周囲に響く、耳を劈くような炸裂音。
まるで太陽の如く、周りを明るく照らす様々な魔力光。
それら全てが戦場の凄まじさを如実に物語っていた。


「だりゃぁぁーーーっ!!」


 ヴィータはグラーフアイゼンをラケーテンフォルムに変態。
爆発的な加速とそれに伴う遠心力を糧に、スパイクの部分を眼前にそびえ立つ壁≠ノ向かって突き刺す。
打ち込まれた壁≠ヘ、スパイクと拮抗する為か全体を振動させ抵抗する。


「い、いい加減にぶっ壊れやがれーー!!」


 ヴィータの叫びと共に、一発分の魔力量がロードされた。
推進噴射口から新たな推力が発生し、壁を突き破らんと突き刺さっているスパイクに新たな加重が掛けられる。
その直後、壁に無数の亀裂が迸る!


『今だ、テスタロッサ、高町なのはッ!!』
『了解!』
『いきます!』


 シグナムの声を受け、二人の魔導師なのはとフェイトが砲撃魔法の準備に入る。
なのははバスターモードに変態したレイジングハートを、フェイトは左手を壁≠ノ向かって突き出し、一発分の魔力を
ロード。それに伴い、環状魔法陣が出現し呻りを上げ始める。
 二人が放つのは、圧倒的な破壊力を秘めし桜色と金色の奔流――ディバインバスターとプラズマスマッシャー!
ラケーテンフォルムの攻撃に加え、そのあまりにも強大すぎる2つの力をまともに受けた壁は、数瞬の拮抗の後、抵抗
むなしくその身を虚空へと散らしていった。


『これが、最後の壁……かな』
『……そのはずなんだけど……』


 魔力残滓をはき出すデバイスと共に、なのはとフェイトも大きな深呼吸を余儀なくされる。
いや彼女達だけではない。他の面々も呼吸が荒くなっていた。

 第1次ライン突破から、間もなく10分が経過しようとしている。
最初から思わぬ抵抗にあった為、第2、3次ラインは更なる抵抗があると踏んでいたのだが……


『一体何なんだよ、コレ? 2番目も3番目も壁ばっかりじゃんかよ!』


 アルフの叫び通り、第2次ラインに突入しようとした矢先、ライン間を文字通り塞ぐ#シ球体の壁が出現したのだ。
第2次ラインは32枚重ねの。第3次ラインに至っては計16枚重ねといった様相だった。
しかも、ご丁寧に物理と魔力の障壁が交互に配置されている念の入りよう。
 また、3次ラインに至っては2次ラインに比べ枚数が減るのとは反比例に強度と魔力密度が増していて、
魔力値に換算すればAAA-という防壁だった。


『明らかにおかしすぎる。これではまるで――』
『――時間稼ぎだな、ザフィーラ』
『クロノ!?』


 ザフィーラの言葉を引き継ぐかのように、突然空間転移してくるクロノ。
その出現にフェイトを始め、現場にいる皆が驚く。


『クロノ君、一体どないしたんや? まだうちらはピンピンしとるで?』
『そうです。マイスターも私もまだまだいけますよ?』

 そうなのだ。
はやてとリインの言う通り、2次ラインと3次ラインの壁≠フ突破に予定外の体力と魔力を使ってはいるがまだまだ余力は
充分にある。それに、全員が無傷という状況。クロノが心配する危険な状態には至っていない。


 なのに何故現場へと出向く必要があるのか? 


『確かに傷らしい傷もないし、余力魔力・体力もまだ充分にあるのは分かっている。だけど、2次・3次ラインのシステムは明らかに
 時間稼ぎだ。何の為に時間を稼いでいるのかは分からない。だが、それ故に不確定要素が大きすぎる。ましてやこの先は
 転送不可領域だ。仮にそこで何かがあれば、助けようにも助けられない。だから、出てきたんだ』


 クロノはそう言うと、待機状態のデバイスを起動させ右手にストレージデバイス――デュランダルを携える。


『成る程、確かに言われればそうですね。……しかし、一体あの蕾擬きは何なのでしょうね?』
『分からない。現在も何度もスキャンしているが何の反応も観測出来ていない。ただ、これだけの防衛システムだ。
 気を付けなくてはいけないのだけは確かだ』


