「はあ……、疲れた〜」 お風呂から上がり、寝間着に着替えた私は倒れ込むようにベッドへとダイブする。程良いスプリングの弾力が 心地よかった。今日は本局でいつも通りの業務――武装局員の方々への戦闘指導だけの筈だったのに。 何処をどう間違えたのか、想定外の出来事が発生してしまった。そのせいで疲れが抜けてくれないのだ。 「何でシグナムさんとの模擬戦に発展しちゃうかな」 今日の訓練で、近接攻撃に対しての対処法を武装局員の方々に学んで貰う為、特別講師としてシグナムさんを 呼んだのが運の尽きだったのだろうか。カリキュラム通りに訓練が終わり、最後に今後の参考にと言う事でシグナムさんから 演武の申し出があった。私も武装隊の皆が強くなる為に必要なら、と思い引き受けたのだが、 気が付いてみればお互いに程良くヒートアップしてしまい、何時の間にか実戦さながらの模擬戦に発展してしまっていた。 とは言っても、結界が通常のモノだったから互いにそれなりの手加減をしてはいたんだけど、 終わった後、何故か武装局員の方達が、私達を戦々恐々とした眼差しで見ていたのが非常に気になっています……。 そんなにシグナムさんが怖かったのだろうか? そんな取り留めない事を考えていると、己が半身といっても差し支えない愛杖――今は待機状態のレイジングハートが 小さく反応した。何かしらの音声メッセージが届いた連絡だった。 通常、連絡の多くは自分の携帯に直通かメールでくるのだけど、盗聴を防止する為か、レイジングハートに直接来る場合は 任務に関する事が多い。 案の定、記録されている音声メッセージは次の任務を示唆する物であった。詳しい事を聞く為にレイジングハートに 再生許可を出すと聞き慣れた声が心に聞こえてくる。 『時空管理局提督、クロノ・ハラオウンだ。明日行われる、指定遺失物回収の任務の辞令が君に下りた。 集合場所は本局、出航時間は現地時間で15:00だ。その時間に遅れないように来てくれ。具体的な内容については 明日こちらに来てもらってから詳しく説明する。最後に今回の任務に携わるメンバーは――』 参加メンバーを聞いて、私は驚いた。と同時に嬉しくもあった。何故なら任務とは云え、皆と久しぶりに一緒に なれるからだ。学校で会えるフェイトちゃんやはやてちゃん以外の皆とは、此処最近お互いの部署が違うせいで 一緒になる機会が少なかったから。 そして何より、 「ユーノ君とも久しぶりに会えるな〜。ここ2週間、ろくに話も出来なかったし……」 此処の処、無限書庫はどこからも引っ張りだこな状況にあった。そして、司書長として全体を管轄するユーノ君は、 休まる暇がなく連日連夜だという事をエイミィさんから聞いている。私も局の方と自分の世界とを行ったり来たりで 互いの時間が合わず、ここ2週間は連絡を取れてもメールだけだった。でも、明日任務とは云え久しぶりに会える。 その事に、私は何故か嬉しさを隠しきれないでいた。 「会ったら、色々お話したいな」 明日の事を考えながら、私はいつの間にか深い眠りへと落ちていった……。
魔法少女リリカルなのは_Ewig Fessel
Episode 02:Selbstbewusstsein - 自覚 「――それにしても、なのは達も大変よね」 「ほんとだよね。休日も何もないんだもんね、なのはちゃん達は」 お昼休み、屋上でいつものメンバー――アリサちゃん、すずかちゃん、フェイトちゃん、はやてちゃん、 そして私の5人で昼食を取りつつ談笑をしていた。程なくして昼食も終わり、各自のお弁当箱を片づけた頃から話題は 私を含めてフェイトちゃんとはやてちゃんも招集が掛かっている今回の任務についての話になっていた。 勿論、詳しい話が出来ないのはいつもの事なんだけど、6年前に起きた【闇の書事件】が切っ掛けで、 私たちの事を知ってもらってからは、話せる範囲ではきちんとお話をしている。