「……痛むか?」
捻った足首に氷を入れたビニール袋をあてがい、少しだけ腫れた患部を、気がかりそうにキースは見下ろしている。
押さえていろ、と言われて、シロエは大人しくビニールを受け取った。しかし、無理をして足を捻り、試合を台無しにしてしまった自己嫌悪にすっかり打ちひしがれている。
いつもはぴん、と跳ねた後ろ毛も、どこか元気なくしおれているように見える。
キースは立ち上がり、手際よくテーピングの準備をしている。その後姿をちらりと見、いたたまれなくて、また自分の足首に視線を戻した。
「無理に拾いに行く球ではなかった。分かっていることだとは思うが、冷静さを失ったのが敗因だな」
「……」
キースが再び足元にかがむ。シロエのほっそりした足首をとらえ、丁寧にテープを巻いていく。長くて、器用な指先。
「お前はもう少し信用することを覚えろ。フォローなら僕でできた」
「……っ」
腫れた部分を圧迫するようにテープを巻かれ、びくりとシロエは肩を震わせた。キースは「すまない、痛かったか」と言いながら、足首への圧迫を解く──。
「……ごめんなさい……」
喉につかえたようなシロエの小声に、キースは怪訝そうな顔を上げた。
「シロエ?」
うつむいたシロエの顔は、長めの前髪に隠れて、表情までうかがい知ることができない。しかしふっくらした小さな、瑞々しい果実のような唇を何度か噛み締めようとしてかなわず、小刻みに震わせてしまっていることに気付き、キースは驚いた。
「シロエ、どうした。そんなに痛むのか」
「ごめん…なさ……っ」
何のことを言っている、と言い掛けて、キースは固まった。
堪えていた感情をあふれ出させてしまったシロエの、大きな瞳がぽろぽろと涙をこぼし、シロエは声を詰まらせる。自分でも感情の爆発に驚いたようで、あわてて手の甲でごしごしと目元を擦るが、嗚咽は抑えようがない。
「た、退場は僕の自己責任だった。補欠の選手も控えてたのに……なにも試合ごと放棄しなくてよかったんだ」
途切れ途切れに、なんとか涙声をしぼりだすと、それを聞いたキースの表情が和んだ。
「シロエ……」
身を起こしてシロエと目線を合わせる。
長めの前髪に手を触れると、シロエはびくっとした。涙に濡れたせいで、黒目がちの瞳はいつもよりうるうると大きく見える。キースの、アイスブルーの瞳と目が合う。シロエの瞳が揺れる。
「僕のパートナーはお前だ。お前と勝たなければ意味がなかった。だから、試合放棄は最善の選択だ。お前が気に病むことではない」
「……っ!」
シロエの頬にぱっと朱がのぼり、耳まで赤くなって口元を押さえるのを、キースは不思議そうに見た。
「な……なに……何、を……ッ!」
頬に色を乗せ、大きな目を白黒させるシロエは、鮮やかで綺麗だとキースは思った。かた時も目を離すことが出来ない。どんなに精巧な造花でも、本物の花の美しさ、命の輝きには敵うわけがない。
「シロエ」
口元を覆ったシロエの手を退けさせ、ずい、と顔を近づける。とっさに身体を引くシロエの顎を捉え、目を細め、唇が触れ合う直前、呼気の触れ合うほんの数センチの距離まで顔を寄せる。
「──……っ!!!!」
シロエがぎゅっと目を閉じた。それを了承の合図と受け取り、キースはにっこり笑った。