何の変哲もない穏やかな空。
大海原を思わせる程の澄み切った青空に波打つように浮かんでいる真っ白な雲。
そんな何の変哲もない、平和を象徴するかのような空に小さな異変が生じ始める。
まるで壁にヒビが入るように、空の一部に亀裂が奔りだしたのだ。

 そして、次の瞬間!

 空はバカッと割れ、その中から何者かが姿を現す。
それは、漆黒の翼をその背に生やすセフィアだった。


「ここが彼らが捕らえられている場所……ですか」


 そう呟くセフィアの眼下には、この世界をまがりなり・・・・・にも管轄する『時空管理局』の中央観測基地が存在していた。
尤も、それはセフィアだからこそ見えるのであり、常人、否それなりの実力を持つ者でさえ決して見えるものではない。
それ程までの高々度 ―― 対流圏界面ギリギリの処で、セフィアは佇んでいるのだ。
その姿は見る者によっては神とも悪魔とも感じさせる雰囲気を醸し出してた。


「……これは」

 何かを感じたのか、セフィアは眼下にある基地から目を離すと顔を上げ、北東の方を向く。
そこには何もなく、ただ一面に青空が広がっているだけ。
 しかし、セフィアははっきりと何か≠感じ取っていた。


魔力≠持つものが複数接近している。……それなりの力の持ち主。
 ……成る程、奴らも無能ではないと云う事ですか。少なくとも危険を感じ取れるぐらいの能力ちからはあるらしいですね」


 そう言いながら、更に別の方向 ―― 宇宙に視線を移す。
彼女の眼にはしっかりと、一隻の艦船が映し出されていた。


「だが、そこが限界。奴らに時空管理する事など未来永劫無理な事。
 奴らのやっている事は児戯に過ぎないのですから」


 再び視線を眼下に移すと、セフィアは閉じていた漆黒の翼を広げる。
そして、映っている施設の更に一点 ―― 彼らが捕らえられている場所を正確に補足する。


「奴らの移動速度から公算すると、仲間を奪還する頃と……かち合いますね。
 まあ、その時はその時ですね。どちらになろうと私にとっては何も変わらないのですから……」


 そう言ってセフィアはそっと瞼を閉じる。脳裏には、この地に赴く前に掛けられた彼≠フ言葉が思い起こされる。
彼≠ノとっては何気ない一言だったのかも知れないが、セフィアにとってはそれで十分だった。それだけで力が沸いてくる。

 時間にしてほんの数秒という時間の後、セフィアはまなじりを決すると力≠解放し始める。
すると不可視の力場が彼女を包み込み、次の瞬間セフィアの姿は忽然とその場から消えるのだった。
まるで始めから何も居なかったのかの様に……。










魔法少女リリカルなのは_Ewig Fessel
Episode 08:zufalliges Zusammentreffen - 邂逅
――Chapter 02――










「目的地まで後もう少しやな」


 出発前に受け取っていた即席の地図ナビゲーションシステムのデータを見ながらはやてはそう呟く。
今の所懸念されているなのはの単独行動もなく、心の内ではやては安堵する。とは云え、
その安堵も取り敢えずと云うのが正しい。

 それは、現在いまのなのはの表情が全てを物語っていた。
焦っているのだ、なのはは。誰の目からしてもそう感じざるを得ない表情をなのははしているのだ。
事実、自身の感情を押さえつけるかのように、なのはは唇をキッと結び堪えている。


(……なのはちゃんの考えが間違っているとは私も思わん。けど、けど! これはあんまりや……っ!!)


 その姿に居たたまれなくなり、はやては心の中で叫ぶ。
それに気付いたのかフェイトが念話を掛けてくる。


『……はやて』
『……なんや?』
『私達に何が出来るのかな。……何をしてあげれるのかな』
『…………』


 誰に?≠ニは訊くまでも無い事だった。
そして、その問いに返せる答えをはやては持っていない。むしろ、はやてが訊きたいくらいだ。

何時も通りのなのはに戻って欲しい

 それは、はやてとフェイトだけでなく、あの事件に関わった者達の切なる願い。
色んな人がなのはを救おうと色んな事をしてくれた。いや今でも少しでもなのはの気持ちが戻れるようにしてくれている。
そのお陰で確かに表面的には ―― 私生活では以前と変わらぬ姿に戻っているように見える。
けど、今回の任務に同行して改めて思い知らされる。根本的な解決には何一つとして至ってないと云う事を。
 一昨日の無謀極まる訓練がそうであり、今回の任務に於いてのなのはの言動がまさにその事を否応なく
はやて達に突き付ける。

 突き付けられた現実に対し、思考が出口の見えない迷路を彷徨い掛けたその瞬間!


