作戦開始 15分前 アースラ艦内会議室


「――では、作戦の詳細を説明していく。まず、攻略に対してだが、戦力を分散させずに一丸で行って貰う」


 クロノは、実働部隊に向かってそう切り出した。すると、その中から疑問というかむしろ不満の声が挙がった。


「クロノ、それはあまり効率が良くねぇんじゃないの? 分散させた方がちゃっちゃと終わると思うんだけど」


 発生元は、ヴィータからだった。
確かに彼女が言う事も一理はある。実の処、クロノの中にもそのヴィジョンはあった。何せ、実働部隊の殆どがAAAクラス
以上で構成されているのだ。それを考えれば、分散させた方が効率よく的確に攻略できるかもしれない。
だが――


「情報が不足している中では分散は拙い。もしかしたら、敵の中には今までに遭遇した事がない特殊能力≠持つ輩も
 いるかも知れない。もし、分散した皆の内の誰かが遭遇し窮地に立たされた場合、この広範囲だ。
 助けが間に合わない可能性もある」
「あ……そっか。不安要素は出来るだけない方が良いもんな」
「確かに、クロノ提督の言う通りだな。すると、次の問題は攻略の際における陣形の方か」


 ヴィータの言葉に同意したシグナムは、次の事案をクロノに問い掛ける。


「ああ、その通りだ。だが……君にはもう陣形が見えているのではないのかな?」
「朧気ながら。まあ確認だがな」
「全く……」


 クロノはやれやれといった素振りを見せる。
これまで幾千の戦場を潜り抜け、守護騎士の将として指揮してきたシグナムにとって、クロノが一丸で行くというプランを提示
してきた時点で、このメンバーを使った際における、おおよその陣形とその配置を予測するのは容易な事だった。
そして、クロノにとってもシグナムに予測されるのは想定の範囲であった。


「陣形はどこから攻め込まれても対処できるように円形を基本とする。配置的には最内になのはとはやてを置き、最外には
 フェイト、シグナム、ヴィータを。そして、最内と最外の間にはアルフ、ユーノ、ザフィーラ、シャマルに一定の間隔で
 ついて貰う。尤も、空中戦がメインとなるから立体的になるのは当然だがな」
「つまり、はやてちゃんとなのはちゃんを惑星に例えると私達は衛星のように動くという事ですよね?」
「ああ、そう言う事だ」


 シグナムはクロノが示した陣形と配置に、全くの異論はなかった。自分が予測したものと寸分違わずに
一致していたからだ。そして、他の面々もその配置とシャマルとクロノの問答によりその陣形に於いて、各々がすべき事が
何なのか、はっきりと自覚することが出来ていた。


「あの〜、クロノさんはどうなさるのです?」
「当面は艦橋から随時指揮を出す。尤も、状況を見て場合によっては途中参戦をするつもりでいる。
 ……尤も、そうならない状況であるに越した事はないんだがな」
「そうなんですか、分かりましたです!」


 リインの質問にそう答えたクロノ。かつて就いていた執務官なら別だが、提督という立場上、おいそれと艦を離れる訳にも
行かないのが実情だ。尤も、現場がそれすらも許されない状況になるのであれば話は別になる。


