「さて、……揃っているわね」


 時空管理局・本局内、その中に数多くある会議室の一つ。
その壇上で総務統括官のリンディ・ハラオウンはそう言って、会議室内を見渡す。

 会議室にはクロノを初めとしたアースラクルー。
そして、一ヶ月半前のあの忌まわしき事件に関わった者達全員が揃っていた。
 全員の視線が壇上のリンディに注がれる。

 リンディを始め、皆の表情は険しく、会議室内はある種の緊張感に包まれている。
会議なのだからそこに緊張感が生まれるのは当然と云えば当然かもしれない。
だが、この場を、この場に居る者達を支配しているのはそんな一般的な緊張とは比べ物にならない程の代物だった。


「シグナムさん、ヴィータさん、大丈夫? まだ完治していないのでしょう?」


 そんな中で出たリンディの言葉。名前を呼ばれた当人以外の視線が二人に注がれる。
名指しされた二人 ―― シグナムとヴィータだが、頭には包帯が巻かれていて怪我をしているのは一目瞭然。
また、服で隠れてはいるが体の至る所も包帯等で塞がれており、未だ傷癒えていない。
にも関わらず、二人は何事もないかのように言葉を返す。


「大丈夫です、リンディ総務統括官」
「そうだよ、ベルカの騎士にとってこんなの怪我の内にはいらねえよ!」


 その言葉は強がりだった。
実際の処、未だかなりの痛みが二人にはある。幾分マシになったとは言え立って歩くことさえ辛い。
だが、休むことは彼女達のプライドが許さない。許すわけにはいかなかった。

 二人の表情からその気持ちを酌んだリンディは、シグナム達の怪我の話はここまでと云わんばかりにうち切り
本題に入ろうとする。
 そして、リンディと同じように、いやそれ以上にシグナム達のことを理解しているはやてもまた、
シグナム達を休ませたい気持ちを押し留め、言葉を発する。


「リンディ総務統括官。うちらを集めたと云うことは何か判明したと云うことですか? この異常事態に関して」


 頷く形で答えを返すリンディ。
と同時に素早いキータッチでパネルを操作し、幾つものスクリーンを自身と皆の前に出現させる。
瞬間! ざわめきが会議室を奔り抜けた。
何故なら、その中には、此処にいる誰もが見たくないもの、けれど見なければいけないものも映し出されていたからだ。
 特になのはにとっては誰よりもその度合いが強かった。
現になのはは何かに耐えるかのように口を真一文字に結び、とあるものを凝視していいた。
 だが、リンディはそれを分かった上で話を進める。進めなければいけなかった。
なのはの事、そして息子達の事は心配で仕方がない。
本音を言えば、体と心の傷が癒えるまでゆっくりと休養を与えてやりたい処だ。
 しかし、今現在自分たちを取り巻く環境はそれを許してはくれない。
破滅へと向かっている流れを何としても止めなければいけないのだ。


「まず、貴方達に是を観て貰いたいの」

 出現させた幾つものスクリーンの中からとある一つがピックアップされる。
並行して他の物は縮小され、ピックアップされた映像の影に隠れる。
 逆にピックアップされた映像は、拡大されて改めて皆の前に示された。
その映像にリンディを除く皆が首を傾げる。


「これは……?」


 スクリーン上には無数の点が映し出されている。
点の大きさは大小様々だが、それが少しずつ動いていてることが分かった。
良く見ればとある一点に向かって動いているように見える。
 だが、それが何の意味を指すのかが分からない。
その疑問がフェイトの口を動かし、言葉となって外に出る。
 それを受けて、という訳ではないのだがリンディはもう一つのスクリーンを並べる形で拡大表示させる。
更に疑問が深まる一同。
それは、先程出された映像と殆ど同じ。違うところと云えば映っている点が動いていないと云うことだけ。

 この二つの映像に一体何の意味があるというのか?

そう思っている時だった。リンディから信じられない言葉が出る。


「今し方出した二つの映像は、各管理次元世界の位置を端的に表したもの。一つの点が一個の次元世界
 と思って貰えればいいです」
「…………」


 固唾を呑んでリンディの話を聴く。


「そして、今し方出した映像が2ヶ月前の状態を示すデータです。そして、最初に出したのが――」


 一瞬、言葉が途切れる。
冷静に務めているリンディだが、流石にこの先のことを言うのには多大な精神力を要した。
それ程までに大変なことだったから。
 だが、それでも言わなければいけない。事実として受け止め、回避する為には。
意を決してリンディは再び口を開く。