『全員、大至急現場へと急行してくれっ!!』


 衛星軌道上に佇んでいるアースラ艦橋にいるクロノからの呼びかけ、否叫び声が、飛び込んできたのは。
その声に、沈み掛けた思考が現実へと引っ張り上げられる。
気が付けば目的地まで目と鼻の先 ―― 約一キロメートルの距離ま来ていた。

 何事かとクロノに問いただそうとした矢先、視界の先に映った建造物 ―― 今回の任務であるロストロギアの保管してある
観測基地の一部が突如として爆発、そして膨大な黒煙が空を支配し始めたのだ!!


「「「「!!??」」」」


 予想もし得ない事態に、はやて達は我が目を疑う。
が、それもほんの一瞬の事だった。クロノからの報告が我を失う事を許さなかった。


『たった今、目の前にある観測基地から緊急通信が入った!
 ロストロギア保管場所に何者かが侵入。基地に配置されている武装局員が応戦しているが時間の問題らしい!
 急いでくれ!!』
「それじゃあ、今の爆発が……はやて!」
「わかっとる! みんな急ぐん……!」


 クロノの報告とフェイトの言葉を受け、はやてはこの場にいる全員に指示を出そうとするが、
その前に既に行動を起こしていたものがこの場に一人だけいた。

 それはなのはだった。

 魔力蓄積機から一発分をロード。
得られた魔力を一つの魔法の増幅に転換。


『Spiral Flash Move!!』


 レイジングハートがコマンドを詠唱する。
それに伴い、なのはの足下に生えているアクセルフィンが一際強く輝き羽ばたき出す。
 刹那!
なのははまるでカタパルトから撃ち出されたかの如く、驚異的な追加加速を得て目的地へと飛翔していく!


「なのは、待って!!」
「駄目や、なのはちゃん!!」


 二人が呼び止めようとするが、既に遅かった。
元々、加速と最高速度に優れているなのはだ。
ましてや、なのはは誰よりも早く行動に移っており尚かつその加速を強化しているのだ。
はやて達が呼び止める事など出来ようもなかった。


「急ぎましょう、主! テスタロッサ! 高町を追いかけなくては行けません!!」
「わかっとる! リイン!!」
『はいです!!』
「バルディッシュッ!!」
『Yes, sir!!』


 ザフィーラの言葉を受け、はやてとフェイトは己が相棒に指示を出す。
そして、可能な限りの速力を得てなのはの後を追うように現場へと急行していく。
その間も黒煙は絶え間なく昇り続けていた。



――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ―――




「貴様っ! 自分が何をやっているのか分かっているのか!?」


 全壊に近いストレージデバイスを杖代わりにして片膝をつく一人の武装局員。
もはや立つ力すらないらしく出来るのは目の前にいる侵入者を睨むだけ。
 その傍らには、仲間である三人の武装局員が地面に倒れていた。

 だが、睨まれている侵入者本人は、武装局員の言葉や地に横たわる光景など気にも留めることなく、
辺りを見回し続けている。そしてあろう事か、片膝を付いている武装局員に背を向ける。
始めから眼中にないのを見せつけるかのように。


「くっ!!」


 侵入者の行動に歯ぎしりをする武装局員は、僅かに残った魔力を振り絞る。
それとともに足下にミッド式魔法陣が浮かび上がり回転を始めていく。

 そんな事が背後で起きているのにもかかわらず侵入者は部屋を見渡し続ける。
そして、見つけたのだ。

 仲間≠。


「ようやく会えた」


 その言葉には嬉しさがこもっていた。
仲間に会えた事は勿論の事、彼≠フ役に立てるという事が何よりも嬉しかった。


「渡せる……かっ!」


 その時背後から、一発の魔力砲がその声と共に侵入者に放たれる。
非殺傷設定ではない、殺害を目的とした殺傷設定のものを。
だが、侵入者は振り返ることなく眼前にある仲間≠捕らえている封印を壊しに掛かる。


(今度こそ、効く・・はずだ!!)