今回も集合時間の関係もあって、 午後の授業は早退しなければいけない事を既に伝えている。 「という事で、アリサちゃん。誠に、申し訳ないんですけど」 「分かってるって。今回もコピーしやすいノートをとってあげるから! 勿論、フェイトとはやての分もばっちりと。ね、すずか」 「うん、だから安心して行って来てね」 「にゃはは……、ありがとうアリサちゃん、すずかちゃん」 「ありがとう、アリサ、すずか」 「おおきにな、アリサちゃん、すずかちゃん」 口々に感謝の言葉を述べる私たち。ほんと良い友達に恵まれたと思っている。 彼女達のおかげで局のお仕事と学業を両立できているといっても過言ではなかった。 「それにしても、今回は珍しいわね。3人が一緒のお仕事なんて」 不意にアリサちゃんが呟く。確かにそう思われても不思議ではなかった。私たちは時空管理局に勤めてはいるものの 基本的に3人の仕事が違う為、一緒に出向くという事が少ないのも事実なのだ。ましてや今回のように全員が揃うというのは ほんとに珍しい事であった。 「そやな、うちの子達も全員一緒やし。なにするんやろ?」 「そうだね、アルフも一緒だし。このメンバーを揃えるなんて普通はあり得ないし……」 「まあ、行けば分かるって言うんだから今考えてもしょうがないんじゃない?」 アリサちゃんの尤もな言葉に、私たち3人は頷く。確かにここで話し合ったって答えなんか出ない訳で。 「それに、これだけのメンバーだったら何も心配する事はないんじゃないかな?」 「確かに、すずかの言うとおりだね」 「そやな、何も心配する事あらへんな」 これまた、すずかちゃんの言葉に頷く私たち。よくよく考えればこれだけのメンバーが揃うのは6年前に戦った 闇の書の防衛プログラム以来だし、あれ程の相手は今までなかったし、それにあの頃から比べれば私たちも 強くなっているから、何も心配は要らないのかも知れない。 「でも、久しぶりに皆と会えるから楽しみだな」 任務とは分かっていても、ほんとに楽しみだった。そう思って口に出すと共に私の心の中では 一人の人物が思い浮かんでくる。その人物の事を考えようとした時、ある方向から妙な視線を感じた。 そして、その方向に振り向いた時、私は見てしまった。アリサちゃんの表情がなにやら意地の悪い表情になっていた事を。 まるで獲物を見つけた猫のようなアリサちゃんの視線が私を捉える。 何か嫌な予感をヒシヒシと感じます……。 「えっと、何でしょう……アリサちゃん?」 背中に流れる冷や汗せを感じつつ尋ね返すと、待ってましたと言わんばかりにアリサちゃんは開口一番。 「なのはの場合、”皆”じゃなくて”ユーノ”と会えるのが楽しみなんじゃないの〜?」 と宣ってくれました。 良く見れば、何時の間にやら、他の3人もなにやら興味深そうに私の方をみています。 「ち、違うよう〜。そ、そりゃユーノ君と会えるのはたのし……じゃなくて! と、兎も角そんなんじゃないから〜〜!!」 私は立ち上がり、両手をブンブン振りながらアリサちゃんの言葉を否定する。自分でも頬が熱くなっていくのが自覚できた。 恐らく真っ赤になっているに違いない。自分でも理由は分からないけど、最近ユーノ君の事でからかわれると 何故か取り乱してしまう自分がいる。それでも、いつもならこういう類の話はあの手この手で誤魔化しているのだが、 この時ばかりはギアの入れ方をどこか間違ってしまったらしく、空回りしている思考回路は一向に繋がる気配がなかった。 「まあまあ、なのはちゃん、落ち着いて。目立っているよ」 「ふぇ……、あわわわ……」 すずかちゃん言われ、はたっと我に返り周りを見渡してみると、私たちと同じ様に屋上で昼食を摂っている生徒達が 何事かと私達――正確には私の方をじっと見ている。