管理局時間14:45 巡航艦アースラ艦内 艦長室 「全く人使いが荒いよ、クロノは」 「そう言うな、ユーノ。状況が変わったのだからしょうがないだろう」 アースラ艦内にある艦長室にて二人の男が会話をしている。 互いの手元には、厚さにして5cm程度の資料が置かれていた。 「これで、全部か。結構あるな」 「ああ、取り敢えず検索条件にヒットしたものを全て持ってきたからね。もうちょっと時間があれば 絞り込めたんだろうけど……」 「その点については、こちらとしても言い訳が出来ない。毎度の事とは言え、ロストロギア関係は厄介だ」 ユーノが持ってきたのは今回の任務に関しての追加の資料だった。 昨晩も、何とか激務を終え寝床に着こうとした矢先にクロノから今回の任務に関しての通信があった。 参加する事事態にはなんら文句はない……というか携わるメンバーを聞いて、むしろ嬉しかったのだが、任務に当たっての 資料検索の要求を受けた時には流石にげんなりした。量がとてつもなく半端でなかったからだ。でも、なのはの為なら≠ニ 何とか期日まで資料を揃えたのだが、出航2時間前に、クロノから追加の要求があったのだ。 流石に要求があった時、抗議したのだが、その後にもたらされたデータを見てそうは言っていられなくなったのだ。 それ故に、出来うる限りの資料をかき集めたのだ。ただ、時間がなく集められた資料をデジタル化するまでには至らなく、 コピーを取るだけで精一杯だった。 その膨大な資料を、クロノは物凄い早さで目を通している。 「読んで貰っているから分かると思うけど、流石に発見されたモノ≠ノ関しては有効なものは殆どないと言っていい。 ただ、それに連なる現象≠ノ関しては、一つだけ酷似した現象があったのが見つかった」 「それだけ見つけてもらえただけでも、大助かりだ。ふむ……にしても、厄介だなこの現象≠ヘ。そんなに このモノ≠ヘ重要なのか?」 「そう……なんだろうね。こんな現象≠配置しているぐらいだし。見つかった文献にも何かを護る為≠ニいった表記が あったし。でも、何を護っていたか≠ワでは、どこにも記載されていない。だからと言う訳じゃないけど 今回も、その資料通り行くとは限らないから、最大限の現象≠想定しておかないと」 「言われるまでもない。……何はともあれ、取れる手段は何時も通りという事か」 「そうだね、使用目的の分からないものは封印≠キる以外に手段はないから。尤も、封印に行き着くまでが 大変そうなんだけど」 ユーノは手元にある資料――調査報告書と今回持ってきた資料を捲りながら溜息をつく。 「今思うとこのメンバーを集められて良かったと思っているよ。レティ提督には感謝だな」 「確かに。結果オーライってとこ……かな、クロノ」 「そうだな……よし、一通り目を通したが、やはりというか発見されたモノ≠ノ関してはないか…………っと」 クロノは一通り資料に目を通した後、一度整えようとした時、一枚の資料がクロノの手から放れ床に落ちる。 それは一つの写真とそれに対する説明が載っているものだった。 「これは、旧世界であった――=B何故こんな処に……」 「ほんとだ。多分、部下に頼んで検索して貰ったものが混じったんだと思う。これは、自分が検索したのにはなかったから。 そんな物、今回とは何も関連性が無いだろうし……」 「成る程、な。まだまだ部下は君に及ばない……と言う事か。まあ、それに――≠ヘ既に無いと言われているしな」 そう言って、――≠ェ載った資料は元に戻され、ユーノに手渡された。 気付けば、出航5分前を指している。 「そろそろか。僕は一度ブリッジに行かなければいけない。ユーノ、君はどうする? 会議までもう少し時間があるが」 「出来れば、もう一回この資料を見直したい。可能性は低いが何か見つかるかも知れないし」 「そうか、では頼む。この部屋での検索魔法使用の許可を出しておく。終わった資料は机の一番上の引出に 入れて置いてくれ。