■□恋する鳳凰狂想曲 <<noveltop
突き抜ける青空、晴天の朝。
まだ肌寒さの残るが、外出するには良い休日。
そんな中、
古いイタリアルネッサンス洋式を用いられた屋敷の一室。
格子の窓外には大きな大木と柵を隔てて自分の家がある。

ああ、あの窓はスーの部屋だ…この木を伝って
此処にきているのか……

などと、意識を半ば飛ばしそうになるが
目の前の、黒いイスに脚を組んで優雅に座る相手を見た。

「で?」

問いかけは、一音。
先を促す、その仕草まで様になっている。
柔らかい黒のラグの上に正座をしている自分は
持っている本を差し出した。

「……お前…じゃない、君の……本を汚してしまいました。
ごめん、」

偶々だ。
居間のテーブルの上にあった、この本。
お気に入りのココアを飲もうとした自分は、転んでしまい
読みかけの本の上に盛大に零してしまい
慌てて拭いたが――この有様だ。
本を受け取った相手、ゼロは
涼やかな瞳で本の有様を見た。
ゼロ・ランペルージ。
幼馴染であり、親友であるルルーシュの双子の弟。
スーの彼氏である彼は――

「これは、朱雀に貸した本だった筈なんだがな……枢木。
第一に、謝罪するのなら、『ごめん』ではなく『ごめんなさい。
許して下さい。ゼロ様』だろう?」

大層、性格が最悪の男だ。
その厭味な笑みを浮かべる綺麗な横面を
思いっきり殴りたいが、此処は殴れる立場ではない。
「ごめんなさい、許して下さい」
「ん? 誰に謝罪を述べているのか、解らないな?」
「……ゼロ、様……」
「聞こえない」
頬杖をついて言い放つゼロ。
「っ……ごめんなさい! 許して下さい! ゼロ様!!」
大声で言い放つ、枢木スザク。
屈辱に表情を歪めているのを、クツクツとゼロは笑い
「許せない、な」
バッサリと謝罪の意味をなくした。
「なっ、お前の言う通り、謝っただろ!!!」
「謝罪を述べて、許すとは一言も言ってはいないが?」
ボロボロになった本を撫で、ゼロはスザクから視線を外した。
ほぼ同時だった。

ダンダンダンダン、バタンッ

扉が吹っ飛びそうなくらい開かれた。

「スーさんは悪くない!! 僕が悪いんだ!!!」

二つのお下げを揺らして、白の襟つきワンピースを着た少女。
まさしく飛び込んできた彼女は、短いワンピースの裾が捲れて
白のパンツが丸見えだ。
彼女はスザクの片割れ、枢木朱雀だ。
「僕が、テーブルの上に置いてたから……だからっ、」
スザクの隣りに同じく正座をする。
「スー……」
「一知半解だよ! スーさん!」
涙が零れそうになった。
(僕の半身。君は本当に良い子だよ!!
何か言っている意味がちょっと解らないけど、それにさっき紐パンだったのが
とっても気になるけど!)
紐パンを履くような子ではないと、スザクは記憶している。
「それを言うなら、一蓮托生だ。朱雀」
溜息交じりで、ゼロは言うと二人を見下ろした。
「とりあえず弁償する、から」
瞳を向けると、ゼロはスッと五本の長い指先を立てた。
「……えっと、500円?」
「いいや、」
「5000円かい? まさか、5万円とか」
「桁が違う」
桁が違うという言葉に、頭が真っ白になった。

(500万!?!!!!!)

