「一体何の呼び出しだ? っく、まあ予想は付くけど」


 一人の男、いや良く見ればまだ少年と云って差し支えない人物がそうぼやきながら歩いていた。
足首まで届く程の長さの銀色を基調とした外套を身に纏い、その背中ではリボンで首もと辺りで一括りにされ、
腰に届く位の長さの髪――淡く光る蛍火の長髪が、歩くたびに揺れていた。

 少年が歩いている処は道等はなく、また上を向いているのか下を向いているのかも分からず、ましてや
地平線など見る事が出来ない異様な空間だった。周囲の空間には淡い光を灯している大小様々の球体が浮んでいる。
その淡く光る球体は照明の役割を担っているか、空間を不規則に動きまわりながら辺りを淡く灯していた。

 どの位歩いていたのだろうか、少年は不意に立ち止まると右膝を着き畏まる。
すると突然、周囲に浮かぶ球体がまるで生き物のようにざわめく。


「如何様な用件でしょうか?」


 少年の言葉を受け、周囲に浮かぶ球体が不規則に明滅する。
それは言葉を発しているように見えた。


「それは、本当ですか!?」


 少年は驚きながらも、その表情は喜んでいるようにも見える。
だが、それも束の間。突如少年は僅かながら顔をしかめた。
そして片手で側頭部を押さえつける。


「……いえ、何でもありません。はい、……了解しました。それで――≠フ方は見つかったのでしょうか?」 


 少年は何かを振り払うように数回頭を振ると、別な事を尋ねた。
目的達成の為には訊いていかなければいけない事だ。
だが返ってきた答えは芳しくないもので少年は少し落胆の表情を垣間見せる。


「では……迎えに行ってきます」


 その言葉を最後に、周囲に浮かぶ球体は静けさを取り戻し淡い光を灯しながら空間を不規則に動き始める。
それを見て少年は立ち上がり踵を返すと目的地に向かい行動を開始しようとする。
 その時だった。
どこからともなく少年に声が掛けられたのは。


「……セフィアか。どうした?」


 少年は格段驚く様子も見せず、名を呼ぶ。
すると、突如空間が歪み、そこから一人の人物が出てくる。
そして、少年の前で来ると膝をつき畏まった。

 少年からセフィアと呼ばれた人物は女性だった。
尤も、外見的はどうみても16〜17歳ぐらいに見え少女といっても差し支えがない。
黒曜色を彷彿とさせる長く美しい髪と同色系の切れ長の瞳、更に肌は透き通る程に白く、均整の取れたプロポーションを 持つ少女。世間一般において美少女と云われる程の美貌を持ち合わせていた。
 服装はその美しい髪とは対照的に、膝丈くらいのAラインスカートでまた背中部分が大きく空いている
純白のミディドレスを着ていていた。

 ある事を除けば、誰に聞いても【美しい人間の女性】と答えるだろう。
しかし、彼女は外見上”人間”とは明らかに違っていた。
耳は通常より長くとがっており、そして彼女の大きく空いたドレスの背中から、身の丈程もある大きさで、
且つ今は綺麗に折り畳まれている一対の漆黒の翼が生えていたのだ!


「先程顔を顰められていましたので、大丈夫かと心配致しまして」


 その言葉に少年は苦笑せざるを得なかった。


「大丈夫だ、大したことないよ」
「それなら良いのですが……」
「有り難う、セフィア」
「えっ?」


 感謝の言葉を言われ、セフィアは体勢はそのままだが顔を上げ少年の方を向く。
すると、ばっちりと彼と目が合った。その瞬間セフィアの顔に赤みが差す。


「何時も心配掛けて済まない」
「い、いえ! かかか、家臣として主君の心配をするのは当然ですっ!!」


 顔を真っ赤にしながらセフィアはどもりながらも語気を僅かに強くして返事をする。
少年はその様子を不思議に思いながら、言葉を発した。


「自分でも良く分からないんだ。何故か時折軽い頭痛が来る事がある。
時空管理局という単語を耳にすると……ね。あんな有象無象の集団に対してな」


 不思議だなと言いながら、少年は先程痛んだ側頭部をさする。
少年の言葉を聞き、その動作を見ていたセフィアの顔は先程まで見せていた紅潮さは影を潜め、
変わりに現れていたのは……何故か怒っているような表情を見せていた。


