■□バレンタイン・ナイトメア <<noveltop
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「あ、ルルーシュ!」
ブリタニア皇居。
長い廊下を、皇帝の至宝とされる騎士が駆けてきた。
「なんだ?」
「あ…えと……その、」
珍しい。
頬を赤く染めて、視線を逸らされる。
体のラインを強調させるパイロットスーツ兼用の
ナイトオブゼロの服。
それを覆い隠すような大きなマントの裾が
もぞもぞと揺れている。
「スザク?」
「……たくさん、貰って、もう、ウンザリしているかもしれないけれど
その、はい! チョコレート!!」
バッと目の前に紺色の包装紙で飾られた長方形のモノ。
「これは……バレンタイン? 俺に、か?」
「……うん、そうだよ……ルルーシュ、君に」
「スザク……」
すぐに受け取らないルルーシュに、不安気な色を見せる瞳を優しく見つめ
そのチョコごと、相手を抱きしめる。
「スザク!!」
「ルルーシュぅ…やん、だめだって」



「……有り得んな。皇帝命令でも、無理というか
逆に朝日を拝めなくなると思うぞ」


バッサリと切るように言ったのは、呪われた魔女。
「それこそ、咲世子に変装して演じて貰った方が
手っ取り早いかもしれんな。
まぁ、どちらにしろ、気持ち悪いぞ、童貞坊や」
「っ、うるさい!! そもそも、何故、俺の考えている事をっっ!!」
皇帝寝室の中央に立ち尽くして、冒頭の麗しき妄想に浸っていた
現皇帝は自身のベッドに寝そべっている魔女に指摘する。
魔女は、面倒臭そうに寝返りをうち、かかる長い髪を払う。
「私とお前は、コードとギアスで繋がっている、そういう事だ」
「なるほど。そうか………」
一瞬、納得したが
「いや、全く理由になっていないぞ!」
「五月蝿い。シツコイ男は嫌われるぞ」
睨みつける皇帝に、何処吹く風の魔女は息をついた。
「現実的な、話。
枢木スザクが、貴様なんぞにチョコレートを渡す輩に見えるか?」
脳内の幸せな桃色シュミレーションは置いといて。
無駄ともいえるほどの、脳が様々な要因を打ち出して行く。
現在の、計画実行の為に完成された関係を追いやってもだ。
「可愛いと部類されるだろう、童顔の男だが
根は乙女思考は一切ない。
洗練されたかと思われたが、驚くほどの空気の読めなさと天然で
今日という日事態、何なのか分かっていない可能性もある。
よほど明確な理由と義務がなければ、お前にチョコレートを渡すという行動を
実行するという考えも浮かばないだろうな」
「…………」
魔女の、C.C.の言葉は的確だった。
ふらふらと無言で歩み、皇帝は、ルルーシュはベッドに突っ伏す。
少し言い過ぎたか、と髪を書き分けながら思ったが
「……ふふ、ふはははは、はははは、あはははははは!!!」
「……ルルーシュ……」
急に笑い出されれば、誰でも引く。
「貰えないのならば、俺が渡してやるだけだ!」
起き上がり、ビシッとワケの解らないポーズを取る相手に
C.C.は頬杖をついてみた。
「受け取って貰えないかもしれんぞ。
そもそも、バレンタインと結びつける思考を持っているか?
あの男は」
「………」
何百通りの結果が脳内に駆け巡っているだろう。
その、相手はふらりと、またベッドに突っ伏した。
「私に、チョコレートを頼むという算段はないのか?」
「……渡したいと思っているのか? 俺に」
「いや、まったく」
そもそも、用意もしていない。
ベッドを占領しているC.C.はククッと笑い、ルルーシュへと身を寄せる。
「特別だ。今宵は、触ってもいいぞ」
「はぁ!? な、何を言っている! 貴様は!」
はしたないと言わんばかりに怒鳴られる。
見下すようにC.C.は笑みを浮かべた。
「バレンタインのサービスだ。ありがたく思え」
「いらん! そもそも身の危険は感じないのか!」
「それだけの度胸がある奴が、童貞なハズあるまい」
不機嫌そうな顔を向けられるが、やはりC.C.は怯える様子さえない。
その細くも、綺麗な手をC.C.は取った。
「おいっ、」
「ほら? どうだ?」
その手を胸に当てさせる。
一瞬、顔を真っ赤にさせるルルーシュであったのだが
「……柔らかいが、不思議な弾力があるな……」
興味が分析の方へ言ったようだ。
「崩れてはいないし、整っているな」
「ふふ、……だろ?」
お世辞を言う性質ではない。
ルルーシュの賛辞に、C.C.は機嫌よく笑った。
「ふむ……」
「っ、こら、馬鹿! 強く、握るな」
「え? ああ、すまない」
「そうだ。女の体は繊細なんだ。優しく扱え」
「こうか?」



「ルルーシュ!!」



バンッと突然、扉が開いて
飛び込んできたのは皇帝の騎士。
場の空気が固まる。
ベッドの上で、男が女の胸を触っている。
それが例え、尊大な態度を取る魔女でも
ヘタレと言われる童貞な皇帝であってもだ。
どういうコトが行われようとしているか、想像難なくない体勢だ。

「……あ、ごめん。」

此処で、怒鳴られた方が幾分かマシだった。
ニッコリと、それこそ久しぶりすぎる笑顔を騎士は浮かべる。

「頑張って、ね。皇帝陛下」

背筋が凍る。
その笑顔ほど、恐く冷たいものはないだろう。
それこそ、玉砂利の所で土下座している自分を革靴で
踏みつけた時以上に恐ろしい。
「す、すざ、スザク!! 誤解だ!!!!」
部屋を出て行った騎士を慌てて、追いかける皇帝を見て
C.C.はクツクツと笑った。
様々な事象に、切欠は必要である。
それが、どんなに些細な物でも。
結果は、その者の行動によって変化するのだ。
(少し、サービスしすぎたか?)
ベッドに身を沈めて、C.C.は瞳を閉じた。
騎士の、静かな怒りの原因を考えれば
甘苦しい事実があるというのに――本人さえ自覚している様子がないので
難しいといえば難しいのであるが。
まぁ、いい。

今宵は、バレンタインだ。

そう思い、C.C.は惰眠を貪り始めた。











「………ふふふ…ははは……ふははは…」
次の日。
「ニヤつくな、気持ちが悪い」
C.C.の悪態も何処吹く風でスルーし
やけに、ご機嫌で、
やけに、ニヤつく皇帝が玉座にいた。

騎士、本日は疲労により休暇。




(終)
+++++++
ギャグだね。

++++++
そうですね〜。
スザク、皇帝にサービスしすぎちまった模様です。
題名は、まんま。スザクからすれば悪夢?