魔法少女リリカルなのは_Ewig Fessel

 Episode 01:Heranschleichen Schritte - 忍び寄る足音










「…そこで、だ。先程送った暫定ロストロギアに関係する資料数点と、後日行われる裁判資料を
 今日中に――「おい、まて!」――、って何だ。まだ話の途中なのに」
「”何だ”じゃないだろ! そんな大量の検索、今日中に終わる訳ないだろうが!!」
「要求は、却下だ。こっちも立て込んでいるんだ、つべこべ言わず揃えてくれ」
「無茶言うな! 他の部署からの依頼だって半端じゃないんだぞ!」


 時空管理局の本局内にある超巨大データベース・『無限書庫』内にて、空間モニター越しに二人の男が言い争っていた。
言い争っているのは片や提督、もう一方は司書長という立派な肩書きを持つ人物達である。
 普通ならばこれ程の役職の人物達が言い争っているのだから、周囲から見れば『何事か』と思われるような光景だが、
ここの職員は皆、何事も無かったかのように各々の仕事をこなしていた。
つまり職員等にとって二人の言い争いは日常茶飯事に他ならない事を物語っていた。


「まあまあ、二人ともそう熱くならないで」


 二人の男達の会話が加熱していく中で、もう一個の空間モニターが現れ一人の女性が映し出される。


「エイミィ、僕は別に熱くはなっていない。熱くなっているのはユーノだけだ」
「そうさせているのは誰だ! 人をこき使うのもいい加減にしろ!!」


 毎度の事だが、クロノの要求は限度というものを知らない。
特に最近は可愛い義妹がめでたく執務官になったせいか、ユーノに要求してくる内容が半端でなくなってきていた。
尤も、クロノにしてみればユーノの能力・実力を知った上で要求しているのだけなのだが、
ユーノにしてみればたまったものではない。

 実の処、ユーノが無限書庫に勤めるまで、『無限書庫』は未整理のままだった。その為、必要な情報を短期間で探す事が
ほぼ不可能で、被害が広がってしまった事件が数多く存在していた。
 しかし、6年前に起きた『闇の書事件』を切っ掛けにユーノがここに勤め始めてから、それは一変する。
それまで本来ならチームを組んで年単位での調査と整理が必要だと言われてきたのを、彼が持ち前の検索能力
を駆使し陣頭指揮に立つ事によって調査・整理が行われてきた結果、僅か6年の間で無限書庫は本当の意味で、
データベースとしての機能を存分に発揮しつつあった。
 それ故に、様々な方面からの調査依頼が矢次の如く舞い込み、ユーノの仕事は減るどころか
逆に増加の一方を辿っているという有様になっていた……。


「という事で、後でデータを送るから宜しく」
「おい! クロノ!!」


 ユーノの言葉を待たずにクロノは一方的に通信を切った。そして間髪入れずにユーノの下にデータが送られてくる。


「ーーーっ!!」
「あははは……、ごめんねユーノ君  クロノ君!ダメだよ無茶言っちゃ


 わなわなと右拳を振るわせるユーノに、エイミィは謝りながらも側にいるであろうクロノに小言を言っている。
それを聞いて幾分留意が下がったのか、ユーノは一つ咳払いをした後、送られてきたデータに目を通し始めた。


「エイミィさん。今回の依頼の件に関しては了承しますけど、本日は打ち切りと伝えてください。
 流石にこれでは身が持ちませんよ」
「了解、伝えておくから。一日にこれだけの依頼がきていると流石にねぇ」


 エイミィは苦笑しつつもそう答た後に、空間モニターを閉じた。


「ハア……、さて……と、仕事を続けるか」


 ユーノは部下達に指示を出すと自分の作業に取りかかり始めた。
命じられた部下達はなにやら叫いているようだったが、半ば無視して広範囲の検索魔法を起動させる。
 足下にやや大きめの淡い緑色の魔法陣が発現し、ユーノが手をかざすと周囲の本棚に納められている幾つもの本が
まるで意志を持ったかの如くユーノの元へと集まり始める。
 そうして、集められた本から求められている資料を調べようとした矢先、念話がユーノの下に届いた。