「……頭痛は、貴方が我々の主君だからこそだと思われます。我々にとって時空管理局≠ニいう存在は名ばかりの
 紛い物であり決して許されないモノです。ましてや貴方は我々の主君だ。よりその存在を許せない事から起こる怒りが
 貴方に頭痛を引き起こすのでしょう」
「成る程……お前の言う通りかも知れないな。気に掛けていないつもりだったが……まだまだだな僕は」


 どこか困った顔をしながら少年は頬をかく。
その様子に幾分溜飲が下がったのか、セフィアは少しホッとした表情を覗かせる。
だが、それも束の間。表情を引き締めると再び頭を下げ少年に進言する。


「迎えの件、私に任せては貰えないでしょうか?」
「どうした、いきなり?」


 セフィアの進言に少年は少し驚く。
彼女が自らの意見を言ってくる事など今まで無かったからだ。


「出過ぎた事を言っているのは重々承知しております。しかし、ここ数日貴方は働き過ぎです。
 少しお休みになってはどうかと思いまして」
「…………」


 少年は言葉を発しない。
セフィアの言った事は事実ではあるが真実ではない。本音は彼が苦しんだり痛んだりするのを見たくないから。
そしてその原因となっている単語――時空管理局≠ニ今回接触する可能性がある任務に彼が赴けばまた苦しむかも
知れない。

それは絶対に避けたい事だった。
ならどうすればいいか?
答えは簡単だった。自分がそこに赴けばいいだけの話。

 しかし、任務が与えられたのは彼である。本来、彼の家臣である自分がそれに異を唱える事自体が死活問題。
進言した事によって処罰される事はおかしくない事、否むしろ当然と言うべきもの。
それを承知の上でセフィアは先程の提案を進言した。

 彼を想うが故に。

 少しの間を置いて少年がセフィアの下に歩み寄った。
やはり出過ぎた真似をしたのだろうか?
そう思い、来るべき衝撃に身構えたセフィアだったが、彼女に訪れた物は予想と全然違う物だった。
ポンッと頭に何かが乗せられた感触が伝わってくる。
え? と思い、下げていた頭を上げて見えたのは微笑んでいる少年の顔。
そして視界の片隅に彼の片腕が見える。つまりセフィアの頭の上に乗っているのは……


(ふぇ!?)


 もう少しで素っ頓狂な声を出すところだった。
それをすんでの所で飲み込む。少年の掌がセフィアの頭に乗っているのだ。
予想外とも言える事態に、セフィアは困惑する。
と同時に体温が際限なく上昇していく錯覚を感じていた。


「そうだな、今回の件は君に任せる。僕は少し休まさせて貰うよ」
「は、はい! 任せてください!! 必ずやご期待に応えて見せますっ!!」


 そして、少年からこの言葉を聞きセフィアは喜んだ。
彼の役に立てる。その事でセフィアの心は幸福感で満ちていく。

 その後、彼から幾つかの情報を譲り受けると目的地に向かう為に行動を開始する。
立ち上がり彼に一礼し踵を返すと、突如なにもない空間に扉が出現した。
セフィアはその扉に手をかざすと、それが合図となったのか扉が開きその先にとある景色が見える。
 それを確認したセフィアは扉を潜ろうとした時、少年から声が掛けられる。


「セフィア」
「はい」
「無理はするなよ」
「は、はいっ!!」


 その言葉だけでセフィアには十分過ぎるくらいの物。
掛けて貰った言葉を胸に秘め、折り畳まれていた一対の翼を広げセフィアは扉の向こう側へと向かう。

 セフィアが向かった後、扉は初めから無かったかのように空間にとけ込む形で消えていった。
それを見届けた少年はそのまま歩き出し、自分の部屋へと戻っていく。


(これでまた一歩、大いなる目的に近づけた。けど、まだ遠い。残りの――≠煦鼾盾熨≠ュ見つけださなければいけない。
 この歪んだ世界を一日でも早く解放し争いのない世界を造る為には。その為に僕たちはいるのだから……)










魔法少女リリカルなのは_Ewig Fessel
Episode 08:zufalliges Zusammentreffen - 邂逅
――Chapter 01――