「さて、話を続けるぞ。次に具体的な攻略に関してだが――」









魔法少女リリカルなのは_Ewig Fessel
Episode 04:Notfall - 異変









『――逐一攻略だなんて、まどろっこしいな〜』
『そんな事言わないの、アルフ。クロノも言っていたじゃない、挟み撃ちに合うと拙い≠チて』
『そりゃそうだけどさ……』


 蕾擬きから千二百メートル弱の距離、方位的に見て西側の位置に各々のバリアジャケット及び騎士甲冑に身を包んだ
実働部隊が地上から百メートルの地点で、作戦通りの配置で、つかず離れずの距離で佇んでいた。
 配置的には、なのはとはやてを中心としてその前にユーノ、更にその前にシグナム。左側にアルフとその左斜め後方に
フェイトが。右側にシャマルとその右斜め後方にヴィータ。最後に後方にザフィーラが待機している状態だった。
勿論、各自の準備は完了しており、はやても既にリインと融合し、その証として、瞳と髪の色が変化している。
 実は今回、作戦行動を行うに当たって念話を使う際、一々接続や切断の手間を省く為、実働部隊及びアースラ艦内に
限り、基本的にオープンチャンネルで行えるようにしている。その為、どれだけ距離が離れていても念話が滞りなく
使用出来るようになっていた。また、念話の制御はアースラが行っていてくれる為、実働部隊は然したる魔力を消費すること
なく会話が出来るようになっている。ただ、最終確認も兼ねて、不具合がないか全員が念話を用いての会話でテストを
している最中だった。
 そんな中で、アルフは攻略手順に於いて多少の不満を漏らしたところ、フェイトに聞かれてしまい窘められている処だった。

 クロノが立案した作戦はこうだ。
一気に転送可能地点まで送った際、8体のAAAランク相当を相手に戦いながら、魔力値ランク的に見れば自分たちと比べ
劣っているとは言え、数で勝る敵に行動を阻害されれば最悪、誰かが命を落としかねない危険性が出てくる。
ましてや、総合的な強さは魔力値の大きさだけで決まる訳ではないのだ。もしかしたら魔力値的には格下でも思わぬ力を
発揮する敵もいるかも知れない。会議でも出たが、不安要素は出来るだけ無くさなければいけない。その為の攻略法が
【外側からの逐一の殲滅】 だった。


『にしても、静かすぎてつまんねーな……』
『そんな事言ったらあかんで、ヴィータ。……まあその気持ちも分からんでもないけどな。結界内に進入したモノが、
 排除されたり結界から出てしまうと隠れてしまう事のがこのシステムの特徴やさかい、こちらからのアクションがない限り
 何にも起こらへんから』


 ヴィータとはやても含めた、実働部隊の目の前には、一面の荒野と大きなクレーターになっている抉れた地表が
何処までも広がっているだけで、虫の音一つとして聞こえてこない。
 そんな静寂の世界で、今回の封印対象であるロストロギアだけが事静かに鎮座している。


『そう言えば、ユーノ君のバリアジャケット、久しぶりに見たけど……ちょっと変わりましたか?』
『……まあね、とは言えほんのちょっとだよ』


 シャマルの問いにユーノは振り返ることなく、苦笑しながらそう答えた。
ユーノは本格的に無限書庫に勤めだしてからというもの、その職務柄、実戦というものからは遠ざかる形となった。
そのお陰で現場に赴く回数というのは激減し、平行してバリアジャケットを纏う回数も減っていった。
更にはシャマルを含め守護騎士達は肩書き上、「特別捜査官補佐」という役職を持っている為に、ユーノと会うのは
現場以外というのが殆ど故、ユーノのバリアジャケット姿を見るのは本当に久しぶりだったのだ。

 ユーノの言う通り、外見上は色、形とも6年前と比べ然したる変化はない。ただ、半袖・半ズボンだった部分が
長袖とパンツという出で立ちになっただけ。ただ、ちょっと違う所と言えば右手首にはめている細いブレスレッドである。
それは表面に幾何学模様が刻み込まれ、銀色の光沢を放っていた。


『ユーノ君、それってデバイスなん?』
『そんな大層なもんじゃないよ、ただ、装着者の魔法出力を僅かばかり増幅してくれるだけのアミュレット』
『そうなんか。でも、綺麗な腕輪やね』
『そう? ありがとう、はやて』
『いいえ、どう致し……』
『はやて?』