 シャマルの問い掛けにクロノはそう返すしかなかった。逆にクロノが聞きたいくらいだった。
それと、クロノが出てきた理由はもう一つあった。みんなには言っていないのだが、第2次ラインに壁≠ェ出てきてから
言いようのない不安が彼の胸中から離れない事がその理由だった。だが、余計な不安を与えないように敢えてクロノは
その胸中を語らずにいた。


『……さて、これから第4次ラインに向かうがいいな?』


 実働部隊一人一人の顔を見渡しながらクロノは尋ねる。
それに、全員がはっきりと頷く。


『よし。では……行くぞ!!』









魔法少女リリカルなのは_Ewig Fessel
Episode 05:Abschluss,und…… - 終結、そして……









 蕾擬き内部にある、13枚のディスプレイの群れ。
その全てに、なのは達が第3次ラインに展開された最後の壁≠破壊した光景が映っていた。
第1次ライン突破からもうすぐ10分が経過する。それは同時に、新・最終防衛システムの完成が間近な事を意味していた。

そして……クロノが現場に現れた頃、丁度10分に達した。



《新・最終防衛システムの構築完了!!》
《コーディング……異常なし!!》
《テスト……問題なし!!》
《最終デバッグ、終了!!》
《起動シークエンス、展開!!》
《実態具現化開始!! 防衛プログラム……起動!!》



 封印物の上に浮いている巨大なディスプレイに次々と文字列が表示されていった。
そして、最後の文字列が表示された時、亜空間は溢れんばかりの光で埋め尽くされていく。




 ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― 




『ここから先が、第4次ライン――転送不可領域となる。
 ここに入ったら、転送での脱出は防衛システムを止めない限り出来ない。油断するなよ!!』


 クロノはそう皆にいい、先陣を切って領域へと進入していく。
そして、眼前に表れるのは8つの怪獣!!


『来るか!?』


 シグナムはレヴァンティンを構え、何時でも攻撃出来る体勢を取る。他の面々も遅れを取ることなくほぼ同時に
構えを取る。会議室で見た映像通りならばこれから出てくるのはAAAクラスに相当する怪獣。管理局ですら5%にも満たない
クラスの相手に対し一瞬の判断遅れが致命傷と成りかねない闘い。それを前にして、全員に緊張が奔る!!
だが、その予測はあっけなく打ち破られる。

 そう、悪い方向へと!


『第5次、6次ラインに魔力値発生! 第5次ラインにAAA+4体、第6次ラインにS-2体の出現を確認ッ!!』
『な!?』


 絶句。
まさにこの言葉がピタリと当て嵌まる。エイミィからもたらされる情報は明らかに異常というべき事態だった。
8体のAAAを相手にするだけでもかなりの危険を伴うというのに、此処に来て一気に残りのラインも起動するという現象。
否定したかった。しかし、現実がそれを許してはくれない。

 全員が腹を括る。

逃げようにも、ここは既に転送不可領域。離脱しようにもこれだけの敵を目の当たりにしてその可能性は限りなく低い。

ならどうすればいいか?

 答えは簡単だった。眼前の敵を排除する以外には方法がない。
だが、現実はその決意すら嘲笑うかのような方向へと進んでいく。
今まで、最奥――中心で地面から生えるような形で鎮座していた蕾擬きがゆっくりと宙に浮き上がっていったのだ!!

 その光景は、衛星軌道上に待機しているアースラ艦内から、そして600m離れた現場にいる実働部隊からもはっきりと
見る事ができた。


『エイミィ! 一体何が起きている?』
『そんなのこっちが聞きたいくらいだよ! 様々な方向から蕾擬きのデータ収集しようとしているけど何にも無かった。
 ……うぅん、今だって何にも検出出来ていないんだよ!!』


 なら一体、アレは何なのか?
その疑問は次の瞬間、文字通り形≠ニなって皆の眼前へとその姿を現し始める!!

 宙に浮かんでいる蕾擬きから14本の黒い帯が伸びる。
帯には、ミッドやベルカでは見た事もない文字、いやこの場合記号と言うべきなのだろうか。それが瞬く間に、現存する
14体の防衛体を包み込む。
 そして、黒い帯びに包まれた防衛体は、物凄い速度で蕾擬きに引き寄せられていく!!