 運が良かったのか悪かったのか。

 アースラ艦橋の艦長席にいるクロノは心の中でそう呟いた。
クロノの目の前にあるスクリーンには無限に広がる次元空間が映し出されている。

ロストロギアの回収任務

 これが、クロノが率いるアースラに命じられている任務内容だった。
任務としてはさして珍しくは無いもの。取りようによっては楽な仕事と言う人もいるかも知れない。何故なら
既に発見されたロストロギアについて、幾つかの調査結果と共に本局を通じてアースラの下に送られてきているから。
用途不明なのはいつもの事だが、危険度は低いという報告と一緒に。

 では、何に対してクロノは呟いていたのか。
それは今回の任務に関わる一人の人物 ―― なのはに対しての事。

 この任務を命じられた時、クロノはなのはに対してとある注意をしている最中だった。
それは一昨日なのはが行った自殺行為とも言える無茶な訓練に対しての事。
クロノは休養が終わり管理局に来たなのはを呼び注意をした。例え無駄と分かっても言わなければいけなかった。
上司として。そして、友人の一人として。

 だが、今にして思えば早々になのはに対する注意を切り上げるべきだったとクロノは後悔していた。
なのはに注意している時、自分が率いるアースラに対して任務が命じられたのだ。
よりによってなのはが居る前で……だ。更に人選はクロノに一任される事を聞かれたのも拙かった。
案の定、通信終了後なのははクロノに命じられた任務に自ら志願した。

 クロノとしてみれば、なのはの現状から出来うるならば可能な限りロストロギア≠ノ関連する任務はなのはに
与えたくはなかった。だが、なのはの申し出を断る理由もクロノには見当たらない。
 結局の処、自分の命令には絶対に従う事を条件になのはを今回の任務に加える事を認めざるを得なかったと云う
事実があったのだ。だが、他の部署にいる数名の仲間の予定が空いていたのが唯一の救いとも言えた。
 起きないに越した事はないが、万が一なのはが危うくやった場合に自分だけでは止められるか分からなかったからだ。
実際、要請を受けた仲間達は二つ返事で了承してくれた。

 誰もが心配しているのだ。現在のなのはの状態には。


「クロノ君っ!!」


 考えに没頭していたクロノは、自分のすぐ下にいるエイミィに呼ばれ現実に引き戻される。
エイミィの方を向けば、怒っているというか呆れているというか何とも言えない表情をしていた。


「どうした、エイミィ?」
「『どうした?』じゃないよ。さっきから何度も呼んでいるのに。まあ、何考えていたかは大体想像が付くけどね」
「……済まないな気を遣わせてしまって。で、何かあったのか?」


 クロノは謝罪すると思考を切り替える為か、エイミィに問い掛ける。
問い掛けられたエイミィもまた、クロノの心情を酌んだ上で何事もなかったの様にクロノに答える。


「今回の任務のロストロギア、クロノ君はどう見てる?」


 手元のコンソールを操作しながらそう尋ねてきた。
同時に眼前に一つの大きなスクリーンが現れ、画面上で今回の対象物がゆっくりとした一定の速度で回り始める。
クロノはそれを見ながら、手元にある自分専用のモニターに今まで送られてきたデータを見ていた。


「〔発見されたのは三色の同型種。大きさにして掌サイズで、金属で構成されている物の材質は不明。
 現在の処、魔力反応と云った物はおろか何一つとして観測されない。故に現状では危険度は低いものと思われる〕……か。
 正直言って早計だ。結論を出すのはまだ早すぎる。この金属特性だけで充分すぎる程危険だ」


 ロストロギアを保管・管理している観測基地からの報告を見てクロノはそう言いきる。
これが春先頃であればもう少し、気楽に構えられていただろう。
なにせ管理局内に置いても屈指のメンバーが揃っているのだから。

 だが、一ヶ月半前に起きた事件を境にそういった気持ちは一切無くなった。否、無くせられたと言い換えても云い。
なのは程ではないにしろ、あの時あの事件に関わったメンバーの全員がロストロギアに対し、どんなに危険性が低いと
言われようとも最後まで気を抜くことなく ―― 他の局員から見れば異常と言われるぐらいに神経を張りつめ任務に
当たっている。