後、その資料をエイミィの下にも送ってくれ。デジタル化して貰って会議に使えるように こちらから指示を出しておく」 クロノはユーノに告げると、艦長室から出てブリッジへと向かう。出航の後、実働メンバーを含めての会議が 予定されているが、それは出航から5分後だ。別にこのまま会議室に向かって待っていても構わないのだが、 今は少しでも情報が欲しかったので、残りの時間を検索に当てようとユーノは考えた。 「さて……と、魔法使用の許可も下りた事だし、もう一度洗い出ししますか」 ユーノは検索魔法を起動し、直ぐさま持ってきた資料に眼を通しては見たが、やはりというか真新しいものはなく、 ただ時間が経過したに過ぎなかった。しかし、終了後ユーノは一つの資料が気になった。 先程、床に落ちた一枚の資料である。理由は分からない。けど何か引っかかるものがあった。 何故? 今回とは関係ないはずなのに、何故……。 いわれのない不安に囚われようとした矢先、出航を告げる艦内放送が流れる。 「っとそろそろ時間か。……まあ、気のせいだよな」 ユーノは自分にそう言い聞かせ、指定された場所に資料を終うと、足早に艦長室を出た。 先程感じた不安を払拭するかのように……。
魔法少女リリカルなのは_Ewig Fessel
Episode 03:Versprechen - 約束 管理局時間15:04 巡航艦アースラ艦内 会議室 これから行われる任務についての打ち合わせを行う為、会議室に設けられている中心がくり抜かれた長円型の長机に 実働メンバーを含めた主なクルーが集まっていた。配置的には長机の両端に艦長のクロノ、管制指令のエイミィが座り、 クロノから見て左側に特別捜査官のはやてとそれを補佐するシグナム、シャマル、ヴィータ、ザフィーラが、 そして右側に執務官のフェイトに使い魔のアルフ、無限書庫司書長のユーノ、そして武装隊戦技教導官のなのはという 管理局でも屈指の11名の局員が、予め用意された椅子に座り会議の始まりを待つ。 「こら、リイン! 私と替われ!!」 「いやです〜。マイスターの膝の上は私の指定席です。ヴィータお姉ちゃんには譲れません!」 訂正。はやての両膝の上に乗っかり抱っこされている空色の長髪を持つ少女――リインフォースを入れて総勢12名 が会議室にて待機している。 「まあまあ、ヴィータもリインも喧嘩はダメやで。ヴィータは次にしてあげるさかい、今回は我慢せな」 「……わかった。私はお姉ちゃんだからな。今回は譲ってやる」 通常、会議前ともなれば大なり小なりの差はあれ、緊張感という物は存在するものなのだがこの場に置いては それは当て嵌まらなかった。先程までのヴィータとリインの言い争いがまさにそれ。知ったメンバーというのも手伝ってか この場に緊張の欠片は微塵もない。尤も、その光景はとても微笑ましくていいのだが、この場にいるリインフォースと ヴィータ、そして一人の少年を除く全員は、それよりも一人の少女の行動が気になってしょうがなかった。 その少女は、自分の左側に座っている少年の横顔をチラチラと盗み見しながら頬を赤く染めているなのはだった。 『どないしたんやろ、なのはちゃん』 『確かに……変だよね。もしかして、なのは――』 『――ユーノ君への恋心を自覚したのかしら』 『『えぇーー!!』』 念話で会話するはやて、フェイト、シャマルの3人の女達。その表情は何故か嬉々としていた。 それもそうだろう。話題が親友や仲間の恋話となれば盛り上がらない訳がない。 『でも、何があったんやろか? 学校で別れてからそう時間が経っとらへんのに』 『そうだよね、端から見ていればバレていたんだけど、こんなあからさまなのはは見た事がないし……』 はやてとフェイトの脳裏に、これまでなのはがユーノといる時の数々の光景が思い浮かんで来る。 確かに、なのははユーノと一緒にいる時や会話をしている時にはとても嬉しそうにしていた。