼ばれるのは、相応だとスザクは思っているけれど。
首筋を撫でる手が、こそばゆい。
「……くすぐったいから、やめてくれないかな」
身じろいで、冷たく言ったつもりだったが
本人はつもりだっただけで、それは何処か甘かった。
「あまり、噛まれないようにしろ」
ルルーシュが言った。
それに溜息をついて、思った事をそのまま、スザクは言う。
「いっぱい噛んだ人に言われたくないよ」
言えば、涼しげだったルルーシュの顔は、ボッと赤く染まる。
「?」
やはり、その意味を理解していないスザクは小首を傾げて
「この馬鹿がっっ!!!」
ルルーシュに怒鳴られた。




裏切りの騎士と謳われる彼は、
王の前では、『スザク』と響く。
それだけ、だった。







終?
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おまえらよ〜〜!!無自覚でイチャついてんじゃねぇよ!的な最後で。
この後、ルルーシュVSアーサーの静かなるゴングが鳴り響く。
勝者はアーサー率が高いですけど
夜に挽回すればいいんじゃね?みたいな……。
主にスザク視点で進めましたので、敢えて
ルルーシュの行動の説明が微妙にしておりません。
自身に向けられる感情に鈍感なスザクを
捉えてくれれば嬉しいです。

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アーサーが噛んだ所は、ルルさんが噛んだ所です。
最後のくだりは、アーサー、ルルさん、どっちも王にちなんで。