■ サウルの油断
サウルに追われ、幾度となく身の危険を味わってきたダビデでしたが、その立場を逆転できる千載一遇のチャンスが訪れました。ダビデがエン・ゲディの洞穴に隠れていたときのことです。それとは知らず、サウルがその洞穴に入っていきました。そして、なんとそこで悠々と"トイレ"をし始めたのでした。
■ ダビデの意外な行動
お供もなく、武器もなく、油断しきったサウルを見て、ダビデの従者は「これこそは神様が与えてくれたチャンスです。今こそサウルを倒して、あなたが新しい王になってください」と言いました。言われるまでもなく、ダビデはそっとサウルに忍び寄ります。従者たちは固唾を呑んで見守っていました。ところが、ダビデはこっそりとサウルの上着の端をこっそりと切り取ると、そのまま戻ってきてしまったのでした。
■ ダビデの真意
従者たちはため息をついてがっかりしたに違いありません。なぜ、こんなチャンスを見過ごしてしまったのかと口惜しがったことでしょう。しかし、ダビデはただサウルの上着の端を切ったことすらも後悔して、「主が油を注がれた王に、わたしがこんなことをするのは決して許されることではない」と、従者たちに言ったのでした。
■ 御心はいずこに
妙な話です。従者たちは「これは神様の御心だ」と言い、ダビデは「これは神様の御心ではない」というのです。いったい、神の御心はどちらなのでしょうか。
確かに、神様はダビデを新しい王にする御心でした。そして、今が御心を成就させる絶好の機会であることは間違いありません。しかし、ダビデは躊躇します。サウルは、神様がお立てになった王です。自分の主君です。妻ミカルの父、そして親友ヨナタンの父でもあります。神様でもない自分が、王であり、主君であり、父であるサウルを殺すことは、決して神様の御心ではないと考えたのです。
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