その視線から逃れるように、私は慌てて座り直そうとしたのだが――、 「で、どうなのよ。実の処ユーノとは?」 ――座る事すらも許してくれないらしく、間髪入れずにアリサちゃんは質問してくる。この状態になってしまった アリサちゃんを止める術は私にはなく、援軍も他の3人を見る限りとても期待できそうにない。 というかこのままだと、むしろアリサちゃんの援軍になりそうで怖い。 そんな孤立無援、四面楚歌ともいえる状況の中、救いの手は意外なところから現れた。 昼休みの終わりを告げる予鈴である。 普段はあまりいい気分がしない音も、この時ばかりは私にとって天使の鐘に聞こえた。 「あ、予鈴がなったね。この話はこれでお終い、ね? じゃあ、フェイトちゃん、はやてちゃん先に行って待ってるね」 「うぅ……、今日はこの辺で勘弁してあげるわ」 出来れば、永遠にやめて欲しいところだけど……無理なんだろうな。 私はアリサちゃんの言葉を聞きそう思いながら家路へと急いだ。
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「では、このようにお願い致します」 あの後、私は家に帰り戦技教導官用の制服に着替え直し本局へと出向いた。到着してみると当地時間で14:00を 指している。任務開始時間まで、まだ一時間もあったが早く出向いたのには理由があった。武装局員の方々への新たな 教導メニューの提出が私に課せられていたからだ。そして、上官に提出してチェックして貰い許可が下りたのが ついさっきである。 ただ、教導内容を見た上官が小声で、「ほんとに容赦がないな、高町戦技教導官は」と言っていたのが気になったのだけど、 ……普通の訓練内容だと思うんだけどな、あの程度は。 それしても、訂正を求められても大丈夫なように時間を取ってきたんだけど、思いの外すんなりと許可が下りて半ば 手持ちぶたさになってしまった。 「よし、時間が出来たし、ユーノ君のお手伝いに行って一緒にアースラに行こうっと」 無限書庫に到着して、ユーノ君の姿を探してみたが何処にも居なく、行き違いになったのかなと思って局員の方に 尋ねてみると司書長室で何かしらの書類整理をしている事を聞いたので行ってみる事にした。 ほどなくして司書長の部屋の前に着き、ドアをノックしようとした処、中からユーノ君の他に女性の声が聞こえてきた。 良く見れば、ドアは完全に閉まって居らず僅かばかり空いているのに気付く。 (あれ、この声は……) 耳に入ってくる女性の声には聞き覚えがあった。とは言っても特段親しいという訳でなく これまで何度かユーノ君のお手伝いしに行った時に、何度か挨拶を交わした程度の間柄なのだけど、何故か覚えていた。 悪いとは思いつつも、僅かな隙間からそっと中を覗いてみる。 通常、こういった部屋は入り口に対して持ち主が正面を向いている形にディスクが設置されていて、 用がある者は対峙する形になるので、入り口から見ても互いの表情を伺い知る事は出来ないのだが、 この時はそれは当て嵌まらなかった。 女性はユーノ君が座っている椅子の横に立ち、ユーノ君もまたその女性の方を向いて話していたからだ。 「手を煩わせて済まなかった。助かるよ」 「そ、そんな畏まらないでください。部下として当然の事をしたまでです!」 「謙遜することは無いよ。これだけ出来るのはそうはいないよ」 「あ、有り難うございます!」 何でもない、上司と部下との仕事上の会話のはずなのに、胸がチクンっと痛んだ。 気のせいだろうか、女性がとても嬉しそうな表情をして話しているのは……。 「あの……えっと、少し、お時間あります……か?」 「まあ、少しくらいなら。