同じ考えに至ったのだろう、朱雀も同等に顔面蒼白。
「なんだ、払えないのか?」
手を下ろして、心底、同情するような憐れみの態度。
惨めな気分は慣れている。
拳を握り締めて、スザクはゼロを見上げた。
その時だ。
「……あの、僕が、何でもするから!!
その、スーさんを許してあげて!」
「ほう、」
「スー! 駄目だ! あんな鬼畜で最低で気障で変態なんかの
言いなりなんて!」
言うよりも先に、ゼロの手が朱雀の腕を掴み引き寄せる。
ふわりと揺れたスカートの裾、まるで異国の皇子のような仕草で
優雅に朱雀の顎に手をゼロは添えた。
「…っ…」
「ククク、良い子だ。お前が其処までする必要はない。
こんな事がなくても、お前には何でもしてもらうつもりだ」
微笑む様は、麗しく。
珍しいその優しげな笑みに、朱雀の頬は赤くなり
「お前は、私の愛奴隷、だろう?」
「……うん、」
コクンと頷く朱雀に、ゼロは笑った。
それはそれは、悪めいた笑み。
「ちょっと待て! 綺麗な顔に騙されるな!
愛で誤魔化されているっぽいけど
ソイツ、はっきりと奴隷って言っているから!!」
「五月蝿い、駄犬が」
「なっ、だ、駄犬!?!」
横抱きに、膝上に朱雀を座らせて、頭を撫でている。
子をあやすような仕草は心地良いのか、
ゼロの口説きと麗しい顔にチャーム状態もプラスされ
ぽやーっとしている朱雀は使い物にならない。
「言葉はなっていない、躾もなっていない、主に位置する者の態度は最悪
駄犬以外、何者でもない」
「主って、ふざけるな!!」
「私は、駄犬を躾ける趣味はないからな。
お前の主になる、つもりはない」
「僕は、僕は……俺は犬じゃないっっっ!!!!」
威勢は良かったものの、微かに漂っていた柔らかい空気は消え
『無』となる。
正確には洗練された威圧と闘気だ。
瞳を細めて、ゼロは普段は隠されているスザクの本性を見つめる。
腕には、愛しきヒト。
目の前には闘争本能を剥き出しにした綺麗な魂。
愛でるのは、壊し屈服させる事に似ている。
「――キャンキャン騒ぐな。
お前のご主人様が、来てしまうではないか」
「何を、言っているっ!」

コンコン、

ドアをノックする音。
「いいぞ、」
返答の後、扉がゆっくりと開いた。

「廊下まで声が……スザクに、朱雀……
何をしているんだ?」

見るなり、呆れ顔の彼。
ゼロと似た秀麗な顔立ち。
ゼロより少し背が低く、髪が少し長く
そして優しげな表情を少し含む。
双子の兄、ルルーシュ・ランペルージだ。
とても似ているが、ルルーシュの方が若干、繊細で華奢に見える。
「私の本を、ボロボロにした本人が謝罪を述べに
来ていたんだ」
「謝罪……玄関には誰も――おい、また窓から来訪したのか!」
ルルーシュはナナリーとロロが出かけるのを玄関から見送っていた。
なので、二人が来ているのを知らない筈がないのだ。
玄関から来訪していれば。

「「えへ」」

双子のシンクロか。
スザクと朱雀は可愛らしく笑った。
誤魔化しの笑みである。
「お前ら……何度、言ったら――」
「説教は、枢木にしてやれ。
朱雀には、私が直々にお仕置きしておく」
「え? おい、ちょっ……」
朱雀を黒シーツのベッドにそっと下ろし、正座している
スザクの首根を掴んでルルーシュに押しつけた。
「ゼロッッ、」
「邪魔をするな。そうしたら、許してやる。
ご主人様の言う事が聞けるほど躾がなっていれば、調教してやってもいいぞ」
怒鳴りつける前に、部屋から追い出した。
彼の運動神経なら回避可能であっただろうが、ルルーシュに押し付けた事に
行動を制限させた結果だ。
息をつき、ベッドを見れば、シーツの上で
ちょこんと正座している朱雀がいる。
「気にするな。本の事は、怒ってはいない」
「え? 本当? 許してくれるの?」
髪を掻き上げ、ゼロは頷いた。
正座する朱雀の前へ行き、その頬に手を添えた。
その手に身を寄せて、甘えるような仕草に笑みを浮かべる。
するりと手は離れ、見上げる朱雀の先で、左瞳のコンタクトが外された。
紫水晶色の虹彩ではない、赤の虹彩の瞳。
それに嬉しそうに微笑んだ朱雀に、ニッコリと、それはそれは
ニッコリとゼロは笑った。
「お仕置き、決定だな。朱雀」
「……ぅえ? え? なんで、本は――」
「窓から侵入とは、私の部屋からならまだしも、
不法侵入の何者でもない。
先程を行ったが、私は『駄犬』は好きではないんだ。
妙な馬鹿が移っては困る」
逃げようとする朱雀の上に、ゼロが圧し掛かる。
震える肩を、その手は優しく撫で、体の怯えを払う。
「あの、その、ごめん…なさい……」
「許さない。それに、許されたくないだろう? お前は。
きっちりと躾られたいだろ?」
優雅に笑み、その指先は太股を撫で、紐を掴む。
それを引けば、秘めたる花が姿を見せるのだ。
「………」
視線を彷徨わせ、朱雀はギュッと瞳を閉じた。
クツクツとゼロは笑い、朱雀を抱きしめ、優しく優しく頭をなでる。
「良い子だ」
「……ぅ……ゼロ…」
甘やかな空気が流れた、が、しかし。