「――今現在の、各管理次元間の位置と動向です」
「馬鹿なっ!!」


 リンディの報告を受けた瞬間、クロノが叫びながら席を立つ。
他の面々も驚愕の表情を浮かべていた。言葉で表すなら信じられない≠ニいった処だった。


「事実よ、クロノ提督。そして、ここに集まったみなさんも、です」


 リンディの言葉は決して大きいわけではない。
にも関わらず、その言葉は発した自分自身と会議室にいる全員に重くのし掛かった。
 そして、この事実が意味するところはとてつもなく恐ろしいモノだった。


「このままこの状況が進めば、間違いなく各次元世界は――崩壊します」


 意図的に抑えられたリンディ口調。
だがそれがかえって此処にいる者達に、結果として否定を許さない形として突き付けられる。

 リンディの言葉に、誰一人として声を出すことが出来なかった。出来るわけがなかった。
何も知らない者が聞けば、何を馬鹿なことを≠ニ一蹴されても不思議ではないリンディの発言。
だが、突き付けられたデータから、その事を否定する要素という物は何も出てこない。

 至る所に存在する数多の次元世界。
その全貌は、数多くの次元世界を管理する管理局でさえ未だ全容が把握が出来ていない。
現に、頻繁ではないにしろ今でさえ新たに次元世界見つかると云う事はさりとて珍しくない。
 それ程までに広いのだ。我々を取り巻く世界≠ニいうものは。
しかし、それは不動なものはず。次元世界がそこから動くというのはあり得ない事なのだ。
……なのだが、そのあり得ないことが現実に起きていると云うのだ。
 一つの次元世界で例えるなば、惑星等が、もう少し大きくすれば銀河団等がとある一点に向かって移動している事を表す。
その事実が行き着く先は一つ。その世界が収縮している事に他ならない!
 そして、その先に待ち受けているのは無=\―死∴ネ外の何物でもないのだ。
それが今、当に次元間同士のレベルで起きようとしていると云うのだ。


「この事態が、はっきりと管理局で観測されたのが約十日前です」


 ―― 十日前 ――


 その単語を聴きビクッと反応するなのは。
表情は更に険しくなり、膝に乗せている両の拳はギュッときつく握り込まれる。
その様子に彼女の横にいるフェイトは心配な表情でなのはを見る。何か声を掛けようとしたが、掛ける言葉は
何一つとして浮かんで来る事はなかった。

 そんなフェイトの心配を余所に、なのはは思い返していた。

十日前に当たった任務と其処で起きたあの事件を。
そして、そこで邂逅したあの少年の事を。










魔法少女リリカルなのは_Ewig Fessel
Episode 09:Verwicklung - 錯綜
――Chapter 01――










 鈍色の煙を上げ続ける観測基地の上空で、なのはとはやては何をするわけでもなくただ佇んでいた。
一緒にいるはずのフェイトとザフィーラ、そしてリインは此処にはいない。クロノの命令の元、観測基地の消化と局員の救助に
向かっている。
 本当は彼女達だけでなく、なのはとはやてもクロノからの命令は来ていた。
だが、なのはにはその念話が届いていない。いや正確に言えば届いてはいるのだが彼女の意識に届いていないのだ。

 なのはの思考を占めているのは、先程自分に起きた出来事とそれによって生まれた疑問。
それが全てだった。

 もう二度と会えない思っていた人との、予想だにしない邂逅。
だけど、その人は自分の事など覚えていなく、ロストロギアの強奪をした犯人に荷担した上に、
更に明確な殺意を持って自分に攻撃をしてきた。

何故?
なんで?
どうしてなの?

 その事がなのはの思考の全てを支配し、外界からの情報を一切遮断してしまっている。
そんな半ば茫然自失状態といっていいなのはを放っておく事ははやて達に出来る訳などなかった。
かといって、セフィアの襲撃を受けた観測基地の消化と負傷した局員の救出を放っておく訳にも行かない。
悩む時間すらない中、結果としてはやてをこの場に残しフェイトとザフィーラとリインの3人で作業を行う事となった。


「なのはちゃん! なのはちゃんっ!!」


 なのはの事を任されたはやては一生懸命なのはの名前を呼ぶ。
なのはの両肩を掴み、大きな声で呼びかけながら大きく揺さぶった。何度も何度も。
だが、なのはからの反応はない。その光景に一ヶ月半前のなのはの姿が不意にはやての脳裏に呼び起こされた。

このままでは拙い

 そう思ったはやては、浮かんできた光景を振り払おうと、数回頭を振る。
そして、意を決する!
はやては、なのはの両肩を掴んでいた右腕を外し大きく振り上げた。

 直後! パアンっと乾いた音が鈍色の煙が立ち上がる空に響く。


「……は、はやて……ちゃん?」


 頬に感じた痛みでなのはは我に返る。
視界に入ってきたのは親友の泣きそうな、それでいて怒っていそうな、複雑な感情が入り交じった表情。
何故そんな表情をしているかなのはには解らなかった。
 だが、頬に感じる痛みだけははっきりと認識する事が出来た。


「わ、私は……」


 なのはは痛む頬を押さえながらそう呟く。
だがその後が出てこない。何を言えばいいのか分からなかった。
自分は何をしていたのか? 何を考えていたのか?