が、今自分たちが目にしている ようななのはは、これまで一度たりとて見た事がない。 一体何があったというのか? 疑問は尽きなかった。 『エイミィさんは何か知っているんですか?』 シャマルの念話がなのはの隣にいたエイミィに飛ぶ。はやてとフェイトも念話に釣られてエイミィの方を向く。 すると、エイミィがなのはを暖かい視線で見ていた。それを見てはやてもフェイトもシャマルも気付く。 エイミィが何かを知っていると言う事に。 『え、何が?』 『とぼけないでください。なのはちゃんのソレについてです』 『あ、やっぱり気付いちゃう』 『やっぱりそうなのエイミィ?』 『何があったんや、エイミィさん?』 『フェイトちゃんとはやてちゃんも混ざってたの!? まあ、気になっちゃうのもしょうがないか……。 結論から言えば3人の思っている通りだよ。ただ、そこに至るまでの経緯にについてはちょっと言えないな。 なのはちゃんとの約束もあるしね。だから、私から言えるのは此処まで。後は見守ってあげて、ね』 エイミィにそう言われ、3人は黙るしかなかった。確かに聞きたい事は色々あった。が、最終的には色恋沙汰は 当人達の問題であり、あれこれ言って良いものでもない事も知っている。それに、今までやきもきしていたなのはの心に 進展があったのだ。なら、後はエイミィの言うとおり見守るのが良いのかも知れない。 そう思い、なのはがチラチラと見ている少年――ユーノの方を見ると、彼は会議の資料の最終チェックに余念が無く 幸か不幸か、なのはの視線に気付く気配は無く黙々と作業を続けていた。 「ユーノ、資料のチェックは終わったか?」 「ああ、もう少しで終わる……よし、終わった! ……??」 クロノから声を掛けられたユーノは資料から目を離すと、ふと右側からの視線を感じそちらの方を向く。 すると、隣にいるなのはと視線があった。それはもう、ばっちりと。すると、なのはの顔が瞬く間に朱色に染まる。 「な、な、な、何でもないよ! 何でも!! うん、そう、何でもないから!!」 両手を目の前で何度も交差させ、狼狽するなのは。良く見れば、指先まで桜色に染まっていた。 事情を知る者や察している者は生暖かい視線で、知らない者は奇異な視線でなのはを見ている。尤も当のなのはは それらの視線に気付く余裕などは微塵も無く、ただただ狼狽するばかり。 そんななのはに対し、ユーノは心配になる。顔も赤いし、具合が悪いのではないか……と。 「大丈夫、なのは? 顔も赤いし、熱でもあるんじゃないの?」 そういって、ユーノは少し近づき、自分の右手の掌をなのはの額に添えた。そのユーノ行動は、純粋になのはを心配 しての行動であり、それ故に自然な動作であった為、なのはは然したる抵抗も出来なかった。 「あ…………」 会議室に、ポンッという音が響いた……ようになのは以外の全員が聞いた気がした。音が発生したと思われる地点には、 それはもう、熟したリンゴ? いや、熟したトマトか? いやいや、それすらも裸足で逃げ出すというくらいに、 なのはの顔、否全身はこれ以上ない程に真っ赤に染め上がっていた。 「な、なのは? ど、どうしたの?」 「…………」 なのははユーノの問いに答えられなかった。思考の殆どが完全に麻痺してしまっている。それでも、なのははある意味 最後の意志で、何とか自分の右手の人差し指を、自分の額に添えられているユーノの右手に指し示した。 それを見たユーノは、数瞬の逡巡の後、自分がしている事にやっと気付く。 好きな子の肌に触れているという事実に。 「うわわーー! ご、ごめん、なのは! けして、そんなつもりじゃ! と、兎に角ご免っ!!」 なのは程ではないにしろ、ユーノもまた真っ赤になりながら、慌てて席から立ち上がると同時に、自分の右手を なのはの額から離す。が、出来たのはそこまでだった。立ち上がった際に、顔を真っ赤にしているなのはの上目遣い の視線と合い、ユーノもまた頭の中が真っ白になりつつあった。 