『何が起ころうとしているんや!?』


 そう言う事しか、はやてには出来なかった。同時に、はやての言葉はこの光景を見ている全ての者達の心情だった。
だが、現実はそんな事はお構いなしに変貌を続けていく。
 8体の防衛体――怪獣達を包んでいる黒い塊が最初に蕾擬きを覆い始め、融合をし何かを形成し始める。
続いてAAA+4体を包んだ塊が、最後にS-2体を包んだ塊が、引き込まれる形で最初の融合物に飛び込み、
最終的に、直径50mはある巨大で闇を彷彿とさせるような真っ黒い繭を形成した。

そして……


『繭が……割れるっ!!』


 ユーノが叫ぶ。
真っ黒い繭は表面に無数の亀裂を生じさせたかと思うと、風船が破裂するように割れていった。
中から表れたのは、巨大な魔力波動を放ち、漆黒の金属装甲に覆われた巨大な物体だった。


『恐竜……なの?』


 ポツリとなのはが呟く。
黒い繭の中から出てきた物体の形状を見て、その単語が口から自然に出てきた。
そして、その言葉を聞き逃さなかったクロノはアースラ艦橋にいるエイミィに指示を飛ばす!!


『エイミィ!』
『分かってる、クロノ君! 今調べたけど……確かにアレは嘗てなのはちゃんの世界にいた恐竜≠ニ似通っている部分が
 ある。けど! 似ているのは形だけ!! あんな機械生命体、データベースに無いよ!!』
『くっ!! ならスキャンでもなんでもいい。兎に角、現段階で検出出来たデータを全て此方に回してくれ!!』
『り、了解!!』


 エイミィはクロノの再指示を受け、急いで検出に入る。
幸いにか、物体はまだ出現しただけで完全には起動していないようだった。
だが、それも時間の問題。起動する前に僅かでもデータが必要だった。データが来るまで、みんなは眼前の物体を凝視して いる。
 外見上は確かに、恐竜――ティラノサウルス≠ノ酷似していた。ただ、それも形だけ。今目の前に立ちはだかっている
物体はそんなもの比では無い事が、誰の目からも見てとれた。

 遠目からでも分かる全身を覆う分厚い漆黒の金属装甲。巨体を支える2本の太い足と臀部から生えている巨大で長い
尻尾。また両の腕は太く、先端には巨大で鋭利な銀色のかぎ爪が5本付いていた。さらに首周りは太く、頭部もそれに
比例して大きい。口を閉じた状態でも鋭い紅い牙が多数見えていた。

  そうこうしている間に、実働部隊の下に検出直後のデータが電子音と共に転送されてくる。

【全長62m、全高45m。装甲の材質・強度……計測不能。外装部に幾つかの武装を確認……詳細不明。
 背部に巨大なインテークファンを確認……用途不明――】

『何だよコレ? 肝心なところは分からずじまいかよ!!』


 ヴィータが声を荒げる。だが、それは恐怖を隠す為の叫びでもあった。
無理もない。知らないというのはそれだけで恐怖を生む。そして、最後にもたらされた報告は恐怖に一層の拍車を掛ける事
になる。


【―――体内にリンカーコアの反応有り。魔力反応計測……魔力クラス、SS=z

『!!??』


 声なき叫びが周囲に広がる。
SSクラス? 間違いではないのか?
誰もがその結果を疑いたかった。しかし、魔導師・騎士としての本能が疑いを許してはくれなかった。
それほどまでに600m先にいる防衛体から放たれている魔力波動は強力だった。

 一度撤退し、応援を呼ぶべきか?
クロノがそう思った瞬間、恐竜型の防衛体は口を開き、起動を宣言するかのように大きな咆哮を周囲に轟かせる!!

「WOooooooo!!」
《衛星軌道上に艦船を確認! 敵の母艦と判断。……破壊!!》


 そして、その咆哮と共に防衛体の背部にある巨大なインテークファンが高速で回転を始めるのがアースラで観測される。
その現象は現場にいる者達にも伝えられていた。


『一体何をしようとしているんだい、奴は!?』
『私が聞きたいくらいだよ、アルフ!』
『集中を切らすな、アルフ、テスタロッサ!!』


 二人を窘めるシグナムだが、彼女の声には焦りが含まれいた。
無理もない。それほどまでに眼前を支配する物体の行為は異様すぎたのだ。
 だが、現場及びアースラが混乱する中において、一人の魔導師がその行為の正体を看破する。何故ならそれは自分が
ここにいる誰よりも得意と自負している分野だからだった。故に誰よりも先に恐怖を覚える。