 それが先程のクロノの発言に繋がっているのだ。


「確かに、クロノ君の言う通りだと私も思うよ。〔金属の材質特性にて一つ判明したものとして、
 微弱ながらもそれ自体がA.M.F≠ノ似た特性を持っている〕だし」
「今は不明だが、仮に解析されて量産・強化でもされてみろ。軍事バランスが一気に崩れる可能性も無視出来ない」
「そんな事は起きて欲しくないけど……ね。クロノ君、警戒レベルは何時も通り、最高ランクまで上げておくよ」
「ああ、頼む。いつ何時何が起こるか分からないからな……」


 クロノはそう言い、自分のモニターの片隅にあるデジタル時計に目を配る。
其処には、今回の目的地への到着時刻がカウントされていて、到着まで残り二十分を切っているところだった。



――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ―――




《同時刻、アースラ艦内・会議室》


 室内は異様な程の静けさに覆われていた。
人が居ないからではない。言葉を発する事が出来ない為に起きている現象だった。

 会議室には今回の任務に携わるメンバーが休憩と準備を兼ねて部屋で待機をしている。
今回招集されたメンバーは、フェイト、はやてとリイン、ザフィーラ、そして……なのはという構成だった。
 立場上、一緒の任務に関わる事が少ない彼女達にとって例え任務といえど一緒になれる事は嬉しい事
それ故に普通であれば何気ない話で会議室は賑わっているはずだった。実際、今までがそうだった。

 だが今は違っている。

 一人の少女が発するプレッシャーとも云うべき物に圧倒され、言葉を発する事が出来ないでいるのだ。
その少女 ―― なのはは、念入りにストックしてある魔力蓄積機のチェックをしており、その様子には鬼気迫る物があった。


『マイスター。なのはさんが怖いです〜』
『我慢しいや、リイン。今は……な。任務が終わればなのはちゃんも大丈夫やさかい』
『……はいです』
『良い子や、リイン』


 はやては、自分の左肩に乗っているリインをあやしながらなのはの方を向く。
話には聞いていたが、これ程とは思ってなかった為に少なからずショックを受けていた。
否、はやてだけではない。この場にいる誰もが似たような感情をなのはに抱いている。
中でもフェイトが一番のショックを受けているに違いない。
何故なら……


『フェイトちゃんは、大丈夫か?』


 はやての念話を受け、フェイトが此方の方を向く。
それまでフェイトはなのはの方をずっと向いていたのだ。


『大丈夫だよはやて、私は。大丈夫』


 はやてに対しての返事だったのだろうが、それはフェイト自身に言い聞かせているように感じられた。
無理もない、とはやては思った。確かに仕事中ではあるが親友にあんな事を言われればショックを受けてしまう。
はやてはほんの数分前の出来事を思い返していた。




 クロノから今回の任務の概要と具体的な作戦行動を受けた後、現地到着まで会議室での待機が全員に命じられた。
理由は簡単。なのはを一人にしない為である。クロノは敢えてその事は言わなかったが、なのはを除くメンバー全員が
その意図を理解していた。
 肝心のなのははと云うと、渡されたロストロギアに関する資料を何遍も読み返していた。
ただその様子はフェイト達が知る日常のなのはとは雰囲気がかけ離れており、心配心からフェイトが近寄り
声を掛けたのだが……


《任務中です、ハラオウン執務官。私に声を掛ける暇があったら装備のチェックでもしたらどうです?
 例え低級∴オいを受けているとは言え暫定的なもの。何が起こるのかが分からないのがロストロギア。
 万全に万全を期さなくてはいけません》


 本当になのはか? と疑ってしまうぐらいの返答がフェイトに浴びせられる。
その言葉というより態度にショックを受けるフェイト。しかし、なのはが言っている事は全く以て正論である。
そういう事も手伝ってそれ以上の事を言う事は出来ず、只一言了承の意をなのはに伝え少し距離をとった場所に
腰掛け今に至っている。


『兎も角、うちらがしっかりせなあかん。なのはちゃんをこれ以上変えてしまう訳にはいかんからな。
 ザフィーラも大変やけど宜しく頼むで』
『心得ております、我が主』


 はやては視線をなのはに移したまま、狼形態で近くに待機しているザフィーラにそう念話を飛ばした。
ザフィーラもその事に異論などなく、むしろ言われるまでもない事だった。
何故なら、今回任務が重なり出られなかった仲間にも似たような事を言われていたから。
 特にヴィータからは何度も言われている。

 その時、会議室にエイミィの声で連絡が入る。


『間もなく、今回の任務地に出ます。関係各位、所定の位置にて待機をして下さい』


 その声に会議室内の人間に於いて、いち早く反応したのはなのはだった。
瞬時にレイジングハートを起動。並行してバリアジャケットの生成も行い準備を完了する。
それを見ていたフェイトとはやても慌てて出撃準備を完了させた。


(あんなに淀みなく出来るなんて一体どれくらいの訓練を積んだんや?)


