名水百選 姫川源流湧水の紹介


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姫川源流湧水は1985年に環境庁から「名水百選」として認定された。
その選定理由として一級河川の源流へ手近にいけのは全国的に稀なこと,
1978年に長野県自然環境保全地区に指定され,「自然探勝園」制度第一号
に指定されたことからもわかるように優良な水環境であることがあげられる。



写真1 姫川源流湧水


その様相は河床にオランダガシ,バイガモ等の水生植物が繁茂し、
水中にはイワナやスナヤツメが散見される。源流周辺は春先に
フクジュソウやニリンソウの群落,キクザキイチリンソウ,カタクリ
の草花が咲きそろう。




 

図1 姫川源流湧水の概略図



一見,河川源流の水源は1つだけのように思われるが,
姫川源流湧泉は東流南流西流の3つの水源を持っている。
しかし、遊歩道が整備されている南流西流は観光客などに
よく知られているが,東流は遊歩道から遠い位置にあり全く
知られる機会がない。







写真2 糸魚川駅前の奴奈川姫
    (ぬながわひめ)の像


「姫川」の語源はなんと古事記に登場する糸魚川のヒスイ
の権を司った女王奴奈川姫である。








姫川源流湧水は1998年08月25日の測定では全体で168.8 l/秒,
1日あたり約1万5千m3の湧水がある。3水源の湧出割合は西流
一番多く62.7%(94.5 l/秒)の湧出がある。







南流西流における湧出量の経年変化は雪溶け時期の4〜5月と,
梅雨時期の7月に約150 l/秒と湧出量が多くなり,その他の時期は
平均して約50 l/秒前後の湧出量である。また,1995〜1998年(3年間)
の1年ごとの湧出量の増減は大きくはみられない。







姫川源流湧水の3つの水源は数十mしか離れていないのに,水温,
水質が水源ごとにそれぞれ大きく異なる.水温では,東流西流とは
年9.3℃,南流は9.8℃で常に約0.5〜1.0℃湧水温が高い.また,経年的
な変化は冬季に水温が下がり,その他の季節はほぼイーブンの変化を
みせる.









pH,電気伝導度に関しても明確に水質が異なっている.pHは
年平均で東流6.7南流6.8西流6.3,E.C.は東流59.7南流70.9
西流53.2μS/cmとなっている.時間変化でも異なりがわかり,
東流南流の1〜3か月後に西流の水が出てくるのをE.C.の波
から読みとれる.



また,湧出量が多い雪溶け時期と梅雨時期にE.C.濃度が低下する傾向がある.
これは下記の南流とE.C.との関係図をみると明確で,雪溶けや降雨などの
新しい水の涵養がE.C.濃度を低下させるのに影響を与えていると考えられる.

逆にとらえると,電気伝導度(E.C.)を測ることにより姫川源流湧水の
おおよその湧出量を推定することが可能である.



                                ※湧出量は西流南流の湧出量の合計値である.




東流南流西流3つの水源は水温・水質が異なることから
それぞれ異なる水源(涵養源)を持つことが推測できる.


このことは水質分析結果からも推測することができる.
SO42-が 3〜5mg/l という濃度なのは西側の仁科山地崖錐斜面末端に湧出
する湧水水質の特徴で,西流と南流(特に西流)がかなり近似した水質を
示している.地形から判断しても西流は仁科山地崖錐斜面を涵養域とした
湧水
と考えられる.



写真3 西流湧水


南流はCl-が比較的に高く,水温も他とくらべて年平均値が高い傾向にある.
先のSO42-の要素を勘案して考えると,次のことが考えられる.
1.仁科山地からの地下水が入っている.
2.涵養域に水温を高くし,Cl-を高くするところをもつ.
2.に該当する場所は姫川源流湧水の南にあたる親海湿原が涵養域として
あげられる.親海湿原は断層破砕帯からの湧水が湿原東側から湧出し,
その水は全て湿原南西部で地下浸透している.親海湿原から湧出する湧水温
は年間を通じてほぼ9.4℃で,地下浸透してから地中浅いところを通ってくる
水のために地温の影響を受けた水が南流に出ると考えられる.また,
親海湿原の湧水は近年冬季に国道148号線に消雪剤として撒く塩化カルシウム
の影響を受けて,Cl-濃度が年々上昇している湧水である.これらのことから
考えて
南流は1.仁科山地からの地下水と2.親海湿原の湧水を水源とした地下水の
2つの水が混合している水だと考えられる.



東流の水源はSO42-濃度から仁科山地が全く関与しない水源であることは確かである.
湧水温やCl-からみると南流のような親海湿原からの影響も大きくみられず他の水源と
考える方が賢明である.考えられる水源は1.ドウガク山から地下水,2.断層破砕帯から
の地下水との2つである.水質からは両者の判断をしにくいために両者の湧水温の特徴
から考察する.比較対象としてドウガク山からの湧水と,明らかに断層破砕帯から湧水で
ある親海湿原東部の湧水とである.その両者を比較するとドウガク山からの湧水は湧水温
の年変化は約 5〜15℃以上と較差が大きい,親海湿原東部の湧水は 9.2〜9.5℃とかなり
水温が安定している.東流の水温と比較すると湧出量が0.5〜7.7 l/秒と少ない割に
水温は 8.8〜9.8と比較的安定していて親海湿原東部の湧水とかなり似通った傾向を示した.
そのことから東流は断層破砕帯を通ってきた湧水と考えられるが,確証があるとはいえずある
程度両者が混ざっているようにもとらえることができる.また,湧出形態からも非常に親海湿原
東部の湧水と似ている.




表−姫川源流湧水の水質分析結果











写真4 西流水源の上手を流れる鳴沢
流水は春から夏にかけてしかない.





まとめる上記の図のように涵養域(涵養源)は
仁科山地崖錐斜面から断層破砕帯からの2つあるといえる.



表−各水源と涵養源との関係

仁科山地崖錐斜面から  断層破砕帯から   (親海湿原から) 
  西流   × ×
  南流  
  東流   × ×

                        ○:関係あるもの ×:関係ないもの