ノーベル文学賞を受けた米国の女流作家パール・バックの母キャロライン・サイデンストリッカーについて伝わっている逸話を紹介しましょう。
キャロラインの家族は伝道の為に中国(当時は清)の清江浦(チンキャンプ)という農村に住んでいました。ある年のこと酷い旱魃が続き、夏になっても一滴の雨が降りません。田は渇き、ひびが割れ、農民たちは稲が枯れていくのを悲しく見守るしかありませんでした。
そんなある日のこと、女中のワンが真っ青な顔をしてキャロラインに告げました。「奥様、たいへんです。村の人々があなた方一家を殺しに来ます。雨が降らないのはあなたがた西洋人が村に入ってきたからだと思っているのです。」キャロラインは驚き部屋にこもって祈りました。すると、胸の奥から湧いてくる強い力を感じ、「神様がついていらっしゃる。すべてを神様にお任せしよう」という平安に満たされたのでした。
その夜、不気味な静けさの中、村の男たちがキャロラインの家の様子をうかがいながら闇の中に立っていました。キャロラインはそれを知るとお茶の用意をし、テーブルにはケーキを置き、お客を迎えるための椅子も並べてから、心を静めて玄関を開け、努めて声を和らげて、親しげにこう語りかけました。
「ご近所の皆さん、どうぞお入り下さい。お茶の用意ができていますから」
殺気だって闇の中に立っていた男たちは予想外の展開に面くらい、気勢をそがれ、仕方なくぞろぞろと部屋の中に入ってきました。すると部屋の中にはパーティのようにお茶の用意が調えられていました。彼らはキャロラインの親切で暖かいもてなしを受けると、何もしないで一人、また一人と立ち去っていったのでした。
キャロラインはやはり内心では相当な緊張があったのでしょう、彼らが帰ると全身の力が抜けてしまったようにソファに腰を落としました。これが神様の御業であったことは翌朝に明らかになりました。半年ぶりに雨が降ったのです。
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