 なのはのデバイス起動からバリアジャケット生成までの過程は、一流のエースでもあるはやての目から見ても
凄い物だった。と同時に悲しさも感じる。
 その成果を得るまでになのはが行った訓練の動機を考えれば考える程に。

 だが、その思いも予想外の事態にかき消される事となる。

 アースラが揺れたのだ。
それもかなり激しく!


「これは一体なんや? 『クロノ君!!』」



――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ―――




 会議室で待機しているはやてからの念話が、クロノの下に飛び込んで来た。
いや、彼女だけではない、フェイトやなのはからも同様の念話が矢継ぎ早に来る。


「エイミィっ!!」
「そんな訳ないよ! ちゃんと設定した座標に出現している事はメインシステムでも確認している。けど……っ!!」


 アースラ艦橋では情報を整理する為に慌ただしく動いていた。
先程の揺れは、宇宙空間に存在する小惑星群に艦の一部が接触した為に起きた揺れだった。

 今回の任務に於いて、アースラは惑星衛星軌道上に出現し其処で待機。
そこから作戦メンバーを主要地点まで転送するという手段を取る事にしていた。
それ故に、出現する場所 ―― 惑星の衛星軌道上の調査も行われており、一部に小惑星群がある事も確認されている。
当然、それを避けて離れた場所に出現するように座標を設定していたのだが――


「何故、此処に出る!? 入力ミスと言う事はないのか!?」
「そんなミスしないよ、私は! 現にクロノ君も確認したじゃない!!」


 ――蓋を開けてみれば、小惑星群と目と鼻の先に出た為に接触してしまったのだ。
もう少しずれていれば、出現と同時に自沈していた可能性も捨てきれない。
まさに紙一重だった。


「エイミィ! 登録されている座標データと、現在観測されている座標データを出来うる限り正確に照らし  合わせてくれ!!」
「り、了解! アレックス、ランディッ! 貴方達も手伝って」
「「はいっ!!」」


 クロノの指示を受け、エイミィを筆頭に他のオペレーターも手元のコンソールを操作していく。
その様子を見ながら、クロノもまた原因を考えていた。


(何故、出現ポイントがずれた? 入力データは間違っていない。間違っているのは……まさか!?)


 あまりにも馬鹿馬鹿しい予想にクロノは否定したくなるが、エイミィの報告にそれは間違いでない事を知らされる。


「クロノ君っ! 登録されている座標データと観測されている座標に差がありすぎる! これじゃ、登録されている
 データなんて役に立たないよ!!」
「そんな、馬鹿な!」


 エイミィからもたらされた報告にクロノは叫ぶ。
こんな事クロノは今まで見た事も聞いた事はなかった。本局で観測・保管されている各次元世界への座標は絶対的なもの。
事実これまで転送先がずれるなど、入力間違いでもない限り起きてなどいない。
では今し方起きている現実は一体何だというのか?


「座標が動いている……とでも言うのか?」


 それ以外に説明が付かなかった。
しかし、何故動いたのか? その理由はさっぱり分からない。
実際、周辺宙域に問題となるような異常なデータ等は観測されていないのだ。


「アースラへの被害は?」
「シールドのお陰で、本艦には全く影響はありません。魔力炉及びその他も正常に作動中です!!」 


 アレックスの報告を受けたクロノは瞬時にこれからの事を考える。


(艦自体に影響はない。となると任務続行には支障がない。問題は座標だな。恐らく地上も……)


 エイミィに視線を移すと彼女と目があった。
するとエイミィは首を縦に振りクロノに答える。


「今調べているけど、多分地上にあるロストロギアの保管場所の座標もずれているのは間違いないよ。
 現在、再計測しているけど詳細な座標の特定まではまだ時間がかかるよ!!」