 突然はやてからの念話が来なくなり何事かと思ったユーノは後ろを振り向こうとしたが、


『な、なんでもない。気にせんといて!! それにもう少しで任務が始まるやさかい、無駄話はあまりせんほうがいいで!!』
『そ、そう。わ、分かった』


 はやてのあまりの慌てっぷりに疑問が無かった訳ではないのだが、彼女の言う通り振り向くのは止めて、
前――蕾擬きを見据える。……背中に妙なプレッシャーを感じつつ。



 はやてが念話を止めたのは、自分の横にいるなのはが原因だった。
当然ながら、先程のはやてとユーノの会話はなのはにも聞こえている。昨日までのなのはだったら、何も感じなかったかも
しれない。しかし、自分の想いに気付いた今は違っていた。正直言えば面白くなかったのだ。二人が楽しく話しているのが。
 尤もなのは本人はその感情を隠しているつもりだったが、そこは恋する乙女と言うべきか。
無意識にはやてにプレッシャーをかけてしまっていたらしく、それをはやてが敏感にも察知してしまった。
そのあまりのプレッシャーに、はやては一瞬言葉を失ってしまったのだ。


(うぅ……、なのはちゃんがこんなに怖いとは思わんかった。まだ冷や汗が残っとるなぁ……)


 そんな事が自分の後ろで起こっていたとは露知らず、シグナムは最終確認も含めてアースラにいるクロノに連絡を取る。


『どうやら、念話には問題がないようだ。後は、過去の事例と同じように復活してこない事を祈るだけか、クロノ提督』
『ああ、そうだ。というか、そうなって貰わなければ困る』


 ユーノが見つけた文献から、この手のシステムは一度防衛ラインの敵を排除されると半日は復活出来ないという記載があり
それに賭けたのだ。もし駄目な場合は、最悪撤退も致し方ないとクロノは考えている。


『さて、聞くまでもないと思うが……皆準備は出来ているな? 重ねて言うが、敵への攻撃は全て殺傷設定
 で行ってもらう』


 クロノの確認に全員が完了と了承の意を返す。準備を怠っている者や覚悟のない者などこの場に於いて誰もいなかった。


『……では、第一次ラインに進入してくれ!』


 クロノの号令の下、実働部隊は陣形を保ったまま、シグナムを先頭にして一斉に第一次ラインに進入を開始する。
直後、進入した空間に、会議の中で見た機械人形達が実働部隊を取り囲むように次々と現れる。
その数、全部で六十四体!!




 ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― 




「まさか、一斉に出てくるとは思わなかったな。だが、かえって好都合だ。一気に殲滅出来る!!」


 アースラの艦橋にて、クロノは眼前に展開されいるメインモニターを注視している。
そこには実働部隊と一定の距離をとりつつ取り囲んでいる機械人形達が映し出されていた。


「エイミィ、何か変わった事は起きていないか?」
「大丈夫! 今の処資料通りの数の出現を確認。それ以外の出現反応はないよ!!」
「分かった。引き続き周辺空域の監視とデータの収集を頼む」
「了解!」


 手早く手元のコンソールを操作し、クロノの要求通りの処理をこなしていくエイミィ。
今のところ予定通り進んでいるとは言え、予断が許されない状況の中、僅かな変化も逃すまいと艦内にもたらされる
様々な観測データを逐次比較・検討し、艦橋にいるクロノにそのデータを送る。
 クロノもそのデータを受け取りながら何時でも出撃出来るようにか、デバイスの待機状態であるカードを握りしめていた。




 ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― 




『囲まれた……ね』


 フェイトは自分たちの周囲に浮遊する機械人形達を目にしてそう呟いた。
機械人形達の形状はどれ一つとして異なっているもは無かったが、ボディの色と手に持つ獲物が異なっていた。
 配色的には、赤、黄、緑、そして黒の4色。そして、手に持つ武装は剣、弓、盾そして無手の4種類という装備だった。


『風景的には壮観≠ニ言うべきだろうが、ここで手こずる訳にもいくまい。余計な体力や魔力、そしてカートリッジの使用は
 避けるべきだ』
『確かにザフィーラの言うとおりやね。敵さんもいつまでも待ってくれんみたいやし……。そんじゃ、行こうか……!』


 はやての念話が戦闘開始の引き金となった。まるで申し合わせたかのように戦場が動き始める!!