明らかに自分がするよりも収束率が桁違いに高いと云う事実に対して。


『みんな気を付けて! あの防衛体、物凄い勢いで周囲の魔力素を体内に集めている!!』


 なのはの警告は、全員にさらなる緊張を奔らせる。
その間も、防衛体は更なる行動を見せる。今まで閉じていた口を大きく開け天を向いたのだ。
だが、口の開いた方向は虚空の彼方。実働部隊がいる処とは大きくかけ離れていた。

何をする気なのか?

 そんな疑問が残る中、クロノだけが防衛体の狙いを看破する。
防衛体が開口した先にあるもの。それは!!




 ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― 




『アースラのシールドを最大出力で展開しろ! 急げっ!!』


 アースラ艦橋に大音量でクロノの念話が広がる。有無を言わさぬ口調に驚きつつもエイミィは咄嗟に
手元のコンソールを操作しシールドを展開。同時に魔力炉をフル稼働させて出力を最大限に上げた。

その次の瞬間!


「きゃあああぁぁぁーーっ!!」


 アースラに物凄い衝撃と閃光が襲いかかった。
スクリーンは白一色に埋まり、艦はまるで洗濯機に入れられたかのように激しく揺れる。
あまりの出来事に、艦内の人間は誰一人として体勢を整える事ができなかった。

数秒後、光と衝撃が収まると同時にアースラ艦内に警報音と警告を示すディスプレイが幾つも表示されていく。


「痛っ……、一体何が。アレックス! ランディ! 貴方達は大丈夫!?」


 一瞬気を失っていたエイミィは、警告音で目覚めると床から起きあがり、痛む体を無視して椅子に座り直す。
そして、自分の下に居るはずの二人に向かって安否を尋ねる。


「……はい、何とか。かなり体が痛いですけど」
「……こちらも同じく」


 二人の声を聞き、一瞬安堵の表情をエイミィは浮かべたが直ぐに引き締め二人に状況を訊く。


「状況を報告して! 艦の内外関係なく!!」
「「了解!!」」


 アレックスもランディも痛みの悲鳴を上げる体を無視して、手元のコンソールを操作。
それによって分かったのは、予想を遙かに超える被害だった。
 まず、人的被害を見れば負傷者が少なからず出ていた。艦橋にいて、クロノの念話を聞いていた者達は少なからず構えが
出来ていた。お陰で、打ち身・打撲で済んでいる者が殆どだった。しかし、他の場所で働いていた者達は違っていた。
予想もしない衝撃でなんの構えも出来ていない者達は、為す術無く壁や床にその身を強く打ち付け脱臼や骨折をしている
という報告が次々とエイミィの下にもたらされる。


 そして、尤も酷いのはアースラ自体の損傷だった。


「長距離通信システム並びに長距離次元転送装置、中破!!」
「スラスター大破! 現在位置から動かす事が出来ません!!」
「シールド発生装置の一部損傷を確認!!」
「魔力炉の出力低下! 現状で75%の出力が精一杯です!!」
「そんなに酷いの!?」
「はい。もし、クロノ提督の警告がなければ墜ちていたのは間違いないです!!」


 アレックスとランディの報告を受けて、エイミィは愕然とする。と同時に疑問も沸き起こった。
ここまでの被害をもたらした物は一体何だったのか。報告を整理しながら二人に尋ねる。


「……僕にも分かりません。ただ……」
「ただ?」
「惑星から何かの高エネルギー体が飛んできた事だけは計測出来ています。仮にもう一度来た場合には――」
「――防ぎきれないのは明白です!」




 ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― 




 アレックス達の報告は、現場にいる実働部隊にも届いていた。
彼らは見ていた。クロノがアースラに向かって警告を発した瞬間、防衛体の大きく明いた口に膨大な量と高密度の魔力が
集中し青白い一条の光線が宇宙に向かって飛翔していく様を!


