「キース先輩〜!」
神社の境内への長い階段を登っていると、遠くから声がした。シロエの声である。
駆けてくるシロエの姿に、キースの頬はつい綻ぶ。というのも、シロエはその身を清楚な巫女装束姿に包んでいるからである。毎年シロエはこのE-1077神社で巫女バイトをすることを恒例行事としていた。
シロエの巫女姿はなかなか好評で、普段はお参りなどしないのに、わざわざ彼の姿を拝みにやってくる者も多数居るという噂だった。もっともこの場合、キースも彼らと同類ということになるが。
シロエの白い肌と、艶やかな黒髪が巫女の装束によく映えている。寒さのせいでシロエの頬は紅潮し、キースの目の前までやってくるとはぁはぁと肩で息をしているので、キースはついシロエの肩に手を触れた。
シロエは息を整えると、にこりと笑顔でキースを見上げた。
「来てくれたんだね、ありがと、キース先輩!」
キースの胸がどきりと跳ね上がる。まったく、この笑顔の破壊力を、当人は気付いてやっているのかいないのか、罪作りなことである。
「……よく似合っている」
巫女衣装を褒めてやると、シロエはまたぱっと頬を染めた。こんな表情を見せてくれるようになったのもごく最近のことで、キースには新鮮でたまらない。
何かにつけて食って掛かってくる、反抗的な下級生だったシロエと、恋人同士として付き合うことになってからまだ数週と経っていない。シロエの、いろいろな顔が見たい。キースはそう思っていた。
「あそこの売店で(と、シロエは境内横のおみくじなどを販売している店を指した)バイトしてるんだけど、すっごい寒いんだ。上着着れないしね」
「風邪を引くなよ」
思わず心配そうな顔になったのを、シロエがぷっと吹き出した。
「先輩こそなんで制服。それで寒くないの。先輩の私服見られるの、ちょっと楽しみにしていたのに」
「私服らしい私服というものを、生憎持ちあわせていない」
シロエは大きな目をくるりと動かしてキースを見上げた。そしてどうやら本気で言っているらしい、と気付いて口に手を当ててまた笑った。
「バイト、あと一時間くらいで終わるからいろいろ見て待ってて。お参りはあとで一緒にしよ。それから、おみくじも買っていってね」
一応バイトらしいこともするのだと、片目をつぶってシロエは身を翻した。後ろの跳ね毛も元気に揺れて、キースは笑いをかみ殺す。
一時間の後、境内の脇で暖かい甘酒を片手に暖を取っていたキースのもとに現れたシロエは、先ほどの巫女装束の上に、ダッフルコートという姿。
妙な風体ではあるが、当人がいいというならキースにとやかく言う筋合いはない。
「お待たせ、先輩。そいじゃ行こう」
シロエはこともなげに寄り添ってくる。当然のように腕を絡み合わせる。キースにとっては大きな壁を、たやすく乗り越えてくる姿に、やはり新鮮な驚きを覚える。繋いだ指先から温かみが伝わってくる。
参拝の列に並んだ二人は、たわいもない会話をした。残りの冬休みの予定、期末試験のこと、実家へ戻っているサムやスウェナはどうしているだろうか、云々。
露出したシロエの耳のあたりにキースは視線を注いでいた。長身のキースは、人ごみの中で頭一つぶん周囲より抜き出ている。シロエのことは完全に見下ろす形になる。並んでたっていると、丁度シロエの耳が視界のはじに見え隠れするのである。
露出した耳が寒そうに見えて、思わずキースは手を伸ばしていた。
「わぁっ!」
大げさなほど反応して、シロエはびくりと身をすくめた。その顔がみるみる赤く染まり、キースもなぜか気まずくなってしまい、「すまない」と一言謝ったきり、参拝を済ませて列を抜けるまでお互いなんとなく口数が減ったままだった。
「熱心に拝んでいたようだが、何を祈っていたんだ?」
「え?」
ぼんやりしているシロエに問うと、シロエはびっくりしたように顔を上げた。
先ほど神社の境内で、シロエは手を合わせ、しきりに何事かを熱心に祈っていたのである。目を閉じて神妙に拝むシロエの横顔を、キースは横目で見ていた。こんな顔も、初めて見るものだと思いながら。
「何って、秘密ですよ!」
悪戯っぽく舌を出すシロエを軽く小突く。シロエはキースの腕をふりほどき、身を翻して駆け出すと、紅い巫女装束からくるぶしが白く覗く。
「シロエ、僕は」
え、なんですって? と聞き返す声に、キースは一字一句、はっきりと区切るようにして言ってみた。
「僕はこう祈った。来年も、再来年も、またお前と一緒に来られればいい、と」
夕日が逆光になり、シロエの表情がよく見えない。赤く染まったシロエの頬も、西日を浴びてのものなのか、そうでないのかは定かではなかった。
シロエは緊張しながらキースの個室へ足を踏み入れた。