「……だが、お仕置きだ。ふっはははははははは!!!!!」

「ふえっ、うえええええええええええんっっ!!!!!!」

朱雀、捕獲。








怒られる前に、スザクが事の真相を話すと
ルルーシュは解ってくれたようだ。
「よりによって、アイツの本をか」
「うん……」
「災難だったな、」
「解ってくれるんだね! ルルーシュ!!」
理解してくれるルルーシュに、スザクは涙を浮かべる。
(やっぱり、君は優しいね! ゼロと違って!!)
そんなルルーシュと友人でいられるのは誇らしい。
「それより、今度から玄関から入るんだ。わかったな?」
「うん!」
「……まぁ、俺に用がある時は、俺の部屋の窓からでも
構わないが」
「うん! 了解だよ! ルルーシュ!!」
コクコクとスザクは頷いた。
そんな素直なスザクに、気をよくしたのか。
その綺麗な指先は、スザクの頭を撫でた。
ほんわ〜となるスザクに、ルルーシュは微笑む。
「今頃、朱雀も怒られているだろうから――反省するんだぞ? スザク」」
怒られているというより、『お仕置き』をされているだろう。
助けに行きたいのだが、本を弁償する代わりだ。
今回だけだ。『邪魔をしない』のは。
「弁償すれば話が早かったじゃないか」
ルルーシュの呆れ声に、スザクはムッとした顔をする。
「500万も払えって言うのかい? 君は」
「はぁ? 50円だぞ、あの本。
おい、スザク、どうした?」

「うあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

スザクは悲鳴を上げて、駆け出した。
今度は半身もはや戦友の朱雀(ぶっちゃけあっけなく
敵に陥落してしまったが)を救出に。



(終?)
++++++++
続くのか? みたいな。
根底はドロドロしていますが、
ノリはラブコメです。双子スザクに双子ルルさん。
あくまで、『トモダチ』と認識していますが
きっちりねっとりと、ルルさんとスザクはヤっちゃっています。
ちなみに、ルルさんはスザクは女装癖があると勘違いしています。
(朱雀のゼロの部屋にお泊りの際、女の子限定グッズを買いに行く際、
Wカップル割引食べ放題の際、カモフラージュとして女装する)
+++++
おんにゃのこ、スザクの髪型は趣味です。
補足設定

身長
ゼロ>スザク>ルル>朱雀>カレン>C.C.>神楽耶

・神楽耶
帝都御六家の内の二番目の権力を持つ皇家の現当主。
スザクに対し、他親戚とは違い、愛あるイジメ(本人はスキンシップ)を
幼少の頃から実行中。スザクにとっては有る意味、トラウマの一つ。
スザクの許嫁(自称)。
朱雀とは良い友達。
ルルーシュとの度の過ぎた友情に、ドン引きするかと思われたが
彼の暗黒面を知り気に入り、多夫一婦でと考えている
(つまり纏めて、もらってやるつもり)。
ゼロとは意気投合。尊敬している(主にスザクに対するドS行為に)。

ゼロは、ナナリーに甘く、
ロロに対しては多少のSな対応(本人のM部分を理解している為)。