『クロノ!!』
『分かっている!!』


 ヴィータの言葉を受け、クロノが答える。
このままではいけない。今目の前にいる防衛体はテリトリー内だけでなく、それ以外の敵――衛星軌道上にいるアースラに
まで攻撃を仕掛けた。奴に如何なるものが作用したのか分からないが、またあの攻撃が動けないアースラに向けられたら
今度は間違いなく自沈する。
 それは何としても避けなければいけない事だった。


『エイミィ! 奴のインテークファンはどうなっている?』
『今のところ停止を確認! 各部の冷却を行っているところを見ると、そうそう連射は出来ないと思われるのだけど……』
『くっ! 奴の魔力障壁は確認出来るか?』
『待って……っあの装甲の表面に強力な魔力の流れを確認! 全身を覆うようにコーティングされているよ、クロノ君!!』
『ちッ!!』


 報告からクロノは最適な戦術を模索。
今すべき最優先事項は、あの高威力の砲撃を奴に撃たせない事。その為には魔力が収束されるインテークファンと発射口
である口内のどちらかを潰す必要がある。そうすれば少なくともアースラへの危険性は減る。ならどちらを潰すか?
そしてあの障壁ををぶち破るにはどうすればいいのか?

クロノは即決した。


『部隊を分けるぞ。奴の目を引き付けるのと背部のインテークファンを潰す二つにだ!』


 そう言って、実働部隊に指示を出すな否や陣形を保ったまま全員が飛行魔法の出力を上げ、防衛体に急接近を仕掛ける。


「GAaaaaa!!」
《脅威接近。排除……開始!!》


 実働部隊は、瞬く間に防衛体との距離を詰め300m地点に達したところで防衛体は新たな行動を開始する。
両の腕を頭上に掲げ、計10本の巨大で鋭利なかぎ爪を高速で向かってくる実働部隊に向かって振り下ろしたのだ。
するとその軌跡をなぞるように、爪と同色の銀色の巨大な魔力刃・10本が生まれクロノ達に襲い掛かる!!


『散開ッ!!』


 実働部隊に向かってくる巨大な10本の魔力刃。クロノの号令の下、一時的に陣形が崩れ10本の巨大な魔力刃を回避。
勢いそのままに再度陣形を整えつつ防衛体へと肉薄する。距離にして200m。後一息という処で、防衛体の両腕の側面に
取り付けられている複数の砲台から無数の光弾が発射された!!


『スクライア!』
『分かっているよザフィーラ!! 広域防御、展開!!』


 実働部隊の周囲に展開される、白色のベルカ式魔法陣と淡い緑色のミッド式魔法陣。
シャマルの補助を受けて強化・展開された両者の防壁に防衛体が放つ無数の光弾が降り注ぎ、着弾による濃密な魔力濃霧
が周囲を覆い尽くす。
だが、それも束の間。魔力濃霧から一個の塊が出現し、瞬く間に防衛体と距離を詰め50mという目と鼻の先まで接近する。


「!!!」
《警戒レベル、さらに上昇》


 防衛体は次の行動を起こそうとする。だが、紙一重で実働部隊の方の行動が早かった!


『作戦通りに行くぞ!!』


 クロノの掛け声に答える代わりに全員が各々の行動を開始する。
確認の必要などない。自分がやるべき事は既に決まっているのだから。


「吠えろ、グラーフアイゼンッ!!」
『Eisengeheul !!』


 ヴィータは一発分の魔力をロードし、左の掌を前に突き出す。するとそこに眩いばかりの光が集い、紅い球体が
生成される。そして、間髪入れずにヴィータは生成された球体をグラーフアイゼンで力一杯に叩く!!
瞬間! 凄まじい轟音と眩いばかりの閃光が周囲を埋め尽くす!!


《メインカメラ、機能低下。魔力レーダー最大稼働……索敵……ッ!?》


 強化されたアイゼンゲホイルの効果により、防衛体はカメラ等の一時的な機能低下を余儀なくされる。
時間にして数秒。だが、他の面々が魔法を発動させるには充分すぎる時間だった。
 地面から、無数の白色の軛が出現し巨大な防衛体を拘束。
更にその上から、茜色の鎖と淡い緑色の鎖が防衛体を幾重にも拘束し行動を制限。更に――


