授業が終わった後のラウンジは、ざわざわと生徒達で賑わっていた。
大抵の人間はコンパートメントには戻らず、ここで夕食までの一時を友人達との交流に費やして楽しむ。
例に漏れずキース・アニアンも友人であるサム・ヒューストンと共にこのラウンジを訪れていた。だが先程からサムは、課題であるレポートと格闘中だ。
一人時間を潰すのも、キースにとっては苦でも何でも無かった。特にこの友人と一緒に居る時は、会話など無くても不思議と心が安らいだ。そんな柔らかな空気が、ふわふわとキースの思考を絡め取る。
フワリとキースが欠伸をかみ殺すと、サムが驚いた顔を見せた。
「お前でも欠伸するんだな」
「なんだそれは」
「いやいや、今までお前がそんなに眠そうにしている所なんて、俺は見た事無いぞ」
感心する様に断言されて、流石のキースも苦笑を返すしかない。
「最近あんまり寝れてないみたいだけど…悩みか?俺じゃ役に立たないかもしれないが、言うだけでもすっきりする事もあるぜ?」
急に真面目な顔になったサムに、キースは一瞬の後に温かな気持ちになる。
「心配には及ばない、探していた資料を見つけたんだが。それが予想以上に面白くて、つい読みふけってしまっただけだ」
探る様にじっとキースを見詰めていたサムだったが、答えに納得したのか朗らかに笑った。
「そっか、ならいいんだ」
優しいサム。
心配をしてくれているのに、嘘をついてしまった。そんな事、以前のキースには考えられない事だ。
しかしいくらサムが気の良い友人だと言っても、キースは本当の寝不足の理由を言う訳には行かなかった。

まさか4つも年下の少年と、毎日SEXに溺れているなど。

ふとざわめきの中に彼の声を聞いた気がしてキースは顔を上げた。するとやはりそこには彼、セキ・レイ・シロエの姿が見えた。
何処に居てもシロエの声や姿は、キースの意識を捉える。

同級生数人と一緒になってラウンジに入って来たシロエは、キース達に気付く事なく対角線の席を取り何やら広げだした。
グループ研究か何かの打ち合わせなのかもしれない。
ぼんやりとその様子を眺めていたのだが、何とも言えない不快な感情にキースは無理矢理意識をずらした。
「どうかしたか?」
「いや。サム、そこ間違えているぞ」
コーヒーのカップを常よりも少し乱暴に置いたキースに、サムがレポートから顔を上げる。
だが今はその事に言及されたくないと、意識的にキースはサムの気を自分から逸らさせた。
げっ。と顔をしかめるサムに、キースの荒いでいた心が少しだけ和む。

調子が出て来たのか、本格的に集中しだしたサムとは逆に、キースがうとうととしかけた時、シロエの名を呼ぶ高い声が耳を打つ。
見れば、シロエが机に突っ伏しているではないか。反射的に立ち上がると、急いでキースはシロエの元へと向かった。
どうしたらいいのかとおろおろしているだけのシロエの同級生を押しのけ、呼吸と脈を確かめる。
だが心配するまでもなく、シロエからは規則正しい寝息が聞こえて来た。
その様子にホッとキースは息を吐く。
乱れた前髪をそっと耳にかけてやると、そのままシロエの体を抱き上げる。
ざわつく周囲等など気にもせず、キースは部屋に連れて行くとだけ言い残すと、ラウンジを後にした。

 

シロエの部屋ではなくキースの自室へと連れ込んだ身体を、そっとベッドに下ろす。
振動が伝わらない様に慎重に扱ったとはいえ、シロエが目覚める気配すらない。
ここに連れてくる間も、一度としてシロエは目を覚まさなかった。
それ程までに、疲れているのだろう。
当たり前だ。そんな事は考えてみるまでもなく、分る事だった。

毎夜の行為に溺れる相手。それこそが、目の前で死んだ様に眠るシロエなのだから。
キースよりも小さくて細いシロエ。メンバース入りが確定しているキースに比べれば、体力等が無い事など誰の目から見ても明らかで。
そのキースですら眠気を覚えるというのに、シロエが辛くない訳など無い。

ベッドに横たわるシロエを見やれば、柔らかなラインがシャープになり、少し痩せたかもしれない。
寝不足からか、目の下にうっすらと隈も出来ている。
普段なら可哀相、と思ったかもしれない。しかし今のキースの目には、逆にその姿が阿多めいて見えた。
少年期特有の清廉さとのギャップが、なんともいえない色香を醸し出している。

頬に手をやればシロエから伝わってくる、キースより少し高めの体温に知らず表情が和らいだ。
先ほど同級生に笑いかけるシロエの姿に焼ける様に痛んだ胸が、触れた分だけ楽になる気がした。
あの時キースはシロエの細い腕を引き、自分の腕に閉じ込め、柔らかな唇を貪りたいと思った。
シロエがキースの物だと、皆に知らしめてやりたいとすら。
こんな感情が自分の中にあるなど、キースは知らなかった。
全て、シロエがキースに与えた物だ。
その代価の様に、キースはシロエを求めずにはいられない。