本人達にそのつもりがなくても、端から見れば、その光景は二人が見つめ合っているに他ならない。 『うわ〜、なんや見てるこっちの方が恥ずかしいわ』 『もう、二人の世界って奴かな。これは』 『ん〜、なのはちゃんもユーノ君も可愛いです♪』 はやて、フェイト、シャマルは念話でユーノとなのは、二人の状態について話し合っていた。どうやら、まだ念話は 切っていなかったらしい。これが日常の一コマならば微笑ましいの一言で済むのだろうが、仮にも今はロストロギア関連の 任務の真っ最中であり、時間も限られている中では、流石のクロノもこれ以上の容認は出来なく、僅かばかりに語気を強めて場を締める。 「そろそろ、会議を始めたいのだが……。皆、いいか?」 その一言で、先程までの穏やかな空気が一変し、程良い緊張感が会議室の中に生まれ、それによりなのはも何とか 我に返る事が出来た。それでも、未だになのはの顔は赤く、動悸は激しかったが、何とかユーノには大丈夫と伝えると、 艦長であるクロノの方を向く。 同様にユーノも何とか我を取り戻し、急いで席に座り直すと、気恥ずかしさから逃れるかのように、慌ててクロノの方に 向き直った。それを見て他のメンバーもクロノの方に向き直り次のクロノの発言を待つ。 「……よし、只今より今回の任務の詳細を説明する。各自、目の前のディスプレイを見てくれ。エイミィ、データの表示を頼む」 「了解!」 エイミィは手早くキーボードを操作すると、各自の前にあるディスプレイに一つの映像が映し出される。 「なんだいこりゃ?」 「花の蕾……のようにに見えるな」 アルフとシグナムが揃って口に出す。 映像の中心には、深くえぐられた地表からまるで生えるように出ている一つの真っ黒な物体があった。 それは、まるで花の蕾のような形のように見えなくもない。だが、本当に蕾だとはここにいる誰の目から見ても思えなかった。 「まあ、そう見えるだろうが、遠距離から調査してみた限りでは、全体が何かの金属で出来ている事は判明している。 物体の大きさは各自に行っているから見て貰えば分かると思うが、それ以外の事は分かっていない。スキャンしてみたが 未知の金属らしくて、中が空洞かそうでないかも分からないし、さらに魔力値があるかどうかもその金属のせいで 検知できないときている」 そういうと、クロノは手元にある一つのキーを操作する。すると、三次元画像が、長円型のテーブルの中央に映し出され クルクルと回り始める。 「大きさで言えば、主の世界のもので例えるなら……バスケットボール程か。しかし、これの何処に危険性があるというのだ。 それに、先程のハラオウン提督の発言にもあったが、何故遠距離からしか調査できなかったのだ?」 ザフィーラの発言は尤もだった。それは、此処にいるクロノ、エイミィ、ユーノを除く全員の疑問でもあった。 「君、いや君らの疑問は尤もだ。それは後で説明していくとして、その物体がある場所――我々が向かっているところから 説明する。ユーノ、頼む」 「分かった。みんな、これを見てくれ」 ユーノの操作で、各自のディスプレイには一つの惑星が映し出される。 地表は赤っぽく、とても人が住んでいるようには見えなかった。 「この惑星(星)の名は、A.f.i=\―アフィー≠ニ呼ばれていて、文化レベル的には‘0’、尚かつ微生物を除いては他の 生物も生息していない処。しかし、ここは希少金属が取れる所で、最近発掘が盛んに行われている資源惑星 なんだ。でも、発掘されている希少金属は地中深くにあるのが多く、発掘の際には特殊な爆弾を使って、半径一キロ、 深さ五百メートルに渡って土砂を一気に吹っ飛ばしてから探査するのが通例とされているんだ。 で、先日の発掘の際に発見されたのが、今、皆が眼にしてもらっている奴なんだけど……」 ユーノは一旦話を区切り、映像を切り替える。すると一種の機械人形が映し出される。表面の色の違いを除けば 全く同じ形体であり、大きさにして平均的な成人男性程だ。 