何時からか分からない。けど、気付いた時には自分の心に根付いていた感情。
正か負かと問われれば、間違いなく負≠ニ呼ばれるモノ。それはふとした瞬間、自分にこう語りかけてくる。

【自分は彼女達と、特に彼女≠ニは一体何なのだろうか?】

と。

10年前のある日、自分の不注意によって廻ってしまった運命という歯車。
その時に出会った少女――なのはとの出会いから劇的に変わったといっても過言ではない自分の人生。
色んな人物と出会い、色んな絆が増えていった。
友人も増え、天職とも呼べる職種にも就く事が出来、この10年で高い地位も与えられた。
他人から観れば、順風満帆と言われても可笑しくない道筋だ。
そう、他人から観れば。

自分も内なる声が聞こえるまではそう思っていた。
いや、今となって思えば、そう思いこんでいた≠セけだったのかも知れない。

だが、ある日、気付いてしまったのだ。

――【孤独】――

その言葉に。




――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ―――




「……ん」

通信を知らせるアラームに目が覚める。
辺りを見回すと周囲には堆く積まれた書類の山。その現実に意識が急速に覚醒していく。

どうやら眠っていたらしい。
かなりの疲れが体に蓄積されているらしく、自分の事ながら苦笑せざる得ない。
疲労を訴える体を無視し、アラームを鳴らしている通信に手を伸ばす。
表示者名は「クロノ・ハラオウン」。

(今度は一体何の請求だ? まったく……)

一瞬出るのを躊躇ったが、出ないと後でまた色々と五月蠅いので、仕方なく通話ボタンを押す。
出てきたのは、出来れば拝見したくない、間違いであって欲しいと思ってしまう人物 ―― クロノの顔だった。

「何? 先刻出した資料が最後だと思ってたんだけど、あれで纏められないの?」

僅かばかりの皮肉を込めて返す。
クロノは眉間に皺を刻みつつも、何事もなかったのかの様に言葉を発する。

……良く見れば額に青筋が浮かんでいたみたいだけど、気のせいだろう……と思いたい。

『ユーノ、お前は……。まあ、良い、今回は仕事の話じゃない。プライベートな事だ』
「何?」

クロノにしては珍しい事もあるもんだと内心思う。
しかし、一体何事なんだろう?

『いや、お前は一体何を用意しているのかと思ってな』
「……は?」

クロノが何を言っているのか分からなかった。
用意するとは一体何を? 
一方通行な言葉に会話が途切れた。

「は?≠チて聞いてないのか、なのはから?」

なのはから? 何を?
少なくとも、ここ二ヶ月ほど彼女とまともな会話をした記憶は自分にはない。
あったのとしても僅かな時間――5分も満たない中で行われた近況報告と呼べるもの。
それもなのはからの通信はなく、こちらから通信を入れた時によるもの。
その間に置いて、なのはから特別何かを聞いた訳でもないし、偶に来るメールでも特段それと云った事は書かれていなかったはずだ。
念の為にとここ最近のなのはからのメールを開こうとウインドウを開こうとしたが、

「今夜開かれる、旧機動六課の同窓会を兼ねたヴィヴィオの誕生日会の事なんだが――」

クロノの言葉がその行為を止めた。いや、止めさせたのだ。
自分が聞いてない事を知った時、クロノは驚き、そして戸惑っていた。

クロノの話に寄れば、この話は既に一ヶ月半前に旧機動六課のメンバーと旧アースラ組と呼ばれる顔なじみに
連絡が来ていたとの事。是非出席して貰いたいからスケジュールを調整して欲しいと早めの連絡があったと云う事。
クロノもフェイトからその旨を受け、この日の為にスケジュールを工面し時間を作った、と。
初耳も良いところだった。寝耳に水とは当にこの事。

自分だけが呼ばれなかった

その事実を感じた時、心の中の何かが<sシッとひび割れる音を確かに自分は聞いた。




――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ―――




「クロノとユーノ、未だ来てないの?」
「まだみたいやな。仕事でも立て込んでおるんやろうか?」

既にパーティの準備が終わりつつある会場で、フェイトとはやてはこの場に現れない二人を訝しんでいた。
会場には既に関係者が出揃っており、各自そこらで談笑をしている。
ただ、なのはは会場にはいなく、別室で今回の主役であるヴィヴィオのおめかしをしている真っ最中なのだが。

そうこうしている内に、会場にクロノが現れる。
やっと来たと思った二人だったが、おや? と首を傾げる。
おめでたく賑やかな会場の雰囲気とは裏腹にクロノの表情が何故か冴えなかったから。

「どうしたん?」
「クロノ?」

はやてとフェイトはクロノの下に近づき、各々思った事を口にする。
彼の身に一体何があったというのだろうか?

「はやて、フェイト。実は――」

クロノから告げられた事実に、二人は二の句を告げる事が出来なかった。
だが、次の瞬間。
二人は顔を合わせ無言で頷くと踵を返しとある処へと駆け足で向かう。

――なのはとヴィヴィオがいる控え室へと――







「……え」

ヴィヴィオのおめかしをしている部屋にいきなり飛び込んできたはやてとフェイトに文句を言おうとしたなのはだったが、
二人から告げられた言葉を聞いて、顔が青ざめていた。自分は伝えていたつもりだったから。
だが、思い出してしまった。ユーノに今日の日の事を伝えていなかった事に。

「ど、どうしようっ!!」

仕事とこの日の準備に忙殺されていたとは云え、してはいけない事をやってしまった事になのはの頭の中は真っ白になってしまっていた。
つい先程までにあった幸せな気分は欠片もなく、逆に絶望感がなのはを支配している。
昔馴染みが全員呼ばれている中で、自分だけが呼ばれない事を知った人はどう思うだろうか?