『ヴィータ、テスタロッサ、そして、高町なのは! カートリッジの扱い方を誤るなよ!!』
『言われなくても分かっているよ! っく、うっせーな私達のリーダーは……!』
『勿論、大丈夫だよ、シグナム!!』
『私もOKだよ、シグナムさん!!』


 敵が迫る中、三者三様の返事がシグナムに返ってくる。
シグナムを含めて4人が扱うカートリッジシステム。カートリッジ行使の際には、使用する魔法に応じてその数を装填し、
デバイス及び使用者に供給、空になった薬莢を排出というプロセスを踏まなければいけない。だが戦闘に置いて幾つかの
問題点を抱えているのも事実だった。保有数が少なくリロードの隙が多いレバンティンとグラーフアイゼン、
そして一発ずつしか装填できない為、大魔法を行使するに当たって排莢の際に時間とそれに伴う隙が生じる、
レイジングハートとバルディッシュ。無論、所有者もデバイス自身もそのことは知った上で、扱っているわけだが
戦闘に置いて隙は出来るだけ少ないに越した事はないのも事実。そこで考え出され試行錯誤の末実装されたのが
排莢を伴わず、一度に任意の魔力を供給出来、且つ保有魔力を増やす≠ニいう【無薬莢式システム】だった。

 レヴァンティンとグラーフアイゼンの場合、それぞれの武器の持ち手である柄尻から魔力が蓄積された一本の筒を装填する
システムを採用し、一回の装填で今までの場合と比較し、9発分の魔力量を確保する事ができた。又、レイジングハートと
バルディッシュに於いては、マガジンとスピードローダーと同型の魔力蓄積機をはめ込む事で使用可能となり、従来の倍に
当たる12発分を保有出来るようになった。だが、それ故に僅かなミスがデバイスの破損や所有者への致命的なダーメジに
つながる為、これまで以上に所有者とデバイスの精密で繊細な魔力制御が要求される。だが、4人と4機は見事にそれを
克服し、是まで以上の戦闘力を発揮する事が出来るようになったのだ。


「『作戦通り、私とヴィータ、テスタロッサで出来るだけの敵を排除する! 洩れた敵の排除は後方に任せる!』
 いくぞ、レヴァンティン!!」
『Stellungwinde. 』


 一発分の魔力を使い、炎を纏うレヴァンティンを上段に携えたシグナムは、機械人形達に向かいその灼熱の剣を振るい、
また、フェイトも同様に一発分をロード。数に重点を置き自分の前にフォトンスフィアを16個展開し、


「こっちも行くよ、バルデイッシュッ!!」
『Photon lancer. 』
「ファイヤ……!!」


 ヴィータは左手の指と指の間に挟んでいるそれぞれ二個ずつ、計8個の小さな鉄球を小さく放り投げ、瞬時に
握りこぶし大程の大きさに変化した鉄球は、グラーフアイゼンの打撃とヴィータの魔力を得て、


「ぶちのめしてこい、グラーフアイゼンっ!!」
『Schwalbefliegen.』


 巨大な炎の剣閃が、雷を纏いし16本の槍が、8個の紅き弾丸が驚異的な加速と魔力を伴い
迫り来る機械人形達に向かい撃ち出された!!




 ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― 




「前衛の攻撃、全て命中!」


 メインモニターには、3人が放った攻撃魔法が全て命中し、それにより発生した魔力濃霧に機械人形達が覆われている
映像が映し出されている。AAAクラス以上の術者が放った攻撃。データ通りの敵ならば数多くの敵を粉砕していても
可笑しくない程の攻撃だ。実際、この映像を見ている艦内の人間の殆どは、この攻撃により何割かの敵を排除出来たはず
と思っていた。

 だが、


「回避、もしくは防御魔法を展開しろっ!!」
「え? ク、クロノ君!?」


 只一人、クロノだけは違っていた。
シグナム達の攻撃が機械人形達に当たった瞬間、言いようのない不安が彼の胸中を過ぎった。
言ってしまえばカン≠ナある。だが、今まで培ってきた経験がクロノに言ってくる。

何かが来る≠ニ。




 ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― 




『回避、もしくは防御魔法を展開しろっ!!』


 突如として、実働部隊全員にクロノの念話が叩きつけられる形で送られてきた。
その直後!


