テレビジョン陰極線オシログラフ

曾根 有 著  岩波書店 定価80銭

昭和9年6月10日 初版発行

目次 (B6 220ページ)

緒言
第一編 初期のテレビジョン
 第1章 テレビジョンの原理
 第2章 テレビジョンの発達史
 第3章 初期の各種テレビジョン
   1 ジェンキンズ氏の研究
   2 ブラン、ホルウェック両氏の研究
   3 キャムベル・スヰントスン氏の方式
   4 フォン・ミハリー氏の研究
   5 アレキサンダー氏の研究
   6 アレキサンダーソン氏の研究
   7 オプトホン
   8 ハウスマン氏の方式

 

第二編 テレビジョン主要部の解剖
 第一章 送受影に於ける走査装置
   1 ニプコウ氏円盤
   2 ニプコウ
 第2章 各種走査方式
 第3章 光電変成装置
 第4章 光電流の増幅
 第5章 送受間の電気的連絡
 第6章 電光変成装置
 第7章 同期運転
第三編
 第1章 米国
 第2章 英国
 第3章 独逸
 第4章 日本

岩波全書の電気工学シリーズの一冊として日本では未だテレビの試験放送すらなかった時代に発刊されています。本書の序より引用させて頂くと
「世はラジオ時代からテレビジョン時代に移ろうとしている。ラジオは声はすれども姿が見えず、映画では姿があれども声が聞こえなかったところ、漸くトーキーの出現に依りて声と姿が同時に現れる様になり、早くも無声映画は現代から葬り去れんとしている。
又現代はスピード時代と云われている。トーキーはやがてテレビジョンに取って代わられるかも知れない。それはトーキーが過去の出来事乃至は作り事を扱うに対し、テレビジョンはスピード時代に適はしい現在只今のありのままに姿に声を副えて吾々の目前に提供して呉れるからである。而もラジオを聞く様に家庭に居ながら諸種の重要なる出来事を見且つ聞くことの出来る、放送テレビジョンをいふものがどれだけ吾々の日常生活を変化せしめることであらうか?
しかし之は今のところ未だ実用的には完成されてゐないが、近き将来に実行せられることは議論の餘地なく、現に昨年は我が国に於いて日本テレビジョン学会なるものが設立せられ、此の近き将来に対する備へさへ出来たのである。
実に今日のテレビジョンは完成の一歩手前に在るものと云える。此の機に於いて今日までのテレビジョンの発達の経過を略述し、故きを温ねて新しきを知らしむるのが本書の目的である。だが、何分にも小冊子のこと故、完璧は期し難きところであるが、各時代を通じて知って置かねばならぬ重要記事だけは努めて採り入れた積もりである。
甚だ微力ながら著者もスピード時代のテレビジョン研究に携わってゐる一人である。新しい研究に対してこそ興味を感ずるが、テレビジョンの過去を論ずることには正直のところ、全く魅力を感じないと同時に最も不得意とする所でもあり、又その暇を作り出すには並大抵の苦心ではなかった。其様な次第であるから不満の点も多々あることと思え、御諒承を希ふものである。」
内容的には、上記目次でわかる様に、テレビジョンの発達の歴史と当時幾つもあったハードウェアの説明が、今となっては貴重な写真と図解により明らかにされている。この当時のブラウン管は今と異なりオシロスコープと同じ静電偏向型の丸形CRTであったことです。後半では、アメリカ、イギリス、ドイツそれに加えて日本のテレビジョン研究の成果が細かく説明されています。