しっとりしたチョコレート色の生地を割ると、中からとろりと熱い液体が流れ出てくる。艶やかで上品な色のそれを口に入れると、くらくらするほど甘いのだが、これでも甘さは控えめなものなのだと言う。
  舌先に感じる刺激はブランデーだろうか。キースですらやや強めに感じるくらいだから、アルコールに弱いシロエには効果はてきめんだろう。キースの隣で得意げに、どうだ、といわんばかりのシロエの表情を見、悪戯心がこみ上げた。

「お前も食べたいんだろう?」

 フォークに突き刺したケーキのひとかけらにソースを絡め、シロエの鼻先に突き出すと、シロエの心の中で葛藤が起こるのがありありと分かった。
  チョコレートケーキとキースの顔を交互に見詰めたあと、プライドの高さより食欲のまさったシロエが「それじゃ、遠慮なく」とフォークの先に食いつく姿は、ブランデー入りのチョコケーキよりよほど甘たるい。ちらりと、ピンク色の小さな舌が覗く。フォークを舐め、唇についたチョコレートを舐め取る。餌付けしているのだか、……されているのだかよく分からない。
  誘う目でちらりと見上げてくるシロエ。出来るものならやってごらん、と、大きな瞳が雄弁に語っていた。シロエの挑発にキースは手もなく昂揚してしまうのだが、誘うだけ誘っておいて、ひらひらと蝶のように逃げ惑うシロエに、毎度煙にまかれてしまう感があるのは否めない。
  蝶なら捕らえて虫ピンで留めてしまうのに。手元のフォークに見るともなしに視線を落としていると、シロエはもう一切れのケーキを狙っている。

「仕方のないやつだ」

 フォークに刺して、期待に満ちた顔のシロエを差し招く。得心したシロエがキースのひざの上に片膝を乗り上げると、キースはフォークを自分の口に運んだ。

「あー!」

 とたんに上がった文句の声をふさぐように、唇に挟んだケーキをシロエの口へと運ぶと、シロエは大人しく口を開いて口移しでケーキを与えられるにまかせた。
  首にシロエの手が回る。
  口の中で溶ける菓子と、やはり甘いシロエの舌を堪能しながら、キースはさりげなさをよそおい、シロエの腰を支え、向かい合って抱き合う形に固定した。
  片足を持ち上げ、太ももの付け根、きわどいあたりを撫で回す。口付けに夢中になっているシロエの眉がひそめられる。
  そのまま手のひらを滑らせて、足首を掴んで肩に担ぎ上げるると、バランスが崩れてしがみつく力が強くなる。腰を押しつけてくる、甘い媚態に頭がくらくらする。