疲れ、寝ているシロエに無体だとは思う。だがキースは自分を止める事が出来なかった。
そっとシロエの唇に、自分のそれを合わせる。
乾き、少しかさついた皮膚を舐め潤してから、舌を隙間から進入させる。
柔らで温かい口内に、ジンと頭が痺れた。
「んっ…っつんんぅ」
暫くすると息苦しさから、無意識にシロエの首が振られる。その動きを妨げる事無く、キースは素直に離れてやる。しかし唇はそのまま肌を伝い落ち、首筋に所有の証を刻む。
シロエからはミルクの、ほんのりと甘い匂いがした。彼が好んで飲む、シナモンミルクの香りだろうか。肌を舐めればその味がするようで、キースは夢中で舌を這わす。
制服の前を広げれば、昨晩の行為の跡が生々しくキースを刺激した。
消えかけた場所に新たに自分の印を付け、まだ柔らかい頂を食む。やわやわと逃げる乳首を執拗に追い掛ければ、ツンと存在を主張しだす。
寝ていてもキースの愛撫一つ一つに反応を返すシロエが、愛おしくて仕方が無い。
下半身に手を伸ばした所で、流石にシロエの瞼が開かれた。
「…っん、キィス?」
また眠た気な瞳のまま、舌っ足らずな声で名を呼ばれる。可愛らしい様子に、キースはうっすら微笑むと再度口付けた。
チュチュと小さく啄むキスを繰り返すと、今だに状況が飲み込めないシロエがトロンと気持ち良さ気にキースを求め始める。求められるまま、口付けを深い物へと変えていきながら、手はすべらかな肌を辿りシロエ自身に絡み付いた。
少し反応し始めている物を、キュと握り込んでやる。刺激に合わさった唇が離れ、シロエが目をパチパチと瞬かせた。
「えっ…あれ…?キースっ!」
ようやく自分自身が置かれた状況を理解したシロエが、慌てて二人の間を開ける様に腕を突っ張った。
「何だ?」
「何だ、じゃないですよ!一体なんでこんな…!」
何度も肌を合わせているというのに恥ずかしいのか、自身の姿を確認したシロエは真っ赤になりながらシーツで身体を覆ってしまった。
それを残念に思いながらも、キースは律義にラウンジでの事を説明してやる。
自身が感じた感情は、綺麗に隠して。
「あ、りがとうございます。でもどうせなら僕の部屋に運んで下さいよ、眠いのに」
ラウンジで寝てしまった揚句キースに運ばれたという事実に、シロエは握り締めたシーツをグシャグシャにしながら照れ隠しに口を尖らせた。
「それは悪かった」
可愛らしい反応に、キースは衝動のままに、唇を再度合わせる。
素直に目を閉じキースを受け入れたシロエは、柔らかく離れると悪戯に目を輝かせた。
「もうっ、それにしても良いんですか?個室に他人を入れて。マザーに怒られますよ」
楽しそうに笑うシロエが、キースを下から覗き込んて来る。分かりきった答えを待つ表情に、溜息を吐きつつも答えを口にするしかない。
全てがシロエの思惑通りな様で、キースにしては珍しく憮然とした面持ちになる。
「大丈夫だ。この部屋に入った時からマザーシステムにはダミーを流してある」
そんなキースの反応が楽しいのか、シロエがくすくす笑った。
「いつからそんな人になったんですか?」
「お前のせいだろう」
「僕の?」
「そうだ」
ころころとベッドの上を転がりながら、キースの愛撫を受けていた身体が動きを止め腕を伸ばして来た。両頬を包まれ、視線が合わさる。
「全部僕のせいだって言うんですか?酷いなぁ」
添えられた手に自身の掌を重ね合わせ、キースは指を絡ませる。
「お前の視線、声、仕草。目、唇、指先、どれもが僕を捕らえて離さない。僕をこんなにしたのは君だ」
明け透けな告白に、シロエの心は歓喜に震えた。だけどまだ、まだ足りない。
シロエは動きを止めてキースを見詰めた後、ふわりと目を細めた。
「ふふ、それならもっと僕に溺れたらいい。キース」
花の様に可憐なのに、声は艶を帯びてキースを誘う。
さながら花に惹かれる蝶の様に、無意識にキースの手が伸びた。
「これ以上溺れたら、窒息してしまう」
勢い抱き寄せれば、細い身体は簡単に腕に納まった。
仕草は乱暴なのにその声は普段とは違い、親とはぐれた子供の様に頼りなく揺れている。掠れた低音が、ゾクリとシロエの背中を這い上がった。
自分よりも大きいキースが、シロエの目には可愛らしく映る。
くすり。シロエは抱きしめられたまま、シーツをバサリと翻した。頭からすっぽりとシーツを被り、キースごと薄暗い空間に閉じ込もる。
「うわっ」
急に暗くなった視界の先で、シロエが鼻先を合わせて来た。
「なら、僕も一緒に溺れてあげます」
ねっ、と微笑まれれば、キースに否は無い。
シロエと共に。
甘美な誘惑にキースが抗える筈もなく、今日もまた水底へと沈む為に手を伸ばした。






久我さまのサイトでキリ番を踏んで、リクエストさせていただいた「ステーションキスシロ、甘々。覚えたてのSEXに溺れる二人」。もーすばらしすぎです。キスシロってキスシロって!あらためて、なんて素敵カプなの〜〜!! 掲載許可をいただいて、さっそく載せさせていただきました♪
体には負担になってるのに、お互いにやめられないとまらない〜キスシロってほんとすばらしい。久我さま本当にありがとうございました!!
久我さまのサイトはこちら→(Northern Lights


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