「数多の氷鎖よ!!」
『Ice chain stitch !!』


 ――クロノの足下に浮かぶ水色の魔法陣から幾筋もの氷鎖が伸び、防衛体をがんじがらめにし
魔力の流れ――障壁を瞬く間に凍らせていく。


『今だ!!』


 クロノの念話を受け、


「レイジングハートっ!」
『Divine Buster―Convergence !!』


 従来より貫通力を増した、一条の槍が、


「バルディッシュっ!!」
『Thunder Blade !!』


 雷を纏いし無数の剣が、凍った障壁に降り注ぎ、凍らされた防衛体の障壁はパーンッという音を立てて
崩れ落ちる。そして、剥き出しとなった装甲が皆の眼前に露わとなった。


「行くぞ、レヴァンティン!!」
『ja!』


 防衛体の遙か上空、インテークファンを見下ろせる位置にボーゲンフォルムへと変態したレヴァンティンを持ち
弓を携えたシグナムが佇んでいた。


「厄介なソレインテークファン、壊させて貰う!!」


 従来の威力に更に2発分の魔力を上乗せられた矢は、寸分違わず目標を打ち抜く。
直後! 爆音と閃光が周囲を埋め尽くしていった!!


『やったか?』
『分からん……』


 クロノの念話を受け、シグナムが肩で息をしながら答える。
確かに作戦は寸分の狂いもなく、それこそ絵に描いたかのように見事に決まった。
だが、問題は通じたかである。攻撃が当たっても効かなければ意味がない。
アースラでこの映像を見ている者も含め、全員が固唾を呑んで未だ黒煙に包まれた防衛体を凝視していた。

 そして黒煙が晴れ、各々の目に映ったのはインテークファンを粉微塵に破壊され、更には全身を覆う漆黒の装甲に
無数のヒビが入り所々から火花が散っている防衛体の姿だった。


『予想以上の結果だな。後はこの防衛体を倒し、中にある蕾擬き≠封印するだけだ!!』


 クロノの掛け声に、他の実働部隊も構えに入る。特に新・カートリッジシステムを搭載している4人は、空に近い
魔力蓄積機をデバイスから排出、そしてフル充電された物を新たに接続し直す。
そして、攻撃態勢に入ろうとした瞬間。ソレは起きた。


《ダメージ深刻。集束砲、使用不可……。外部装甲及び障壁使用不能。現状打破の為、殲滅ジェノサイドモードへと移行。
 対象物殲滅後、次元転送開始。対象物――9体の生命体実働部隊!!



 防衛体を覆っている無数のヒビが入った漆黒の装甲。
その装甲が音を立てながら防衛体から剥離しボロボロと地面へと雨のように落下する。
そして外に晒されたのは体中の至る所に空いている剥き出しのボディだった。


『なんやのあれは? クロノ君、どないなってるの?』
『分からない! 気を抜くなよ!!』


 何が起きても良いように、眼前の敵へと集中する実働部隊。
しかし、事態は誰も予想し得ない最悪の斜め上を行く事となる。

 全身に空いた無数の穴から直径1m程の口径を持つ無数の銃身が出現。
更に先程まで集束砲の砲門となっていた口から大量の魔力素を吸収し始めると、無数の銃身の口径に眩いばかりの光が
集い始めていく!!


『『『なッ!?』』』


 実働部隊の驚きを余所に、防衛体を中心に無数の光が舞い踊り、その光は只でさえ何もなかった荒野を本当の意味で
地獄へと塗り替えていく!!




 ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― 




「クロノ君、みんな!!」


 エイミィの絶叫が艦橋に響く。
メインスクリーンには幾筋ものノイズが奔っていてはっきりと現場を見る事が出来なかった。それでも防衛体を中心に
破壊尽くされる荒野だけは辛うじて見る事が出来た。
無数の銃口から放たれ続ける光弾は一発一発がとてつもない破壊力を秘めていた。判定的に見ればS-に匹敵するかも
しれない程の物だった。
 そんな恐ろしい物が周囲を埋め尽くさんと防衛体から射出され続けている。


「アレックス、ランディ! クロノ君達のスキャン出来る?」
「駄目です!! 現場の魔力場が乱れていてスキャン出来ません!」
「解像度を上げても艦長達の姿を視認する事が出来ません。さらに魔力場の乱れにより念話も遮断されているらしく
 繋ぐ事が出来ません!!」
「そんな……! 無事でいてクロノ君、みんな……!!」