初めてのことではないのに、毎回シロエはこうして緊張する。初心な反応が可愛くて、つい苛めてしまいそうになる。
コートを脱いでハンガーに吊るすと、シロエは清楚な巫女装束姿になって、心もとなげにキースを見上げた。
「先輩……何か着替えない?」
「そのままがいい」
「皺になるよ」
「じゃあ脱ぐか?」
シロエは顔を赤らめて、ふいと横を向いた。
あらためてキースは、巫女姿のシロエをまじまじと検分する。白い装束の襟のところに覗く鎖骨のラインは扇情的だ。華奢な体格を際立たせる。
「先……輩。あんまりやらしい顔しないで下さい」
「シロエが可愛いのがいけない」
ベッドまで追い詰めると、シロエは後ずさって、そのまま足をもつれさせて後ろのめりに倒れた。ぽふんと、可愛い音がする。ゆっくりと覆いかぶさるとシロエは顔を赤くして、ぎゅっと目を閉じた。
冷えた額に、頬にキス。物足りないのかシロエの睫毛が震える。焦らすように唇に触れるか触れないかの距離で舌を差し出すと、耐え切れなくなったシロエが自分から口付けてきた。
「ぁ…っ、やっ、せん……ぱ…い……」
装束の胸元をはだけ、ぷっくり立ち上がった乳首に舌を這わせると甘い声が上がった。
もっと声が聞きたくて、軽く歯を立てる。舌で押しつぶす。シロエはいやいやをするように首を振り、力の入らない指でキースの頭を押し戻そうとする。
見上げたキースの目に飛び込んできたのは扇情的な眺めだった。言葉とは裏腹に、シロエの瞳は熱に潤んでいたし、噛み締めようとしてかなわない唇はわなないている。
強く吸ったせいで赤く色づいてしまった乳首を指ではじくと、びくびくとシロエは震えた。
胸への愛撫だけでシロエは昂ぶってしまっている。巫女装束の赤い袴の中へ手を差し入れ、シロエ自身に手を触れる。可愛らしいものがキースの手のなかで震えた。
すぐに雫をこぼしはじめたそれを、指に絡めて擦り続けるといやらしい音が響く。シロエは耐えられなくなったようで、腕を上げて顔を隠してしまった。
「顔が見たい……シロエ」
「やだ……」
先に一度イかそうと、刺激を強くする。強く握りこみながら、先端を少し残酷なくらい擦ると、シロエはきつくしがみついてくる。思いついて、形のいい白い耳に唇を寄せ、中に舌を差し入れた。とたん強い反応が返ってきた。シロエは息を飲んで、身体を引きつらせると、そのままキースの肩をきつく握り締めたまま、キースの手の中で果てた。
「は……っ、ぁ…っ……、はぁっ、キース……」
息が整わないシロエの袴を脱がせると、うつぶせに横たえさせ、腰を上げさせた。そこへ、シロエの出したものをなすりつけ、馴染ませる。
「せんぱ……い」
「どうした?」
「先輩……が、ほしい……」
一生懸命に後ろを振り返り、キースと視線を合わそうとしてくる、シロエのかすれ声に理性が消し飛ぶ。
指で慣らすのをあきらめ、早急に高まったものを宛がうと、シロエは声を上げた。狭いそこを抉じ開けるようにして侵入するとき、辛いはずなのに必死でシロエが力を抜こうとしているのが分かり、愛しさに胸が締め付けられた。
一番太い部分を押し込んでしまうと、あとはずぶずぶと飲み込まれてゆく。後ろからシロエの顎を取り、身体をねじって唇を吸う。
「つらいか? シロエ」
「へい……き。動いて」
けなげにそう答えるから、たまらなくなって細い腰に手を添え、ゆっくり抽送を開始する。後ろからの体勢のために、出し入れされるキースのものと結合部分がよく見えて、視覚からの効果を煽る。
濡れた音が室内に響いて二人の耳を犯す。
「あっ……、あぁっ、せん、ぱい。気持ち、いい……」
「シロエ」
強く突き上げるとシロエはふるふると頭を振り、後ろのくせ毛も一緒に揺れる。シロエは浮かされたように気持ちがいい、と呟き続ける。
「……いいのか、シロエ」
「うん」
キースは顔を伏せてしまっていたシロエの腕を取り、上体を上げさせた。そのまま突き上げを強く、激しくする。
「せんっ、ぱい……、出して、中……っ」
「中がいいのか」
「うん……っ」
感極まったシロエの喘ぎに煽られて、ひときわ奥を穿つと、シロエの全身が痙攣した。
強い締め付けにたまらず、奥深くへキースも開放した。どくどくと注ぎ込むと、感覚が分かるのかシロエは泣き笑いのような声を上げた。
「あーあ、やっぱり皺になっちゃった」
皺になった巫女装束をたたみながら、シロエが文句を言う。
「清楚な感じがしてすごく似合っていた」
「……僕が清楚じゃないみたいな言い方する」
唇を尖らせる姿を見下ろしながら、キースは先ほどのシロエの痴態を思い出す。
「どうかな」
旗色の悪くなってきたシロエが、赤面しながらもごもごと口の中で何か言った。
「? 何だ?」
「っ今年もよろしくお願いします、ってことですよ!」