 武装局員はそう確信した。
不意を付き、尚かつ至近距離での背後からの一撃だ。効かないはずがない。
だが、その思いは放った魔力砲と同じ運命を辿る。

文字通り霧散≠ウせられたのだ!!


「ば、ばかな!!」


 武装局員は愕然とする。
目の前にいる敵は魔法どころか魔力すら行使していない。なのに、なぜ攻撃がこうも無力化されるのか!!
そして――


「おとなしく寝ていた方がいいですよ。命を奪うつもりはありませんから。今の所は……ですけど」
「な、ガァッ!?」


 武装局員がその意味を問いただそうとした時、何の前触れもなく弾き飛ばされ、壁にその身を強く打ち付けられる。


(い、何時攻撃をした? や、奴が使っているのは、な……何なの………だ?)


――薄れゆく意識の中で浮かんだのはその疑問。先に倒れた仲間も同様にいつの間にか倒されたのだ。一体何故?
だが、その問いに答える者はこの場には誰一人として居なかった。


「さて、これで任務は無事完了。これでここにはもう用がないですね」


 そう言って、侵入者 ―― セフィアは黒翼を広げると天井に大きく空いた穴から青空へと舞い上がろうとする。
別にこの場で帰っても良かったのだが、ここで扉≠開くと管理局に出入り口の存在を知られる事になる。
それが拙いと云う事でもない。彼≠ゥらは隠す必要もないという言葉も受けている。
 強いて言えば気分の問題。
あのような輩に些細なものとは云え情報を与えると云う事が嫌なだけだった。

 そんな事を考えながら、セフィアは未だ警告音がけたたましく鳴り響く部屋を後にする。
そして、立ちこめる黒煙を抜けた時だった。
施設にいた武装局員の砲撃と比ぶべくもない、尋常成らざる桜色の砲撃がセフィアに向かってきたのは。


「やっぱりかち合いましたか……。逃してくれそうもないですね」


 だが、セフィアは動じる事はなかった。
この世界に到着してから、接近には気付いていたので今更驚く事もない。

 何より、


「この程度、問題ないです」

 そう云う事だった。
迫ってくる砲撃の威力は物凄いものだ。ただ、それは施設にいた先程の魔導士と比較しての事。
事実、セフィアは片手を砲撃に向けると、そのまま受け止め、露払いするかのように腕を払う。
その結果、砲撃は桜の花弁が舞うように大気中に散らばっていった。


「何か私に用ですか、管理局の魔導士さん?」


 にっこりとそう微笑むセフィア。見るものが見ればそれだけで墜ちるかも知れない微笑み。
だが、今し方砲撃を放った魔導士 ―― なのははその微笑みなどには目もくれず、バスターモードと変態した
レイジングハートの先端をセフィアに向けたまま言葉を紡ぐ。

 怒りをその胸に秘めたまま。


「時空管理局・航空戦技教導隊、高町なのはです。貴方を管理局施設の破壊、及び局員への傷害、
 そして! ロストロギア強奪の罪により逮捕しますっ!!」
「罪≠ニは可笑しいです。私は只、あなた方のような偽善集団から仲間≠奪還しただけです」
「巫山戯ないで……っ!」


 セフィアにとっては当たり前の ―― なのはにとっては決して許せない言葉になのはは激昂し掛かる。
だが、それでいても今まで培ってきた経験が怒りを押さえ込む。
魔導士とのしての本能がなのはに告げるのだ。
目の前にいる女性がとてつもない強さを秘めていると云う事に。怒りのままでは勝てないと云う事を。
そして、まがりなりではあるが冷静さを取り戻した結果、不意に気付く。
先程の女性の発言の一部におかしな部分がある事に。