「なにっ!?」


 シグナムが叫ぶ!!
 魔力濃霧の中からの16本の魔力を帯びた矢が飛び出し、前衛のシグナム達だけでなく、その後方にいる仲間に向かって
飛翔してきたのだ!! だが幸いにも、全ての矢は最内にいるなのはやはやての下に届く事はなく、その前に何とか全て
叩き落とし、または防御魔法でくい止める事が出来た。
 しかし、


「これがAAクラスが放つ攻撃だって? 冗談じゃない、それ以上じゃんかよ!!」


 アルフは攻撃が放たれた場所を凝視し、そう言い放つ。
そして、魔力濃霧が晴れて視界に入ってきたのは、


「全て健在……だと!」


 自分たちを取り囲む、六十四体の機械人形達だった!! ザフィーラを始め、他の面々もこの光景は信じがたかった。
機械人形達は、盾を持つ緑色の機械人形が前方に出る形でその後ろに無手の黒色体。その上には弓を構えている
黄色体が。その下には剣を携えた赤色の機体が何時の間にか四機一組の隊形をとっていた。
 尤も、無傷という訳ではないようで、緑色の機体が持つ盾には無数のヒビが刻み込まれている。


『……どうやら、敵さんもフォーメーションを組んでいるみたいやね。クロノ君』
『ああ、こちらでも確認した。まったくもって良くない方向にばかり予測が当たる。どうやらその機械人形達はそれぞれの
 分野に特化している。奴らが持つ武具がそれを表している!』
『あの黒いのは? 何にも持っていないけど……あれも近接?』


 なのはの問いはある意味仕方がないと言えた。何故なら近くにザフィーラとアルフという例がある故に黒色体は徒手空拳を
主体とすると思っていたからだ。
 だが、それはこの敵には全く以て当て嵌まらなかった。


『あれは、補助≠ノ特化している事が先程のデータから判明している。奴らが健在なのと先程の予想外の攻撃力は、
 緑色の奴と黄色の奴に強化魔法≠加えて防御出力と攻撃力を増幅させたようだ』
『となると、まず狙うのは黒色と緑色の奴――補助と防御を扱う奴ですね』


 クロノの説明を受け、シャマルが皆に変わって返事をする。


『そうだ。だが、それは奴らも理解していると思って掛かっていかないといけない。
 恐らく、先程以上の抵抗があると見てくれ!』
『了解した。主はやて、そして高町なのは!!』
『何や、シグナム?』
『はい、何でしょうかシグナムさん!』
『我々前衛と、中盤のザフィーラとアルフの二人を使い可能な限り、先程挙がった2種類を倒します。その直後、
 二人の遠距離射撃魔法で一気に殲滅してください!!』
『了解や!』
『任されました!』


 シグナムの指示を受け、はやてとなのははそれぞれのデバイスを握り直す。


『スクライアとシャマルは主はやてと高町なのは、二人の援護に回ってくれ!』
『了解!』
『はい、きっちり護って見せます!』
『では……いくぞ!!』


 シグナムは鞘を召還し、目の前で水平に構えるとそれに刀身を納め、2発分の魔力量をロード。
1つはレヴァンティンの変態の為に。そしてもう一つは、その魔法に新たな特性を付加する為に!!