「蕾擬きが、地表に出てきて、何事かと発掘員達が近づこうとした所、その映像に映っている機械人形が六十四体、 物体を護るかのように空間から出現し、近づいてきた発掘員達に襲ってきたんたんだ。幸いにして発掘員達は 何とか逃げ切る事が出来、怪我はなかったんだけど、出現した機械人形のせいで、発掘作業は一時中止。 その後、管理局に調査及び撤去の依頼が来たんだけど、色々と合って近寄る事が出来なくて 僕たちに任務が来たっていう訳なんだ」 「そうだったんですか。でも、何でこれ程のメンバーが集められたんです? このデータを見ると魔力値がAAなんですから、 数は多いですけど、フェイトちゃん達とクロノさんだけで十分に対処できたんじゃないんですか? まあ、私はみんなと久しぶりに一緒になれて嬉しいから、文句があるわけじゃないんですけど……」 シャマルの疑問は至極当然といえた。しかし、立案当初の真実を説明する訳にもいかなかったし、この後に伝えなければ いけない内容もあり、クロノはこう告げた。 「確かにシャマルの言うとおりなんだが、レティ提督の計らいでね、一種の保険だと思ってくれると助かる。……と二時間前 ならそう答えられたんだけど……な」 「何か、あったんだな、クロノ提督」 「ああ、その通りだシグナム。皆、これを見てくれ」 クロノはそう言うと、手元のキーを操作しデータを表示する。すると、先程まで映っていた機械人形が消え、 変わりに映し出されたのが、全長十メートルはあろうかという―― 「うわ〜、怪獣ですぅ〜。マイスター、大きいです♪ ……あれ? みんなどうしたんです?」 リインフォースの場違いな程の明るい声に、大なり小なりの差はあれど、場にいる皆が机に突っ伏していた。 流石にはやてはリインフォースを抱っこしているので出来なかったが、なければ皆と同じように突っ伏していたのは 想像に難くなかった。 「……はやて」 「あはは……、堪忍してやクロノ君。この通りや」 「???」 クロノは持ち前の精神力を駆使して、何とか顔を上げるとはやての顔を半ば睨むように見る。それに対し、はやては 引きつった表情をする他はなく、リインに至っては訳が分からず首を傾げている。 「まあいい……、リイン。少し黙っていてくれ、頼む」 これ以上話の腰を折られては堪ったものではなく、クロノはリインフォースにそう頼み込むと、リインフォースは 「分かりましたです」と言い、じっとはやての前にあるディスプレイの映像を見ている。 「……では、改めて説明する。その映像は、念の為にと、二時間前に無人の探査機を蕾擬きの物体近くに転送した時の 映像だ。その探査機もその映像を本局に送信した直後に破壊されてしまったのだが、問題は計測されたそいつの 魔力値なんだ」 「AAA? 何かの間違いじゃないのクロノ?」 「僕もそう思いたいよ、フェイト。だが、真実だ。しかも映像には映ってないが、これを含めて八体の出現が データ上、確認されている」 「成る程な、保険がそうではなくなった……と言う事か」 「ああ、ザフィーラの言うとおりだ。それと、もう一つ告げなくてはいけない事がある」 「何やの、クロノ君?」 「それ以上のランクが出てくる可能性もあり得る……という事なんだ」 絶句――まさに、その言葉がこの場を説明するのにふさわしい言葉だった。と同時に疑問も生まれる。 何故、そんな事が予測できるのかという事だ。そんな疑問を受けて、ユーノが答えた。 「その理由は、これなんだ。皆見て欲しい」 中央に表示された、物体の三次元画像を取り囲む形で6本の白い線が引かれる。まるで等圧線のように。 「ユーノ、何だよこの線は?」 「これは、さっき見つかったばかりなんだけど、過去の文献にあった防衛システムの資料なんだよ。 今回のと酷似しているんだ」 ヴィータの言葉を受け、ユーノが説明を続ける。 「この資料によると、護るべきものを中心に半径千二百メートルの不可視の結界のようなものを張り、そこに進入した敵を 排除するものが主なシステムだ。