 エイミィがその事をクロノに伝えた時、艦内に念話が繋がる。


『では、現在に於いて尤も近いと思われる座標に私達を転送してください』


 それは会議室にいるなのはからであった。


「なのは?」
「なのはちゃん?」


 思わぬ人物からの声にクロノとエイミィは驚く。
だが、二人の驚きなど知る由もないなのはは淀みなく発言する。


『このままここで時間を浪費するのは得策ではありません。ここで手をこまねいていては何かが起きてからでは遅いんです』
「何かがって『甘いですよリミエッタ管制司令』……」


 エイミィはそれに対してなのはを落ち着かせようと何かしらの意見を言おうとしたが、言い切る前に途中で
なのはに阻まれる。それも辛辣な言葉で。


『私達が回収しなければいけないのは、ロストロギアです。それには私達の常識など通じない事は知っているはずです。
 もう一度言います。起きてからでは遅いんです!』
「…………」


 エイミィは振り返り、後ろにいるクロノを見る。
言葉には出さないものの、どうすればいい?と言ってきているのがクロノには分かった。

 クロノは少し逡巡した後、なのはにこう告げた。


「わかった、なのは。君の提案を採択する。但し! あくまで僕の指示と現場監督であるはやてに従う事が絶対条件だ。
 従わなかった場合、拘束もあり得るから肝に銘じておくように」
『……了解。では準備に入ります』


 プツンと念話が切れた後、クロノは溜息を尽きながら秘匿回線で念話を飛ばす。
なのはの返事に間があった事が何を意味するのか分かっていたからだ。


『(納得してくれてないな……。まったく困ったな)聞いていたな、はやて、フェイト、ザフィーラ』


 全員から了承の念話が来る。


『ロストロギアもそうだが、なのはの事も頼む』


 それは艦長としての命令ではなく、友人としての頼み。
本当ならば自分が付き添い、なのはを律したい処だが立場上そうそうにここから動く訳にも行かない。
そんな心境がクロノの中にあった。それを知ってか、


『大丈夫やで、クロノ君』
『そうだよ、お兄ちゃんはそこで待っていてくれればいいから』
『そうです! なのはさんは私達が護りますです!!』
『だから、貴方はそこで待っていてください』


 言葉は違えど、同様の意味の言葉がクロノに帰ってくる。
それを聞いたクロノは少し心が軽くなるのを感じた。

「では、主要メンバーはトランスポートで待機。転送ポートを直に開くので準備を!!」



――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ―――




 クロノからの指示を受け、なのはは起動状態のレイジングハートを持ち足早にトランスポートへと赴く。
その後ろを追うようにフェイト達もトランスポートへと向かっていった。


  (あの時も、この通路を使ったんだっけ。見ててね、ユーノ君。貴方が護った世界、必ず私が護り通してみせるから。
 絶対に!)


 そんな決意の下、なのははトランスポートに辿り着くと、右手首に填めてある銀色のブレスレッドに左手を添える。
その様子をフェイト達は悲しみにも似た表情でただ見ることしかできなかった。

 数秒後、現時点に於いて尤も保管場所に近い処 ―― 彼女達の飛行時間にして約20分弱の距離に当たると
思われる場所になのは達は転送されていった。





 その先に待ち受ける運命など知る由もなく……。





――― Chapter 02に続く…… ―――




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 □ あとがき □
 貴重なお時間を使って読んで頂いた方、誠に有り難うございますm(__)m
さて、少しは物語を動かしたつもりですが……如何だったでしょうか?
なのはFanからは石を投げられるような展開に弁解の余地もありませんが、どうしても設定上
こうならざるを得なくて……orz。後メインに据えようと思っている元ネタを投下。多分分かる人には分かるかも(¨;)

 なのはにこの状況下でフェイト等をどう呼ばせるか悩んだのですが、このような形にしてみました。
あと、冒頭に出てきた人物なんですけど、今は敢えてスルーして頂けると嬉しいかな……と。詳細は次回でm(__)m
後オリキャラを書くのって難しいですよね。多分読まれた方にしてみれば『何コレ?』と思われるかも知れませんが
これも笑ってスルーして頂けると幸いです。もう少し表現方法を勉強しなくては……。

 では、次回もよろしければ読んで頂けると嬉しいです。時の番人でした。

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