GiftschlangebeiBen Angriff毒蛇の噛み付き攻撃.』
「喰らうがいい!!」


 抜刀する形で鞘から抜くと同時に、レヴァンティンは50mは軽く越える連結刃に変態。
シグナムはその切っ先を一番近くにいる黒色の機体に向かって放つ!! 黒色の機体も狙いを看破し緑色の機体を強化、
防御出力を向上させるがそれを嘲笑うかのように連結刃は魔力障壁を突破し、黒色の機体の左脇に僅かな傷を残すと、
勢いそのままに次の黒色の機体に向かい飛んでいく。
 最終的にレヴァンティンは計6体の機械人形に僅かな傷跡を残した後、基本形体――シュベルトフォルムにその身を戻す。
レヴァンティンに斬り付けられた黒色の機械人形達。端から見てもその損傷は到底致命傷には見えなかった。だが……。


「動けまい、人形ども。毒蛇の攻撃を喰らった物は、例えかすり傷とて致命傷は避けられぬ!!」


 シグナムの言葉が合図となったのか。
斬り付けられた機械人形達は油が切れたかのように痙攣すると、突然地面に墜落しそのままピクリとも動かなくなった。


 GiftschlangebeiBen Angriff毒蛇の噛み付き攻撃
シグナムがミドルレンジで使う事が多いSchlangebeiBen Angriff≠ノ追加効果を付随した斬撃魔法。この攻撃を喰らった
物は、例えその傷が浅く小さくとも、そこからある毒≠ェ進入する。その毒≠ヘ、対象者のリンカーコア若しくは、
それに相当する部分を強制停止の状態にさせる事ができる。その結果、生物であれば昏睡状態に、機械であれば機能停止
を余儀なくされるのだ。
 それを防ぐには攻撃を喰らわないように避け続けるか、貫通力を上回る防御魔法を展開し弾き返すか、毒≠越える
魔力量をもってその効力を停止しさせる以外に方法は存在しない!!





 シグナムが魔法発動の構えに入ったのを見ていたヴィータは、


「シグナム、アレを使うのか……。なら私達も負けてらんねーな!」
『ja!』


 主であるヴィータの声を受け、相棒の長柄のハンマー ――グラーフアイゼンは力強い返事をすると同時に、主が求める
次の魔法を選択、そして発動準備に入る!


「さっきので砕けねえっていうんだったら、それ以上の奴を叩きつけるまでだっ!!」


 ヴィータは最初と同様に、左手の指と指の間に鉄球を1個ずつ挟み、空中に放り投げ、両手でグラーフアイゼンを持ち
振りかぶる。すると、放り投げられた鉄球は三角錐に変化し、底面部分を彼女の方に向け、回転をし始た!!


「グラーフアイゼン、魔力、ロード!!」
Wanderfalkefliegen飛翔する隼 !!.』


 ハンマーヘッドの片方が追加魔力を得て、推進剤噴射口に変態。ヴィータはそれから得られる圧倒的な加速力を自らの
振りに加えて目の前で回転をしている4個の三角錐を撃ち出した!
 先程までのSchwalbefliegen≠ニは違い、貫通力と速度をより強化したWanderfalkefliegen=B弾もさることながら
ヴィータの振りに加え、ロケット推進力の加重をも加味して撃ち出された攻撃は、強化された魔力障壁など物ともせずに、
4体の黒色の機械人形と2体の緑色の人形の破壊に成功する!





「数が多いからフォトンランサーにしたけど、あの防御を破って黒色の機械人形を破壊するには出し惜しみは無しだね。
 バルデイッシュ!!」
『Yes, sir. Plasma Lancer.get set !!』


 バルディッシュは主の意志を酌み取り、8個のプラズマスフィアを展開。同時にそれを取り囲む環状魔法陣が回転を始め
先程とは比べ物にならない雷を周囲にまき散らす。


「今度は破壊する! ……ファイアッ!!」


 フォトンランサーとは比べ物にならぬ魔力が込められた雷光は、定められた目標に飛来し文字通り粉砕≠キる。
そしてそれだけでは飽きたらず、盾を持つ緑色の機体も数体破壊して空の彼方へと消え去っていった。