〔仲間=l

 確かにそう言った。
ロストロギアが仲間とはどういう事?
アレにはやはり何か明かされていない秘密があるというのか?
その疑問が不意になのはの口から漏れる。


「仲間って……」
「あ……」


 セフィアは自分の失言に気付いた。と同時に自分に呆れる。
これも別に知られたら知られたで構わないと云う事は言われている。
しかし、先程決意したばかりでは無かったのか。奴らには情報を与えないと。
知られないのに越した事は無いのだから。


(こんなのでは駄目ですね。もっとしっかりしないと彼≠熾れてしまいます)


 右掌を額に当てて考え込むセフィア。
だがそれも束の間、スッと右掌を離すと真っ直ぐな視線でなのはを射抜く。
それに対し、なのはも気圧されることなく対抗するかのようにセフィアを睨む。
その時だった。はやて達が現場に到着したのは。


「あら、お仲間も到着してしまいましたか……」


 まるで人事のように呟くセフィア。
動じるどころかその姿からは余裕さえ感じられる。
その言葉に、新たな魔法を発動させようとするなのはの前に人影が割り込む。


「ストップや、なのはちゃん。独断は許さへんで」


 それは、右手に持ったシュベルトクロイツをセフィアに向けながら、なのはの行動を制するような形で立つはやてだった。
かたち的に邪魔されたなのはは、はやてに向かって文句を言おうとしたが――


『いい加減しぃ、なのはちゃん!』
『!!』


――普段あまり聞く事がないはやての怒気を含んだ念話に、二の句を継ぐ事が出来なかった。


『確かにロストロギアによる被害を無くしたいのは分かる。けど! こんないななのはちゃん、ユーノ君は望んでおらへんで!』


 卑怯、だとはやては内心で思った。
ユーノの事を出すのはなのはにとって一種のタブーと言うのも分かっていた。
けれどこれだけははやても確信を持って言える。

 ユーノは決してこんななのはを望んではいないと云う事を。


『色々と言いたい事はあると思うけど、今は私の指示に従って貰うで、なのはちゃんっ!!』
『……わかった』


 はやては意識をセフィアから反らすことなく、自分の背後にいるなのはをチラッと見た。
そして、なのはと視線が交わる。

哀しげな瞳だった。

 でも、先程まで感じていた怒りと云った負の感情は宿ってはいないように感じられる。
取り敢えず、現時点ではだが、なのはの方は最悪の事態に向かう事だけは避けられたようだ。
後は――


「お話、終わりましたか?」


――眼前にいる女性の逮捕と、奪われたロストロギアを取り戻すだけだ!!


「これは意外やな、てっきり攻撃してくるかと思とったけど」
「それでも良かったんですけど、それだと交渉の余地が無くなりそうだったんで辞めました」
「交渉だと?」


 セフィアの言葉を受けザフィーラが訝しげに言葉を発する。
尤も、言葉に出さずともこの場にいる全員がそう感じていた。


「はい、交渉です」


 にっこりとそう断言するセフィア。


「ええやろ、聞くだけ聞いたるわ。けどその前に、名前くらい言ったらどうや?」


 はやては取り敢えず、相手方の提案に乗った。正確には乗るふり・・・・をした。
理由としては、少しでも相手方の情報を知る為に。ここまでの大事をしでかすような奴だ。
もしかしたら、管理局のデータベースに何かしらの情報がある可能性も充分に高い。


『リイン、しっかり記憶してな』
『はいです!!』


 既にユニゾンインしている自分の片割れとも言えるリインに指示を出しながら、相手の出方を待つ。
少なくとも身体的特徴は記憶しておかなければいけない。
名前を名乗れと云って、名乗るとははなから期待してはいないから。

 だが、あろう事に目の前の女性は、


「(出会ったら、名ぐらいは名乗っておけとの命令でしたから。彼≠フ言いつけを破る訳にも行きませんし。)
 あ、これは失礼致しました。私はセフィアと言います」


 着ているドレスの裾をつまみ、優雅に挨拶をしながらそう告げたのだ。
あまりの出来事に面食らうはやて達。だが、そんなはやて達の状態などお構いなしにセフィアは言葉を続ける。