 そんな疑問が生まれ思考がそれに囚われそうになった時、体が何か温かい物に包まれる。


「……良かったわ。ほんまに、……良かった」


 感じた温かさははやての温もり。
はやてはなのはの体を優しく優しく抱きしめていた。
その温かさに、なのはは心が少しずつであるが落ち着いていくのを感じた。

 暫くして後、何とかなのは落ち着きを取り戻した頃、フェイト達の局員の救助、並びに消化任務が完了したと云う
念話がはやての下に入る。
下を見れば、先程まで立ち上っていた煙は形を潜め、破壊された観測基地が露わになっていた。

 現場を確認した上で、はやてはなのはを抱きしめたまま、クロノへと念話を飛ばす。
消化を含めた救援活動が完了した事と、そしてなのはが何とか落ち着きを取り戻してくれた事を。

 はやての報告を受けてクロノから返ってきた最初の言葉は安堵を含む言葉だった。
だが、それも最初だけの事。一拍の間を於いて届いた言葉は違っていた。
 提督としての言葉 ―― 現場・状況を踏まえて下された何の感情も挟まれていない ―― がはやてに届く。


(……これが上≠ノ立つと言う事なんやね。分かっていたつもりやけど……)


 改めて、己が目指す立場の難しさを痛感させられるはやて。
自分ならばここまで冷静な、見方によっては非情とも云える判断・決断が出来るか……と。

 暫くした後、現場上空に艦船アースラが降下してくるのがはやての目に映し出される。
未だ転送に不安が残る為に、安全を期す為にクロノが下した判断だった。




――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ―――





 アースラ内会議室。
そこには艦長のアースラと通信司令のエイミィ、そしてこの度の任務に関わって先程収容された者達が集まっていた。
任務に関わった者達は少なからず怪我をおり、応急処置を済ませたとは言え本来ならば救助された局員と共に休養して
いなければいけない。
 だが、それを享受する事など彼等には出来るはずがなかった。
任務を失敗したと云う事もあるが、それ以上に今回起きた事は分からない事、衝撃的な事が多すぎるのだ。
その為には、情報を事細かに整理し解析する必要があると解っていた。
 故に、クロノが会議室への招集を掛けた時、誰も異論を挟むことなくクロノの指示に従った。

 会議の内容は対象のロストロギアの推察と、任務を妨害したセフィアの事。
そして、死んだはずの者 ―― ユーノが現れ、不可解な行動を ―― 自分たちの邪魔をした事。それらが持ち上がる。

 中でも真っ先に上がったのが云うまでもなく、あの男の存在。ここにいる皆が疑問に思っている事だった。
すなわち、ユーノが何故此処に現れたのか。いや、本当にあれがユーノであるかという事が誰からともなく挙げられる。
彼が亡くなるところはここにいる誰もが観ている。
思い出したくないものではあるが、否応なしにその光景は未だ脳裏から離れる事はないのだ。
 だからこそ、あの男の正体が気になって仕方がなかった。
生きているわけはない。が、もしかしたら≠ニいう気持ちがあるのも事実。

 皆の疑問に対し、クロノはエイミィに目配せする。
クロノの意図を読みとったエイミィは一つの映像と二種類のデータを皆の前に表示させた。
ユーノと名乗った人物の立体映像と、何かの波形を表示している二種類のデータを。


「提督、これは一体?」


 ザフィーラがクロノに問う。
このデータが一体何を意味しているのか、ザフィーラの、否、クロノとエイミィを除く
全ての人達の総意でもあった。


「まず、これは先程現れ、僕たちの邪魔をした男から観測されたヴァイタル値の波形だ」
「っ!!」


 それだけで分かってしまった。
もう一つが何なのか、そしてクロノが何を言わんとしているのかを!!