『っく鬱陶しいね、この弓は!』
『全くだ、いい加減止んで欲しいものだな!!』


 アルフとザフィーラは前衛が攻撃準備をしている最中、彼女達に向かってくる攻撃魔法の類を持ち前の防御魔法や
拘束魔法を駆使して露払いをしていた。幾つかの流れ弾が自分たちの後方へ――はやてとなのはに向かっていくのも
あったがそれは無視した。
 彼女達の実力の高さもさることながら、二人には防御と補助のエキスパートがついているのだ。万が一にも被弾
する事はないと思っている。それよりも今すべきなのは前衛に降りかかる火の粉を振り払う事が先決だった。

そうしている中、前衛の攻撃準備が完了した。


『アルフ、退くぞ』
『あいよ!』


 二人が持ち場を離れると、紫の魔力光を纏いし毒蛇が、紅き4匹の隼が、8筋の雷光がそれぞれの目標物目掛けて
飛翔し、次々に対象物を破壊、若しくは活動不能に陥れていった。その数22体!


『よし、対象物全てと他数体の破壊・停止を確認した。これで強化される事はない! なのは、はやて、防御体ごと
 全てを破壊してくれ!!』
『了解や、クロノ君!』
『いっくよ〜。みんな下がって!』


 クロノの命令を受け、なのはとはやては互いに背を預ける格好で、既に準備が完了していた魔法を発動させようとする。
他の面々は、なのはの警告に従いラインを下げる。それを好機と見たのだろう。生き残った機械人形達は物凄いスピード
で実働部隊に肉薄してくる!!


「そうはさせへんで、リイン!」
『はい、マイスターはやて! Bloody Dagger!!』


 はやての意志を酌み取ったリインは、要求されている魔法を発動。蒼天の書が輝き出すと同時に、はやての周辺に
血の色をした鋼の短剣が次々に姿を現す。その数、二十一本。その一発一発が瞬時に機械人形達にロックオンされる!
 それを悟った機械人形達はその場から移動しようとするが――


「遅いで! 穿てっ!!」


 ――はやての号令の下に放たれた紅き短剣が、物凄い早さで次々と機械人形達に着弾し爆散する!!



「こっちも行くよ、レイジングハート!」
『All right.my master. 』


 なのはもアクセルモードのレイジングハートの先端を敵機に向けると、一発分の魔力をロード。
設定していた魔法を発動させる。


「アクセルシューターッ!」
『shoot!!』


 レイジングハートの先端から、桜色の21条の閃光が寸分の狂いもなく機械人形達に向かい撃ち出された!
盾を持っている生き残った緑色の機体は、残った力を振り絞り防御魔法を展開するが増幅されていないそれは紙にも等しく、
然したる抵抗も出来ないまま盾ごとその身を貫かれる。また、赤と黄の機械人形は何とか自分たちに向かってくる桜色の
球体から逃げようとするものの、なのはの驚異的な思念制御により逃げる事は敵わず、瞬く間にその身を打ち抜かれ
爆発する!



「これで、全部……かな?」


 なのはは、軽く深呼吸をしながら辺りを見渡し、そう呟く。


『おい、なのは……』
『何、ヴィータちゃん?』
『お前、誘導弾21個も操れたっけ?』
『何とかね、流石にこれだけの数だと精密にとはいかないけど操れるよ』
『………………』
『ヴィータちゃん?』
『……やっぱり、お前悪魔だな』


 ヴィータの辛辣な言葉を受け、空中にいるにも関わらずなのはは、前につんのめる格好となった。
だが、何とか踏みとどまり顔を上げるとヴィータの方を向きながら、両手をブンブンと振り猛抗議する。


『だ、誰が悪魔ですかーっ!!』
『だって……なあ。みんなもそう思わねーか?』
『…………………………………………』×9
『あーっ! みんなして非道いよっ!!』


 ヴィータの問い掛けに、誰もが口を閉じる。だが、それは肯定を意味するに他ならない。


『おい! 何をやっている! 艦橋にも会話は入っているんだから無駄口は控えろ!!』


 最初のラインを攻略し終え、安堵感があったのも否めなかった。それ故に場が少し弛んできたのだが、
クロノの叱咤により、再び全員に緊張感が戻る。


『まだ、第一次ラインを突破に過ぎない。まだまだこの先は長い。只でさえ予定とは違ってきているんだ。
 気を抜くのは、当分先だ!!』


 クロノの言う通り、最初から予定通りに進んでいない事は事実。資料通りのデータならばこの第一次防衛ラインの
突破には、然したる時間も掛からず、又魔力もそれほど消費することなく終わるはずだった。それが始まってみれば、どうだ。
予定の倍以上の時間と、魔力を費やした事実は、この先の攻略に大きな不安要素を残してしまっていた。