 エイミィは両手を胸の前で組み、ノイズが奔っているスクリーンを祈るように見続けていた。





 ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― 




「みなさん、大丈夫ですか?」


 シャマルは魔法を発動しながら、その中にいるみんなに肉声で声を掛けた。
砲撃の瞬間、シャマルはみんなを自分の周囲に呼び寄せ、両手のクラールヴィントを瞬時にペンダルフォルムと化し
自分を含めて実働部隊の頭上と足下に旅の鏡≠展開。そしてその上下間も同質の魔力壁で覆い楕円柱の結界を
形成したのだ。


「ありがとうな、シャマル。でも、これは一体……何や?」


 はやては自分たちを護ってくれている結界を指さしながらシャマルに尋ねた。初めて見るものだった。
自分たちを襲う無数の光弾は、シャマルの旅の鏡で形成された結界に触れるな否やシャボン玉が弾けるかのように目の前
から消え去っている。


「……旅の鏡の能力を反転させているっと言った方…がわかりやすい……ですかね?」


 旅の鏡=\―本来はその輪の内側の空間を目標の場所に直接繋げ、離れた場所の物体を「取り寄せ」する魔法。
しかし、この場合は輪とそれによって作られた壁の外側の空間を任意の場所――惑星のどこか――に繋げ、
自分たちを襲ってくる光弾をそこに転送しているのだ。つまりこの結界の中にいる限りは如何なる攻撃も遮断する事が
出来る。


……そう、術者の魔力が続く限りは……。


 雨あられの如く迫り来る光弾を転移させるたびに、シャマルの魔力は刻一刻と削られていく。彼女の魔力量を持ってしても
この空間を長時間維持し続ける事が不可能なのは火を見るより明らかだった。


「このままでは、全滅はもはや時間の問題だ。どうする提督?」


 刻限が迫る中、打開策を考えるクロノ。シグナムに言われるまでもなくクロノも分かっていた。生き残る為にはなんとしても
あの防衛体を倒さなくてはならない。もはや封印では済まないレベルに達しているのだ。
何としても破壊しなければならかった。


「なのはちゃんとフェイトちゃん、そして私の3人でトリプルブレイカー打てればいいんやけど……」
「駄目だ。君たちのその魔法では事態の解決にはならない」
「なして!?」


 はやての提案を即座に否定するクロノ。それには理由があった。
ただ倒すだけなら、はやての言う通り、対闇の書の防衛プログラム戦で使ったなのは・はやて・フェイトのトリプルブレイカーを
用いる事ができれば恐らく破壊は出来る。
 しかし、膨大な魔力素を吸収し続ける防衛体はいわば火薬庫に等しい。そんな物を破壊≠キればどうなるか? 
行き場を無くした魔力素が暴れだし、辺り一帯を消滅せる危険性がある事は想像に難くない。
仮に今そうなれば、自分たちは生きてはいない事は明白すぎる事実だった。
 最悪の事態を避ける為には、文字通り防衛体に取り込まれている魔力素ごと、瞬時に消滅させなければいけない。
その事をクロノは皆に述べる。


「ならどうすれば良いのだ、ハラオウン提督」
「……一つだけ手段がある事にはある。しかし、その為にはこの光弾の雨をどうにかして防がなくてはいけない」


 ザフィーラの問いに、クロノは己が伏せている奥の手≠手短に皆に説明した。
それを聴いた実働部隊の面々は、この非常事態にも関わらず思わず絶句してしまった。


「うちらの事を非常識と言うとるけど、クロノ君の方がよっぽど非常識やんか」
「そうだよね……」
「だからお兄ちゃんは……」


 愚痴をこぼす3人娘なのは・フェイト・はやて。また口には出さない物の他の面々も似たり寄ったりだった。
しかし、雰囲気は先程と一変している。死と隣り合わせだというのに、空間には希望が満ち始めていた。


「では。手筈通りに行くぞ。いいな?」
「誰に言っているのですか提督? なあ、みんな!!」


 シグナムの言葉を受てけ、全員が頷く。
やる事は決まった。後は実行に移すのみ!!


「旅の鏡を解除します。良いですね?」


 最終確認を兼ねてシャマルは辺りを見回す。ユーノとザフィーラは既に防御魔法の展開準備を完了し、
後は発動させるのみ。そして、クロノもデュランダルを握り直し準備に取りかかる!!