「えっと交渉というのは、まずこちら側の出す条件として、このまま何も見なかった事にして帰って頂きたいのです」
『どういう事です?』
「「「「…………」」」」


 リインは訳が分からず、はやての中で首をもたげる。
対して他の面々はセフィアが出す異様な雰囲気に言葉が出ずにいた。


「変わりにと言っては何ですが、あなた方の事は殺さない事にします。どうです? 悪くはないと思いますけど」


……この発言を聞くまでは。


「貴女は自分の立場という物が分かっているのですかっ!!」


 フェイトは魔力蓄積機から一発分をロードし、瞬時にバルディッシュをアサルトフォームからハーケンフォームに変態させる。
そして、顕れた金色に輝く魔力刃は、太陽のように大気をジリジリと焦がし始める。


「……他の方も同じような意見で?」


 だが、セフィアはフェイトから迸る魔力波動を気にする様子もなく、むしろ何も感じていないかのように周囲を見渡す。
そして見えたものは、フェイトと同様に戦闘態勢に入っているはやて達の姿であった。


「どうやら、こっちの話が通じるような相手ではあらへんな……!
 時空管理局・特別捜査官、八神はやてや。おとなしく投降できへんなら力尽くで行かせて貰うで!!」
「交渉、決裂ですか。大局を判断出来ないとは未熟ですね」
「未熟なのは……どちらだっ!!」


 はやての最後勧告にも動じることなく、それどころか挑発じみた発言をするセフィア。
その直後、セフィアの頭上から声が降りかかる。魔力で強化されたザフィーラの強力な足蹴りと共に。

 そして、それが戦闘開始の合図となった。




――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ―――




「……何なの、これ?」


 アースラ艦橋にいるエイミィが、まるで信じられない物を見たと言わんばかりの表情で呟く。
エイミィは、視線を正面にある大型モニターから離す事が出来ずにいた。
いや彼女だけではない。この場にいるクロノを含めた全員がモニターから視線を外す事が出来ない。
 艦橋にいる全ての者の視線を奪っているもの。それは幾筋ものノイズが入る不鮮明な映像。
そこには、ははやて達と中央観測基地を襲った女性 ―― セフィアとの戦闘が映し出されていた。


(一体、奴は何者なんだ……)


 クロノは画面を食い入るように見ながら、そう思わざるを得なかった。
中央観測基地から緊急通信を受けた時、思わず舌打ちをしてしまったのは事実。
結果的に後手を踏んでしまったのだから。
 だが、今回の部隊は管理局でも屈指のエース達で構成されている。
あの忌まわしき防衛体で無い限り、無事にロストロギアを取り戻してくれると思っていたのだが、戦局は思わしくなかった。

 管理局でも、否各次元世界においても一線を画する四人を相手に敵方の女性は怯むことなく、それどころか時折
その四人を圧倒するかのような攻防を繰り広げているのだ。
 更に不可思議な事にその女性からは、


「一体、敵はどんな力を使っているというの? 魔力が全く感じられない!!」


 エイミィの叫びの通り、敵からは欠片程の魔力反応も観測出来ていないのだ。
それなのにはやて達の攻撃を巧みに捌き、的確な攻撃をしている。
その証拠に、細々とではあるが彼女達の防護服・騎士甲冑に綻びが入っている。
並の魔法″U撃など、無効化出来る程の魔力で構成されているにも関わらずに……だ。

 そんな疑問を持っている時だった。
拘束魔法によって一瞬の隙ができたセフィアに、貫通力と瞬間加速を重視したなのはのディバインバスター
がセフィアに向かって放たれようとしていた。



――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ―――




「ディバインバスター……!!」
『……Convergence !!』


 シュッと云う効果音を伴い、一筋の光がセフィアに向かって放たれる。
貫通力と速度を強化された砲撃。それも、あの時一ヶ月半前と比べ、全てが倍近くに強化された代物だ。
タイミングからして、回避も防御も出来ないはず……だった。


「くっ!!」


 なのに、セフィアは僅かな呻き声と動作で寸での処で回避。
目標を失った閃光は雲を突き破り、虚空の彼方へと消え去っていく。

 その光景にこの場にいる誰もが驚かざるを得ない。


『な、何て反応速度や! 普通ならあれで決まっていたで!!』
『マイスター、どうしますです!?』
『主!』
『…………』


 リインとザフィーラの念話を受け、セフィアに悟られぬようにはやては悩む。
こんな敵は初めてだった。全く以てどうすれば屈服させられるのか手段が思い浮かばない。
かといって、このまま手をこまねいている訳にも行かなかった。