この後任務が入っているからそんなには取れないけど」 「そうですか、えっと……、実は、その……」 女性の声に緊張が混じっていくのが分かった。何かを決心したような顔をしていた。そして、数秒の沈黙の後、 女性は、どもりながらもはっきりとユーノ君に向かって言葉を発した。 「わ、私、す、スクライア司書長の事がす、好きなんです! 良ければ、お、お付き合いしていだだけませんか!!」 頭の中が真っ白になった。ドクンドクンと頭に心臓がうつちゃったみたいに、頭から直接心臓の音が聞こえてくるような 感覚に陥る。鼓動が鎮まらない。体はまるで目に見えない力で押さえられているように全くと言っていい程動かなかった。 「僕は――」 その声を聞き、一際大きい心音が私の頭に響く。と同時に体の硬直が解け、私は走り出した。理由は分からない。 でも何故かあの場所には居たくなかった。一秒でも早く一メートルでも遠くに離れたかった。
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自分でも何処をどう走ってきたのか分からない。気が付くと中央センターまで来ていた。 時計を見てみると、あの時から数分も経っていない。けど、私にとっては何時間も走っていたような感覚が残っている。 「なんで逃げ出しちゃったんだろう。何で……」 脳裏に先程の告白の場面が浮かんできた。消そうと思い何度も頭を振ってみるものの、消えるどころか逆に告白場面が より鮮明になっていき、脳裏に焼き付いて離れてくれない。 「あれ、なのはちゃん。どうしたの? こんな処で立ち往生なんかして」 「エイミィ……さん?」 背後から掛けられた声に一瞬驚き、振り返ってみるとそこにはクロノ君を補佐しているエイミィさんが立っていた。 すると、私の顔を見たエイミィさんが凄く驚いた表情をしているのに気付く。私の顔に何か付いているのだろうか? 「何があった、なのはちゃん? 何か今にも泣きそうな表情をしているけど……」 「いえ、別に……、な、何でもないです。何でも……」 言われて自分でもビックリした。まさかそんな表情になっているなんて。でも、心配掛けたくなくて 何とか自分なりに笑顔を取り繕って誤魔化そうとした。 「はあ……、クロノ君ならそれで納得するかも知れないけど、このエイミィさんは騙せないよ。 人に話す事で楽になるって事もあるし、私で良ければ聞いてあげる。まだ時間もあるし……どうかな?」 「…………お願いします」 私は少し迷った。自覚は無いが泣きそうな表情をしている理由は多分アレを見てからだと思う。 でも、何でそうなったのか分からない。そんな漠然的なものを話しても迷惑にはならないだろうか? けど、こんな気持ちのままで任務にあたって他の皆に迷惑を掛けるのも拙いと思い、聞いて貰う事を決心した。 「ん、それじゃあ一足先にアースラに行こうか。私の部屋なら誰かに聞かれる事もないしね」 エイミィさんの言葉に頷き、一緒にドッグに係留されているアースラに赴きそのままエイミィさんの部屋へと 直行した。部屋に着くと勧められるまま部屋の中央に置いてある席に座り、エイミィさんは机を挟んで 私に向き合う形で椅子に座った。 「それじゃあ、お話聞かせて貰おうかな? 勿論、話せる範囲で構わないからね」 「……はい」 それから私は、本局に来てからエイミィさんに会うまでの事を包み隠さず話した。 ユーノ君に会いに無限書庫に行った事。そこで、ユーノ君が告白される場面を目撃してしまった事。 そして、ユーノ君が告白に対し何か返事をしようとした時、何故か怖くなってその場から逃げてしまった事を正直に。 話している間も何故か胸が締め付けられるような痛みが幾度となく伴った。 その時に脳裏に思い浮かぶのは決まってあの告白の場面。 「なのはちゃん、はいこれ」 「え?」 