「……もう一つは、生前のユーノのヴァイタル値だ。ここまで言えば、自ずと結論は出てくるはずだ」
「そんな!? あれは、あの人はっ!!」
「……事実だ。データがそれを証明している」


 なのはの叫びに、クロノが冷静な ―― なのはにとって残酷な ―― 答えを返す。
否、返さざるを得なかった。  クロノとて、その事実は認めたくはない。
実際、このデータが出てくるまで、クロノ自身も淡い期待を持っていたのも事実。
 だが、表示されたデータが全てを如実に物語っているのだ。

 ヴァイタル値の細部に至るまでデータが何一つとして一致しない。
すなわち、クロノ達の目の前に現れた人物がユーノでは無い!!

と、言う事を。

さらに ――


「あの男からは、魔力波動といったものが一切観測されていない……っ!!」


―― 決定的な事実がなのは達に突き付けられる。
仮になのは達の前に現れた人物がユーノであるのならば、此方の事を覚えていなくとも魔力は確認出来るはず。
にも関わらず、確認すら出来てない。


「そんな、そんな……」


 なのはの呟きが、会議室を更に重苦しい雰囲気に包み込む。
そんな中、リインはとある違和感を感じる。
二種類のヴァイタル値のデータと共に表示してある人物の映像に。


(何かが、変です……)


 リインは己の直感に従い、人物の映像をクルクルと廻し始める。
そして違和感の正体に気付いた。


「マイスター!!」 
「リイン?」


 あまりの声にはやては驚く。
いやはやてだけではない。ここにいる全員の視線がリインに集中する。


「これ、これ観てください!」


 リインが指し示しているのは、ユーノではないと否定された人物の映像だった。


「……リイン、もうやめ。これ以上は、酷や」


 否定された以上、この人物に対しての興味というのははやて達の中で消えかけていた。
そして、これ以上の追求はなのはの心を抉るだけというのも分かっている。
現になのはは顔を伏せ映像は見ていない。
だから、はやては消してもらおうとクロノに目配せをしようとした。


「違うんです、マイスター、皆さん。この人物の髪留めを観てくださいっ!!」


 今更、髪留めが何だというのだろうか。
だがリインがここまで声を荒げているのだ。一体、何が ――


「……これって……」


 フェイトが信じられない物を観たと言わんばかりの表情でポツリと呟く。
発せられた声に、なのはは再び顔を上げる。
 その先にはリインが指し示した映像があった。
そして、その男が長髪を束ねているモノ≠ェなのはの目に飛び込む。




見間違えるはずはなかった。

―― それは

忘れる事なんてない。

―― 緑色をした

だって、あれは。

―― 小さな布

あれは、なのはがユーノに贈ったものなのだから。

―― リボンだった。




知らない者が観れば、気に留める事がない物。
しかし、此処にいる者達にとっては、特になのはにとっては、それはとてつもなく大きな意味を持つ事になった。


 だが、現状で判明したのはそれだけ。
何とか判明した髪留めもデータで裏付けされているわけでもなく確固とした証明にはならない。
真偽の判定まで少なからず時間を必要としていた。

 問題は山積している。

 あの男がユーノだとすれば、何故あの魔法を行使して存在出来ているのか。
何故、ヴァイタル値が変わっているのか。あの髪と肌の色と何か関係があるのか。
どうして、自分たちに敵対するのか。
そして、失敗に終わった今回の任務であったあのロストロギアはどんな存在なのか。
更に、任務失敗の原因と言うべきセフィアと名乗った女性とユーノと名乗る男性が扱う力≠ヘ一体何なのか。

 挙げていけばそれこそキリがない。
だが、ここで幾ら議論しても答えがこれ以上出そうにない事をここにいる誰もが分かっていた。特にクロノは尚更の事。
何分情報が少なすぎるし、アースラのデータベースを探っても現在の処、有効な情報は出てこない。

 となればどうすればいいのか?

 導き出される答えはたった一つしかない。
此処にいて進展しないなら本局に戻って、多方面から調査をしていかねばならない。
クロノは直ぐさま艦橋に連絡を入れ本局への帰還を命じる。今までの経験からどうにも、この一件はそう簡単には終わらない、根深い物だと考えた。

 ……と同時に、言いようもない不安がクロノの胸中を襲う。
何故かは分からなかった。単なる気のせいだろうと、思いたかった。
 だが、そんな淡い願いは永劫叶う事はなかった。


『艦長っ!!』
『どうした!?』
『座標が、次元座標が大きく<Yレています! 本局までの長距離転送が出来ませんっ!!』
『そんな馬鹿な!?』


 艦橋から飛び込んできた予想にもしない報告により、淡い願いは霧散させられてしまう事となる。
この報告にクロノは自分の耳を疑わざるを得なかった。
 何故なら、この世界≠フ座標のみならず、次元の座標までずれているという本来なら起きえない事が
現実に起きていると云う事に。
 会議室にいるクロノ以外の者達も聞こえてきた報告は信じ難い、否信じられない物だった。