「……ケーキくれたから……、してもいいですよ」

「なんだ。意外と安いんだな」

 からかうと、シロエは不満の声を上げるが、余裕がないのはキースもおなじである。
  自分から制服のジャケットの前を開けようとしているシロエの手を押しとどめてキースは言った。
「だめだ。僕がする」
  こんな風にしおらしげにうつむいて目元を染めても、自らの優位性を確信しているシロエから滲む高慢さが、キースにはたまらない。自分だけのものにし、踏みにじって、屈辱に歪む顔が見たい。シロエにはキースから、そんな性質を引き出す要素があるとしか思えなかった。
  襟元のホックに手をかけ、器用に指先だけでそれを外す。ファスナーを一気に引き下げる。外気に触れた素肌がびくりとすくむのを、キースは意地悪い気持ちで見下ろした。
  薄い桃色の乳首に手を触れる。可愛らしく尖ったそこを、指の腹で軽く、触れるか触れないかの距離でタッチを繰り返す。
「あっ、やっ……、あん!」
  シロエはそのたびにびくびくと震えて腕を突っぱった。
「ずいぶんと可愛い声を出すんだな」
「ちがう! バカ!」
  親指で強く押す。くりっと、めりこむように押さえつけたあと、ゆっくりと上へ押し上げるように刺激すると、ぶるぶる震える身体の揺れが大きくなった。
「シロエは胸が弱い」
  胸元に顔を寄せ、片方の乳首を口に含む。舌先でつつき、こね回すように舐めると、小さな凝りが口の中で硬くなるのが分かった。頭上で泣き声のような声が上がるが、気にせずチロチロと舐め続ける。シロエはこぶしを握り締め、抵抗ともいえないような抵抗を繰り返していたが……
「い、いい加減にっ……!」
  ちゅぱ、といやらしい音を立ててようやく解放すると、そこは唾液に濡れ、赤く熟れて艶かしく光った。
  ぐったりしてしまったシロエのベルトを外し、ズボンを下着ごと抜き取る。ジャケットだけだらしなく腕に纏わせたままのシロエをあらためて抱え直す。
  シロエの足の間に目をやると、そこは胸への刺激だけですでに屹立し、雫を滲ませていた。
  キースは軽く笑うと、大きく開かせて抱えた足はそのままに、両手でシロエの双丘を握り締める。肉の薄い小さなそれは、キースの手に簡単に納まってしまう。
  もみしだくように動かさすと、痛みを感じるのか顔を顰めた。が、すべらせた指先が、奥のすぼまりに軽く触れると電気が走ったように身体を跳ねさせた。
「せん……ぱい。もうやだ……」
  涙まで滲ませて、ゆるゆると首を振る。
「奥がヒクヒクしているぞ」
  うそっ、と顔を真っ赤にしたシロエが、
「してない! してません!」
  キースは笑って、暴れるシロエの頭を抱え寄せると、額にキスを落とした。ちゅ、ちゅ、と優しく唇を押し当てることを繰り返すと、大人しくなってしまったシロエがぎゅっとしがみついてきた。
「ん……んんっ、せんぱい……」
  自分から舌を伸ばして唇を求めてくる、シロエの甘い唇をふたたび貪りながら、後ろに這わせたままの指でゆっくり、周囲の肉をほぐすように撫でる。
  狭い媚肉は、少し腫れて充血してしまっている。いつも充分に慣らしてから挿入するのだが、いかんせんシロエの身体が未成熟すぎて、どうしても彼を傷つけてしまう。
  苦痛は強いはずなのに、あきらかに快楽の勝るシロエの身体に引きずられてキースの劣情が呼び覚まされる。
  キースの言葉通り、シロエの秘肉はわずかに口を開け、ひくひくと物欲しそうにキースを誘っていた。あてがった指をぐっと押し込むと、シロエの喉から上ずった悲鳴が漏れ、シロエは慌ててそれを飲み込んだ。
「……つらいか?」
「へいき……」
「本当に?」
  指先だけ飲み込ませ、ゆるいピストンを送り込みながら中でぐるりと円を描く。シロエはひくっと身体をひきつらせ、キースの胸に顔を埋めた。
「キース……もっと……」
「もっと? 奥がいいのか?」
  ぐぐっと力をこめて、指を半ばまで押し込む。中はひりつくように狭く、熱い。しっとりとキースの指に絡みつき、締め付けてくる。
「あぁあ……!」
  シロエの熱がキースにうつり、キースの身体も熱くなる。
  思いついて、キースはシロエの中に埋め込んでいた指を引き抜くと、テーブルの上に乗ったままのチョコレートケーキに手を伸ばした。
  割った生地の中からとろりと流れた液状のチョコレートを指にすくい、引き抜いたシロエの秘所に塗りつける。

「ちょっと! なにしてんですか、やめ……」

 シロエの抗議の声が途中で途切れる。塗りつけては指先を差し入れ、さらにチョコレートをすくって塗りつける。奥に突き入れた指で中を探る、奥へ伸ばすように塗り付けては指を引き出して……
  そこがどういった状態になっているのか、思い至ってしまったのだろう。恥ずかしさのあまり身体をよじって、どうにかキースから身を遠ざけようとするのだが、がっちりと両足を抱え上げ、押さえつけられてしまってはそれもかなわない。
「いやです、恥ずかしいよ……!」
  腕をあげ、顔を隠してしまうシロエの耳にも、体温で溶けた、たっぷりなすりつけられたチョコレートの液音はとどいているだろう。身を縮めて恥らうシロエの、耳まで赤く染まっているのが可愛らしく、可哀想でもある。
  キースはシロエの足を抱えたまま、シロエの身体ごと抱き上げ、座っていた椅子から腰をあげた。そしてテーブルへシロエを乗せると、大きく足を広げさせ、チョコレートをなすりつけた部分へ顔を寄せた。

「───……っ!!」

 ざらりと舌に舐めとられ、シロエの腰が震える。シロエは口を自分のてのひらで覆っている。
  尖らせた舌を差し入れる。粘膜をこじあけるように侵入させる。羞恥のあまり声も出ないシロエだが、キースの目前には、すっかり勃ちあがってしまったシロエ自身が、施される愛撫によって蕩け、とろとろと涙をこぼしているのだった。


「───バカ! 変態! お前なんか嫌いだ!」

 チョコレートプレイをたっぷりと楽しんだキースに向けて、容赦のないシロエの罵声が飛ぶ。
  キースといえば、数年分のチョコレートを堪能して、その甘さに食傷気味ではあったものの……
「チョコレート有難うシロエ」
  はぁ? 何言ってんですか頭大丈夫ですか、とシロエ。
「ん? さっきのケーキ、バレンタインの本命チョコってやつじゃないのか?」
「ちっがいますよ!!!」
  シロエが真っ赤になっる。
「僕ブランデー苦手だから、いらないから先輩にあげただけです! 何調子に乗ってるの。バッカじゃないの。ホワイトデーは倍返しでお願いします!!!!」
  そのままぷりぷり怒りながら、制服を着乱してキースの部屋を飛び出て行ってしまった。
  一体何なんだ。





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