「涙、拭かないと」 私の話を聞き終えたエイミィさんは私にハンカチを渡してくれた。この時初めて気付いた。自分が涙を流していた事に。 「ごめんね、辛い事思い出させちゃって。でもなのはちゃん、泣いている理由自分で分かる?」 首を二、三度横に振り、「わからない」と返事をする。今まで一度もこんな経験をした事がない。 知りたい。何故こんな気持ちになってしまうのか。その理由を。 「ねえなのはちゃん、クロノ君の事好き?」 いきなり何を聞いてくるのだろうと正直思った。今抱いている気持ちと何の関係があるのだろうかと。 でもエイミィさんの真摯な態度から私は思っている事を正直に話した。 「好きです、クロノ君は。優しいし、色々教えてくれるし」 「それは友達として?」 「はい、そうですけど……」 「じゃあ、ユーノ君の事はどう?」 「え……」 ユーノ君――6年前に偶然の出来事から出会い、これまで幾度となく私を助けて、そして支えてくれている優しい人。 彼と出会い私は魔法の事を知り、その力でフェイトちゃんと心を交わす事が出来、はやてちゃん達を救う事が出来た。 そして、正式に管理局に入局してからも色んな事を教えてくれて、事ある毎に私をサポートしてくれて、 いくら感謝してもしきれない程。そんなユーノ君に対して私は――。 「クロノ君のとは違うのは、自覚できたかな?」 「……はい」 クロノ君に対する好き≠ニユーノ君に対する好き≠ェ違う事は理解できた。けど、何が違うのかが分からない。 でもその疑問は、次にもたらされたエイミィさんの問い掛けであっという間に氷解することになる……。 「じゃあ、ユーノ君が他の娘と恋人同士≠ノなったら、祝福できる?」 想像した事もなかった。 【ユーノ君が他の娘と恋人同士≠ノなったら】――ユーノ君の優しさが、笑顔が、ユーノ君の全てが他の娘に向けられる。 その事を考えた時、出口のない迷路に閉じこめられていた私の想いは奔流となって一気に溢れ出した。 「……ない。出来ないです! だって、だって私は!!」 「私は?」 「私は、ユーノ君が好き! 大好きです!! 祝福なんて……出来ない!!」 自分で言って、ようやく分かった。何故あの告白の場から自分が逃げ出してしまったのか。 嫌だったのだ、怖かったのだ。ユーノ君が遠くに、私の処にではなく、他の娘の処に行ってしまうかもしれない という恐怖に耐えきれなかったのだ。 「分かったみたいだね、なのはちゃん」 「はい、……でも」 私がユーノ君に対してどう想っているか、はっきりと自覚する事が出来た。けど、遅かったのかも知れない。 だって、ユーノ君はもう―― 「大丈夫だって、心配する事ないよ」 「え? 私何も言って……」 「顔見ていれば分かるって。ユーノ君が告白を受けたかも知れない≠チて思っているでしょ?」 図星だった。同姓からみても可愛い娘だったし、あんな可愛い娘から告白されて嬉しくない訳ないだろうし……。 考えれば考える程、悪い方向に行ってしまう。 「しょうがない、ここはエイミィさんが一肌脱いであげましょう!」 「はい? 一体何を……?」 私が疑問に思っていると、エイミィさんは「いいから任せて、任せて」と言い、部屋にある通信端末をテーブルに持ってきて キーボードに指を走らせる。 「あ、なのはちゃん。音立てないでね?」 何故音を立てていけないのか分からなかったが、取り敢えず了承の意を示すとエイミィさんの指がキーを叩いた。 すると空間モニターが私に背を向けるような形で現れ…… 『何でしょうか、リミエッタ管制司令』 「!!??」 映し出されたのは今し方話題になっていて、そしてたった今自覚した、私の想い人、無限書庫・司書長こと、 ユーノ・スクライア、その人だった。 思わず声が出そうになったが、何とか両手で口を塞ぎ声なき声を飲み込む。 「ああ、別に畏まらなくてもいいから。