そして、その線は二百メートル間隔で引かれていて、防衛ラインのような役割を果たし ている。そして、その線に接触する度により強い敵が出てくるという仕組みになっているんだ。で、さっきの怪獣が出てきた ポイントがこの資料と照らし合わせてみると、物体から計って3本目、機械人形の出現ポイントは最外の6番目の距離と 見事に符合している。つまり、残りの2本の線はこの資料通りに、順当に行けば――」 「――AAA+とS−が出てくるというのが妥当だ……というのが僕とユーノの見解だ。更に言えば、3番目の線以降の 空間――蕾擬きから半径六百メートル圏内は,ご丁寧に転送をキャンセルするという付加効果もある事が資料にも 書かれているし、それは、実証もされている。何故なら、探査機は物体の目の前に座標設定していたにも関わらず、 キャンセルされ3番目の線上に転送されたんだからな」 改めて突き付けられた予測――いや恐らくほぼ確実だといってもいい内容に全員が押し黙る。 「ただ、唯一の救いなのが、近づく程に出てくる敵の数は少なくなる事らしい。あくまで……資料通りなら、だが」 「確かに鵜呑みにはできないだろうが、ここまで類似点が揃っているのだ。それに賭けるしかあるまい。 それに、これだけのメンバーが揃っているのだ。失敗するはずがない! それで、クロノ提督。具体的な作戦は――」 シグナムの発言を受け、クロノは今考えている作戦プランの幾つかを実働部隊に提示する。 会議は、情報の整理から具体的な作戦へと移行しつつあった……。
――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ―――
「――では、この作戦で行きたいと思う。いいな」 あれから、十分程が経ち今回の任務の作戦が決定された頃には、任務開始となる惑星――アフィー≠フ衛星軌道上 への到着予定まで残り5分を切っていた処だった。そして、クロノの最終確認の後、実働部隊はトランスポートでの待機と バリアジャケット及び騎士甲冑の着装が命じられる。 『ねえ、ユーノ君……』 『ん、何、なのは?』 会議室から出て大人数を一気に転送できるトランスポートに向かう途中、なのはは勇気を振り絞り自分の横を歩いている ユーノに念話で声を掛ける。どうしても言いたい事――いや、聞いておきたい事があった。 『えっと……ね、このお仕事が終わったら……聞いて欲しい事があるんだ……』 『聞いて欲しい事?』 『うん。……それでね、仕事が終わった後ユーノ君、時間……ある?』 なのはは恐る恐る、ユーノに尋ねる。怖くて、そして恥ずかしくてユーノの顔を見る事が出来なく、なのはは前を向いたまま 少し俯き加減で返事を待つ。この時のなのはの心臓は今までにないくらいの速度で鼓動を刻んでいる。 ちらっとユーノの方を向くと、彼はとても柔らかな微笑みをなのはに向けていた。その微笑みを見て なのはの心臓はより一際脈打つ。 『うん、この仕事が終われば予定が入っていないから大丈夫だよ、なのは』 『ほんと!?』 なのはは嬉しかった。まだ想いは告げてはいないけど、それに繋がる約束をとれた事が単純に嬉しかった。 自然に頬がゆるむのが分かる。気が付けば、先程まであった急な鼓動は影を潜め、変わりに何とも言えない温かみが 胸一杯に広がる。 こういうのを幸せ≠ニいうのだろうか。 『どんなお話をしてくれるのか分からないけど、楽しみにしているね』 『あ……う、うん』 その時に告げる内容を考え、再びなのはの心臓が急な鼓動を刻む。鏡を見なくても分かる。絶対に真っ赤になっていると 思う。それをユーノに見られないようにとなのはは再び前を向く。すると―― 「なにやってんだよ、なのは、ユーノ。他の皆はもう準備できてるぜ」 ――なのはとユーノを除く他の全員が、既にトランスポーターで転送を待っている状態でなのは達を見ていた。 