『そういえば、ユーノ君』
『何です? もう仕事は受け付けません』
『やだな〜そんなんじゃないって、これは個人的な事』
『? 何です、改まって』


 エイミィから届いた念話に受け答えをしながら、次の資料を求めるべく検索にヒットした本を手元に寄せようとした処、


『なのはちゃんとは最近どう? 何か進展あったのかな〜?』
『!!??』


 普段のユーノならば、念話に答えつつの魔法発動程度のマルチタスクは何ら問題ではないのだが、エイミィの質問は
ユーノの集中力を乱す程の破壊力を持っていた。そして更にユーノにとって災難だったのは検索の最中だった事である。
一瞬の思考の乱れは魔法に大きく作用し、無作為に選ばれた数冊の本が
文字通り矢の如くユーノに向かって飛んできたのだ。


「うごっ!?」


 職員等は何事かと、奇音の発生地点に目をやると、そこには数冊の本の直撃を受けて苦悶するユーノの姿があった。


「スクライア司書長、何があったのです?!」
『ユーノ君?』


 一人の司書からは言葉で、エイミィから念話で同時に質問が飛んでくる。
取り敢えず、司書には何でもない事を伝えたてその場をやり過ごした。勿論司書だけでなく他の者も訝しげたが、
上に立つ者が『何ともない』と言えば、普通それ以上追求は出来ない訳で、皆自分の仕事へと戻っていった。


『えっと……、何があったのかな?』
『……本の襲撃を受けました』
『……大丈夫?』
『…………』


 沈黙に耐えられなかったのか、エイミィは只一言だけ言葉を発した。


『……ごめん』
『まあ、集中力乱した自分も悪いんですけど……、なのはとは何もありませんよほんと、何も……


 ガックリと肩をを落とし、そう答えるユーノの背中には哀愁が漂っていた。


『ファ、ファイトだよ、ユーノ君! お姉さんは応援しているからね!!』


 ユーノの言葉に何か感じる物が合ったのだろう。
エイミィはわざとらしく声を上げてユーノを励ましつつ、念話を切った。

 念話が切れた後、ユーノはため息にも似た苦笑を浮かべつつ、先程自分に向かって飛来し今は周囲に浮遊している
数冊の本を回収し閲覧を始めようとする。しかし、頭に思い浮かんで来るのはとある少女の事ばかりで
仕事は、一向に手が着かなかった。

 高町なのは――6年前に偶然の出来事から出会い、自分を変えてくれた少女。
彼女の真っ直ぐさと優しさに、自分はどれだけ救われてきたのかわからない。
最初は師として友人として、彼女をサポート出来ているだけで満足だった。
だが、何時からか自分が彼女に対し思慕の念を抱いている事に気付いてしまった。
切っ掛けは分からない。もしかしたら切っ掛けなんてものは無かったのかも知れない。だが、気付いてしまった。
それからと言うもの、彼女の何気ない仕草が気になったり些細な言動に心が動かされたりと
ある意味激動の日々を送ってきている。
そして、更に自分にとって運の悪い事に、なのはに対する思慕が本人以外に知られてしまった事である。
自分は隠してきたつもりだったのだが、周囲の友人達から見ればバレバレだったようで、なのはの居ない処でことある毎に
からかわれているという始末だった。


(エイミィさんに言ってなんだけど、流石にへこむな……)


   周囲にバレてからと言うもの、自分ではそれなりにアピールはしてきたつもりだった。
しかし、当の本人――なのはは他人の気持ちには敏感ながらも自分に向けられる好意には超が付く程の鈍感という性格
の持ち主だったせいで、今まで一向に気付いてはもらえないでいる。
 なら、直接言えば良いだろうと思われるがそれも躊躇われた。言ってしまって駄目だったら――と、
どうしても悪い方に考えがいってしまい現在へと至っている。