プライベートな事だし」 『分かりました。それで、エイミィさん、どんな用件ですか?』 「ちょっと聞きたい事があって……今一人?」 『はい、そうですけど。何か? もしかして任務に関しての事ですか?』 「違うよ。ちょっと確認をね」 『確認? 一体なんですか?』 エイミィさんが何を聞こうとしているのかが分かった。不安と希望が入り交じる。 聞きたいけど聞きたくない、そんな気持ちに駆られてエイミィさんの方を見ると眼があった。 エイミィさんの眼は【大丈夫だよ】と言ってくれていた。私はそれを信じ、事の成り行きを見守る事を決意する。 「ユーノ君が告白されたって話♪」 『な、なんで知っているんですかぁ!?』 「あ、本当なんだ」 『うっ……』 背後にいるのでこちらからはユーノ君の表情を伺い知る事は出来ないが、何となく引きつった表情をしているのが 目に浮かび、私は思わず苦笑してしまった。 「偶然、現場をすれ違った友達がいてね。尤もその友達も仕事の途中だったからどうなったかまでは知らないって 言っていたけど……。で、どうしたの? 受け取ったの?」 『……答えなければ駄目ですか?』 「だめだよ。教えてくれないと皆に言っちゃいそうだな〜」 『……はあ、答えます。答えますから黙っていてください!』 「もっちろん!」 『ホントですよね? ………………断りましたよ、きちんと』 断った=\―その言葉を聞いただけで心が軽くなっていくのを感じる。 まだ、ユーノ君が誰のものにもなっていない事実が、ただただ嬉しかった。 『もう、通信切ります! ちゃんと答えたんですから黙っていてくださいね!!』 「あらら、怒らせちゃったかな? でも、良かったねなのはちゃん」 「……はい、有り難うございます」 空間モニターがなくなり、再びエイミィさんと向き合った私は感謝の言葉を述べる。 それを聞き、エイミィさんも満足そうに頷く。 「で、これからなのはちゃんはどうする? このままって訳にはいかないよね?」 「…………」 エイミィさんの言葉を聞き、私は頭を垂れる。エイミィさんが何を言いたいのかは分かっている。 このまま何もしなければ何時かまた、ユーノ君に告白する娘が出てくると思う。それに今回は断ったって言ってくれたけど、 次もそうなるとは限らない。ならどうすればいいか。答えは分かっている。でも、実行に移すのは躊躇われた。何故なら―― 「……なのはちゃんの気持ちも分かる。でも言わなければ何も始まらないよ。 確かに返事を聞くのは誰だって怖い。けど、何もしないで後悔するのは……もっと怖いよ」 はっとなって顔を上げると、エイミィさんは真剣さの中に優しさを秘めた眼で私を見ていてくれた。 「そうですよね……、言わなければ、恐れていたら、何も変わらないですよね」 自分に言い聞かせる様に言葉を紡ぐ。そして、決心した。自分の想いを告げる事を。 「エイミィさん」 「ん、何?」 「私、私……、このお仕事が終わったら、ユーノ君に告白します!」 「そっか、……うん、いい顔になったね、なのはちゃん。応援してるよ!」 「……有り難うございます」 今まであった心の靄は何時の間にか綺麗さっぱりなくなっていた。どうなるか分からないけど、 自分の気持ちに正直になってみようと思う。その為には、これから始まるお仕事をきちんとこなす事――。
――― Episode 03に続く…… ―――
小説欄 TOPに戻る □ あとがき □ 貴重なお時間を使って読んで頂けた方、誠に有り難うございますm(__)m 展開が強引と思われるかも知れませんが、流石にこれ以上は無理でした……。書く度に力量不足を痛感しています。 でもなのはに自覚して貰わないと話が進まないという罠orz。 では、次回もよろしければ読んで頂けると嬉しいです。時の番人でした。 |