『はやて、どうする? このままじゃ……』


 フェイトが何を言わんとしているかはやてには分かっていた。
どう見ても戦局は此方が不利。
こちらもまだ余力を残しているとは云え、それを考慮に入れても分が悪いとはやては直感的に悟る。
何故なら、セフィアからは底と云う物が感じられなかったからだ。


「これは意外でした。まさか、ここまでとは……ね」


 そんな中、言葉を発したのは脅威の反応速度を見せたセフィアだった。
その言葉は小さいながらもこの戦場にいる誰の耳にも入る。

 セフィアは右掌で左の二の腕 ―― 上膊部付近をさすっていた。
ほんの僅かではあったが、小さな細長い赤いはれがその肌に浮かんでいたのだ。


『攻撃は充分に通じます! 指示をっ!!』


 それを見た時だった。
なのはからの念話が ―― 強き意思がはやてに伝わってきたのは。
セフィアの腕に浮かんでいる腫れは、先程なのはが放ったディバインバスターが通り過ぎた箇所と一致する。
すなわち攻撃が通った事の証に他ならない。
通じるのだ。此方の攻撃が。後は如何にして当てるかだ。


(こうなったら、出し惜しみは無しや!)


 そう意気込み、次なる指示を出そうとするが、セフィアが一歩早く動く。


「あまりここで時間を費やす訳にも行きませんし、……仕方ありません。不本意ですが、こちらも使わせて頂きます」


 そう言うな否や、セフィアは右掌を自身の豊満な左胸に重ねる。
すると白色光が集中し周囲を照らし出す。


『『『『!!??』』』』


 あまりの出来事にはやて達は身構える。
そして驚く。目の前に光景に ―― 正確にはセフィアが此方に向けて突き出した右手に収まっている物に!!


「なんでソレ・・が其処にあるんや? 三つだけではなかったんか!?」


 はやて達が目の当たりにしているのは、今回の任務である回収すべきロストロギアの形と何から何まで同じだった。
正五角形の面で構成されている、正十二面体≠フ多面体。唯一違うと言えば、色だった。
それは、資料で見たどれとも符合しない白色。

 だが、驚きはそれだけでは終わらなかった。


Vernunft betreuenrt理を司る !!」


 電子音と共に、正十二面体がバラバラになりとある物を瞬く間に形成する。
それは――!!


『何なのです、アレは! マイスターッ!!』


 リインが叫び、はやてに問う。
だが、はやては答えられない。否彼女だけではない。答えられないのはこの場にいる全ての者。
そして、この戦闘を固唾を呑んで見ている衛星軌道上にいるクロノ達も!!


「悪いですが、ここで幕引きをさせて頂きます」


 そう言って、セフィアは両手でそれを携える。


それは俗に戦斧と呼ばれる物だった。
白銀に光輝く戦斧は、セフィア自身の身の丈の1.5倍の長さを誇り、
また、腕の長さ程の大きさがある肉厚の二つの刃を備え、両手で持っている柄も長くかなり太い。


「大戦斧のガイアス……《ディヴァイン・クロウ》。 それが貴女達を葬り去るもう一つの。覚えていてください」


 その言葉を皮切りに、今まではやて達が遭遇した事がない力≠ェこの世に解き放たれていった……。




――― Chapter 03に続く…… ―――




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 □ あとがき □
 貴重なお時間を使って読んで頂いた方、誠に有り難うございますm(__)m
今回のロストロギアの元ネタの一つ。多分、何がモチーフになったかバレバレだと思います(¨;)
尤も、他にも是には2〜3個の元ネタを組み込んでいますけどw

 話は変わり、実の処を言うと8話も2部構成で終わるはずでした。
しかし、書いていてあれやこれやを付け足していったら肝心の人物が出てこられなくなるという結果に。
と言う訳で、彼≠ヘ次話への持ち越しと成ってしまいました。
書いていると予定と変わって来る事もあるという話をどこかで聞いた事がありますが、
まさか自分が体験しようとは……。


 それでは、今回は是にて失礼致します。
次回もよろしければ読んで頂けると嬉しいです。時の番人でした。