「兎も角、今は与えられた仕事をしないとな」


 頭の中で渦巻いている思考を振り払うかのように、ユーノは首を数回左右に振った後回収した本に軽く目を通した。
案の定、回収した本は依頼されているどの検索項目にも当てはまってはいなかった。しかし、


「どれも未整理の本ばかりだな。このまま返還するのも良くないし…しかたない。
 いずれは調べて整理しなければいけないんだ。今の内にしておくのも手だよな」


 そう思い、ユーノは本格的に本の閲覧を始める。
選択された数冊の本はユーノの周囲を取り囲みながら一定の方向に一定の速度で回り始めた。
そしてユーノは、両眼を瞑り回転している本へと意識を集中し、濁流のように流れ込んでくる膨大なデータを
一つ一つ、しっかりと受け止めていった。

 暫くして本の回転は止み、殆どの本は然るべき場所へと収められていく。
そう、ユーノの右手に残った一冊の本を除いては……だが。


(こんな魔法が実在していたのか……この本は危険だ。ここに置いていて良いものではない!!)


 その後、無限書庫内にあった一冊の本が秘密裏に遺失物管理班に送られ、
書かれている魔法は、即刻”禁呪”指定の扱いを受ける事になる。これにより、この魔法の存在は発見したユーノと
一部の者を除いて、誰も知る由はなかった……。











「まったく、君はどうしてそうなんだ?」


 本局内に設けられている提督専用の部屋の中で、壁に背中を預け右手を額に当てながら、
眼前で椅子に座りキーボードを操作している女性に問いただす。
問いただされた女性は此方に向き直ると、両手のひらを目の前で合わせ、「ごめんね〜」と謝ってはいる物の、
反省の色は全く持って見えてこなかった。


「だって、気になるじゃない。ユーノ君となのはちゃん、見ていて微笑ましいんだもの。クロノ君もそう思わない?」
「ハア……、全く君ときたら。今は仕事中だぞエイミィ!」
「あれ〜、その仕事中にユーノ君と言い争っていたのは誰だったかな〜」
「ぐっ、あれは……。っく分かったよ、さっきのは不問にする」


 こと言い争いに関しては、昔からクロノは全くと言って良い程エイミィにはかなわなかった。
それは、互いが提督と管制司令となった今でも変わる事はなく続いている。
……尤も、甚だクロノにとっては不本意極まりない事には違いなかったが。


「まあ、微笑ましくもあり歯痒くもあるんだけどね、あの二人は」
「ん? どういう事だ?」
「”どういう事”て気付かないの? あの二人を見ていて」
「??」


 クロノは本気で分からなかった。確かになのはとユーノは二人でいる時、楽しそうにしているのを何度も目にしている。
が、仲が良いなぐらいにしか思っていなかった。
まあ、ユーノの方がなのはに好意を抱いている事は何となくではあるが分かってはいたのだが……。

 その事をエイミィに言ったら、それはもう深い、深い溜息をつかれる。


「……まあ、クロノ君が鈍感であるのは、今更だけど」
「おい、それはどういう――「見ていてわからないの」――なにが?」
「なのはちゃんも、ユーノ君の事が好きだってことだよ」
「……そう、なのか?」


 立っているのも何なので、近くにある自分専用のディスクに座り、机に右肘を付け、
軽く握った右拳の上に右頬を乗せながら考えてはみたが、思い当たる節は一向に思い浮かばなかった。


「けど、なのはは誰と会ってもあの明るさだと思うのだが」
「んな訳、ないでしょ。そう思っているのは多分クロノ君だけ。まだなのはちゃんの方は自覚ないみたいだけど
 あの子、ユーノ君と話している時やユーノ君の話をする時は一際嬉しそうにするんだよ。
 端から見れば両想いなんだから、何か切っ掛けがあればな〜」
「だが、それは本人達の問題だろう? 俺たちがあれこれするのは良くないと思うぞ」
「そうなんだけどね……って、おろ?」