どうやら、話し掛けた時から歩く速度が遅くなっていた事をこの時初めてなのはとユーノは気付く。そして、声を掛けた 人物――ヴィータは不機嫌な表情で二人を見ていた。「何時まで待たせるんだ」というのがありありと見て取れる。 が、その他の面々は妙に生暖かい視線で二人を見ている。特に、フェイト、はやて、シャマルは何かを聞きたくて うずうずしているようにも見えた。 ……つまり、 (今までの、見られていたの?) そういう事である。さっきとは別の意味でなのはは恥ずかしくなる。だが、そんな事とは露知らず、 一人の少女が無慈悲な言葉を発する。 「なのはさん、嬉しそうな顔してました」 「な……!、リ、リインちゃん!?」 当然、言葉を発したリインフォースに悪気というのは一切無い。ただ、見て感じた事を言ったに過ぎない。 だから、それでなのはが何故狼狽しているのか分からず、首を傾げキョトンとしているだけだった。 しかし、そのリインフォースの発言はなのはに追求するには、充分すぎる切っ掛けになった。 『なのは、何ユーノと話していたの?』 『そやそや、私にも教えてな。めっちゃ嬉しそうな顔してたで』 『確かに、はやてちゃんの言うとおりですね。とても幸せそうなお顔をされていましたよ』 親友や仲間から次々に飛んでくる念話での質問に、なのはの脳は加熱しすぎて思考が麻痺してしまっていた。 だから、気付く余裕さえなかった。ユーノもまた顔を赤らめていたという事に。 「何をしているんだ! なのは、ユーノ。早くトランスポートに入ってくれないと転送の準備ができない!」 突然、叱咤の声がなのはとユーノの後方から響く。振り返ってみると何時の間に出来たのか空間モニターが出現し そこにはブリッジにいるクロノが映っていた。クロノは最初、歩くスピードが遅くなった時点でなのはとユーノに注意 しようとしていた。が、エイミィに窘められ我慢をしていた。確かに、クロノもなのはとユーノを応援したいという気持ちはある。 しかし、任務の開始時間も迫っていた事もあり、これ以上の寛容はできなかった。 けど、なのはにとって、否ユーノにとってもクロノの叱咤は有り難かった。この場を切り抜ける事が出来る 天の声にも等しかったからだ。だが、これに不満な者達もいる訳で、当然の如くクロノに不満を言いたくなったのだが、 「任務が早めに切り上がれば、この後君たちには何の任務もない。事後処理はこちらでやるから任務を最優先にしてくれ」 とのクロノの言葉で、思い止まる。普通は任務が終われば事後処理――レポートの提出等がある。 だが、それをクロノが肩代わりしてくれるというのは魅力的な話だった。尤も、クロノからしてみれば仕事が倍以上に増えて 肉体的に大変な事には違いがなかったが、あそこで提示しなければ義妹を始めとした女性陣の追求があるのは 過去の経験則から必至で、それによってもたらされるであろう精神的疲労が、肉体的疲労で回避で来るのであれば 安いものだった。 こうして、トランスポーターには現場に赴く実働部隊――フェイトとアルフ、はやてとリーンフォースと守護騎士、 そして、なのはとユーノの計10人が配置された事が確認され、その数瞬後、トランスポーターは光に包まれ 全員が現場へと転送された。
そして、運命の幕が上がる……
――― Episode 04に続く…… ―――
小説欄 TOPに戻る □ あとがき □ 貴重なお時間を使って読んで頂いた方、誠に有り難うございますm(__)m リインのはやて以外の呼称は色々探したんですが、なかったようなので脳内設定でこのように相成りました。 いや、末っ子という言葉がサウンドステージ03であったから、こういうのもありかな……と。 抵抗ある方もいらっしゃるかとは思われますが、何卒、ご勘弁の程を……。 ……ちなみに、ザフィーラへの呼称は『お兄ちゃん』で行こうかな……と。 では、次回もよろしければ読んで頂けると嬉しいです。時の番人でした。 |