「では……行きます!!」


 シャマルが解除した瞬間、まるで太陽と錯覚しかねない光量が全員の視界を埋め尽くす。
ユーノとザフィーラの張った広域防御魔法もシャマルによって増幅・強化されているにも関わらず、全てを塞ぎきる事は 出来なかった。その塞ぎきれない光弾が防御魔法を発動しているユーノとザフィーラに、また補助をしているシャマルに、そして!
魔法を発動させようとしていてその場から動けないクロノに、牙をむいて襲い掛かる!!


だが、


「へッ、そんな光弾、全てうち砕いてやるぜ!!」
「そうです。ユーノ君には一撃も当てさせません!!」


ユーノに降りかかる光弾は、ヴィータとなのはが――


「ザフィーラは魔法維持に専念しな! 露払いは私達にまかせとけ!!」
「うちが護るから、シャマルも頑張ってや! こんなの全然大したことあらへんで!!」


ザフィーラとシャマルに迫る光弾は、アルフとはやてが――


「クロノは自分の事だけに集中して!!」
「そうです。私達は貴方を信じています。ですから貴方も私達を信じてください!!」


クロノに襲い掛かる光弾は、フェイトとシグナムが持てる力を振り絞り防ぎきる!!


全員の力で得られた僅かな時間、クロノは全神経を集中し、切り札をオープンする。


「デュランダル。クラスターモード……ドライブッ!!」
『OK,Boss.Cluster Mode,――』


 クロノの掛け声の元、デュランダルのヘッド部分が伸びその中から緑色をした魔石が出現。
そして――


『――《Ignition》 !!』


 ――デュランダルの電子音と重なり、もう一つの電子音が高らかに響く。それは嘗てクロノが愛用していたS2Uの電子音。
二機の重なった電子音の後、緑色の魔石から2対の水色の魔力翼が出現し、緻密で且つ膨大な魔法を構築し始める。

 クラスターモード ―― 一つのストレージデバイスに2個の演算処理機能を乗せ、従来では得られない高い処理速度を
可能にするモード。これにより理論的には一機では不可能な魔法を可能に、もしくは時間が掛かる魔法を短時間で行使
出来るようになる。
 ただ、このモードは言うなれば一人で二台のコンピュータを同時に操作するようなもの。並の魔導士では扱いきれないと云う
課題を抱えて実用化までには至っていなかった。だが、一人の男がこのモードの利点に着目し並々ならぬ努力を積んだ結果
欠点を跳ね返し使いこなす事に成功する。それがクロノだった。
 実験機で扱える事を実証したクロノは、このモードをデュランダルに採用する。ここで彼が二つ目の演算処理機能として
選んだのが長年使ってきた相棒のS2U。それを組み込み事により、今までは二機を交互に使っていたのが、一機でクロノ
が持つ全ての魔法を扱えるようになる。
 更に2機が組合わさる事で、今まで構想だけで実用化は無理だと思われていた魔法を使えるようにまで至った。

 その恩恵クラスターモードとこの6年間の鍛錬によって得られた能力ちからで行使するのは、詠唱破棄で発動出来る魔法。
ありとあらゆる物――原子核の運動や魔法の素となる魔力素そのものさえも止めて破壊する
エターナルコフィンを更に発展させた大魔法。
 チャージ時間を度外視すれば、正真正銘、破壊の為だけに使える、現時点に置いての氷結魔法の極み。


それが――


「滅せよッ!!」
『《Existence Denial》 !!』


 クロノと掛け声と二機の電子音と共に発動する大魔法。
その魔法は防衛体の全身の材質と体を構築しているプログラム、更には魔力素自体まで凍て付かせる!!

 直後、防衛体は砂礫のようにその身を崩壊させ始めていくのだった。







 だが、この時この場にいる誰も知る由は無かった。

防衛体の崩壊が、もう一つの崩壊の始まりを意味していると云う事を……。






――― Episode 06に続く…… ――― 




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 □ あとがき □

 貴重なお時間を使って読んで頂いた方、誠に有り難うございますm(__)m
今更になって人数を減らしておけば良かったかなと大反省。力量があればそれぞれにもっと活躍をさせられたのに、
ここいら辺りが私の限界でした……orz。
 後、作中に出てきた魔法やらデバイスやら突っ込み所は多数あると思われますが、
笑ってやり過ごして貰えると個人的には嬉しかったり……。

 取り敢えず、対防衛体戦は一旦終了。そして次話は――。

では、次回もよろしければ読んで頂けると嬉しいです。時の番人でした。