■□皇帝と騎士の夢狭間 <<noveltop
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「皇帝陛下、いま、とても聞きたい事があるんですが」
ナイトオブゼロ。
皇帝の至宝の一つとされる騎士の丁寧な言葉は、けれど声色は何処か冷たい。
ベッドの上に寛いでいる、現皇帝陛下は咎める様子こそないが
表情は幾らか不機嫌である。
「なんだ?」
その淡褐色の瞳を見れば、翡翠色に近づいていた。

「なんで、俺のお尻を揉んでいるんだい?」

「……っ、ほあああああああああああああ!?!!」

騎士の指摘通り、皇帝はお尻を触っていた。
それこそ、その綺麗で細い指に浸透させるかの如くに。
素っ頓狂な悲鳴は、彼が無意識であったのを物語っている。
「此処が電車とかだったら痴漢になるし
執務室とかだったら、立派なセクハラになるよ」
皇帝の隣りに、寝そべっている騎士は見上げながら言った。
「っ、いや、これは、これは違うぞ!
ただ、その、目の前にちょうどお尻があって、手を伸ばしたら
触ってしまっていた所だ!」
どちらにしろ同じ事であるが、皇帝は気づいていない。
「そもそも、痴漢というものは」
真っ赤な顔で、何やら説明しだす相手に溜息をついて
その先程までお尻を触っていた手を掴む。
「スザ……クッ!?!」
「俺は女の子じゃないからね……ただ、気になっただけで。
誰もいない所だったら」
横向きに寝て、掴んだ手をお尻に当てた。
目を白黒させている皇帝は、しかし頬が微かに緩んでいる。
「し、仕方ないな。お前がそこまで言うんだったら」
「はいはい」
面倒くさそうに騎士は返事をするが、やはり皇帝は咎めず
やわやわとお尻を触りだした。
「……ぬわぁ!? な、なにを、」
「ほぇ? いや、その体勢じゃ、触りにくいかなって思って」
体を寄り添い、触りやすくさせる相手に皇帝は動揺するが
その手はお尻を触っているままだ。
「何故、そこまで――触ってほしいのか?」
瞳を細めて、それこそ艶やかに問うのだが
「まさか、そんな事あるわけないだろ」
速攻否定される。
「一応、騎士だからね……主には尽くさなければ、いけないだろう?」
向けられる瞳は深く透明だ。
揺り動かされる何かに、言葉を吐きそうになるが
今更の話だ。
せめての抵抗か、皇帝は視線を逸らす。
「つまり、何をされても寛大に受け入れるという事か。
騎士の鏡だな」
「あまり調子づいていると、鉄槌が下されるからね。
安心して、騎士を務めていられるよ。皇帝陛下」
その鉄槌も、騎士本人の蹴り技であるのだけれど。
敢えて、指摘はせずに皇帝も寝そべり、身を寄せた。
サラサラとシーツに広がる黒髪に騎士は指を絡める。
「……なぁ、スザク……していいか?」
「何を?」
「キス」
「いいけど、」
お尻を撫でていた手が腰を抱いて、引き寄せられる。
騎士の唇にやんわりと唇が触れた。
「吸っていいか?」
「え? 吸う?」
「唇を、だ」
「ああ、それなら構わない」
ちゅっと下唇を吸われる。
目の前の、絶世の美とされる顔は、微笑みを携えていた。
「口の中に、舌を入れてみていいか?」
「ああ、」
顎に手を添えられ、ゆるりと舌が入ってくる。
だが、その舌は口腔に入るなり、すぐに出て行った。
「あの……」
「舌を絡めてみて、いいか?」
「いいけど…あのさ、」
呆れた声で言葉を続けようとする騎士の口腔に舌を入れ、
言葉を奪い、そして舌を絡める。
にゅるりとした感触に、皇帝も騎士も、体を震わせる。
「ん…ぅ…う……」
「ん……はぁ…ぁ…」
唇を離すと、滲む瞳がある。
それは生理的なもので、悲しいからではない。
「なんで、いちいち、聞くんだ?」
「お前は、騎士だから……俺が頂点であれど、
その地位は確証されているからな……」
「引き摺り落とされると?」
「同意は必要だろう? それが、白い死神と呼ばれた騎士ならば」
言葉は傷つけるようで、その頭を包み込み撫でる手は優しい。
「俺から、色々なモノ、奪っていった分際で」
「貴様もな、」
抱き寄せた相手の瞳を覗く。
やはり深く、何も見えない。
「皇帝陛下、一つ進言があるのですが」
「なんだ?」
その、蹴り技が華麗に繰り出される脚が撫でるように絡んできた。
「枢木スザクなら、同意なくとも奪えます」
赤く、紅く、唇が濡れる。

「そうだろ? ルルーシュ」

名が紡がれて、胸が締め付けられるのは何故だろうか。
理由は、たった一つだけ。
それは簡単に、ルルーシュというココロを宿す。
それが、もう壊れて、虚ろな傀儡であるとしても。

何処まで行っても、それだけは在る。

殺せと叫んだあの時も、自らの手で決行しなかった
無意識下で。

「その名の通り、お前は厄介だよ」

翼を広げて、降り立つのは、『王』たる者の前のみ。
古き日本の書物に書かれていた『瑞鳥』と同じ。

羽を剥ぎ千切るように抱きしめて、スザクを感じた。
遠い、遠い、あの日と同じ、匂いがしたのは
きっと気の所為だろう。







「って、何故、殴る!! 奪える言っただろ!」
「ただの進言だろ! あ、あんな、あんな事、できるか!!!」
夜は、ゆっくりと過ぎていく。



(終)
++++++++
シリアスのような、違うような。

++++
まぁ、コメディだと思う。
尻、触りたい。