『だからといって、ここで立ち止まっている訳にもいかない。先に進む以外に手はないよ、クロノ』
『……そうだな、ユーノの言う通りだな。……では、再び準備が整い次第次のラインに入ってくれ!!』


 クロノの言葉を受け、互いに然したる怪我も無い事を確認すると、実働部隊は第二次ラインに向けて
移動を始めるのだった。






 ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― 




 なのは達が第一次ラインを攻略し終えようとしていた時、距離にして千百メートル程離れた場所。管理局の技術ですら
スキャン出来なかった蕾擬きの内部で少しずつ異変が起きつつあった。その内部は外見の小ささとは裏腹に、野球場程の
広さを持つ漆黒の亜空間が存在し、その中心には二十重もの結界で封じられている何かしらの物体が静かに鎮座している。
 その結界で封じられた物体の周囲に、幾つもの光が生じ、光はある物を形成していく。それはディスプレイだった。
ディスプレイは全部で13枚。封印物の上に出現した100インチほどのが一枚。そして物体を取り囲むように出現した凡そ
40インチのディスプレイが12枚だった。
 その12枚のディスプレイには、先程実働部隊が戦っていた状況が映し出されている物もあれば、実働部隊一人一人の
映像と各種データが逐一表示されているものまで多種多様に渡っている。そして、なのはの誘導弾で全ての機械人形達が
破壊された時、12枚のディスプレイは今まで映していた映像を切り、全てが同じ文字列をその画面に表示していく!!


《危険、危険、危険》
《警告、警告、警告》
《異常、異常、異常》



 暫くすると12枚のディスプレイは、表示している文字列を消し、更なる文字列を表示する。



《敵強大により、最終防衛システムが突破される確率、95%以上!!》
《現・最終防衛システムを破棄! 新・最終防衛システムの構築を開始!!》
《最終防衛システム構築に要する時間……10分!!》
《第二、三次ラインのシステム変更を完了!!》



 すると、それを受けてか、封印物の上に表示されている巨大なディスプレイにとある映像が映し出される。
それは黒い点を中心に6本の円が描かれているもの。ただ、黒点から5本目までの線が白いのに、何故か最外の線だけが
赤く染まっていた。
 その映像が表示されて数瞬後、黒点を取り囲む円に動きがあった。まず外から2番目と3番目の線の色が白から黒色
に変化。その後、内側にあった3本の線が黒点に吸収される形で消えていった。
そして、再び映像が切り替わり代わりにディスプレイに映し出されたのは、巨大な体躯を持つ物体だった。
新たに表示された物体はゆっくりと画面上で回転を始め、一回転ごとにその体躯を禍々しく変化させていった。

 暫くするとその映像は消え、最後に映し出されたのはたった一つの巨大な文字列だった。






《厄災を世に解き放ってはいけない》




 と。






――― Episode 05に続く…… ――― 




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 □ あとがき □
貴重なお時間を使って読んで頂いた方、誠に有り難うございますm(__)m
……何というか自己嫌悪に陥っている時の番人です。この全員を動かそうとする戦闘で己が未熟さを痛感させられた
次第です。動いているようで動いていないとうのが現状……。それでも何とか書き上げ、楷書した物のこれが精一杯。
お目汚しになってしまった方、誠に申し訳ありませんでした。
 さて、戦闘は次話で一応、お……(以下自粛)。

では、次回もよろしければ読んで頂けると嬉しいです。時の番人でした。