「―――――っ!!」

最悪の事態を想像し、なのははその場にしゃがみ込む――とするが、すんでの事で踏みとどまる。
ユーノに連絡を、謝る為に無限書庫に連絡を取ろうとする。
しかしそれは出来なかった。フェイトの言葉によって。

「ユーノは今ミッドには居ない……ってクロノが言っていた……」
「どういう事!?」

フェイトに掴みかかろうとするなのはをはやてが制する。

「そこから先は私が話すわ。よく聞いてや、なのはちゃん」

はやてはクロノから聞いた事をそのままなのはに伝える。
ユーノは明日からの学会発表とその後に控える発掘調査の為に、つい先程本局を出てとある管理世界に向かったと云う事。
また、ヴィヴィオへのプレゼントは後日贈るから、とクロノに告げたと云う事だった。

現状では打つ手はなく、取り敢えずメールにてユーノに謝りの文を送る。
何もしないよりはマシだったが、気休め程度にもならない事も知っていた。
でも、彼女達には。特になのはには一縷の希望があった。

大丈夫。ユーノくんは優しいから、謝ればきっと許してくれるはず

……今思えば、身勝手極まりない最低な思いだった事に気付かずに。




――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ――― ☆ ―――




メールを送ってから一週間経ってもユーノから何の音沙汰もなかった。
なのはから直接の通話も入れても繋がらず、帰ってくるのは無機質なコール音。
そんなおり、なのはの下に一通の小包郵便が届く。
送り主はユーノ・スクライア=B

それを目にした瞬間、なのはははやる気持ちを押さえながら慎重に小包を開ける。
中に入っていたのは小動物を模した可愛らしい数体の人形とヴィヴィオへの誕生日を祝うメッセージカード。

……そして、なのは宛への一通の手紙だった。

(良かった。ユーノくんは怒ってなかったんだ。やっぱり優しいな)

そんな事を思いながら、なのはは手紙の封を切る。
そして中を覗いてみると、本来あるはずの手紙は無くて変わりにあったのは

「う……そ」

色褪せた緑色のリボン。
それを見た瞬間、なのはは無限書庫へと急いだ。
しかし、ユーノに会う事は出来なかった。
今までなら気軽に入る事が出来た無限書庫と司書長室。
それが事前の予約、つまりアポイントを取らなければ入れないようになっていたのだ。
顔なじみの受付嬢に自分の名前を云っても通してはくれなかった。
逆に冷ややかな目で返されてしまう始末。
仕方なく、予約をしたが、会えるのは一ヶ月後と言われたなのはは重い足取りのまま自宅へと帰った。

そして一ヶ月が経ったこの日、ようやく会えたユーノは変わってしまっていた。
外見、そして内面までもが。

「何の用? この後も立て込んでいるから手短にお願いしたいんだけど」
「っ!」

抑揚のない声でなのはに問い掛けるユーノ。
顔は上げず、机にある書類を整理していた。

「き、聞きたい事があって……その……」
「聞きたい事? 僕にはないんだけど」

なのはの言葉に渋々といった感じで顔上げるユーノ。
目にはかつての暖かさはなく、ただ冷たい光が宿っていた。

その瞳に射抜かれ、たじろぐなのはだったが精一杯の心の力を動員し、
ポケットから一つの物を取り出す。

「ああ、それ。僕にはもう必要ないから。君に返したんだ」

短くしたしね。そう言いながらユーノは自分の髪に触れる。
長かった髪は首下からバッサリと切られ、短く整えられていた。

「みんなが……ううん、なのはが僕の事を何とも思ってない事が分かったし。
 何時までも縋っているのは未練がましいからキッパリと絶った。ただそれだけの事だよ」
「あ、あれは!」

誤解だよ! そう言いたかったなのは。
何とか信じて貰おうと頭の中で言い訳を探すが、混乱する思考は答えをくれない。

「もういいのかな? 用が済んだのなら帰ってくれないか高町一等空尉=v

それがなのはがユーノから聞く事になった最後の言葉になった。
何故ならその後、ユーノは誰にも言うことなく管理局を突然辞め、故郷であるスクライア一族の下へと帰ってしまったが故に。

居なくなって、失って、初めてなのははユーノの存在の大きさを身を以て知る事になる。
そして気付かされる。ユーノ・スクライアが好きだった事に。

だが時既に遅く、思い人は手の届かない処にいってしまった。
自分から犯した大きな過ちのせいで……




 □ あとがき □
 う〜ん、自分でも何書いているのか分からないです(ぉ
いやSS04聞いて、ユーノが始めから居なかったような扱いに絶望し、
その後に某ユーノスレのとあるネタを見た時にこのSSが降って湧いてきまして……。
で書いている内になにやらカオスになって来たんですよね、何故か。

本当はもうちょっとあったんですよ。
ユーノが髪を切る処の独白とか、ユーノのその後とか。
でも終わり方を見て頂ければ分かると思いますが、只でさえ収拾がつかなくなっているのに
これ以上足すとどうしようもならなくなってしまう事に気付き、こんな展開に。

それでは、是にて失礼致しますm(__)m
お目汚しになってしまった方、申し訳在りませんでした。


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