 何かの間違いではないのか? そう思いクロノは艦橋に問いただす。
しかし会議室に回されたデータを見て愕然とさせられる。
次元の座標数値が一定ではなく、登録されている数値を境に一定の揺り幅で変動しているのだ。
 これでは、迂闊な転送は出来ない。
何故なら最悪の場合、虚数空間に転送される可能性もありうるのだ。
その場合、待ち受けているのは死∴ネ外の何者でもない。

 残された安全な帰還の方法は一つしかなかった。


「……通常航行で戻るしかないというのか」


 不幸中の幸いというか、次元回廊自体の歪みというのは現在の処観測されていない。
つまり、次元航行自体は可能と云う事。視認して進めば、虚数空間も回避出来るし、安全に本局には戻れる。
 しかし、通常航行をした場合本局に戻るまで時間が掛かりすぎるのも変えようのない現実。
クロノとしては出来うる限り早く本局に戻り、自分たちが遭遇した異変を伝え、
異変を一刻でも早く解明するべきだと考えていた。そうしなければ、後手後手になるとこれまでの経験が訴えてきている。
 だが、それには多大な危険が伴う。
クロノは選択を迫られる事になった。

即ち ――

 一刻も早く本局に戻る為に、時間短縮の為に死の危険を冒してで長距離転送をすべきか。
それとも、乗組員の安全を考慮して時間は掛かるが安全で確実な次元航行をすべきか

―― を。

 時間にすれば、ほんの僅かといえるような時間。
しかし、選択を迫られたクロノにとってみれば永遠とも感じる時間の流れ。
どちらを選んでも、何かしらのリスクが伴う決断だった。


「……クロノ君」


 横にいるエイミィが小声で、そして戸惑いがちに声を掛ける。
彼女はクロノの逡巡が、何を悩んでいるのか分かっていた。だてに長年コンビを組んでいるわけではない。
ましてや今はそれ以上の関係なのだ。それ故に悔しかった。
何にもクロノの力に成れてない、支えられてないと云う事が。
 無力感から、エイミィは顔を伏せようとする。


『……大丈夫だ、エイミィ』
『えっ?』


 だが、クロノからの突然の念話でエイミィは再び顔を上げる。
クロノもまたエイミィの心情が、何を考えているのか、俯き気味の彼女を見れば直ぐに分かった。
そして、そうさせているのが自分自身であると云う事も。
 だからこそ、彼女に余計な心配をさせまいと、力のある念話を送る。
気弱なところは見せられなかった。余計な心配をさせるわけにはいかなかった。

 その決意をしてから、クロノの決断・行動は早かった。
アースラ艦内に次々と指示を出し、次元航行への準備に取りかからせる。
 クロノは乗務員の、仲間の命を最優先にすべく命令を下す。


(仲間を失うのは、護れないのは、二度とご免だ!)


 提督としての職務からすれば間違った決断かも知れない。
だが、一人の人間としては正しいのだとクロノは自分に言い聞かせ艦橋へと足を向ける。

 それから間もなくして、アースラは通常空間から次元空間へと場所を移し
本局に向けて移動を始める。


 これより数日後、クロノ達は本局に無事たどり着く。
だが、そこで更なる混乱が待ちかまえていようとは、この時誰も知る由はなかった……。




――― Chapter 02に続く…… ―――




小説欄
TOPに戻る




 □ あとがき □
 貴重なお時間を使って読んで頂いた方、誠に有り難うございますm(__)m
もう、本当に何と言えばいいのか、済みませんでした!! 前回の更新から空きすぎですよね……、あまりの遅筆ッぷりに
自分でも呆れています。

 さて、9話。やっとのことで更新と相成ったわけですが、何やら説明文が多くて文章になっているのかどうか自分でも不安で
仕方ありません。説明を説明と感じさせず、それでいて情報が伝わるようにするにはどうしたらいいのか、要勉強な処です。

 後、なのはを始めとしたキャラの心情描写も今一というのは自分でも感じています。しかし、何処をどうすればいいのか
解らず現段階で出来る事をしたわけですが……是が今の自分の限界。お目汚しになって、
本当に申し訳ありませんでしたm(__)m 多分、落ち着いたらちょくちょく変更していくかも知れません。

 では、これにて失礼致します。改めて、ここまで読んで頂けた方に感謝申し上げます。
もし宜しければ次回も読んで頂けると嬉しいです。時の番人でした。


小説欄
TOPに戻る