 会話の途中で何かに気付いたらしく、エイミィは手元のキーボードを操作し始めた。


「どうした、エイミィ?」
「通信が入っているみたい……あ、レティ提督からだ」
「急いで繋いでくれ、待たせるのも失礼だ」
「了解ー」


 慣れた手つきでキーボードを操作すると、クロノの眼前に魔法陣を伴った空間モニターが出現する。
数瞬後、空間モニターに見知った顔が映し出された。


「今、宜しいかしら。クロノ提督」
「問題ありません、レティ提督。如何様な用件ですか」
「先日発見された、未指定遺失物ロストロギアに関してです」


 それを聞き、クロノの顔つきはより引き締まったものへと変化する。


「初めて聞きます」
「それはしょうがないわ。ほんのついさっき発見の報告があったのだから」
「それで、何故私の処に?」
「実はそのロストロギアを回収しようとた隊から連絡が合ったんだけど――」


 話を聞いて、何故クロノの処に来たのか納得できた。というか納得せざる経なかった。


「――了解致しました。しかし、戦力が多少なりとも心許ないので他にある程度の実力者が欲しいところです。
 正直言って、フェイト執務官と使い魔のアルフだけでは……」
「ああ、その件については大丈夫! 必要な人材を確保したからね。今リストを送るから」


 先程までの真面目な口調から一転、レティ提督は何故か明るい口調に切り替わっていた。
そして、後で気付いた事だがこの時は知る由もなかった。この時から秘匿プライベート通信に切り替わっていたという事を。


「クロノ君、リストきたよ。ん〜どれどれ……、ああ、成る程!」
「何が”成る程”なんだ。……って、レティ提督!!」


 エイミィから渡されたリストを見て、クロノは驚く。
確かに、この人材ならば申し分がない。というかおつりが有り余るくらいにくる程だ。


「どうやら、気に入って頂けたみたいね。あの子達もここ暫く一緒になる事がなかったし。
 ……不謹慎かもしれないけど、ある意味良い機会だと思ってね。如何かしら?」
「では、……もう一人、人材を要望したいのですが宜しいでしょうか?」
「クロノ君?」


 確かに、先程のエイミィとの会話が無ければ、クロノは一つ返事で了承していたに違いない。
けど、知ってしまった今は少し違っていた。


「取り敢えず、言ってだけ貰えるかしら」
「はい、未知の遺失物ロストロギアですからそれなりのオブザーバーが必要かと思いまして……、
 スクライア司書長の同行も許可して頂きたいのですが」
「あ……私とした事がうっかりしていたわ。それにしてもビックリね。貴方も気付いていたなんて」
「”も”と言うと、レティ提督も知っていたのですか?」
「当たり前よ、アレをみて気付かない方がどうかしてるわ……ってどうしたの? 何か顔色が悪いみたいだけど」
「いえ、何でも……」


 レティ提督に悪気は、針の先端ほど微塵もない。
が、半ば【鈍感】と言われるにも等しくクロノには聞こえた。
更に、空間モニターの陰で、お腹を抱え必死に笑いを堪えているエイミィの姿がその思いを助長する。


「多分大丈夫だけど、彼の同行が決まったらまた連絡するわ。その後正式に辞令が下りると思うから、
 各メンバーに連絡、お願いね」


 程なくしてユーノの同行が許可された連絡を受けた後、クロノ提督が率いるアースラに『未指定遺失物ロストロギア回収』という
任務の辞令が下りる事になる。任務開始は明日。







 そして、運命の日まで……………………後一日。




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 □ あとがき □
ども、です。四苦八苦しながら書き上げた話。
自分でも”淡泊”というか纏まりに欠けているかなとは思ってます。改めて、文章を書く事の難しさを痛感した次第です。
後、提督位になると専用の部屋くらいあるかな……と思い書きましたけど、あるのだろうか?

では、ここまで読んで頂けてありがとうございます_(_^_)_

※タイトルって付けるの難しい……。